専門家が語る、現地人材採用のコツ「人材ソーシングマップ」を使った採用戦略のススメ

Trevor Vas氏

オーストラリアでの採用戦略やタレント・マネジメント事情に詳しいトレバー・バス氏(Human Capital Management Solutions Pty Ltd社のエグゼクティブ・ディレクター)は、有能な人材を効率良く獲得するために、採用プロセスを整理した「人材ソーシングマップ」(2ページ目で紹介)の作成を提案する。現地で有能な管理職候補を採用する場合にも活用できる。

◆採用後の定着につながるソフト・スキルを見極めよう。
◆採用経路の戦略を立てるために 人材「ソーシングマップ」を作成しよう。

「人材ソーシングマップ」を使った採用戦略のススメ

オーストラリアにおける採用方法は、企業向け人事システムの技術開発の進展に伴い、過去15年間で著しく進化した。ソーシャルメディア、求人サイト、デジタル・マーケティング、そして、ビジネス・ネットワークの広がりにより、採用経路の選択肢が広がった。Facebook(フェイスブック)、LinkedIn(リンクトイン)、Twitter(ツイッター)、 Indeed(インディード)、 CareerOne (キャリアワン)などを通じて、誰もが人材に直接アクセスできるようになった。
労働市場におけるスキルの需要と供給は、非常に分かりやすい。オーストラリアや諸外国の採用担当者は、市場を把握し、スキルを持つ人材に直接アクセスできる。しかし、採用担当マネジャーが候補者を採用するまでには、いくつかの採用手順を見直す必要がある。

採用前に把握しておくべきポイント

採用を成功させるために心得ておくべきポイントは、下記に集約される。採用前からこれらを明確にしておけば、成功する可能性は高い。

• 必須とするスキル・コンピテンシーは何か
• 候補者にとっての利点は何か(候補者が職に就いた時に得られるメリット)
• どの採用経路を使えば、求めるスキルがあり企業文化にマッチするような人材が見つかるか
• 採用してから社員として業務を開始するまでの、具体的なスケジュール
• 利用可能な採用経路の確認(求人サイトの有料サービス、過去に利用したことのある人材紹介会社、社員紹介など)
• コストパフォーマンスを上げるため、必要な時に必要な人材を採用できるジャストインタイムの採用サービスを活用する。

定着につながるソフト・スキルを見極める

どのような資質を持った人材が、採用後に優秀な社員や管理職になるのか。それを見極めるのが最も重要である。オーストラリアで必要とされる資質は、日本の場合と異なるかも知れない。しかし、その違いを理解して評価すれば、社員のパフォーマンスは上がり、長期雇用につながるだろう。プロジェクト・マネジメントの手法や金融商品の取り扱い、営業スキル、OA機器の操作といったハード・スキルの有無は、判断しやすい。スキルの重要性を判断するためには、自問するとよい。下記の問いに現実的な答えができていれば、短い時間で質の高い人材を獲得することができるだろう。

• スキルや経験がなくても、この職務は務まるのか?
• そのスキルは簡単に習得できるか?
• 訓練する時間と余裕があるか?
• ほかのスキルで代用できるか?
• 1人に複数のスキルを求めるのか?

ハード・スキルに比べて、業績を上げるために必要なソフト・スキルを見極めるのは、そう簡単ではない。ソフト・スキルには、以下のような能力が挙げられる。

• 逆境に対処できる能力
• 論理的思考の度合い
• 回復力や順応力
• 管理されなくても自ら働く能力

ソフト・スキルは採用プロセスで軽視されがちだが、のちに離職の原因となっていることが多い。
どのようなハード・スキルとソフト・スキルを求めるべきかは、下記の方法で確認すると良い。現実的かつ魅力的な条件を候補者に提示できるだろう。

• インターネットで同地域の類似の求人情報を検索し、自社の募集条件と比較、妥当性をみる。
• 同じような人材を探している他の企業の待遇と比較してみる(競合先と比較するのが良い)。
• その分野の専門家に相談し、その業務を成功させるために必要な資質や能力を把握する。
• この業務において最も優秀なのは誰か、専門家に相談して意見を求める。
• リンクトイン等で、社員の人脈を通して人材を紹介してもらう(デロイトを始め、多くの組織が社員の人脈を活用している)。

採用戦略を整理するための「人材ソーシングマップ」を作成する

求める候補者像がはっきりしたら、候補者を見つけるためのシンプルで分かりやすい「人材ソーシングマップ」を作成して戦略を立てよう。候補者を見つける経路は、状況に応じて変えると良い。採用担当者がソーシングマップを作成すると、アプローチ方法が明確になり、全体の計画が分かりやすくなる。下図は典型的な人材ソーシングマップである。


ソーシングの目標は、最も効率的に(時間・コスト・手間など)有能な候補者を獲得する事である。その分野の専門家に相談すると、能力のある人はどこでどのような方法で職探しをするかのヒントを得られる。手間がかかる割に成果が期待できない経路はなるべく避けたいので、求職者の質が低い経路を把握しておくことも重要である。

候補者を有能な社員にするために

採用プロセスは、職種別、レベル別に決めておく必要がある。また、採用プロセスを決める際にも、競合会社のウェブサイトで採用情報を見て、どのような採用方法を取り入れているか参考にするのも良いだろう。
採用方法に関して興味深い事例を紹介する。

• ウェストパック・バンク: 様々なポジションに対し、採用プロセスを詳しく説明している。(参照ページWestpac Careers)
• デロイト:従業員の働く様子やプライベートの過ごし方を動画でリアルに提供している。(参照ページ Life at Deloitte)
ビデオ面接を取り入れたアプローチも、一案である。Montage、Sonru 、 Viepleなどの人事管理ソフトウエアは、企業が面接日時を設定し、候補者はその中から自身の都合の良い日時を選んで面接を受けることができる。採用担当マネジャーは、面接の映像を見て、選考できる。

オンライン・テストは、大量採用やスペシャリスト採用においても幅広く利用されるようになった。候補者はいつでもテストを受けることができ、管理側は候補者の能力が把握しやすく採用決定や社員管理に役立てられる。多くの組織が、TestGrid、 Revelian、 Hay Groupなどのオンラインアセスメント・サービスを利用している。
人材紹介会社を活用したい場合、Hays、Manpower、 Robert Waltersなどオーストラリアと日本の両方に拠点がある会社も多い。

おわりに

採用活動で最も重要な点は、人材に求める資質やスキル、そのスキルに対する市場動向、質の高い人材が数多く見つかるソーシング方法を明確に理解することである。これが出来る企業は、有能な人材を獲得できるだろう。

Trevor Vas(トレバー・バス)氏
Human Capital Management Solutions Pty. Ltd.社 エグゼクティブ・ディレクター
オーストラリアにおけるリーダーシップ、タレント・マネジメント、採用戦略などを専門とする。また、ATC(オーストラリア・タレント・コンファレンス)のディレクターも務め、オーストラリアや世界各国の参加者と最新の採用情報や手法を共有している。