Column

英国では、オックスフォード大学、ケンブリッジ大学などの名門大学と、学生の就職実績アップに取り組む中堅大学双方で、それぞれのポジショニングに応じたインターンシップの革新が次々に生まれている。今回はその現状をレポートする。

トップ大学と中堅大学では、インターンシップへの取組みの力点が異なる
5つの大学の学部生を対象とした今回のインターンシップ調査では、トップ大学として君臨するオックスフォード、ケンブリッジ両大学、トップ大学のひとつであり、英国インターンシップ市場最大の独自プログラムを複数もつLSE(London School of Economics and Political Science)、そしてその革新的な取組みに対し新卒者雇用企業協会(AGR)の賞を受賞した中堅大学のエクセター大学及びロイヤルホロウェイのキャリアセンター責任者に対しインタビューを行った。結果、独自プログラムの方向性及び特徴は、トップ大学と中堅大学で極めて異なることが明らかになった。

調査対象5大学のインターンシップへの取り組み比較

トップ大学と中堅大学の方向性を分ける最大の相違点は、キャリアセンターの活動が“エンプロイアビリティ主導”か否か、である。エンプロイアビリティは経済危機以降、英国新卒採用の主要基準として定着しているが、中堅大学の焦点はまさにそれにあり、インターンシップは「学生がエンプロイアビリティを獲得・証明する就業経験」であると捉えられている。一方、トップ大学は、彼らの活動は「エンプロイアビリティ主導ではない」と言い切り、インターンシップ自体も「単なる就業経験で終わるべきではない」と言う。インタビューでは、双方において英国インターンシップの更なる発展、そして新しい方向性が見られた。

大学内部でインターンシップ枠を創出する“エクセターモデル”
まずは中堅大学2校の取組みから見ていきたい。学生のエンプロイアビリティをアピールし、大学の新卒者採用市場における評判を上げていく必要性が高い中堅大学では、独自プログラムでインターンシップ枠数を増加させ、より多くの学生のCV(履歴書)に就業経験を記載させる工夫が不可欠となる。エクセター大学は、キャリアゾーン(同大学のキャリアセンターの名称)の数々の革新的な取組みが評価され、2012年に学生の就職準備支援最優秀団体に与えられる“AGRブルーリボン賞”を受賞 した※1。その中でも“エクセターモデル”として全国で知られるのが、大学内部でインターンシップ枠を多数創出する“学生キャンパスパートナーシップ(SCP)”である。「より多くの学生の受入先を考えた時に、大学構内に住む学生に、構内の様々な業務部門において就業体験を提供できないか、というアイディアは道理に適っていました」とキャリアゾーンマネージャーのウォラーズ氏は話す。2014年実施のSCPは200枠を超え、キャリアゾーンが提供する“学生ビジネスパートナーシップ(SBP)”(大学外の雇用主の元で行うインターンシップ)と合わせて、2年生の20%をカバーすると言う。

中小企業での2~4週間のインターンシップ機会を創る“ミクロインターンシップ”
ロンドン大学に属するロイヤルホロウェイは、2015年3月末に“AGR全英最優秀大学・就職活動支援プログラム部門”を受賞し、そのモデルの革新性がメディアを賑わせた。「我々の焦点は、より短いインターンシップを、より多くの学生に提供すること」(キャリアセンター所長ウィルキンソン氏)という。“ミクロインターンシップ”は、中小企業における2~4週間の短いインターンシップを150枠創出し、2年生 が獲得を競う仕組みである※2。「金(レベルの学生)を磨くだけではなく、銀をも改善したかった※3 」とウィルキンソン氏が話すように、応募した2年生は4ヵ月に渡るコーチングと、大学スタッフ及び企業のリクルーターによる選考期間を経験するため、最終的に選考に漏れた学生にも得るものが大きい。“ミクロインターンシップ”は大学の単位の一部 となり※4、その実績が学業成績証明書に記載される点でも革新的だ。“銀”レベルの学生と中小企業のマッチング、という革新性には、既に多くの中堅大学が注目しているという。

