企業家たちに学ぶ/ゴール必達のマネジメント

vol08 信頼を成果に変える仕組みづくり

生まれつき主体的な人なんていない。
従業員の潜在能力を
とことん信頼する。

セクション1

2012年7月8日18時過ぎ。株式会社KUURAKU GROUP(以下KUURAKU)の従業員10人が富士山の山頂を目指すべく、5合目の登山口に集合していた。彼らはレジャーではなく重要な社内研修に参加するのである。富士登山は、同社がこだわりを持って継続している社内行事の筆頭である。21世紀の現代の企業研修に富士登山である。一見、時代錯誤とも思えるこの研修の目指すところを、社長の福原裕一氏はこのように語った。

 

「富士登山の目的は、1つ目に協働の観点で考えています。チームで登らせるので、やはりこれは1人ではなかなか登りきれないなと。酸素が薄くなって酸欠状態になる社員もいますし、仮眠を取らないで登るというあえて過酷な状態にするので、誰かが、『荷物、持とうか』と言ってくれたときの仲間のいる大切さとか、チームワークや、絆といったものを感じてほしいという思いがあります」

 

KUURAKUは、1999年に福原氏が開業した焼き鳥屋から始まり、現在では世界に24店舗(直営17店舗、FC4店舗、カナダに3店舗)を擁する外食産業である。現場である店舗の運営においてチームワークは非常に大事になる。これは自明だ。そこで、富士登山という体力的な限界状況において学んだチームワークが生きてくると考えられているのだ。

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□□富士登山による学びは多いという福原氏。「一度、日本一を経験しておくことも、人生にとって一つ大きなものになるかなというところです」

セクション2

KUURAKUの富士登山は、新卒もしくは中途で入った初めての人たちを、経験者が引率するというフォーメーションだ。全体を小グループに分け、それぞれのグループにはリーダーが1名ずつつけられる。これはKUURAKUの実際の事業と類似の構造となり、登山中は店舗の縮図のような出来事が起きていると5回の登山経験を持つ福原氏は続ける。


「目的の2つ目は、個人の観点を考えています。毎回夜の8時ぐらいから登り始めますが、たまたま前に誰も歩いていないと真っ暗な道を歩かなくてはいけません。そうすると、果たしてこの道が合っているかどうか、初めての登山だと非常に不安なのですが、そこを信じて一歩ずつ踏み出さなくてはいけません。逆に前に誰かがいると明かりがあって非常に歩きやすい。つまり、ビジョンが見えると先に進みやすいとか、あとは、登ってみなければ景色がわからないということとか、人生でものすごく大事なこと、また、自然の中で五感がすごく鋭敏になるので、いろんなエッセンスを得られると思っています」


言われてみれば確かにそのとおりで、彼らは道中ずっとリーダーとしての判断と行動、あるいはフォロアーとしての判断と行動を求められているのである。また、誰かがネガティブなことを言うと、別の誰かはポジティブになるという状況も必ず起きるそうだ。

セクション3

KUURAKUの富士登山は、非日常環境におけるリーダー・フォロアーを経験する場であった。さらには、そこで、ビジョンやチームワークの重要性を学ぶことを求められていたのだ。ここでは、それを学ぶことで、従業員に、どんな人材になってほしいのかを福原氏に尋ねた。


「これからの時代、ますます不透明で不安があって未来が読めない時代だと思います。だからこそ、どんな環境になっても一人一人が自らの力で生き抜いていけるような人財になってほしいと思っています。そのうえで仕事があり、いろんな学びがありというところだと思っています」


“自らの力で生き抜いていけるような人財”とは具体的にはどのような人材なのだろうか。日々の業務において、福原氏は3つの要望を、常に伝えているという。


「まずは、主体性です。弊社の理念のひとつに、『与えられるのではなく、自分自身で考え率先して行動しよう』とあります。これは主体性を求めているものです」


「次に責任です。主体性を持っていても、やりっぱなしではいけない。言葉を変えると、自由というのは誰もが好きな言葉だと思いますが、自由を求めていても、本来は自由の裏側には大きな責任があるはずなのにもかかわらず、自由と責任が乖離しているような若い人たちも、まだ多いと思います。そういった意味では、主体性を持った行動は、ある意味、自由度もありますが、そこに責任があるという自覚をしっかり持ってほしいと思っています」


「最後に、チームワークです。人間は1人では生きていけないし、会社の中でも1人で仕事をしているわけではありません。いかにチームの勝利を意識して仕事ができるかというスタンスを、すごく求めています。自らの力で切り開いて生きていく力を身に着けてほしいと思う人財だったとしても、社会にいるので、必ず家族があり、もしくは仕事があり、人と接しています。そういった意味では、チームの勝利とか、仲間とか、そういうところはすごく大事にしています」


※注 文中、人財と人材が混用しておりますが、福原氏は人財と言う呼称を用いているため、氏の発言においてはそのまま人財と表記させていただいております。

セクション4

福原氏のこのような思いは、いわゆる正社員に限った話ではない。チームの勝利を手にするために、アルバイトの200数十名をも含むすべての従業員に等しく、先のような人材たることを願っている。


