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働くひとを増やすには(前編)―ターゲットは「完全失業者」だけでいいのか 萩原牧子

どうすれば、働くひとを増やすことができるのか――。その問いに答えるために、これまでは「完全失業者」に注目が集まっていた。彼・彼女らの実態や背景を検証し、働く上での課題を取り除けば、働くひとの数を増やすことができるのではないかと。しかしながら、その議論のなかには、見落とされている重要な対象がいる。

「完全失業者」とは、「働いておらず」「求職活動を行っていて」「仕事があればすぐに働くことができる」という3つの条件を満たすひとたちだ。たとえ、働くことを望んでいても、求職活動を諦めてしまったひとたちや、調査期間中に求職活動を休んでいたひとは、そこには含まれない。直近の数字では、「完全失業者」の数は208万人であるが、「非就業」で「就業を希望するひと」に対象を拡げた場合、その数は、588万人と3倍近くの数に膨れ上がる(総務省統計局「労働力調査詳細集計」2016年)。

この実態を踏まえると、働くひとを増やすためには、「完全失業者」だけでなく、「就業を希望する非就業者」にも目を向けることが有効であることがわかる。これについては、筆者も以前からほかのコラムのなかで触れてきた(「働きたいのに、なぜ働けないのか?―出産育児とは別の理由」)。しかしながら、追加的にデータを集計するなかで、それだけでは、捉える範囲が狭すぎるのではないかと疑問を感じるようになった。

図1をみてほしい。非就業者は全体で4527万人(注1)である(総務省統計局 同調査)。それを100%とする正方形のなかに「完全失業者」と「就業希望者」の占める割合を面積で示したものだ。「完全失業者」から「就業を希望するひと」に対象を広げることで、注目する対象は3倍近くになったとはいえ、それは、非就業者全体からみると、たった13.0%に過ぎない。非就業者の大多数は「就業を希望していない」のだ。

図1 非就業者の就業意欲別3分類(全体のなかの割合)

労働人口が不足するなかで、非就業者の13.0%のみを対象に議論していては、働くひとの数を増やすことに限界があるのではないか。これからは「就業を希望しないひと」にも注目し、就業を希望しない背景を踏まえて、どうすれば働くことを希望するひとが増えるのかを検証していく必要がある。もっとも従来は「完全失業者」に注目が集まっていたこともあり、「就業を希望する非就業者」はもちろん、「就業を希望していない非就業者」の詳細を知るデータが存在しないという、データ上の制約があった。

私達が「全国就業実態パネル調査」を立ち上げた狙いのひとつは、ここにある。全国の非就業者も含めた約4万人の個人を毎年追跡で調査することで、非就業から就業といった働き方の変化や背景が分析できる。早速、このデータを活用して、2015年12月時点で非就業であったひとたちが1年後(2016年12月)にどれくらい働いているのか、その割合をみてみよう。

図1の非就業者のうち、1年後に就業した割合を緑色で示した(図2)。想像どおり、就業意欲が高いほど1年後に就業している割合が高く、「完全失業者」の66.6%、「就業希望者(完全失業者を除く)」の31.3%、「就業希望なし」の6.5%が就業していた。しかしながら、興味深いのは、非就業者全体のなかの「完全失業者」の割合がそもそも低い一方で、「就業希望なし」の割合が圧倒的に高かったことから、各グループから就業したひとの非就業者全体に占める割合は、「就業希望なし」が最も多く(5.7%)、「完全失業者」(3.1%)と「就業希望者(完全失業者を除く)」(2.6%)が、大きく変わらないということだ。

図2 各グループの就業割合 ※( )は非就業者全体に占める割合

従来注目してきた「完全失業者」だけでは、非就業から就業に至るメカニズムの一部分しか捉えられていなかったことがわかる。働くひとを増やすためには、就業を希望していなかったひとにも対象を広げて、非就業から就業に至った要因を検証していくことが有効であろう。

なぜ、就業を希望していなかったひとまで、就業に至ったのか。次回のコラムでは、彼・彼女らが選んだ職場の実態をみることで、その要因のひとつとして、働く場所や時間の自由度を高めることの効果をみていきたい。

注1 就業内定者は除いている

萩原牧子(リクルートワークス研究所 主任研究員/主任アナリスト)
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・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。

2017年11月16日