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学びのスイッチは企業が握っている ―社会人の自己学習:要因編― 孫亜文

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学生時代、テスト前でもないのに、ふだんから気になったことを調べたり、本を読んだりする、自学自習を怠らない友人が何人かいたはずだ。彼らは放っておいても学び続ける。学びのエリートなのである。しかし、「全国就業実態パネル調査2018」によると、彼らのような、学生時代から学び習慣のある人は、雇用者のうち実に12.6%しかいない。世の大勢を占める人は、学生時代に学び習慣をもっていなかったのである。

彼らにとって、「学び続けることが必要だ」という事実は高くそびえる大きな壁のようである。実際に、学生時代に学び習慣のなかった人のうち現在自己学習を行っている割合をみてみると、雇用者のうち30.0%であった。3人に1人しか学んでいない。どうすれば学び習慣のない人は学ぶようになるのだろうか。今回(要因編)は、学生時代に学び習慣のなかった9割弱の雇用者に焦点を絞り、企業の働きかけが自己学習を誘発するのかどうかをみていく。

 

OJTとOff-JTは自己学習につながる

自己学習につながるような企業の働きかけとして、まず考えられるのが、「上司や先輩などから指導を受けて、仕事の実務を通じて新しい知識や技術を、習得する機会」(OJT=On the Job Training)や「通常の業務を離れて、教育・研修などを受講する機会」(Off-JT=Off the Job Training)といった企業からの学び機会の提供だろう。それらを通じて、人は学ぶ必要性を知り、もっと学ぼうという意識をもち、そして自己学習を行うようになるかもしれない。

では、「全国就業実態パネル調査2018」と「全国就業実態パネル調査2017」を用いて確認してみよう(注1)。図1は、OJTもしくはOff-JTに取り組んだ人が、取り組んでいない人よりも自己学習に向かいやすいのか否かを分析した結果を数値(オッズ比)で表したものである。この数字が基準値1よりも大きければ大きいほど、より自己学習に向かいやすい(効果がある)ことになる。

結果をみてみよう(図1)。OJTもOff-JTも数値は1より大きく、自己学習を誘発する結果となった。OJTとOff-JTを比べると、Off-JTのほうが効果は大きい。さらに、両方を行うほうが、どちらかだけよりも自己学習につながりやすいこともわかる。つまり、企業によるOJTやOff-JTといった学び機会の提供は、自己学習の大きなきっかけになるということだ。

1 OJTとOff-JTの取り組み状況と自己学習の関係(オッズ比)

自己学習を促進させる仕事のレベルアップと評価

次に考えられるのが、仕事内容を変化させたり難しくしたりすることである。誰でも仕事に就いた当初は熱心な学びを行う。覚えなければならないことが山ほどあるからだ。ところが、時間が経ち、仕事の勝手がわかってくると、新たな学びを行わなくなるものだ。これを回避する方法としては、難度の高い仕事を与えるなど、学ばざるを得ない機会をつくることが挙げられる。

では、どのような仕事が自己学習の促進につながるのだろうか。ここでは、仕事の性質として、1年前に比べて、仕事がレベルアップしたかどうかという状況に加え、モチベーションを左右する要因として提唱されているハックマン・オルダム・モデルの5つの仕事の性質(職務特性)を用いて確認してみた。ハックマン・オルダム・モデルの5つの職務特性については、図2に示す。

図2 ハックマン・オルダム・モデルの5つの職務特性

結果をみてみよう(図3)。特に効果が大きいのは、仕事のレベルアップと評価・貢献・承認であることがわかる。仕事がレベルアップすることで挑戦意欲が高まり、それが新たな知識の蓄積や技術の習得を後押しするのだろう。難度の高い仕事を与えることは学び機会となり、自己学習につながる。また、どんな仕事であれ、自分の働きをきちんと評価されることは嬉しいものだ。評価されることでやる気が高まり、さらなる成果を上げるために学びを行うようになるのだろう。企業がバリエーション豊かでチャレンジングな仕事を与え、仕事の成果もきちんと評価すれば、人は学ぶようになる。

 

図3 仕事のレベルアップと仕事の性質(職務特性)と自己学習の関係(オッズ比)

注:点線は統計的な有意性がなく、効果はないことを表している。レベルアップ「昨年1年間、あなたの担当している仕事は前年と比べてレベルアップしましたか」:「大幅にレベルアップした」「少しレベルアップした」=1。技能多様性「単調ではなく、様々な仕事を担当した」、タスク完結性「業務全体を理解して仕事をしていた」、タスク重要性「社内外の他人に影響を与える仕事に従事していた」、自律性「自分で仕事のやり方を決めることができた」、評価・貢献・承認「自分の働きに対する正当な評価を得ていた」:「あてはまる」「どちらかというとあてはまる」=1。

 

企業は自己学習のきっかけをつくれ

学生時代からの学び習慣をもたない人たちにとって、「学び続けることが必要だ」という事実は大きな壁のように立ちはだかっている。しかし、企業がOJTやOff-JTのみならず、難度の高い仕事を与えることで学び機会を提供すれば、人は学ぶようになる。企業の働きかけは、大きな壁を打ち砕くハンマーになり得るのだ。

どうすれば人は学ぶのか。その答えは「企業がチャレンジングな仕事を与えること」。そう、学びのスイッチは企業が握っている。

では、働く人にとって、学ぶことのメリットとはなんだろうか。次のコラムでは、個人にとっての自己学習のメリットについてみていきたい。

 

注1)2年間のデータを用いることで、たとえばもともと勉強が好きな人は自己学習しやすい、といった個人の違いによる影響(固定効果)を除くことができる。ここでは、検証方法として、固定効果分析を用いている。

孫亜文(リクルートワークス研究所/アナリスト)

※本稿は「どうすれば人は学ぶのか―『社会人の学び』を解析する」に掲載されている分析の抜粋(一部調整)です。
・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。

2018年10月18日