Column

オープンイノベーションの実現には、まず社外に対して自社の重要情報を公開することが必要不可欠といえる。こうした点において、画期的な方法で情報のオープン化と透明性経営を実践しているのが、不動産ソリューションを手がけるダイヤモンドメディアだ。ホラクラシー経営の代表企業であり、給料や経費の見える化に加えて、月次納会の一般公開など、その斬新な取り組みから企業名を知っているという方も多いだろう。そこで今回は、ダイヤモンドメディア 代表取締役の武井浩三氏にインタビューを敢行。取り組みの背景および、情報のオープン化や透明性経営の考え方などについて伺った。

※ホラクラシー型組織
階層制や階級制を主とする「ヒエラルキー型組織」に対して、「ホラクラシー型組織」は階級や役職の上下関係が一切存在しない組織体制を指す。意思決定の権限も組織全体に分散され、フラットな構成であるのが特徴。

聞き手:リクルートワークス研究所 副所長 中尾隆一郎

 

人脈の拡大という嬉しい誤算もあった月次納会の一般公開

中尾隆一郎(以下、中尾):
ダイヤモンドメディアといえば、通常はクローズドで行われる月次納会を一般公開したことでかなりの話題になりましたよね。そもそも、月次納会の一般公開に踏み切ったきっかけはなんだったのでしょうか?

ダイヤモンドメディア 代表取締役の武井浩三氏

武井浩三氏(以下、武井):
弊社は2007年の創業当時から、ホラクラシー型で組織運営を行ってきました。このホラクラシーの大前提として「情報の透明性とアクセシビリティを担保する」ことが挙げられます。組織内の情報が不透明な状態では、どうしても「情報を多く持っている人」に権力が集中し、ホラクラシー型組織の成長に支障が出てしまうからです。そこでスタッフ全員が、企業内のあらゆる情報へアクセスできるようにしました。一般的な企業のように経営層だけが知っているような情報は一切なく、全員の給与額や使用経費すら見られるようになっています。また、社内の運営上は役員も要らないんですが、会社法の都合で必要となるので、毎年関係者以外の人も投票できるWeb選挙と話し合いで社長と役員を決めている、といった感じです。

こうした透明性を追求する中で、「思い切って社外にも情報をオープンにしてみたら面白そう!」と思ったのが、月次納会の一般公開を始めたきっかけでした。創業9年目、昨年秋のことです。

中尾:実際に月次納会を一般公開されて、どのようなメリットがありましたか?

武井:当初の主な目的としては、社外の方を交えたコミュニケーションによって、楽しみながら新しいアイデアなどが生まれたら面白いなと考えていました。でもそれだけでなく、全国各地から各業界の有識者が参加してくれることで、専門家のネットワークが拡大するという嬉しい誤算が生まれたんです。実際に新しいビジネスも誕生しましたし、応援してくれる人が増えることは、会社にとってすごく大きな意味を持つんだと改めて気付きましたね。しかも、コンサルタントのように金銭の授受が発生するわけではなく、むしろ「こんな有意義な話が聞けるなら、お金を払ってでも参加したい」とおっしゃるくらい、皆さん熱心に取り組んでくださったのです。

中尾:昨年の秋から月次納会の一般公開をスタートされて、今年4月を最後に現在まで休止されていますが、こちらはどのような背景があったのでしょうか?

武井:休止の理由としては、会社の規模に対して、月次納会が巨大化しすぎたという実情があります。半数以上の参加者が社外の方となると、弊社に関する事前知識がなくても参加できるよう、毎回会社概要から説明しなければいけません。また、肝心の議論についても多くの意見が得られる半面、このメンバーをどうやって成長させるのがベストなのかといった、具体的かつ本質的な部分に触れにくくなるケースが見られました。そこで改めて社内で話し合った結果、あくまでも月次納会は“会社のため”に行うべきであり、一度クローズドに戻そうという結論に達したんです。しかし、その後も手弁当で複数の専門家が参加し続けてくださっています。この方々は弊社のことや従業員一人一人のこともよくご存じなので、本質的な議論がしやすくなっています。本当にありがたく、感謝しています。ただ、たくさん集まるメリットもありますので、月次納会以外の形でまた実現していきたいですね。

ユニークなビジネスモデルなので、情報のオープン化のリスクは感じない

中尾:月次納会の一般公開などを通じて、社外に対しても重要な情報のオープン化を実践されていましたが、そこに障壁や葛藤のようなものは感じませんでしたか?

