企業家たちに学ぶ/ゴール必達のマネジメント

vol06 社員の当事者意識で成長し続ける組織

事業家へ、そして経営者へ。
社員の成長こそが 組織の飛躍的成長を実現する

セクション1

株式会社じげんは、求人・不動産・結婚・車・引越しなど、あらゆるジャンルの領域特化型の大手検索サイトやポータルの情報を吸い上げ、ユーザーが一括で情報を検索できるようにするバーティカル・メディアを運営している。求人情報なら「転職EX」や「アルバイトEX」、不動産なら「賃貸EX」など、じげんのサービスは、個人のライフイベントを始めとする暮らし全般へと広がっている。

 

ユーザーは、複数のサイトを行ったり来たりしながら情報を探索し、何度も応募や資料請求のために個人情報を入力する手間を省略できる。一方で、情報サイトを運営する各社は、ユーザーが自社の提供する情報にアクセスしてアクションをした時にのみ、ユーザー情報を受け取り、じげんに成功報酬を支払えばよいので、低コストで顧客リーチを高めることができる。

 

代表取締役社長の平尾丈氏は、学生時代からITベンチャーの立ち上げ・運営の経験をしており、新卒で入社したリクルートでも瞬く間に頭角を現した。入社1年目に、じげんの前身となるジョイント・ベンチャーの立ち上げに参画し、その会社の取締役に就任。2008年には代表取締役に就任した。リクルートグループで最年少の代表取締役だった。2010年には、2つの親会社からMBOする形で完全独立を果たし、第2の創業を迎える。以来、じげんは急成長を続けている。

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□□ユーザーが一活で大量の情報にアクセスできるじげんのサービスは、本文で紹介した以外にも求職関連では「派遣EX」「看護師求人EX」、住宅関連では「賃貸SMOCCA!-ex」「住宅購入EX」「太陽光発電EX」、新生活なら「引越し見積もりEX」「婚活EX」「中古車EX」「車買取EX」「プロバイダEX」など、多岐にわたる。

セクション2

2011年、じげんは有限責任監査法人トーマツの運営する情報・メディア・通信関連企業の成長性ランキング、第9回「デロイト日本テクノロジーFast50」で16位になった。しかし、この結果には喜びよりも悔しさを感じたと、平尾氏は言う。

 

「はっきり言って、嬉しいというよりも悔しかったんです。うちより上位の15社の中には、よく知っている方の会社もありました。そういう会社を抜けなかったか、もっと上位に食い込めなかったか、と自分に問い返せば、『やれたのにやらなかった』と言わざるをえません。やろうと思っていたこと、頭の中で構想していたことのなかで、やれなかったこともたくさんありました。それは全方位でやってこなかった自分のせいだと、ものすごく反省しました」

 

「経営の教科書にはよく『選択と集中』って書いてありますが、リソースが制限されているから優先順位をつけなくちゃいけないだけであって、能力があるなら全部やるべきなんです。それ以来、全方位で経営すると心に決めています。言い訳は絶対にしたくない」

セクション3

その言葉どおり、平尾氏は今年、事業の拡大を加速させている。経営企画グループで人事責任者をしてきた翠勇樹(みす・ゆうき)氏は、今年、新しい事業リーダーの1人として抜擢された。2月に設立されたじげんにとっての初めての戦略子会社、「株式会社にじげん」の社長になったのだ。

 

「人事の仕事はそのままで、新会社の社長をやることになりました。ミッションが200%に跳ね上がったわけです。新会社は、当社では初めてのユーザー課金型のビジネスを考えています。生まれて初めて事業計画書を作ったのですが、最初は全然書けませんでした。社長からのものすごい『ダメ出し』を食らいながら、毎日書き直しです」(翠氏)

 

自分でもそこに妥協するつもりはないと、平尾氏は言う。

 

「事業計画書に関しては、彼だけでなく他の事業部長も同じですが、毎日みっちり議論していて、そう簡単には通過させません。できていないところは全部指摘します。ゴールにどうやって近づいて行くのか、そのための原資はどうするのか、事業の成長を測るKPIをどう設定するのか……。目標とかプロセス管理が苦手な人には本当にたいへんだと思います。ですが、まともな事業計画書を作れる人は、実は大企業の経営陣でもそんなに多くない。だからこそ、うちの社員にはそういう能力を身につけてほしい」

セクション4

こうした抜擢人事には平尾氏の能力観が色濃く反映されている。

 

