Column

夜間バッチ処理の廃止や全社内システムのクラウド化、サーバレスアーキテクチャーの採用など、ITに関して先進的な取り組みを実施している東急ハンズ。前回は、同社執行役員 オムニチャネル推進部長 兼 ハンズラボ 代表取締役社長の長谷川秀樹氏に、斬新な発想の着眼点や具体化するポイントなどを伺った。そこで今回は引き続き、ソーシャルメディアの使い方やオープンイノベーションに対する想いなどを語ってもらった。

聞き手:リクルートワークス研究所 副所長 中尾隆一郎
リクルートジョブズ 執行役員 商品本部 本部長 仲川薫

Facebookが極めて重要な情報ソースに

中尾隆一郎(以下、中尾):
実は以前から、長谷川さんのFacebookの投稿が非常に面白いなと拝見していました。長谷川さんの考えや企業の戦略を投げかけて、さまざまな方から情報を募っているじゃないですか。あれって一般企業なら「機密情報をSNSに流すな」と注意されるギリギリのラインを含んでいるように感じますが、ソーシャルメディアを使う上で長谷川さんなりのポリシーなどはあるんでしょうか?

長谷川秀樹氏(以下、長谷川):
基本的には自分が担当している領域のことしか投稿していないので、特に注意されたことはないですね。
ひとつ気になるのは、エンタープライズの情報システムの皆さんが、自社システムの情報を“絶対に口外してはいけない”と思い込んでいるのではないか、と感じることです。一口に内部情報といってもさまざまで、企業が一番困るのは商売の要である仕入れルートや原価、キャンペーン情報などが漏れることでしょう。つまり事業の競争戦略という観点で見れば、実はOSやネットワークなど情報システム担当者が持つ情報が社外へ出るくらい大したことではないんです。「業界初の画期的なシステムを開発する」といった内容なら別ですけどね。
あとは不確定要素を口にする躊躇というか、外部へ発信していいのは99%実行できる予定のみ、といった風潮も日本企業には強く感じられます。でも私にとっては“実際にやるまで言ったらいけない”と黙るより、“発信したら情報をもらえる”ことの方が重要なんですよ。

中尾:情報の領域が“白・黒・グレー”に分かれているとすれば、確かに日本のエンジニアは雑誌やWebで公開しているような“真っ白な情報”しか言ってはいけない、と思い込んでいる人が多いように感じます。一方で長谷川さんは、グレーな情報も含めてFacebookに投稿することで、さまざまな人たちから意見や新しい情報を集めている。これは非常に面白い場だと思います。

長谷川:ソーシャルメディアがなかった時代は、お抱えベンダーの営業担当者や専門情報誌が主な情報ソースでしたよね。それが現在では、皆さんとのつながりがそのままFacebookに反映されて、膨大な意見や情報を得られるようになりました。いまや情報ソースの90%以上がFacebookとも言えるくらい、私にとって重要なコミュニケーションツールです。


社内の業務システムをすべてアプリ化する斬新なアイデア

中尾:Facebookといえば、「もし社内の業務システムをすべてアプリ化したら」という話題も反響が大きかったですよね。

東急ハンズでは今年度中に店舗スタッフの支給端末をiPhone SEに変更予定

長谷川:ありましたね。私は業務システムだけでなくEC系のシステムも手がけているんですが、こちらには安価で優秀なSaaSのツールが数多くそろっています。それをタグで入れておき、iOS上で動作する業務アプリを作れば、別途ログを蓄積する仕組みなどを考える必要がなく、あらゆる情報を取得できるのではと考えたんです。また少なくとも現時点では、Windowsよりウイルスなどの被害に遭う危険性も低いですしね。
実際にいまの若い世代はスマートフォンが生活の中心にあり、パソコン離れが加速しています。こうした背景から、今後はパソコンではなくiPadやiPhoneなどモバイル端末向けの業務システムを作る方が、本当の意味で効率化を図れる可能性が高いといえるでしょう。

仲川薫(以下、仲川):弊社の営業スタッフも若い人たちが多いので、約3年前にiPadへ切り替えてからかなり生産性が上がりましたね。

中尾:もう具体的になにか動かれているんですか?

