海外におけるインターンシップ最新事情少ないインターンシップ枠をめぐり熾烈な競争を繰り広げる豪州の学生

雇用主は人材の適性を見極めるメカニズムとしての有用性を、大学側も学問に関連した就業体験を積むメリットを認めているが、未だインターンシップ機会は幾分限られている豪州。今後、米国などのインターンシップ先進国並みに機会は拡大していくのか、注目される。

雇用主は正社員人材の確保、学生は就職先の確保が目的

AAGE(オーストラリア大学卒業者雇用主協会)のチーフエグゼクティブ、ベン・リーブス氏は、豪州の雇用主にとってのインターンシップの意義について、「インターンシップは人材採用の仕組みのひとつであり、インターン生の全員または一部を正社員に登用することを目的に行われるものです。実際の仕事を試しに行ってもらった上で人材の適性を判断するのが一番よい方法だと分かっているため、活用する企業は増加傾向にあります」と言う。

一方、『AAGEインターン調査2015』※1によれば、学生のインターンシップに応募した理由で最も多かった回答は"将来の就職先の確保"であり、米英と同じ傾向にある。

インターンシップ獲得まで16件以上応募する学生も

リーブス氏は、「投資銀行、リテールバンク、コンサルティング会社、会計事務所、法律事務所、エンジニアリング企業、石油&ガス会社などあらゆる業界でインターンシップを実施しています。しかし、インターンシップ機会を提供するには、インターン生を管理監督する人材などそれ相当のリソースが求められるので、豪州では機会は限られています。毎年、大学新卒者はおよそ10万人※2ですが、私の推測では、このうち有給のインターンシップに参加できるのは少数だと思います。我々の調査によると、学生たちは平均6件のインターンシップに応募して機会を獲得しています。16件以上に応募した学生も1割いました。米国では就職活動を成功させるためにインターンシップ経験が必須ですが、豪州では必ずしもそうではありません」と語る。

インターンシップは採用選考の有効な方法であると認識しながらも、実際にはインターンシップ機会がそれほど広く存在しないことから、雇用主もインターンシップをはじめとする、就学中の就業経験をそれほど重視していない。Graduate Careers Australia (GCA)※3が実施した『Graduate Outlook 2014』※4によれば、雇用主が重視する新卒者の選考条件のうち、最も重要な条件とする回答者の割合が最も多かったのがコミュニケーションスキル(48.6%)、次いで学業成績(24.3%)、チームワークスキル(22.4%)となっていた。インターンシップ体験も含む職務経験を最も重要な条件として挙げた回答者の割合は19.6%で、リーダーシップスキルと並び6番目に過ぎなかった。米国ではどちらも最重要視される条件である。

6割弱の雇用主がインターンシップを含む学生プログラムを活用

『Graduate Outlook 2014』によれば、豪州の雇用主の2014年の大学新卒者採用規模は、20名超が31.5%、1~20名が55.5%、新卒採用ゼロが13.0%となっている。日米と比較すると採用規模は大きくないが、20名以上採用する企業の割合が2012年の22.2%から10%近く伸びている。

そして、候補者を評価するためにインターンシップを含む学部生プログラム※5を活用している雇用主の割合は58.5%に達していた。また新規採用者の中で学部生プログラム出身者が占める割合は、43.0%と比較的高い。一方で、調査時点でのインターン生への正社員登用オファー率は33%で、未だオファーを提示されるかわからない学生は58%いた(『AAGEインターン調査2015』)。

資源大国らしく、エネルギー・資源関連企業がインターン生に人気

インターン生が多い専攻分野としては、銀行&財務、会計、経済、化学・機械・電気電子などの工学分野が挙げられる(『AAGEインターン調査2015』)。これは、インターンシップ機会の多くの部分を提供する組織がこうした専攻分野の学生を求めていることの反映だと考えられる。また、インターン生が実際に任された職種で最も一般的なものは、機械工学、会計監査、化学工学、電気電子工学、土木工学となっている。

AAGEはインターン生のフィードバックを基に最高のインターンシッププログラムを提供する雇用主ランキングを発表しており、トップ10は右表のとおり※6。資源大国である豪州らしく、エネルギー・資源関連企業が多く含まれている。

夏期休暇中(12~2月)に8~10週間実施される有償プログラムが一般的

豪州の大学は通常3年制。2月に学年が始まり、12月に終了する。インターンシップは一般的に12~2月の夏休みに実施され、学生は2年生と3年生の間の夏休みに参加する。期間は8~10週間が一般的である。『AAGEインターン調査2015』では、インターンシップ期間の平均は9週間だった。

インターンシップは通常有償で、回答者の約66%が年収換算で5万豪ドル、週給換算では1,000豪ドルの報酬を受け取っていた(『AAGEインターン調査2015』)。「インターン生に対する報酬額は最低賃金よりはるかに高く、履歴書に書き込めるような職歴を得る上に報酬がもらえ、最終的に正社員登用オファーももらえます。大学の最終学年を卒業後の就職先の心配なく過ごせるのでかなり有利な条件だと言えます」(リーブス氏)

学生が意義を感じるプログラム内容を追求するのが最近のトレンド

「最近のトレンドとしても、インターンシップを学生が意義を感じる就業体験にする方向にあります。かつては、8週間ひたすらお茶くみやコピー取り、ファイリングのような雑務を任される場合もありました。それではその企業に入社したいとは思ってもらえないため、より重要で面白い仕事を与えようとする雇用主が増えているのです」(リーブス氏)

大学側にもインターンシップの有用性に対する認識が拡大

「学生全員にインターンシップを体験させたいという大学も出始めています。特に体験する仕事が専攻分野に関連したものの場合、実際の仕事を体験することは学生にとってきわめて有用であるという認識が大学の間に広がりつつあるからです。卒業のための必須単位に、インターンシップや職業体験プログラム(work placement)を含められる場合もあれば、卒業要件ではなくとも、インターンシップや職業体験に対して単位が授与されるものもあります。さらに、ボランティアワークに単位を与えたり、大学がそうした実務体験機会を見付ける支援をする動きも出始めています」(リーブス氏)

※1 豪州及びニュージーランドでのインターンシップに参加した907名の大学生に対して2015年2月~3月に実施された調査。
※2 GCAの2014年度『EMPLOYMENT AND SALARY OUTCOMES OF RECENT HIGHER EDUCATION GRADUATES』によれば、豪州在住の2014年学士号取得者数は19万1,000人。そのうち、61.2%が正社員で就職する準備があると回答しており、数に換算すると11万6,892人となる。
※3 大学卒業生の雇用に関する各種調査を実施している民間の調査機関。
※4 2014年8月~10月までにインターネット経由で実施された雇用主に対する調査。有効回答数、234社。同調査に参加した雇用主の64.1%は民間セクター、29.1%は公共セクター、6.8%は非営利セクターに属していた。
※5 就業体験斡旋、インターンシップ、バケーションワークなど。
※6 豪州のインターンシップ・トップ40は次のサイトを参照:www.topinternprograms.com.au

INTERVIEW=石川ルチア
TEXT=小林誠一

AAGE (Australian Association of Graduate Employers、豪州新卒者雇用主協会)
1988年設立。豪州国内で大学新卒者を採用・育成する330以上の組織によって構成される非営利団体。民間及び公共部門から幅広い業種の大小様々な組織が加盟している。
ベン・リーブス氏
AAGEチーフエグゼクティブ
大手会計事務所で公認会計士として勤務した後、様々な人事関連職種に就き、タレントマネジメント及び人材採用業務を担当。AAGEの運営に2003年以来携わり、2007年初頭に同団体のチーフエグゼクティブに就任。