全国就業実態パネル調査「日本の働き方を考える」2018職場のハラスメントを払拭するには ―カギは女性課長と粘り強さ 玄田有史・小前和智

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2018年は多方面でハラスメント問題が噴出した一年だった。「全国就業実態パネル調査」から、ハラスメントがどのような職場で見聞されるかを紐解き、解決の糸口を探りたい。

2018年実施の調査から「処理しきれないほどの仕事であふれていた」と「パワハラ・セクハラを受けたという話を見聞きしたことがあった」をクロス集計した(図1)。仕事であふれていた職場では男女ともにハラスメントの見聞率が高い(※注1)。それは労働政策研究・研修機構(2012)とも整合的だ(※注2)。仕事に余裕がない職場ほど、ハラスメントは起こりやすい。

「性別・年齢・国籍・障がいの有無・雇用形態によって差別を受けた人を見聞きしたことがあった」との関係もみた。差別を見聞した職場ほどハラスメントを見聞する傾向がある。差別が存在する職場とハラスメントが起こる職場は多くの面で共通している。

図1 職場の仕事量・差別の存在とハラスメントの関係(%)
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図1 職場の仕事量・差別の存在とハラスメントの関係(%)

※本表では2018年単年の集計を目的としたため、「x18」をウエイトとして用いた。分析対象は20~64歳に絞った。

職階とハラスメント見聞の関係はどうか。男女とも「代表取締役・役員・顧問」といった幹部は見聞率が低く、ハラスメントは問題化されにくい。一方、女性の「課長クラスの管理職」「課長クラスと同待遇の専門職」では、男性の同じ職階や女性の他の職階よりもハラスメント見聞率が高くなっている(図2)。これは注目すべき事実だ。

図2 職階別ハラスメント見聞率(%)
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図2 職階別ハラスメント見聞率(%)

※本表では2018年単年の集計を目的としたため、「x18」をウエイトとして用いた。分析対象は20~64歳に絞った。

そこでパネル調査の特徴を活かし、課長クラスの管理職・専門職にあった同一個人のハラスメント見聞率について、2015年から2017年の経年変化を男女別に調べてみた(図3)。3年を通じて一度も見聞しなかった割合が、男性は71%にのぼるが、女性は47%。つまり女性課長の過半数が一度はハラスメントを見聞きしていたことになる。対照的に3年ずっと見聞きしていた割合が、男性は3%に限られるのに対し、女性では18%と6倍に達する。それだけ女性課長はハラスメントを日常的に察知しており、対策には彼女たちの先導的役割が欠かせない。

図3 課長クラスの管理職・専門職の見聞率の経年変化(%)
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図3 課長クラスの管理職・専門職の見聞率の経年変化(%)

※注:2015年から2017年にかけて異動を経験せず、課長クラスから昇格も降格も経験しなかったすべての年齢層の男女を対象とした。
注:四捨五入しているため、足し上げて必ずしも100%にならない場合がある。
注:ウエイトには「x18_l16_s」を用いている。

ただ難問もある。図3をみると課長クラスの女性では、2015年に「見聞あり」だった42%が、16年には「見聞なし」に転じていた。だが17年には、そのうちの72%が「見聞あり」に移行している。察知し処置を講じたことでハラスメントの一部は解消される。しかし以後にはそれまで隠れていたハラスメントが表面化することも多いのかもしれない。

ハラスメント対策には課長クラスの女性の役割が重要になる。ただし対策後は問題がさらに噴出する可能性もある。だからこそ粘り強くハラスメント防止に取り組み続ける職場の姿勢が必要だ。

注1) 過去のコラムもあるように、「どちらともいえない」の割合が高い点には留意が必要であり、「どちらともいえない」の具体化も今後の課題だろう。
注2) 労働政策研究・研修機構「職場のいじめ・いやがらせ、パワーハラスメント対策に関する労使ヒアリング調査 -予防・解決に向けた労使の取組み-」資料シリーズNo.100

玄田有史(東京大学社会科学研究所教授)
小前和智(東京大学大学院)

・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。