Column

より質の高い人脈を得ることは、オープンイノベーションを推進する上で欠かせないポイントのひとつといえる。近年ではこうした人脈構築をサポートするアプリやサービスも数多く登場しているが、その中でも注目したいのが、経済産業省およびIoT推進ラボが2017年7月25日に開催した「HR-Solution Contest ―働き方改革×テクノロジー―」で、準グランプリに輝いたビジネスマッチングアプリ「yenta(イェンタ)」だ。そこで今回は、同アプリを開発したアトラエ 取締役 CTOの岡利幸氏にインタビューを敢行。同アプリの開発経緯や特徴、ビジネスマッチングに対する考え方などを伺った。

聞き手:リクルートワークス研究所 副所長 中尾隆一郎

幅広く質の高い人々と出会えるビジネスマッチングアプリ「yenta」

中尾隆一郎(以下、中尾):
まずは「yenta」の特徴についてお聞かせください。

アトラエ 取締役 CTOの岡利幸氏

岡利幸氏(以下、岡):
「yenta」は、お互いに興味を持ったプロフェッショナル同士が出会える、人工知能を活用した完全審査制のビジネスマッチングアプリです。人工知能でユーザーの特性を分析し、もっとも合うと判断した方を1日10人レコメンドします。普段ビジネスをしていると、どうしても人脈の幅が組織や業界の枠内にとどまってしまいがちです。そうした枠を超え、ビジネスパーソンがより幅広くかつ質の高い人々と出会えるようにyentaをリリースしました。

中尾:確かに異業種交流会などもありますが、参加にはそれなりの時間と費用がかかりますし、そこまで一気に人脈を広げられるわけでもないですからね。ちなみに、現在どのくらいの方が登録されているんですか?

岡:ユーザー数は、2017年3月時点で審査を通過している方が約8500人で、審査待ちの方を含めるとその2倍近くになります。人と人が出会うサービスなのでさまざまなリスクも考慮して、このような完全審査制を採用させていただきました。もちろん、まだ審査を通過されていない方に問題があるというわけではなく、サービスとして相性や職種、業界のバランスなども考える必要があるので、お待ちいただいている状態です。

中尾:お答えいただける範囲で構わないのですが、yentaではどのようなロジックでマッチングを行っているのでしょうか?

岡:詳細までは明かせないんですが、Amazonが採用している商品レコメンドのような協調フィルタリングと、Googleのページランクに近い仕組みを参考に独自のアルゴリズムを開発しています。ここで重要なのは、マッチングする対象が“人と人”という点ですね。たとえばECサイトなら、購入者が商品を選ぶだけですから、一方向の協調フィルタリングで問題ありません。しかし、対象が人と人の場合は両者に思考が存在します。そこで、選択の重要度や人間関係などさまざまな要素を採り入れながら、双方向の協調フィルタリングによって最適なマッチングを生み出しているわけです。

 

本当にいいものが正当に評価されるために、人脈作りをサポート

中尾:yentaを開発した背景には、どのような思いがあったのでしょうか?

岡:普段のビジネスでそこまで意識する機会は少ないと思いますが、実は人脈の力ってすごいんですよ。私は新規ビジネスモデルを作る側の人間として、日頃からスタートアップ関連の動向に注目しており、その中で自分なりに「これは伸びそうだ!」「これは難しいかな」などと予測を立てるようにしています。長く動向を見ていると、ある程度の確率で予測が当たるようになるんですが、もう一つ重要になってくるのは、アイデアを形にしてそれを伸ばす実行力だと思っています。当然、実行力の中には、いわゆる行動力もあると思いますが、意外と大きいのがその人の持っている人脈や影響力なんじゃないかと。

たとえば、普通の方がリリースしても伸びなかったアプリを、幅広い人脈や業界に強い影響力を持っている方がリリースすると一気にブレイクすることがある、といった感じですね。これは、日本人に多い「みんなが使っているから自分も使ってみよう」という集団心理的な影響もあると思いますが、人脈や影響力はそのきっかけを作る大きな要因といえます。

