Column

Kazune_Funato

諸外国で管理職やその候補者を探すには、人材紹介会社やソーシャルメディアを活用するほかに、現地のエリートにつながるネットワークを開拓する方法もある。
「現地で人的ネットワークを十分に築けていないことが日系企業の弱点」とストックホルム商科大学の船渡和音氏が、そのネットワークへのアプローチ手段を提案する。

 


スウェーデンの事例にみる、採用を見据えた人的ネットワークの築き方

欧州諸国では近年、管理職やその候補者の採用は、ほとんどが人材紹介会社か、LinkedIn(リンクトイン)などのソーシャルメディアを通して行われている。人材紹介会社への依頼はコストがかかる分、現地の労働法やビジネス慣習、給与についてのアドバイスも受けられ、特に重要なポジションの人探しには効率的な方法である。リンクトインは、そのサービスを熟知した採用担当者がいない場合、採用に漕ぎ付くまで時間を要する覚悟がいるものの、低コストで済む。
そのほかに、公的機関と民間企業が運営する日本商工会議所のサービスも十分に活用できるが、そのネットワークは日本関係者に偏っており、実際のビジネスにはあまり関係ないこともある。これでは肝心の現地エリートにつながっていかない。
日系企業は、現地で商品やサービスが受け入れられていても、人的ネットワークが築けていないのが弱点だ。ここでは、現地で管理職やその候補者を採用する際のヒントを考えてみたい。

エリートにつながるネットワーク
人的ネットワークには、業種別、大学別、公私のネットワークとさまざまな枠がある。「欧州は実力社会でコネや学閥などは意味がない」と考えられている方は、その考えを改めていただきたい。今はオンラインで、ときには無料で、充実した授業が受けられるのにもかかわらず、有名ビジネススクールへの応募者が絶えないのは、学びの場で優秀な人材とのネットワークが築けるからだ。これはオンラインでは得られない、一生ものの財産である。
現地人材の採用には、この人的ネットワークを使いこなすことが欠かせない。そのためには、日系および外資系企業は、まずそのネットワークに加わって受け入れてもらわなければならない。
現地のエリートとつながるための、3つの手段を示唆したい。下記は、比較的早く結果が出やすい順に挙げている。

1)現地のビジネスで成功し、業界で広く受け入れられている日本人あるいは日本に精通した人とつながる
日系企業に勤める駐在員や現地採用社員のほかに、現地の企業で一定の役職以上のポジションで働いている優秀な人物がキーパーソンとなり得る。このキーパーソンは、在外日本人商工会議所などのメンバーになっていないことも多い。その多くは、現地の言語でビジネスができるうえに日本語も堪能、日本と現地の文化、慣習に精通しているという逸材である。彼らこそ採用候補者であるが、雇用できなかったとしても、彼らの持つネットワークを紹介してもらえる可能性がある。

2)エリート校にアプローチする
どの国にも、それぞれの分野でエリートと見なされる大学、高等教育機関がある。たとえばスウェーデンではトップのビジネススクールであるStockholm School of Economics(ストックホルム商科大学)が挙げられる。同校は、毎日のように学内のどこかで会社説明会が行われている。説明会の参加企業は、国際的な大企業からスタートアップ企業まで、規模も業種もさまざまである。企業は優秀な学生を確保するために、学生は就職先を見つけるために参加する。修士号を取得するエリートの約半数は勤務歴があり、企業側はこのような大学院生を管理職候補と見ている。

Stockholm School of Economics会社説明会よりもさらに踏み込みたい場合、大学のキャリア・サービス窓口を訪ねてほしい。ここで得られる情報は、ほとんどの場合は無料で、現地の最新情報が満載である。何度も訪問を重ねるうちに、その大学の卒業生ネットワークに接触できる可能性もある。大学の卒業生ネットワークはビジネスのみならずプライベートや趣味でも結束力があり、非常にパワフル である。
訪問の際には、「インターンシップ」という手土産が用意できたら万全だ。インターンシップは長期でなく、夏期に2カ月間、アシスタントを1名受け入れたい、というような小規模な依頼でも構わない。国によっては、税の免除や、インターンシップをしている学生への奨学金制度があるので、大学側と相談してほしい。例えばEUのプログラムERAMUS+(エラムス・プラス)による、外国でのインターンシップへの奨学金などがある。
欧州諸国では、インターンシップから正規雇用につながる例が多い。学生は将来の顧客でもあるので、企業にとってはマーケティング活動とも位置付けられる。このほかにもコーポレートパートナーとして、授業への参加、セミナーの開催、学生主催で開かれるスポーツイベントやプロジェクトへのスポンサーなど、教育機関との協力体制を開拓すると良いだろう。

3)スポーツ・文化・教育・福祉団体を支援する
最終的には、この手段に辿り着くことを目指して頂きたい。スウェーデンではスポーツを始めとして趣味や社会貢献などのための組合や協会活動が盛んであり、アプローチしたい人材のグループとつながりのある団体を見つけるのは、それほど難しいことではない。エリートを探しているならヨットクラブのスポンサーになる、ヨットレースの共催者になることも考えられる。一般的に広く浸透させたいのであれば、夏には毎週末のように行われる各種マラソン大会、冬の名物のバーサロペット(クロスカントリー大会)などのイベントを支援する方法もある。ホームレスの援助や子どもの疾患をサポートする団体など、福祉団体にも多くの協賛企業が集まっている。

これらを通して、マーケティングのみでなく現地社会への貢献を目指して地道に活動していくことで、自社が現地に広く受け入れられるよう努力する。そこから人材の雇用につながるネットワークも育まれていくだろう。
現地に駐在員を派遣している場合、それを実現するために、駐在年数を長期間にして、現地の言語でコミュニケーションできる人材を選ぶことが望ましい。

Kazune Funato

 

船渡和音(Kazune Funato Hallgren) 氏
Stockholm School of Economics(ストックホルム商科大学)CEMS プログラム・マネジャー。
同プログラムの、マーケティングから応募学生の選抜、プログラム管理、卒業後に至るまで、一連のマネジメントを担当している。同大学では、留学を中心とした国際関連事業を担当した。国際基督教大学卒。スウェーデン、ストックホルム在住。

2015年06月01日