専門家が語る、現地人材採用のコツ人材獲得の基本は万国共通

Paul E. Wolfe氏

世界最大級の求人検索サイト、インディードで人事担当役員を務めるポール・ウルフ氏が、米国企業として自社が進出国で実践した現地人材採用の事例を紹介し、全世界で共通する採用戦略について紹介する。
本国で大手企業として認知されていても、進出先の国では人のつながりが少なく、会社名や商品ブランドも知られていないケースは少なくない。同氏は、そのような状況下で、人脈や企業ブランドを構築して優秀な人材を採用し、そこから新たに次の人材獲得につなげる方法を提案する。

◆人材のサーチ・選考には、各業界に精通した「リクルーター」の活用と、自社の従業員による紹介が有効である。
◆企業のブランド力を構築するために、テレビCMで企業イメージを発信し、採用ページやソーシャルメディアを通して社員が仕事や社会に貢献する姿を伝えよう。

人材獲得の基本は万国共通

こんな話に心当たりはないだろうか。
-初めてビジネスを行う国で、採用担当のマネジャーが、特殊な言語ができる人材の求人広告を出す。しかし、現地では無名のこの企業に応募する人はおらず、採用担当者はいい人材を見つけるのに苦戦する。―

一見、この話は日本市場に初めて参入するアメリカ企業のことと思われそうだが、自国に本社を構え、海外でビジネスを展開するグローバル企業や日本企業が同様の問題に直面している。このような事例に対処するためには、リクルーティングの教義のようなものがある。

人間関係を構築する

まず、採用候補者を、転職に「積極的(active)」と「消極的(passive)」な2つのグループに大きく分ける。積極的な候補者は自ら求人情報を探しているので、企業が発掘するのは極めて簡単である。
候補者探しの留意点は、簡単に候補者を探し出せること、そして候補者が自社に魅力を感じることである。「自社と競合他社の相違点は何だろう?」、「自社の就労環境はどうだろうか?」と自問してみよう。有能な候補者を集めるためには、候補者が、自社で働くことがどのようなことなのかを想像できるように、採用プロセスにおいて会社のストーリーを語ることが重要である。

一方、消極的な候補者は転職活動をしていないため、企業が候補となる人材を見つけ出して連絡を取るのが難しい。やはり、なぜ自社が魅力的な職場なのかを始めに伝えることが重要である。そして採用したい候補者が集まる組織やネットワークを活用できるように、企業側が事前調査しておくことも大切となる。例えばエンジニアを多数採用するなら、その町の、その地区の、その国のエンジニアのグループを知り、これらのグループが自社を知る機会を作っておく。カンファレンス、ユーザー・グループ、スポンサーのイベントなどに参加し、プレゼンテーションを行い、そのグループの求人求職サイトを利用しよう。

また、ターゲットとしている特定の産業を専門とする精鋭のリクルーター(※)との関係構築も考えるべきである。インディードの顧客でも、リクルーティング産業は成長中の部門であり、リクルーターは求人サイトの大手であるインディードを活用して候補者を集めている。彼らは各産業の専門家で、優れた人材プールを見分けたり、作り出したりするプロである。

従業員のリファラル・プログラム(従業員による紹介制度)も、消極的な候補者を振り向かせるのに良い手法である。従業員は、未来の従業員を見つけるための最高の情報源である。彼らは巨大な人材プールについて、現場の状況を把握している。従業員が簡単に社内の求人情報を見ることができ、適任者を紹介できるリファラル・プログラムのシステムを作るとよい。米国では優秀な人材を紹介するなど、貢献した従業員には謝礼を出している。優れたリファラル・プログラムは、新しい候補者を見つけられ、さらに、その組織の強さを示す良い指標にもなる。『友達や仲間に自分の会社を勧める』のは、従業員がその会社に満足していることの表れである。

企業ブランド力を構築する

新たな国で事業を始めるとき、その国で企業のブランド力を構築すると、人材が集まりやすくなる。例えば、候補者が会社名を聞いたことがあって、ビジネスモデル、企業文化、そしてバリュープロポジション(価値命題)について何か知っていたほうが、企業は採用活動がしやすい。インディードは2014年に主要国でテレビCMやその他メディアを利用した消費者向けのグローバル・ブランド・キャンペーンを行った。このキャンペーンが奏功して総体的に認知度が高まり、主要国におけるインディードのリクルーティング成果を後押しする大きな力となった。

