Column

Nguyen Dinh Phuc

求める能力要件を「見える化」し、KPIを整備する
項目3は、会社のミッションを遂行できる人材に求める能力を決める作業で、まさに採用に直結する。専門的な内容のため、本社の協力を受けながら整備してもよい。たとえば、医薬品メーカーのミッションが「ベトナム人の豊かな生活を支える」だとすれば、営業スタッフを採用する際に、求める主な能力を ①影響力 ②成果重視 ③主体性 ④サービス精神、というように定義すればよい。ここまでできると採用する人物像も想像でき、面接の際にどういう質問をすべきか自ずと頭の中で浮かんでくる。適性テストや能力テストのアセスメントツールを合わせて利用する場合、重視する点も分かってくる。

項目4は、採用後に向上させる能力の成長過程を、具現化する作業である。日本に比べて社内コミュニケーションが少ない海外では、啓発を兼ねて、細かく文書化する方法が合理的である。たとえば、前述の営業スタッフを採用する場合、下記のように段階分けできる。(hが最高のステップ)

a) 職務上の権限を乱用して、影響を与える
b) 努力していない
c) 意識しているが行動していない
d) マニュアル通りの説明ができている
e) 工夫して、説明できている
f) 相手に合わせた行動ができている
g) 相手に良い印象を与える行動ができている
h) 情報発信して、複合的な影響を与えることができている

本来ならば、人材を採用するまでに上記のような能力向上のステップを設定してほしいが、ベトナムでは幹部人材が多くないので、市場原理に従って、立上げ時のメンバーを採用してもよい。幹部候補でない人材は比較的多く、採用した現地の幹部に責任のある仕事を任せても良いので、最低限、上記 d)の能力があれば十分である。

項目4で説明する能力が比較的定性的なものであるのに対し、項目5で構築する指標は数字に表れる成果である。製造業であれば、生産量、生産効率、不良率、在庫などで、サービス業は売上高、アポイント数、訪問数などが挙げられる。日本ではチームでカバーしあって目標を達成しようとするので、KPIはあまり細かく設定しなくてもよいが、海外では仕事の内容の確認を兼ねて、細かいKPIが求められている。そのため、KPIの整備も重要な仕事のひとつである。

採用戦略には労力を惜しまずに
チェックリストの項目6、7、8も、人事制度を導入する上で非常に大事である。ここでは深く立ち入らないが、能力の指標とKPIを両輪に透明性の高い給与制度を構築し、中間管理職が部下を評価・教育できた時点で、はじめて人事制度が機能していると言える。仕組みが回り始めるまで数年かかる作業なので、まずは項目1~5を早期に確立して、採用につなげてほしい。

当地の日系企業の採用活動をみると、採用担当者の勘や好き嫌いで決める、候補者数名を面接して一番良さそうな人材を採用する、といった相対基準で採用するケースが非常に多い。会社のミッションやビジョンに基づいた人材要件をあらかじめ戦略的に決めて、採用しているケースは少ない。多少時間がかかる作業ではあるが、単なるスタッフの採用という考え方を脱して、一緒に戦う仲間の人材像を明確にして戦略的に採用した方が長期的に良いはずである。場当たり的な対応ではなく、確立した人事制度の下で長期的に会社を支える人材を採用するよう心がけて頂きたい。

 

Nguyen Dinh Phuc(グエン・ディン・フク)氏
Nguyen Dinh Phuc
1977年 ベトナム・ホーチミン市生まれ。1996年に国費留学生として来日し、京都大学修士課程(リスクマネジメント)、大手ITベンダー勤務を経て2006年ベトナムに帰国。会計事務所のアイグローカルホーチミン事務所代表を務め、数多くの日系企業に対して、進出支援、会計税務および経営アドバイスを行った。
2010年よりアイグローカル・リソース(アイグローカルとの合弁)の代表を務め、日系企業向けの人材採用、人事制度構築支援を行う。会社のミッションは「ベトナムにいる人材のレベルアップ」。

 

 

 

 

2015年03月30日