長谷川:弊社の店舗スタッフに支給している端末を従来のiPod touchから、今年度中にiPhone SEへ変える予定です。2020年問題まで少し猶予があるので、店舗のバックヤードに関しては引き続き検討していきます。

 

競合は海外と見据えてオープンイノベーションを加速

中尾:長谷川さんはソーシャルメディアで情報の壁を見事に打ち破っていますが、他にオープンイノベーションとして考えられる取り組みなどはありますか?

東急ハンズ 執行役員 オムニチャネル推進部長 兼 ハンズラボ 代表取締役社長の長谷川秀樹氏

長谷川:そうですね。たとえば、企業が発注するシステム自体を変えていく方法もあると思います。お抱えベンダーに相談しても同じようなアイデアしか出ないようなら、世の中にRFP(Request For Proposal:提案依頼書)を公開する仕組みを作っても面白いんじゃないでしょうか。オープンイノベーションまでいかなくても、「少し情報をオープンするので皆さんお願いします」といった感じです。こうした仕組みがあれば、より広範囲からアイデアが募れますし、特にエンタープライズからの距離があるベンチャーにもチャンスが生まれます。少しハードルは上がりますが、多言語で公開すれば海外からのオファーも期待できるはずです。

中尾:日本企業はオープンイノベーションの一歩手前で躊躇している感じがするので、そのきっかけとしても面白い取り組みですね。

長谷川:“日本対世界”という図式が正しいかどうかは別として、いま発展途上国の伸びには驚くべきものがあります。こうした脅威がある中、社内という小さな領域で情報の壁を感じている場合じゃありません。競合は隣の企業ではなく海外と見据えて、オープンイノベーションを加速していく必要があると思います。

中尾:ありがとうございました。

 

[今回の事例からの学び]

本当のオープンイノベーションを実現するためには、3つの壁を越える必要があります。
それは、(1)社内の壁、(2)ネットワークの量の壁、(3)ネットワークの質の壁です。
まずは、社外に情報を投げかけることから始まります。
その際に必要以上に社内のルールを意識していると
(1)社内の壁に阻まれる可能性があります。
今回の長谷川さんは、この(1)の壁を上手に超えられています。
ポイントは
・社内への説明ポイントを絞る。
・必要以上にリスクを語らない。
・自分の領域を最大限に捉える。
これを実現するために
・日頃の人間関係を作っておく。
・チャレンジした場合の失敗ならば謝ればよいと開き直る。
という事でした。
これらは、私たちもマネができそうです。
もちろん
(1)の壁を超えられたとしても、有用なFBを得るためには、
さらにネットワークの(2)量と(3)質の壁を越えなければなりません。
(2)量は、多数の専門家のネットワークを持っている事
(3)質は、他の領域の専門家、つまり多様なネットワークを持っている事が重要です。
長谷川さんは、日頃から「長谷川秀樹のIT酒場放浪記」などの オウンドメディアで、ネットワーク作りを行っています。
こちらは、少し時間がかかりますが、並行してマネしていきたいものです。
長谷川さんのような方が1人でも多く増えることを願っています。

リクルートワークス研究所 中尾隆一郎

 

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プロフィール
東急ハンズ 執行役員 オムニチャネル推進部長 兼 ハンズラボ
代表取締役社長 長谷川秀樹氏

1994年、アクセンチュア株式会社に入社後、国内外の小売業の業務改革、コスト削減、マーケティング支援などに従事。2008年に株式会社東急ハンズへ入社し、情報システム部門、物流部門、通販事業の責任者として改革を実施する。デジタルマーケティング領域では、Twitter、Facebook、コレカモネットなどソーシャルメディアを推進。その後、オムニチャネル推進の責任者となり、東急ハンズアプリでは次世代のお買い物体験への変革を推進している。そして2011年、同社の執行役員に昇進。2013年にはハンズラボ株式会社(クラウドをフル活用したITソリューションプロバイダー)を立ち上げ、代表取締役社長に就任(東急ハンズの執行役員と兼任)。小売業・流通業向けのソリューションを提供している。

2017年09月08日