人事の観点から見ると、ホームページに掲載している「採用情報」のページは、ブランド力の構築で最も重要な媒体のひとつである。大切なのは、どのように会社のストーリーを伝えるか、を熟考することである。画像や動画はかなり効果が高い。例えば、インディードでは極めて獲得競争の激しいエンジニアを多数採用するため、他企業との差別化が必要となる。そこで、「インディード・エンジニアの一日」と題して動画を作成した。この動画は実際のインディードの職場環境を撮影したもので、社風にフィットしそうな候補者とつながるのに役立っている。

ソーシャルメディアも、積極的な候補者と消極的な候補者の双方に働きかけるうえで素晴らしい採用経路である。ツイッター、インスタグラム、そしてフェイスブックに企業アカウントを持つことも重要である。自社の価値観や文化を共有できるよう画像やエピソードを載せるとよい。さまざまな成功を祝うなど、従業員が企業に大切にされている事例を発信する。従業員が5kmのロードレースに参加する姿や、ホームレスのシェルターでボランティア活動をしていることなどを大きく取り上げ、広報する方法もある。

この手法は、特に若い候補者の関心を集めるのに効果的な戦略である。インディードの報告書「3世代の人材:現代の求職者」(Three Generations of Talent: Who's Searching for Jobs Today)では、ミレニアルズ世代(21-30歳)は、コミュニティや公共福祉にかかわる仕事に、より強い興味を示すことがわかった。同様の調査結果では、ミレニアルズ世代が仕事や企業のCSRプログラムを通して、自分のキャリアの意味を見出したいと願う、とされている。動画や画像を含めたソーシャルメディアの活用は、自社のミッションやビジョンを分かりやすく伝えるための優れた方法である。

人材を定着させる

適任者を採用したら、次は彼らを定着させることが重要になる。先を見越した従業員リテンション・プログラムを開発するとよい。キャリア開発を重視した企業文化や職場環境を作り、部下が今後のキャリアについて相談できるようなマネジャーを育成する必要がある。

従業員の勤続年数は国によって異なる。日本は終身雇用が多く、労働者が生涯を通して勤めるのは1社か2社ほどだが、アメリカやその他の国では、労働者が短期間で転職をくり返す傾向がある。これは特に若年者に多く見られる傾向で、ミレニアルズ世代はその前の世代よりもさらに転職回数が多い。実際に、多くの若年者が就業して2年を超えると新しい会社や部署の求人情報を探し始める。何が彼らを留まらせるのか?それは、明確なキャリア計画と、新しい昇進機会への期待である。

人材獲得の成功度を評価する

採用プロセスで、最後に必要となるステップは査定である。採用担当者は、何が効果的で何がそうでなかったかを特定するために、採用業務の成果を査定する方法を探し、失敗から学ぶとよい。

採用担当者は、自社が取組んだすべての仕事に関して、成功比率を記録してみる。ソーシャルメディア、リクルーター、事業者団体などを比較すると、どれがより効果的に候補者を従業員にできたか?どの採用経路からの候補者が最も成功した従業員になったのか?自社の従業員リファラル・プログラムの成功比率はどうなっているのか?ほかの手法と比べると何が異なるのか?

さらに、従業員が自社をどう思っているのか、そのフィードバックを継続して行うことを忘れてはいけない。競合他社との優位性は何か?従業員は改善策を考えているか?彼らは転職を考えているのか?従業員の意識調査は、採用のパズルを完成させる最後のピースのような物である。採用担当者が適任者を獲得するのに費やした懸命な努力が実るよう、確認するための方法でもある。

※ 日本企業の「リクルーター」は、新卒採用で面接の前に学生と会って企業の話をしたり、面談のアドバイスをする若手社員を指す場合が多い。企業によって、リクルーターが求められる役割は異なっている。一方、本コラムでも記述された米国での「リクルーター」とは、さまざまなツールを駆使して適切な人材を発掘する、人材サーチの専門家を指している。

Paul E. Wolfe(ポール・E・ウルフ)氏
インディード人事担当 シニア・ヴァイス・プレジデント
インディードのシニア・リーダー・チームの一員として、人材獲得、従業員の維持、報酬、福利厚生、研修を含むすべての人事関連事業を監督している。人事エグゼクティブとして15年以上の経験を持ち、Match.com、Orbitz、Conde Nast、Ticketmasterで役員を務めた。専門は、人材獲得および管理、継続プランニング、業績管理、そしてリーダーシップ開発。グローバル人事プログラムを監督し、様々な産業や文化圏で成功を収めている。フロリダ州 ノバ・サウスイースタン大学卒業。