もちろん、こうした現象は日本に限らずグローバルでも見られます。この仕組み自体は否定しようのないものですが、できることなら “本当にいいものは正当な評価を受けられる仕組み”も作るべきだと思っていました。特に日本の場合、リリースしたばかりのサービスやプロダクトについて、たとえ利害関係がなくても、自信と責任を持って広めてくれるインフルエンサーが少ないといえます。なので、特殊な人脈や影響力がなくても、アイデアのブレストに付き合ってくれる人や、そのアイデアやプロダクトを広めていってくれる仲間やファンのような人たちを増やしていける、yentaのような良質なつながりを作れるビジネスマッチングアプリが必要だと考えたんです。

 


温もりを感じさせるインテリアで構成されたアトラエの社内

 

オープンイノベーションにも通じる人脈の大切さ

中尾:スタートアップにおける人脈の大切さは、オープンイノベーションにも通じる部分が多いですね。

アトラエ 岡氏(左)と、リクルートワークス研究所 中尾(右)

岡:まさにそうですね。オープンイノベーションを成功させるポイントとして、社内外を問わず幅広い人脈がより多くの賛同や協力が得られる状況を作り出すだけでなく、異なる業種・業界の知見が重要な鍵を握るケースも出てきます。たとえば医師とエンジニアがいた場合、IT分野で当たり前のことが医療分野では驚きの対象だったり、当然その逆もあり得るでしょう。こうした異業種交流の中で新しいビジネスアイデアが生まれたり、それまで不可能だと思っていたサービスやプロダクトが実現できたりするわけです。実際に、出会ってすぐ新規事業にまで発展するような例もあります。

中尾:それでは最後に、今後の取り組みについてお聞かせください。

岡:現在、yentaは口コミを中心にしたプロモーションを展開していますが、口コミが届きにくい方もいらっしゃいます。そこで企画しているのが、まったく新機軸のビジネスイベントです。企業が開催するイベントというと、どうしてもコンバージョンや宣伝効果を重視したものになりがちですが、そうした要素にとらわれることなく、とにかく皆さんに楽しんでいただける内容を目指しています。第一弾として、IoT、VR/AR、AIの領域で豪華な登壇者を20名程度集めた、大きめのお祭りのようなイベントを開催しました。

■RIOT #1 – 豪華すぎる登壇者約20名が勢揃い!IoT,VR/AR,AIの祭典!
https://riot-1.peatix.com

中尾:ありがとうございました。

 

【今回の事例からの学び】
本当のオープンイノベーションを実現するためには、3つの壁を越える必要があります。
それは、(1)社内の壁、(2)ネットワークの量の壁、(3)ネットワークの質の壁です。
今回の事例は、(2)ネットワークの量の壁、(3)ネットワークの質の壁を超えるのをサポートしてくれるものです。
yentaに登録すると、毎日10名の新しい人とマッチングを行ってくれます。そして双方が会いたいと意志表明することで、新しいネットワーク作りのタネが出来上がるのです。
私自身も、yenta が準グランプリを受賞した「HR-Solution Contest ―働き方改革×テクノロジー―」の審査員をした際に登録し、すでに5名ほどの方々と会いました。従来とは異なる業界や職種の方々とコミュニケーションをするきっかけになり、新しいネットワーク作りの1つの方法として利用できそうな実感があります。
さらに先日、iOS向けだけでなくAndroid向けのアプリもローンチされました。yentaなどを利用して、従来とは異なるネットワークを作る方が少しでも増えることを願っています。

リクルートワークス研究所 中尾隆一郎

 


プロフィール
アトラエ 岡利幸氏

2007年に東京工業大学を卒業後、新卒1期生として株式会社アトラエに入社。求人メディア「Green」の立ち上げ時の営業を4年経験後、エンジニアに転向し、2012年より同社取締役、2016年に取締役CTOに就任。その後、ビジネスマッチングアプリ「yenta」の企画・運営に従事し、機械学習などの技術領域から、組織作り、事業開発など幅広く従事している。

 

2017年10月06日