Column

2017年6月、渋谷区広尾にリクルートテクノロジーズが運営するオープンイノベーションスペース「アドバンスドテクノロジーラボ(通称:ATL)」が誕生した。同スペースは、最先端テクノロジーに取り組む開発者向けにVRの設備・機材を無料で提供し、開発したプロダクトの権利は開発者のみに帰属させるという、開発者にとってまさに夢のような場所だ。そこで今回前編では、リクルートテクノロジーズ アドバンスドテクノロジーラボの櫻井一貴氏にインタビューを敢行。ATLが誕生した背景や実現までの道程などを伺った。

聞き手:リクルートワークス研究所 副所長 中尾隆一郎

オープンイノベーションの促進を目的としたATL

中尾隆一郎(以下、中尾):ATLとはどのようなものなんでしょうか?

櫻井一貴氏(以下、櫻井):
ATLは組織名であり、同時に施設名でもあります。施設としては、最先端テクノロジーへ取り組む開発者向けに設備・機材を無料で提供し、オープンイノベーションを加速させるという役割を担っています。VRをはじめ昨今注目されている最新技術は、大きな魅力を秘めている一方で、開発に際して多大な初期投資を要するのが現状です。このコストというハードルを乗り越えてさまざまな方が開発に携われるよう、設備・機材を無料で提供しているんです。

中尾:そもそもATLは、どのような経緯で作られたんですか?

櫻井:このスペースが誕生したきっかけには、大きく三つの理由があるんです。
まず一つ目は、昨今注目を集めているオープンイノベーションの促進が挙げられます。自社内だけで研究開発を行う場合、その技術力やアイデアにはどうしても限界がありますから、その限界を超えるために外部の知見が必要になってきます。そこでオープンイノベーションを促進するためのスペースとしてATLが誕生しました。

二つ目は、ATLという組織がR&D専門の部署であることに起因しています。従来のIT関連に付随する研究開発はソフトウェアが中心だったため、一般的なオフィススペースがあれば十分でした。しかし、最近はハードウェアを含む開発の機会が増えたことで、これまでのオフィスよりも広いスペースを求めての移転が必要になったんです。
そして三つ目ですが、ATLでは2012年に組織として発足した当時から、さまざまな最先端技術の研究成果発表およびプレゼンスの向上を目的として、毎年ハードウェアの開発を伴うイベントを開催してきました。その中で作られた過去のプロダクトは郊外の倉庫で保管していましたが、たとえば、いざ1Dayイベントを開催したり、メディア取材へ対応したりしようとした場合、倉庫からその都度引っ張り出してきてキッティングする、という手間が必要でした。また、公開するための場所に悩まされることも多かったんです。
こうした理由から、オープンイノベーションを促進でき、なおかつプロダクトの保管と公開ができるスペースとして、現在のATLを開設したわけです。

 

ポイントはプレゼンスの向上と「共進化」

中尾:組織内の事情も影響していたんですか。それにしても、最先端の設備や機材を無料で利用できるというのが凄いですよね。

櫻井:ATLの説明をするたび、皆さんに驚かれます(笑)。
ATLは「ATL客員研究員」として登録いただければ、誰でも設備・機材を無料で使えるようになります。私たちが求めているのは、ここで開発・制作したプロダクトについて、「made in ATL」という表示をしていただくことだけで、著作権など一切の権利に関しては主張しません。「それでどんなメリットがあるの?」とよく聞かれますが、私たちにとっては、この「ATLという場所で作られたプロダクトが増えていく」のが非常に重要なんです。
もともとATLという組織の目的は、リクルートのバリューアップに向けて最新技術を開拓し、サービスへ実装し、競争優位性を高めていくこと、そしてプレゼンスを上げることにあります。このプレゼンス向上を図るには、made in ATLを冠した多彩なプロダクトの誕生が必要不可欠なんです。リクルートという組織に縛られず、さまざまな方々のアイデアが集められるのもポイントですね。イノベーションを起こすには、縛りのない自由な発想で開発してもらうのがベストですから。さらに、その中でサービス実装ができそうな興味深いプロダクトが生まれれば、別途契約を結ぶといったことも可能になります。

そしてもう一つ、長い年月をかけて進化していくというのも重要なポイントです。生物界には「片利共生」と「相利共生」という2種類の共生体系が存在しますが、私たちはその先にある「共進化」を目指しているんです。この共進化の代表例としては、ハチドリによる蘭の受粉が挙げられます。蘭の花はハチドリのクチバシに合わせて花の形を進化させ、一方のハチドリは蘭の蜜がとりやすいようにクチバシを長く進化させてきました。このハチドリと蘭のように、開発者とATLもお互いのメリットを持ちつつ、長い年月をかけて進化していきたいと考えています。

 

【前編でのまとめ】
オープンイノベーションのために最新のVR機器を無料で貸し出しをするATL。

エンジニアにとって魅力的な場所です。
これなら2つ目の壁(専門家のネットワーク作り)を超えることができそうです。
実は、大変なのは、その前の1つ目の壁(社内の壁)を超えること。
後編では、櫻井さんがどのようにその壁を乗り越えて本当のイノベーションに
取り組もうとしているのかが分かります。

リクルートワークス研究所 中尾隆一郎

 

>>後編に続く

 


プロフィール
アドバンスドテクノロジーラボ 櫻井一貴氏

1994年、リクルートに新卒入社。情報システム部門に配属、社内の勘定系システムや就職サイトの開発リーダーなどを経て、現在は経営企画部にて広報・コミュニケーション施策を担当している。ミッションは「社内外でリクルートテクノロジーズのファンを増やすこと」。兼務先であるATLでは主に産学連携推進を担当。情報処理学会DBS研究会運営委員。関西学院大学社会情報学研究センター客員研究員。全国津々浦々、さまざまな学会や研究室に足を運ぶことが生き甲斐。

 

2017年09月22日