北欧のグローバル企業に学ぶスウェーデンの概況 [雇用・労働]

1.経済概況

2012年のスウェーデンの実質GDP成長率は0.9%と低迷した。内需は総固定資本形成が3.3%増、個人消費が1.6%増と堅調だったが、輸出が0.7%増と伸び悩んだことによる。
2013年の実質GDP成長率は1.6%となった。個人消費は2.0%増と回復傾向を見せ始めたが、総固定資本形成が1.1%減、輸出も0.4%減と回復が遅れた。
スウェーデン王立銀行(中央銀行)は、金融危機を理由に2008年10月に4.25%だった政策金利を2009年7月に0.25%まで引き下げたが、2010年7月からから再び引き上げに転じ、金利は2011年7月には2.00%となった。しかし、スウェーデン・クローナ高の進行、輸出停滞による景気への悪影響を予防、デフレ傾向の阻止に向けて、2011年12月には再び引き下げ基調に転じ、2014年7月に政策金利を0.75%から0.25%に引き下げた。なお、直近では、2014年10月に政策金利を過去最低の0(ゼロ)%とした。
政府は2014年4月9日、今後3年間の経済予測と中期的な財政の枠組みを示す春予算案を発表した。今後3年間の前半は失業率改善のために教育やインフラ整備に力を入れ、後半は財政黒字目標の達成に努めるとしている。予算案と同時に経済見通しを発表し、2014年の実質GDP成長率は2.7%と予測、2013年9月に発表した2.5%から上方修正した。

2.労働市場の特徴

(1)就労に対する強い社会的規範

女性の積極的社会進出を背景に15~64歳の就業率は先進国では高いグループに位置する。 "Arbetslinjen"という「就労が社会保障給付の条件」という考え方がある。

(2)高い組合組織率を背景とした労使自治

労働組合の組織率は約7割(日本は2013年で17.7%)。1938年のサルトショーバーデン協定(※1)以来、法律よりも協約を重視するという労使自治の伝統がある。

(3)労働移動促進の仕組み

レーン・メイドナー・モデルとよばれる社会横断的に賃金格差を小さくする連帯賃金政策により低生産性部門から労働力を吐き出させ、積極的労働市場政策を通じて高生産性部門に移動させている。
余剰人員は整理解雇の合理的な理由として認められる一方、離職者の再就職を企業が拠出した資金により運営される非営利組織(TRR(※2)、TSL)が支援している。

(4)産業を跨ぐ労働移動の実現

スウェーデンでは日本よりも産業構造転換のスピードが早く、雇用構造も変化する。1970~80年代は製造業の雇用シェアが低下するなか、介護・保育分野をはじめとする福祉サービスの充実により、この分野で雇用を創造。
90年代からは外資導入やITインフラ投資により製造業をグローバル化させることで復活させ、事業サービス・教育など、そのサポーティング分野で雇用を創造。

(5)競争促進的なビジネス環境

経済政策面では、低い法人実効税率などグローバル化への積極的対応、規制緩和の進展が特徴的である。ボルボ社の乗用車部門の買収にみられるような経営危機に陥った民間企業を公的に救済しない点も特筆される。

(6)ダイバーシティーがもたらす高い生産性

北欧は女性活用により高い一人当たりGDP(就業率の高さ+高い生産性)を実現。その背景には、労働時間の男女間格差の小ささがある。

※1 1938年にSAF(スウェーデン経営者連盟)とLO(労働組合総連合)により締結された協定であり、労使協調による合意形成モデル。
※2 1974年にホワイトカラー部門における労使協約によって設立された非営利組織(NPO)で、加盟企業の賃金総額の0.3%の拠出金によって運営されており、政府からの財政的な支援はない。加盟企業がダウンサイジングを行う際の再就職を支援する。コーチングサービスのほかに、失業時の収入の補てんも行う。失業保険給付には上限があるため、失業前の賃金の70%との差額をTRRが支払う。ただし、それは最初の6カ月月間で、その後はその割合は低下する。サービスを受ける上限期間は2年。

    3.高失業の実相

    失業率をみると、数字上ではスウェーデンは日本に劣っているが、高失業率の主因は若年者の失業にある。その背景には解雇規制の問題(last in first out(※3))や高い最低賃金がある。しかし、見かけほど深刻ではなく、1年以上失業している者は人口比で日本よりも少ない。スウェーデン特有の若者のライフスタイルの影響もあるので、スウェーデンの雇用情勢は比較的良好といえる。

    ※3 最後に雇用された者から先に解雇される

    4.積極的労働市場政策(ALMP)の実情

    日本に比べGDP比で7倍に上るALMP(※4)予算が産業構造転換につながる労働移動を可能にしている。しかし、90年代にはALMPの中心であった短期の職業訓練の機能が低下したほか、就業インセンティブを殺ぐような失業保険制度の設計により有効性が低下した。スウェーデンには中立の立場で労働政策の分析を行う政府機関があり、その評価を踏まえてプログラムが見直され、最近では再就職支援サービスが注力されているほか、大学などで行われる、より長期の教育訓練に重点をシフトしている。

    ※4  Active Labor Market Policyの略。労働者に職業訓練や職業紹介を行い、雇用主には労働者雇用に関する助成金を支給するなど、労働市場に積極的な働きかけを行う政策。

    5.スウェーデンモデルの教訓~経済再生・物価安定に向けたポリシーミクス

    (1)インフレ目標導入とマクロ賃金調整機能の再建

    80年代は賃金決定のセクターレベルへの分権化、インフレ率を加速させる政策を、90年代にはインフレ目標導入、マクロレベルでの賃金調整機能を復活させる政策をとった。

    (2)産業構造転換を支える労働力移動の円滑化

    労使協調による事業再編とALMPの組み合わせ、およびALMPの中身の継続的な見直しを行った。

    (3)財政再建と経済成長を支援する社会保障制度改革

    保育政策・ALMPの充実をはかるとともに、社会保障制度の抜本改革・民間委託により公的支出を削減した。その背景には、ソーシャルパートナーとして国家デザインの一翼を担う労組の存在がある。

      5.社会保障制度について

      (1)社会保障構造の特徴

      引退世代のための社会保障と現役世代のための社会保障については、現役世代向けが充実していて、引退世代向けはむしろドイツやフランスより少ないことが特徴である。
      既存社会保障制度(引退世代向け)の効率化は不可欠としているが、日本の方が高齢化は進んでいる。item_hokuou_sweden01_4_05_03_2.jpg

      (2)付加価値税率をどう引き上げたか

      かつてスウェーデンは「福祉大国」ではなかった。1960年代にはドイツやフランスの方が社会保障給付費の国民所得比は大きかった。
      その後、「受益の実感」を国民に感じさせることにより付加価値税率の引き上げを実施した。即ち、給付充実と増税を同時に進めることで、国民は"税金はもう一つの財布"という認識を持つに至った。

      出所 欧州企業視察団報告(東京経営者協会)
      山田 久・㈱日本総合研究所調査部長・チーフエコノミストの解説・資料より作成
      2013年海外情勢報告(厚生労働省)