ダイヤモンドメディア 武井氏(左)と、リクルートワークス研究所 中尾(右)

武井:ベンチャー企業は資金的な余裕が乏しく、情報くらいしか出せないという背景もあります。また、弊社の場合はビジネスモデルがユニークなので、情報を出しても容易に模倣ができません。具体的には、オーナー向け不動産資産管理クラウドサービス「OwnerBox(オーナーボックス)」や、管理会社向けリーシングマネジメントシステム「Centrl LMS(セントラル・エルエムエス)」などにより、不動産の上流部分についてステークホルダー全員の生産性が上がるビジネスモデルを築き上げました。ですので、たとえ重要な情報を得ても他社の参入がきわめて難しく、安易に真似ができない領域を作り出せています。結果、情報のオープン化によるリスクも最小限に抑えられるため、特に障壁や葛藤は感じませんでしたね。

中尾:確かに真似ができなければ、他者の模倣も気にしなくて済みますね。このような情報の透明性やオープン化を追求した取り組みを通じて、社内でなにか変化は見られましたか?

ベンチプレスをはじめ、スタッフが持ち寄った“趣味モノ”も数多く置かれている明るい社内

武井:情報の透明性を高める取り組みは創業の頃から意識しているのですが、取り組みを進めれば進めるほど、社内では自浄作用のようなものが生まれましたね。たとえば、「この出費は会社にとって本当に必要なのか」といった議論が頻繁に行われるようになったんです。これは、各個人が“事業をよくするため”という明確な意識を持ってビジネスに向き合っている表れだと思います。
月次納会の一般公開は最近の試みでしたが、さまざまな方々に参加していただいた経験を通じて、企業は社内外を含めた共同体であること、そしてコミュニティマネジメントの重要性についても再確認することができました。結果にコミットするのではなく、いかに良いコミュニティを育てていくかが大切だということを、実体験として得られたのは大きいですね。

中尾:それでは最後に、さらなる情報のオープン化と透明性の追求に向けた、新たな取り組みなどがあればお聞かせください。

武井:ホラクラシー型組織で透明性を追求する上では、どうしても“株主の権力”がネックになってきます。具体的には大株主である私です。私が株を笠に着て暴走しないとは言い切れませんから(笑)。そこで、この株主の権力を合法的になくす仕組みとして10月1日に「ダイヤモンドメディア経営管理組合」を発足し、持ち株の70%を移しました。従業員は1000円分の労務出資によって組合員になります。この組合が最大の株主です。従業員一人ひとりが、事業にとって最適な判断ができる状況を作れたと考えています。これにより、階層も株の多寡も関係ない、究極のホラクラシー経営に一歩近づけたと思います。

中尾:ありがとうございました。

 

【今回の事例からの学び】
本当のオープンイノベーションを実現するためには、3つの壁を越える必要があります。
それは、(1)社内の壁、(2)ネットワークの量の壁、(3)ネットワークの質の壁です。
今回の事例は、月次納会を社外にオープン化することで社内の壁(1)を越え、結果として多様な専門家ネットワークという質の壁(3)を越えた事例になります。これは、同社や武井社長にしかできないことでしょうか? 武井社長が「ベンチャー企業は資金的な余裕が乏しく、情報くらいしか出せない」また、「ビジネスモデルがユニークなので、情報を出しても容易に模倣ができません」と話されています。
いかがでしょうか?皆さんの周りにもユニークなビジネスモデルのタネがあるのではないでしょうか? その情報をアウトプットすることで、大きな果実が得られる可能性が高まります。このような企業、個人が少しでも増えることを願っています。

リクルートワークス研究所 中尾隆一郎

 


プロフィール
ダイヤモンドメディア 武井浩三氏

ダイヤモンドメディア株式会社 代表取締役 兼 共同創業者。高校卒業後にミュージシャンを志し渡米、Citrus Collegeを卒業。帰国後にCDデビュー。アメリカでの出会いから「ビジネスって面白い!」と感じ起業するも、すぐに立ち行かなくなり倒産・M&Aを経験。「関わるものすべてに貢献することが企業の使命」と考えを新たにし、2007年に創業したダイヤモンドメディアでは、会社設立時より経営の透明性をシステム化。「給与・経費・財務諸表をすべて公開」「役職・肩書を廃止」「働く時間・場所・休みは自分で決める」「起業・副業を推奨」「社長・役員は選挙と話し合いで決める」といった独自の企業文化は、「管理しない」マネジメント手法を用いた日本初のホラクラシー企業として徐々に注目を集めるようになった。現在では不動産テック・フィンテック領域におけるITサービスを中心にサービス展開を進める一方、ホラクラシー経営の日本における第一人者として、さまざまな媒体への寄稿・講演・組織支援なども行う。主な取引実績は、東急住宅リース、三井不動産レジデンシャルリース、ミサワエムアールディー、アンビション・グループなど、200社以上。2017年に「第3回ホワイト企業大賞」の大賞を受賞。

ブログ:http://kozotakei.tumblr.com
創業ストーリー:https://www.diamondmedia.co.jp/culture/story/

 

2017年10月20日