トップ大学では、インターンシップの多様性と国際性が焦点に
一方、トップ大学はエンプロイアビリティはキー概念のひとつに過ぎず、多様性と国際性が焦点となっていることが取材で明らかになった。トップ大学も中堅以下の大学と同様、機会獲得に積極的ではあるが、インターンシップ機会は当然トップ大学に集まりやすく、枠数には困らない。また、在学生へのインターンシップ提供に懸命な卒業生が、全世界、全分野に隈なく存在する。結果、トップ大学のインターンシッププログラムは一種の“全世界職業カタログ”のような様相を呈している※5 。

オックスフォード大学ホワイトハウス博士は「インターンシッププログラムは、学生たちがリストをスクロールダウンしながら、世界の様々な仕事について知識を得、『自分は世界中のどんな仕事もできる』とインスパイアされる“教育プロセス”です」と語る。それを証拠に、英国政治家の秘書枠から、欧州大陸やアジアの企業勤務、ガーナやシリアでのチャリティワーク、と同プログラムの多様性・国際性には目を見張るものがある。

ケンブリッジ大学も同様に、クリエイティブ産業や中小企業など伝統的に学生の目に留まりにくかった領域でのインターンシップ創出に力を注ぐと共に、「世界中の卒業生の力を借りて国外枠を増やしている」という。

ロンドンのトップ大学であるLSEの焦点もまた多様性・国際性にある。「ロンドンの大学は海外の学生を惹きつける必要があり、インターンシップの国際化はLSEには特に不可欠」と“LSEキャリア”のディレクター、マクファゼアン氏は語る。オックスフォード・ケンブリッジと同様、世界に散らばる卒業生が様々なインターンシップを創出する一方、LSEの国際性を高く買う海外の組織から多くのオファーがあると言う。マクファゼアン氏はLSEの独自プログラムの多様性をアピールする。「LSEのプログラムは『ごちゃまぜのバッグ』だが、学生にはそこからあらゆる可能性を想像して欲しいと思います」。

このように、トップ大学が多様性・国際性に重きを置くのは社会に役立つ人間を育てることを使命とし、インターンシップが単なる就業経験ではなく、自らの限りない可能性への『冒険』と位置づけられているからである。「インターンシップがマストとなった現状を逆に利用し、短い学生時代に彼らが思い切って冒険し、進路を探って行けるよう支援していきたい」(ホワイトハウス博士)。

1年生夏期休暇へのインターンシップ前倒しも見込まれる
今回、英国インターンシップ市場を見渡して最も驚かされたのは、5年という短い間にインターンシップがこれほどまでに“一般化”し、大学生活の一部として定着していたことである。インターンシップがごく少数の選ばれし学生のもの、とされていた時代は数年前だが、そのような視点は現時点の英国では時代錯誤であることを思い知った。2年生の夏期休暇を利用する短期の有給インターンシップ、という英国型モデルは今後も不動であると予想される反面、学生の意識の益々の高まりと企業間競争により、インターンシップ勤務の1年生夏期休暇への前倒しが始まるのもそう遠くない、とトップ大学は見込んでいることを最後に付け加えたい。欧州やアジア各国が「インターンシップ先進国」として見倣う英国。そんな英国のインターンシップ動向は今後も要注目である。

 


12_profile島田 歌氏
社会学博士(英国ケンブリッジ大学、2009年)
2000年慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、三菱商事株式会社入社。2003年英国 London School of Economics理学修士修了ののち、現地企業に勤めながら2009年ケンブリッジ大学博士課程修了。ヤギエウォ大学(クラクフ大学)哲学学部客員教授。スウェーデン人の夫と4歳の長女、2歳の長男とともにポーランドはワルシャワに在住、日本文化を現地のこども達に伝えるNPO法人「ちびっこワルシャワ(ちびワル)」を設立、主宰。


脚注
※1 AGRは元来、新卒採用に関して革新的な取組みを行った雇用者に賞を贈っていたが、エクセター大学が歴史上初めて大学としてこの賞を受賞した。
※2 2014年は全2年生866名中600名以上が応募。
※3 学業成績において、Aが90%以上を占める学生(卒業時には「distinction」という成績を得る)が金、Aが70-80%ほどでBやCもある学生(卒業時には「merit」という成績を得る)が銀という理解。
※4 学部によりどの程度単位にカウントされるかにばらつきがある。
※5 例えばオックスフォード大学のインターンシッププログラムhttp://www.careers.ox.ac.uk/internship-office-and-work-experience/the-internship-programme/

 

2015年11月24日