海外におけるインターンシップ最新事情インターンシップ初日から信用調査アナリストとして市場調査や投資分析を担当

今回紹介するのは、NYU(ニューヨーク大学)卒業生、シャーメイン・チュア氏によるインターンシップ・就活体験談。米国の学生にとって、インターンシップは就活を有利に進める手段であると同時に、正社員に近い責任ある仕事を任される中で、社会人生活のリアリティーや、自己の強みや弱みを知る機会であることが分かる。

学業成績以外でライバルに差をつけるのはインターンシップ

ニューヨークで学ぶ大学生の就職活動は、通常3年生の夏のインターンシップから始まります。多くの雇用主は、その時の実績を見て、その学生に正社員採用のオファーを出すかどうかを決めます。夏のインターンシップは、職務経験を通して自己を差別化するという、学生にとって重要な意味を持つのです。また、インターンシップは雇用主にとっても学生にとっても、互いの相性を確認する"テストラン"でもあります。

私自身は、3年生までに公共・非営利セクターで複数のインターンシップに参加しました。その結果、単なるお茶くみや書類のファイリングより、ペースが速くて学習カーブが急であり、かつ責任ある仕事が自分に向いていると思うようになりました。

そんな私を見て、NYUの友人たちは、金融関係のキャリアが向いているのではないかと勧めてくれました。しかし、私は金融専攻ではなかったので、大学のキャリアセンター経由で多くの会社説明会に出席したり、学内のジョブポータルサイトで金融業界にはどんな職種があるのか、求められるスキルは何かなどを調べました。

政府系投資ファンドで3ヶ月間のインターンシップに参加

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幸運なことに、2011年6~8月の3ヵ月間、某国の政府系投資ファンドのニューヨークオフィスで、アナリストとしてインターンシップに参加する機会に恵まれました。雇用主は金融業界の職務経験がない私に、国際関係論を専攻する中で身につけた専門知識をマクロ経済リサーチに生かす機会を与えてくれたのです。直属の上司が信用調査アナリストとしての教育を初歩から施してくれ、勤務1日目からチームの一員に組み込まれ、明確な指揮命令系統の下で、単独で取り組むべきタスクを与えられました。仕事で成果を挙げるため、帰宅後や週末に金融の教科書を何冊も読み、知識を貪欲に吸収すべく努力しました。

このインターンシップで私が任された仕事は、以下の通りです。

  1. 独自のBloomberg端末を使っての市場リサーチ
  2. アナリストコール(電話によるアナリスト向け説明会)への参加・・・インターンシップ参加時期が、米国債が格下げされる寸前だったため、多くのアナリストコールが催されました。それに参加することで、金融の専門用語で経済を語る方法を学ぶことができました。
  3. ファンドが投資する2つの主要業界と特定企業のモニタリング・・・最終的には複数の投資分析の成果を生み出せ、新たに投資対象として検討すべき企業を提案できるようになりました。
  4. 他部門の依頼による、投資家説明会での議事録作成・・・これは小さな役割でしたが、取引の現場に身を置くことで学んだことは決して小さくありませんでした。また、作成した議事録が世界各国の支社で共有され、私は単なるインターン生ではなく、本当の社員として貢献していると感じられました。

インターンシップの最後には、配属先以外の部署とも話し合いの機会を持ち、それらの部署で働くことに興味があるかどうかも打診されました。また、オフィス長との退職面接では、インターンシップ体験でよかった点、もっとうまくできたであろう点などについて話し合いました。インターンシップ中に受けた上司からのフィードバックは、仕事における自分の強み・弱みを理解する手助けになりました。

最終的にコンサルティング会社への就職を決めた理由

終了後、インターンシップ先の政府系投資ファンドから正社員採用のオファーをいただきました。一方、大学では、4年生の前半に複数の企業がキャンパスを訪問し、会社説明会と応募者募集を実施しました。ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)も実施企業の一つでした。同社は、私が入社したいと常々夢見ていた企業でした。自らの学業上のバックグラウンドを考えると、コンサルティング会社のほうが金融業界よりも取引対象の業界が幅広いという点で自分に合っていると思いました。インターンシップ先からの正社員採用オファーを受け入れる寸前でしたが、BCGからのオファーを受けることにしました。双方の企業ともに素晴らしい企業文化をもっていたため難しい決断だったのですが、最終的にBCGを選んだのは、研修プログラムが充実していることや、就職後もニューヨークで働ける点が大きかったと思います。

正社員採用オファーを最初にいただいた雇用主には就職しませんでしたが、4年生になる以前に就職先を確保できたことは心の平穏に繋がり、それは大きな恩恵となりました。おかげで卒業論文に集中でき、就職の心配なく残りの大学生活を楽しむことができました。

採用ブランディングの点でも雇用主にとって有益

総括すると、正社員の職務について現実的な見方ができるようになるインターンシッププログラムは、学生にとっても雇用主にとっても本当に有益なものだと思います。学生が社会人生活の現実を知る機会であり、卒業前に身につけておくべきスキルを見定める機会です。

雇用主の立場から言えば、パーソナリティーや職務遂行能力の点で、私が彼らの人材要件にどれだけ適合しているかをテストするきわめて有効な方法だと思います。また、雇用主にとって効果的な採用ブランディング手法でもあります。

私自身や友人の多くが、自分たちを鍛えてくれたインターンシップ先企業を尊敬し、とても感謝しています。サマーインターンシップの後、有意義な経験をした学生は、働いた企業を周囲の学生に積極的に宣伝していました。その結果、新卒者募集の際に、企業は多くの候補者を確保できるようになっていました。

TEXT=小林誠一

シャーメイン・チュア氏
シンガポール生まれ。ニューヨーク大学で国際関係論と社会学を専攻し、優等で卒業。現在リクルートUSA(リクルートホールディングスの米国支社)にて、シニアストラテジストとして新たな市場機会、買収した事業体のガバナンス支援及びモニタリング、グローバルな求職者をよりよく理解するための新規リサーチプロジェクトなどに携わっている。前職はボストン・コンサルティング・グループのコンサルタント。