北欧のグローバル企業に学ぶノルウェーの概況 [雇用・労働]

1.経済概況

2013年のノルウェー経済は、実質GDP成長率が0.6%と停滞した。石油・天然ガスの輸出が減少し、全体では輸出が3.3%減と不振だったことによる。輸出の不振は、原油価格の低迷や主要輸出先である欧州の暖冬により、石油・天然ガスが減少したことによるものである。石油・ガス部門での投資は依然活発で、総固定資本形成は8.4%増と好調だったが、個人消費は2.1%増と前年に比べて低迷した。
ノルウェー経済は石油・天然ガスに大きく依存しており、2013年の場合、GDPの21.9%、輸出額の53.7%を同部門が占めている。ノルウェーは石油・ガス依存からの脱却をめざし、代替エネルギーの開発やバイオ、素材、ITなどの分野への転換を模索中である。
政府は、石油・ガス収入を年金基金に組み入れ、「政府年金―グローバル」として運用している。基金の残高は年々増加しており、2013年末には前年比32.0%増の5兆380億NOKに達した。同基金は世界の上場企業8,213 社の株式を保有しており、総額は発行済株式の1.3%に相当する(2013年末)。item_hokuou_norway01_nolway_01.jpg

2.雇用関係

(1)雇用契約形態及びその手続き

採用が決定した場合、被用者は労働契約書を雇用主からもらう権利を有する。契約書には労働の内容、試用期間、休暇の権利、退職・解雇通告期間、賃金、労働時間等を明記する必要がある。

(2)試用期間

法律上の規定は6カ月。文書による合意が必要。試用期間中の解雇については職場及び仕事への適応性、能力等を理由に文書で行うことはできるが、解雇理由の正当性については労働裁判所に提訴できる。

(3)退職

法律上は離職時の最低1カ月前に雇用主に文書にて通告する義務がある。ただし、5年以上勤務の場合、事前通告は最低2カ月前となる。1988年に早期退職選択制度が創設され、労使間の労働協約に基づき、本人が希望すれば国民年金の受給開始年齢67歳に達する前に老齢年金の受給が条件付きで可能になった。97年から老齢年金受給の最低退職年齢が62歳に規定された。

(4)解雇

法律上、雇用主は正当な解雇理由を明記した文書にて解雇の1カ月以上前に本人に通告する義務がある。職務怠慢、雇用契約違反が明白な場合、雇用主は通告なしに即座に解雇できる。病気や傷害による欠勤の場合は、欠勤日数が6カ月以内であれば解雇の正当な理由にならない。労働組合員であることや妊娠もまた解雇の正当な理由にならない。正当な理由なしに解雇された場合、2週間以内に書面で抗議し、復職交渉が可能。職務怠慢が理由で解雇通知を受け取った場合、過去1年以上勤務経験があれば、1年以内に本人に適した仕事に空席が出た場合、再就労できるよう最優先してもらう権利がある。仕事不足の場合、解雇の時には勤続年数の短い者から先に解雇しなければならない。

(5)定年

男女とも67~70歳を自由に選択できる。ただし国民年金の受給資格が67歳のため、それ以後働く人は少なく、67歳が実質上の定年。ただし、早期退職選択制度(AFP)の創設により97年から老齢年金の受給開始年齢が62歳に定められたため、本人が希望すれば62歳を定年とすることも可能。雇用主側がこれを強制することはできない。ただし、AFP制度は労使間の労働協約を結ぶことが前提。

3.労働時間関係

(1)労働時間

法律上の規定では1日9時間以内、1週40時間以内。現地慣習では1日7~7.5時間、1週33.6~37.5時間である。夜勤(通常21:00~06:00の労働をいう)などのシフトで働く場合(24時間継続操業の工場、ホテル、レストラン、その他サービス業、保険医療施設など)、法定労働時間は36~38時間。
健康上の理由、又は社会的、福祉関連等で、労働時間の短縮が必要な場合、被用者はその権利を有する。雇用主は働かなかった勤務外時間として実働時間から控除できる。1日5時間半以上働く場合、最低1回は休憩を取る権利がある。いつ、何分とるかは労使協定を結ぶ。8時間以上働く場合の休憩時間は合計30分以上なくてはならない。1日2時間以上残業しなければならない場合、残業開始前に30分の休憩を取る権利を有する。授乳の必要がある女性は、1日2回、1回につき30分の休憩をとることができる。あるいは1日1時間労働時間の短縮を要求する権利を有する。この時間の賃金は支払われない。

