Column

Solenn THOMAS

情熱をもって働くフランス人管理職、「燃え尽き症候群」のリスクも
フランスにおける人材マネジメントの指南書の一つである『誇りの論理』(1989年)で、著者の社会学者フィリップ・ディリバルヌ氏は、人材マネジメントで機能している原理が万国共通と思い込むのは間違いであると述べ、アメリカが「契約の論理」、オランダが「コンセンサスの論理」であるとすれば、フランスでは「誇りの論理」が機能していると説いた。
「誇り」とは、フランスにおける「騎士の名誉」のようなものと考えるのが一番わかりやすいだろう。厳しい選抜試験を受けて難関の名門校に入学するのは、高貴な騎士団に入団する通過儀礼。名門校の卒業生は現実的な互助システムでもある貴重な学閥ネットワークを手に入れ、そのネットワークを通じて生涯追求すべき理想を共有する。騎士は、契約に書かれた高給につられるのでもなく、企業組織に従属するのでもなく、自らの理想と情熱をもって奉仕する。一見、時代錯誤に映るが、実際のフランス人管理職の行動パターンをまことによく反映した分析である。

フランスの管理職人材は、自分の職務に誇りを持ち、意欲的に働く。こうした人材を活用するフランスの官庁・企業では、意思決定は必ずトップダウン方式であり、指揮系統となるヒエラルキーが重要になる。このため、フランス人管理職に対しては、ジョブ・ディスクリプションにより、責任範囲と組織内のポジション(誰の指示を受け、誰に指示を与えるのか)を明確に示すことが絶対必要である。自分の責任を自覚した管理職は、情熱をもって職務を遂行し、会社の財務状況、発展戦略、将来の展望についても敏感である。
フランスの企業内ヒエラルキーは、個人の使命感や誇りを実現する場であり、日本風の組織への従属や融和とは違うことに注意したい。こうしたメンタリティーと表裏一体になるのは、意欲的に取り組んだ仕事に対する社会的な認知、つまりその仕事に値するような雇用条件である。時に、その要求が高くなり、労使間で対立や労働争議が起こりやすくなる。

また、意外にみえるかもしれないが、責任感ゆえに夕方6時に退社することに負い目を感じる管理職も多い。短期的な採算性への要求が強まるなか、経営者からのプレッシャーと部下からの不満の狭間で「燃え尽き症候群」の症状を呈する管理職も増えており、2015年5月に国会に提出された労使関係改正法案でも「燃え尽き症候群」の労災認定が議論になった。フランスでは現在、労働力人口の12%に相当する320万人が「燃え尽き症候群」予備軍とみられている。

万国共通でない人材マネジメント
日系企業については、仕事のアウトプットへの要求度が高い、イノベーティブ、個の論理より集団の論理が優先される、そのほかに、職場での女性の地位が低い、というイメージがある。人材も組織も行動原理は必ずしも万国共通ではない。個性や細かいミスが許容されない組織にフランス人が馴染むのは難しいだろう。外国語を喋らないという偏見が根強いフランス人も、今日では、幹部クラスの英語能力は完璧で、ビジネス上は問題ない。海外経験者や海外赴任意欲のある人材の需要も高い。長いバカンスはフランスの「国民的スポーツ」と受け止めてほしいと思う。まとめて長い休暇を取ることは難しくなっており、小分け(といっても1〜2週間以上)に有給休暇を消化する傾向が強まっている。

 

Solenn THOMASSolenn Thomas (ソレン・トマ)氏
Managers by Alexander Hughesのクライアント・パートナー。
ハイテク部門の採用を皮切りとして人材領域に携わり、Alexander Hughesに入社。現在は同社の子会社であるManagers by AHで主にハイクラスとエグゼクティブ人材の採用を担当している。担当部門は消費財、工業、企業向けサービス。フランスのビジネススクールを卒業し、オーストリア・ウィーンで経済学を学んだ。仏語のほか、英語と独語が堪能。哲学の学位も有する。

 

 

 

「取材・執筆協力」:  KSM NEWS & RESEARCH

 

 

2015年06月15日