北欧のグローバル企業に学ぶ女性管理職比率35%、フレキシブル・ワークを推進する

テリア・ソネラ

進出する国ごとに独自のブランドを持つ通信サービス企業

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テリア・ソネラは、スウェーデンのテリア社とフィンランドのソネラ社が合併して設立した、EU内で第5位の情報通信事業者。欧州を中心に中央アジア諸国にも進出し、全世界に約1億7,500万人の携帯電話ユーザーを抱えるグローバル企業である。フィンランドにあるテリア・ソネラフィンランドは、ソネラ社を前身とするフィンランドで第2位の通信キャリアである。

同社は、光ファイバーアクセス網によるブロードバンドサービスや、固定電話(主に遠距離通信)、TVサービスなど、自前のインフラ網による幅広い通信サービスを提供している。サービスの提供先は59カ国にのぼり、売上高の約半分はモバイル通信事業が占めている。

同社の海外展開における特徴は、各国ごとのマーケティング戦略に合わせ、進出する国ごとに独自のブランド名を使用し、商標のみ全世界統一化している点である。

各国の労働法を補完するため、労使がパートナーシップを結ぶ

テリア・ソネラフィンランド社では2つの労働組合を有しているが、テリア・ソネラの基本姿勢としては、各国の労働法を補完する位置付けで労働協約や労働組合との個別協定を結んでいる。個別協定としては、労働安全衛生に関する合意や職場代表・委員に関する合意などがある。

賃金に関する交渉は、国の経済状況に交渉の内容が左右され、場合によっては政府が関与するケースもある。例えば、フィンランドでは、賃金に関して、3年ごとに産業別の労使交渉を実施することが一般的。フィンランドの労働市場の特徴として、①産業別の労働協約、②硬直的な賃金体系、③(産業別を含む)最低賃金制度が挙げられる。そのため、個別企業における賃金交渉の余地は少なく、労働慣行としてのストライキも決して珍しいことではない。

内部人材を長期的なスパンで育成し、企業成長につなげる

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北欧諸国は外部労働市場が整備されており、従業員の転職も日常茶飯事であることから、同じ企業における勤続年数は短い。労働市場の流動性が高いことは、企業にとってメリットである一方、北欧諸国においても、成長し続けている企業は、内部人材を長期的なスパンで育成を目指し、企業内の人材力強化に取り組んでいる。その点、同社の平均勤続年数は15年と、比較的長い。企業理念を理解し、忠誠心の高い内部人材が企業内において果たす役割も大きいとのことである。

競合の多い情報通信業界で競争力を維持していくためには、能力開発とモチベーション強化を通じて、技術革新などの変化に対する従業員の対応力を高めていく必要があると、同社は考えている。

能力開発の体系として、「①ビジネススキルや専門スキルなどテクニカルなノウハウの開発」「②上司からのコーチングやフィードバック」「③プロジェクトリーダーや海外勤務のアサイン等を通した経験による学び」があるが、同社はとりわけ「③経験による学び」を重視している。従業員の成長を生産性の向上に繋げていくため、従業員自らの意思を尊重し、トップダウンではなく、本人の自発的な業務意欲を向上させていくことを大切にしている。

自発性を促すパフォーマンスマネジメントプロセス

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従業員の自発的な業務意欲向上という視点で、独自の目標管理システムを運用している。それが、パフォーマンスマネジメントプロセスである。パフォーマンスマネジメントプロセスでは、まず従業員の期首のコミットメントの前提として従業員満足度アンケートを実施し、各従業員が会社と自らの成長に繋がる明確な目標を定められるように支援している。

具体的には、「①目標設定(個人別設定)」「②中間レビュー(個人別目標の評価、能力開発の評価)」「③評価・表彰(管理職によるフィードバック)」「④個人別能力開発プランの再構成」という4つのステップで自らの目標と課題を明確にし、モチベーションをあげ、能動的な行動につなげる。

また、このサイクルを回していくと同時に、従業員のリーダーシップ能力を伸ばすことも重視し、リーダーシップ能力開発のプログラムも導入されている。すべての従業員はビジネス上のリーダーであると同時に、人々のリーダー(ピープルリーダー)を目指すことが求められるのだ。
これらの目標管理プロセスの究極的な目標は、顧客満足度の向上と長期的な利益の創出である。そのため、人事プラットフォームは、グループ各社である程度共通化させており、パフォーマンスマネジメントプロセスやリーダーシップ能力の開発についても、海外拠点を含むグループ全体で運用されている。

採用・人事では、企業文化価値共有を重視する

従業員の採用は、必要なポストに対し、能力を備えた人材を確保するという視点で実施している。また、採用した人材が同社の成長に欠かせない存在となるよう、長期的な視点で、能力のポテンシャルを測ることはもちろん、自社の価値観に適合する人材であるかという点も含めて選考している。そのため、以前は新卒採用における面接を外部委託していたこともあったのが、現在は、会社の価値への理解をよくみるために、自社の社員がすべて面接も実施している。
管理職クラスの人材確保では、内部からの登用と外部人材の活用とのバランスを考慮して行っている。しかしここでも、競争力強化に資するよう、なるべく内部人材から登用していくことが全社的な方針である。

女性の大学進学率が高く、優秀な人材を輩出

フィンランドの産業界では、女性の活躍が進んでいるのは周知の事実。現在、全業界での従業員のうち女性は約4割。サービス関係の分野で働く女性が多い。

テリア・ソネラフィンランドでは、役員(エグゼクティブ・マネジメント)のうち4名が女性役員であり、管理職の女性割合は35%に達する。

これほど女性の職場進出が進んだのは、第二次世界大戦後の労働力不足を補うためというのがきっかけとなっている。フィンランドの教育システムにおいては男女平等が原則であり、現在では女性のほうが男性に比べて大学進学者の割合が高くなっていて、優秀な女性従業員の源泉になっている。
同社は、女性役員・管理職割合などにおける一律的な目標設定や数合わせのような女性登用には反対の立場であり、優秀な人材の採用、育成を通して、女性の活躍を推進していきたいと考えている。職種別にみると、技術系分野で女性の割合が低くなっており、理系における女性人材不足はわが国と同様の悩みとなっているとのことである。

在宅勤務やフリーアドレスなど、多様な働き方を推進

女性活躍推進だけでなく、同社は多様な働き方を積極的に導入している。その一つが、フレキシブル・ワークの推進。同社では、従業員の55%が週に一度は在宅勤務しているなど、会社外で勤務している。その内容も、例えば営業職がクライアントに近い場所で仕事をするなど、職種により、在宅勤務の活用状況は異なっている。どのような形態をとるかは、希望者が直属の管理者と話し合い、実施の可否を決定している。また、職場におけるフリーアドレスも推進するなど、柔軟な対応により、多様な働き方を推進している。