「300人弱の人たちに対して、そういうふうに一つに考えていますね。弊社の主な事業は飲食店なので、9割方はアルバイトです。そして、顧客からの評価は、もっぱらアルバイトに向けてのものになるのです。だから、アルバイトの人にも私が持っている人財観とか、店舗のコンセプトとか、理念ということをきっちりわかって仕事をしてもらうということが、私にとって、KUURAKUにとって一番大事なことになります」


「基本的な思い、ポリシーとして、たかがアルバイトではなくて経営のブレーンだと思っています。たかがアルバイトと思っている限り、たかがアルバイトの仕事しかしてくれないのです」

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□□これまで一緒にKUURAKUで学んできた大学生のアルバイトメンバーを送り出す卒業式。各店舗から卒業するメンバーへ謝意を表するのみならず、全体での振り返りの場にもなっている。

セクション5

アルバイトも経営のブレーンである。言葉にするのは容易である。福原氏にそこまで言わしめるマネジメントはいったいどのようなものなのだろうか。


「一般的に、アルバイトの面接に来る方は、まずは、お金を稼ぐことや、外食の何かへの興味を満たすことを第一義に考えているものです。その状態から、彼らをブレーンにまで育てるためには、まず、受け入れ段階で選別の意味もかねて、映像などを見せたりして会社のポリシーを徹底的に伝えます。次に、実戦で、いろんなステージを任せていくことを中心に、ブレーンとしての成長の段階を踏んでいくような流れを採っています」


KUURAKUでは採用に当たってポリシーへの共感だけが選考基準である。しかも、それは受験する側が合うか合わないかを判断している。そして、入社直後から様々な業務を任せることで成長を促しているという。


「たとえば、昨日入ったアルバイトでもお勧めメニューを考案していいとか、そういった感じで基本的にはいろんなところがオープンです。店舗の運営は、大半はアルバイトを中心に何をしたいか、どうすれば顧客に喜んでもらえるかという視点で施策を出してもらって、それで自由に参加していくという流れになります。そういう働き方が、最終的に一人一人が自分の力で生き抜いていける人財へと育っていくことだと考えています」

セクション6

店舗では、アルバイトリーダーと呼ばれる人たちが、いわゆる店長代理の役割を担っている。日次決算はほとんどアルバイトの従業員が行う。また、クウラクアイズ(KUURAKU i’s)という社内システムにより、日々の売り上げ、日報という業績の数値をはじめ、社内のあらゆる情報を公開している。社員もアルバイトも、仕事を行うための情報にいつでもアクセスできる環境を整えているのだ。


「与えられたことだけをしていては、私たちが求める人財像にはならないと思います。主体性を持って働いてもらうために、先へ進むための情報公開は必須です」


「主体性を大事にしていますが、最初から主体性を強く持った人間がいるかというとそうでもないと思います。まず、自分たちがそのチームもしくは職場に受け入れられた、信頼されているという安心感から、次に何かやってみたいという主体性に変化させていくというプロセスも必要だと思っています」


重要な情報を知らされることの意味は、主体的に仕事に向き合うためのツールを得ることであると同時に、責任を持って情報を管理しなければならないという義務を負うことでもある。そして何よりも、「あなたは、それができる人材である」という組織からの信頼の証でもあるわけだ。

セクション7

「しかし、ただ任せればいいかというと、そうではなくて、当然、結果を伴うような努力は必要です。壁があったり、問題が起こったりしていく中で、そのトラブルを乗り越えていくことが、最終的な私が求めるような人財像に近付くプロセスになっていくと思っています」


富士登山を筆頭にKUURAKUでは、多くのイベントが社内で行われる。12月の繁盛期を前にした11月の決起集会や、昨年から始められた匠選手権、同社のアルバイトを辞め就職していくメンバーの卒業式などである。そのすべてのイベントは決まった部署で行われるのではなく、HOTLINEと呼ばれる都度集められるプロジェクトチームにより運営される。


「7人から8人のチームがイベントごとに集められ、彼らが企画、準備、運営を取り仕切ります。たとえば、この8月には『匠選手権』というイベントが行われ、焼きの匠と接客の匠、串刺しの匠、ドリンクの匠が選ばれました。決勝の日は全店休業させていただいて、当社の銀座店で行いました。HOTLINEのメンバーとして運営を経験することも成長のプロセスですし、決勝に進出すること、そこで匠のプライズを得ることも、プロセスであり一つの目標にしてほしいと思っています」


同社で行われる多くのイベントは、もちろんチームワークの再確認の場という意味もあるし、何よりも成長のプロセスとして行われているものが少なくない。その一つの頂点として、のれん分け制度が設けられている。主体性・責任・チームワークの意味を理解し、生き抜く力を身に着け、そしてなによりもKUURAKUの理念を体現できたものだけが得ることのできるポジションだという。

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□□全従業員の中から​接客や調理の5部門のNo.1を決める「匠選手権」。社員、アルバイトという分け隔てのない場での真剣勝負ゆえか、開催後はアルバイトメンバーの退職者が4割減となるなど、若手の定着率が上昇。