(2)残業の取扱い

通常、労働時間と残業労働時間の合計が14時間を超えてはならない。1週10時間まで、また継続44週間で25時間まで、年間200時間を限度とし、それを超えてはならない。労使協定で3カ月を限度とする期間内に1週15時間まで、連続する4週間で40時間までは延長することができるが、1日16時間を超えてはならない。また労働者1人につき年間残業時間が300時間を超えてはならない。労働監視局の承認を得れば、1週20時間、連続6カ月内で200時間までの残業が許可される。残業時間の賃金は40%増しを支払う。

4.休暇制度関係

(1)休暇制度

法律上は1年間25日(土曜日を含めた4週間プラス1日)分の休暇権利が与えられる。60歳以上の者は1週間(実働6日分)追加の権利を有する。ただし2000年の労使協議で2001年に2日、2002年にさらに2日追加され、合計有給休暇が2002年に4週間(土曜含む)プラス5日で計5週間となる。休暇を取る時期は6月1日から9月30日の期間に3週間続けて休暇を取る権利を被用者は有する。残りもまとめて取る権利を有する。休暇の時期決定は休暇の2カ月前に発表するよう雇用主に要求できる。雇用主は休暇手当を支給することとし、休暇をとる年の前年給与(賃金、残業代等を含むが前年度の休暇手当は含まず)の10.2%、60歳以上は12.5%相当額。休暇手当は休暇開始前の通常給与日に全額支払われるのが一般的であるが、休暇が分割される場合は休暇手当もそれに応じて分割払いも可能。これについては労使間で最も合理的な支払い方法につき合意できる。休暇手当は被用者にとっては無税であるが、雇用主は通常の給与と同様、雇用主負担税(社会保険税)が課せられる。ただし、休暇中の賃金は支払われない。

(2)病欠

4日以上の病欠には医者の証明が必要。疾病による欠勤の場合、260日(52週間)にわたり100%賃金保障。最初の16日間は雇用主負担、それ以後は本人の社会保険料負担分を払い戻す形で国民健康保険制度が支払う。

(3)産休

出産直前の10カ月の内、最低6カ月就労していた者は、出産に伴い210日(42週間)の有給(全額)、減額(給与の80%)した場合、260日(52週間)の育児休暇の権利がある。このうち最高12週を出産前にとることが可能。出産直後の6週間は母親が取らねばならない。母親と父親が2人で有給休暇を分ける場合、労働環境法は母親、父親がそれぞれまとめて取るよう義務付けている。有給休暇のうち4週間は父親が取る権利を有し(通称パパ・クオータ制)、この分を父親が使い切らなかった場合、有給休暇はその分短縮される。

5.賃金関係

(1)最低賃金

基本的に最低賃金制度はないが、建設業、海事建設業、農業や園芸、清掃作業については業種別の最低賃金が存在する。(NOK1(クローネ)=16.383160円(10月28日時点))
例えば、建設業の時間当たり最低賃金額は、①熟練労働者:NOK174.10(約2,852円)、②建設工事の少なくとも1年間の経験を持つ非熟練労働者:NOK163.20、③建設工事の経験がない非熟練労働者:NOK156.60、④18歳未満の労働者:NOK105.10。

(2)時間外手当

通常労働時間と残業労働時間の合計が14時間を超えてはならない。1週10時間まで、また継続4週間で25時間まで、年間200時間を限度とし、それを超えてはならない。残業時間の賃金は通常の40%増しを支払う。

(3)社会保険

老齢年金、障害者年金、障害者手当、リハビリ手当、労働災害手当、片親手当、疾病時の現金支給(労働者本人、扶養家族)、出産、養子縁組、失業時の現金支給、疾病、障害、妊娠・出産時の医療費及び葬儀用費用の給付等を保障。給付額は基本額を基に決定。基本額は国会で一般歳入の増減に応じて毎年数回調整される。付加年金は毎年積み立てる点数により決定される。社会保険料の個人負担率は基本給の7.8%。

6.労使紛争解決のための法的手続き

通常はNHO(ノルウェー経営者連盟)及びLO(労働組合総同盟)の労使取り決めの枠内で解決が図られるが、それでも解決しない場合は、NHO、LO、政府関係者から成る労働争議裁判所で解決が図られる。

7.労働組合への加入

労働者は労働組合員になる権利を有する。組合員は通常給与の1%を組合費として支払い、組合費は所得税申告の控除対象になる。

出所 岩井晴美・独立行政法人日本貿易振興機構海外調査部欧州ロシアCIS課アドバイザーの解説・資料より作成