Column

ブラジルでは、失業率が2003年の12%をピークに低下して、雇用環境が改善している。転職を繰り返す「ジョブホッピング」が前向きに捉えられる文化もあり、企業にとっては優秀な人材の確保が難しくなっている。日系企業が、ブラジルで経営幹部候補や専門職の人材を採用する際に気をつけるべきことは何か。
フジアルテ・ド・ブラジル・ポロロッカ人財紹介会社の代表取締役を務める森山良二氏に、実務上の注意点を伺った。

◆    日系ブラジル人に対するイメージを見直そう。

◆    経営幹部候補の採用は、必ず面談をして事実確認を。曖昧な口約束は禁物。

 


ブラジルの人財紹介業務で垣間見たこと

ジョブホッピングに寛容なブラジル
ブラジルの失業率はここ数年で安定的に低下し、2014年9月には全国で4.9%となり、経済の中心地サンパウロ州では4.5%となった。国際労働機関(ILO)は、2016年まで 世界平均値以下で推移すると予想している。
現在のブラジル労働市場は、「売り手市場」の傾向にあるといっても過言ではない。特に、専門分野(エンジニア、通訳・翻訳、マーケティング、会計経理等)に特化した職種の採用に関しては、企業間で「取り合い競争」になる場面が多々ある。ブラジル労働市場では、ジョブホッピングが労働者のキャリアアップにおける通過点として寛容に受け入れられており、そこにネガティブな価値観はほとんどない。

日系ブラジル人のイメージを見直そう
人材の募集要件では、業界経歴のほかに語学力(英語または日本語)と学歴(大卒以上)が、よく挙げられる。さらに、ブラジルでは100年以上におよぶ日本人移民の歴史的背景もあり、複数の日系企業から「日系ブラジル人」を優先的に採用したいという要望もある。日系人であることに対して企業が期待している要素は、ビジネスレベルの日本語能力、日本文化、独特な礼儀作法と習慣への理解、それに誠実性や信頼性などの「日本人らしさ」と察する。しかしながら現在、日系6世までの世代が共存するブラジル社会では、日系ブラジル人に対して「日本人らしさ」を一様に求めるのは少々難しい。やはりブラジル社会で生活している人々なので、「ブラジル人」として採用して頂きたい。また、日本語ではなくビジネス英語を重視して、報酬と手当の交渉や、将来的なキャリアプランの相談と提示をするよう、採用の担当者にお願いしている。日系企業よりも、ほかの外資企業の方が比較的報酬と手当が高い傾向にある。

ブラジルの幹部候補やマネジャー級の人材に人気がある職場は、①報酬・手当が充実し、②立地条件(サンパウロ市内等)が良く、③魅力的なキャリア、④企業の短期経営計画が明確な職場といえる。進出企業の多くは、BRICsの一国として低い人件費や低予算に魅力を感じてブラジル市場への進出を希望しがちである。しかし、幹部やマネジャークラスの人材採用となると、職種によっては日本人駐在員と同等またはそれ以上の報酬が市場水準となる場合もある。①が不十分とされる場合、上記の②、③、④を充実させる必要がある。そのほか、職場環境づくりとして、従業員の人権尊重を一部「大袈裟」に意識・表明することを勧めたい。挨拶や指導の仕方、日々業務におけるコミュニケーション方法、イベント実施など、職場環境を改善するための対策方法はさまざまである。役職名に対するブラジル人従業員の意識はとても高く、ある意味で社会的ステータスとして理解される。採用する企業は、そのステータス意識と上手く付き合っていかなければならない。

人材流出を防止するための工夫
「優秀な人材の流出を防止するために、企業はどのような工夫をしているのか」。このトピックに関しては、多くの日系企業からお問い合わせ を受ける。前述のとおり、ブラジル人労働者にはジョブホッピング文化が浸透しているため、入社後の待遇と社内制度については、各社の工夫が見られる。個人の利益追求および生活維持を念頭に業務に当たる社員が一般的で、報酬面について当事者(被雇用者)と随時交渉しなければならない。最近では、修士やMBA学位取得者も多く、2~3カ国語をビジネスレベルで活用できる優秀な人材も珍しくない。採用時点の学歴や資格、そして入社後の自己啓発プログラム(学位取得、語学学校、専門資格取得など)に対する手当の支給は、優秀な人材の採用・育成・定着につながる。
そのほかに、社内での具体的なキャリアプランの提示、遠方移転者に対する住宅手当と一時帰郷手当、定期的社内イベント実施(バーベキューや社員誕生日プレゼント交換)など、企業の工夫形態はさまざまである。
企業側が社員一人ひとりの業務や人間性を評価し、そこに「価値」を見出している、という意思表示を「明確に」表すことが重要とされる。

採用の実務面で気をつけるべきこと
経営幹部の候補者を採用する際には、大きく分けて次の3点に注意が必要である。①履歴書及び経歴書だけでなく、本人と直接面談をすること、②採用時に詳細に至るまで雇用条件(報酬手当、業務内容、労働時間など)を本人と確認すること、③採用後の試用期間中(90日間)は人格や業務への姿勢等を慎重に判断し、不適切な場合は即時判断を下すこと。①に関しては、ブラジル人全般に言えることであるが、経歴を誇張又は割愛している場合もあるので、直接本人と事実確認することをお勧めする。②と③は、理解の不一致によるもめ事(訴訟等)を事前に防ぐことを目的としている。
双方にとって気持ちのいい職場環境づくりに努め、企業活動推進を最善の体制で遂行していくための重要なポイントといえる。曖昧な口約束、時間がかかりがちな日系企業の意思決定の姿勢は、後に面倒な状況を生む場合があるので、気をつけていただきたい。

 

森山 良二(もりやま・りょうじ)氏
フジアルテ・ド・ブラジル・ポロロッカ人財紹介会社森山良二氏代表取締役
1998年渡伯。2001年、サンパウロ市内の旅行会社に入社。日系ブラジル人の為の日本就労ビザや、面接業務を経験。2011年フジアルテ・ド・ブラジル社(本社大阪)に入社。営業マネジャーとして日系企業のブラジル進出に必要不可欠なコンサル的業務やハイスキルの人材紹介業務を経験し、現在は代表取締役を務める。
1974年宮崎県日南市生まれ。サンパウロ在住。

2015年03月06日