セクション8

“人間は本来いい仕事をしたいと考えている”これは、ダグラス・マクレガーのY理論の意訳であるが、KUURAKUのマネジメント思想にも通じるものを見ることができよう。社員やアルバイトへの信頼の上に成り立つマネジメントである。しかし、従業員を信頼していればいるほど、万が一何か起きてしまった悪い出来事に、どのように対処するのだろうか。福原氏に意地の悪い質問をぶつけてみた。


「そうですね。やはり社内にもトラブルは確かにあります。しかし、信頼しているスタンスでいることは間違いありません。たとえば、何かトラブルがあった一因は、まず、私たち経営陣にあるという視点でものごとを見ています。なぜ不祥事が起きないような環境に、我々はできなかったのだろうかと。経営の努力不足を第一に問題としてとらえています」


「また問題を起こしてしまった社員を懲戒免職にしてしまうのは簡単ですが、それで許してしまうと、その彼が未来に対して同じことをする可能性があると私は思っています。過去に不正をしてしまった店長がいました。その時私は、彼にとって本当につらいことは何かと彼の未来とを合わせて考えました。結果、社内に残らせて一時的に惨めな思いもさせつつ、そこでもう一度はい上がらせるという経験をさせることが彼の遠い未来につながるはずという結論を出し、彼を降格させ残しました。最後まで信頼していたのです」


不祥事を経てなお従業員を信頼する。コンプライアンスという観点から見て、社内に残すという社長の選択が正しかったのかどうか判断は難しい。しかし、福原氏は社内での再起を強いた。果たして彼は見事に再起を遂げ、今や、一国一城の主として活躍しているそうだ。

セクション9

富士登山も社内の諸制度もその目的は「生き抜く力を身に着けてほしい」と言う社長の思いを伝えることである。しかし、組織の拡大に伴い階層が生まれる。階層によって社長の考えていることが伝わりづらくなるリスクが生まれる。社長の目が行き届かないとか、社長の声が届かないという状況をどのように防いでいるのであろうか。


「伝わらないリスクは、2度目の創業ということで痛いほど自覚しています。まず、本も含めてアウトプットの材料を非常に多くそろえていました。本であり、かつてはブログであり、また、社内のサイトのナレッジマネジメントを作っているシステム(KUURAKU i’s)がありますが、そこでメッセージを発信したり、そこで私が投げるメッセージへ社員に返信させたりとか、そういった理念や思いに対するチャネルを増やして、当然量も増やしてという交流を図ってきました」


実は福原氏にはもう一つの顔があり、これまでに7冊の著書がある。これらの書籍に記したことを、一番伝えたいのはKUURAKUで働くすべての従業員だったのだ。


「そして、もう一つの特徴として、いろんなシーンでメディアにも採り上げてもらっていますが、先ほどの社内でのイベントです。年に何度も行うことで、共通の体験をすることによって伝わりやすくするという状況を作ることを心がけています」

セクション10

理念の伝道師として先頭に立ってきた福原氏であるが、ここにきて会社のフェイズの転換を敏感に察知し、さらなる高みを目指している。経営者の育成だ。


「この役目を私がいつまでも続けていると、次の経営者が育たないと思います。そういった意味で極論から言うと、最近は、できるだけ見ないようにしています」


「最終的に目指すべきマネジメントは、“何もしないというすごいことをやれ”という天外伺朗さんの言葉に倣っています。何もしないというすごいことをすることによって、実は自立が生まれていくそうです。今後、幹部の自立を促すうえでも、今はできるだけ、私のメッセージを投げる、マネジメントをするという視点よりは、そういう何もしない我慢といいますか、そこを自分なりに次のフェイズとしてトライしている段階です」


多くの創業社長がそうであるように後継者の育成は最重要課題であり、難題であることが多い。同社も例外ではなく、現在進行形ですすんでいる。加えて、同社のように理念を大事にしている企業であればあるほど、育成も選抜も難しくなる。能力だけではなく、福原氏のように従業員を心から信頼することのできる人材でなければならないからだ。

近い将来、きっと会うことができるはずの、次世代の経営者を楽しみにしている。

そして願わくば、KUURAKUという信頼の風土で育った経営者として、彼らには、ぜひ富士登山を続けていて欲しい。社長の視点で見た山頂の景色を、従業員に語り継ぐために。

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□□ 1965年生まれ、横浜出身。1999年に焼き鳥屋「炭火串焼厨房 くふ楽」を開業。その後、「串焼BISTRO 福みみ」や「生つくね 元屋」などを次々に展開。一方で子供たちの健やかな心を育む学習塾を経営しながら、HAPPY&THANKSマインドを考案し各事業で実践。社員・アルバイトの意識改革を果たし「行列の出来る店の仕掛け人」・「人材育成に優れた企業」・「夢を叶える専門家」としてマスコミから注目される。

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取材日:2012年6月27日、8月23日  文:白石久喜 写真:刑部友康
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