「うちにはエンジニア、デザイナー、営業、スタッフと様々な職種の人がいます。それぞれの専門性を高めるのは、第1段階としてもちろん必要ですが、そういう能力や技術というのは陳腐化しやすい。どんどん新しい技術が生まれて、古いもののバリューは下がっていきます。ただでさえ日本人は報酬水準が高く国際的に見て競争力がないのですから、こうした能力やスキルしか持っていない人は戦えません」

 

「私は、従業員の成長を3段階で考えています。まずは、それぞれの専門性を高めることですが、その次はもっと“腐りにくい”能力を高めてほしい。それが事業家になることです。事業計画書を作ることから始まって、事業を運営し、伸ばすことができる人材になってほしいわけです。今は、弊社の採用においても、エンジニア・デザイナー・マーケッター・営業などを経て“事業家”になれる素質のある方を狙って採っています」

 

「そして、事業家の次には経営者を目指してほしいと思っています。経営とは結果を求められるということです。実績がすべてです。そして、経営者としての力は実際に経営をすることでしか高められません。じげんに入社する若い有能な人たちには、単なるITエンジニアやウェブデザイナーで終わらず、事業家になり経営者になるための機会を提供するつもりでいます。そういうバリューアップができるということで優秀な人材がますます集まる、そんな企業でありたいのです」

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□□「独りではできないことを、この会社と社員で成し遂げたい」という平尾氏。「事業計画を詰めている時の私はかなり厳しいはずですが、それを乗り越えて事業家になってくれる人たちだと思っています」

セクション5

それにしても、人事責任者だった翠氏をいきなり、戦略子会社の社長に抜擢するとは大胆だ。なぜ翠氏を抜擢したのか、そこにはどのような基準を持っていたのかを平尾氏に訊いた。

 

「他の事業部長経験者を差し置いて、彼を抜擢したのには明確な理由があります。1つは、彼の人事責任者としての実績です。たとえば、昨年初めて、彼の提案にもとづいて新卒採用を実施しました。私自身は、本当はIPOするまでは中途採用だけでいいと思っていたのですが、彼が、優秀な若手を継続的に採用することが会社の成長には欠かせないと、私を説得しました。夏のインターンシップなども彼が企画・実施して、結果的に非常に優秀な新人を採用することができました。彼は、明確に『事業の成長』という観点から戦略的な人事を実施してくれています。そして、ゼロから何かを作ったという意味で、彼の成功には再現性がある、と判断しました」

 

「もう1つ事業家や経営者に求めているのは、人格や人徳です。人の上に立つ人になれるかどうかを見ています。彼の場合、まず採用面接やインターンシップで接した若者たちからの信頼が絶大でした。彼に会ってうちへの入社を決めた、という人もいます」

 

さらに、じげんでは社内における「他者からの信頼」を測るのに、面白い仕組みが導入されている。

 

「『GAT(ガット)』と呼ばれる社内通貨が流通しています。『ARIGATOU(ありがとう)』の真ん中の3文字で『GAT』、それに『Genius And Talent Program』という意味も付加しました。これは、他人からもらうことでしか増やせない通貨です。毎月、自分以外の人に、感謝やお礼を伝える意味でGATを支払うのです。毎月全社員が1000GATもらって、それを月内に他人に付与していきますから、ものすごく貯まる人も、ほとんど集まらない人も出てきます。貯まったGATは商品に換えることができます」

 

このGATがどれくらい集まっているか、といったことも、人格や人徳を見るのに大いに参考にしているという。そして、翠氏の発言にもあったとおり、これまでどおり、人事の責任者をしながらの子会社社長への抜擢である。

 

「ミッションは前年比200%、いえ、人事でもさらに新しいことをやってもらおうと思っていますから200%以上ですね。次の子会社が『さんじげん』になるかどうかは『にじげん』にかかっている、と高い要求をしています」

 

他にも、経営企画で中期経営計画の策定を一手に担っている若手が、この春、新事業部の事業部長候補として抜擢された。その彼も、経営企画の仕事は今までどおり続けながら、新事業を推進するという「ミッション200%以上」の状態にある。

セクション6

平尾氏がこうして事業部の数を増やし、抜擢人事によって次世代リーダーを育てようとしているのには理由がある。

 

「こういうベンチャーにはありがちですが、創業者だけが突出していて個人商店みたいになっていくのは違うと思っています。じげんを平尾商店で終わらせるのではなく、ボトムアップで成長していく企業にしたいのです。ですから、すべての社員に、ほかの会社での2倍から3倍の期待と要望をしていると思いますし、自分たちの手で自分たちの会社を良くするための活動を重視しています」

 

「創業者である自分や経験の長い社員に対して自由にものが言えない、というようなことが起こらないように、入社した人たちには何度も『遠慮するな』と言い続けています。言い続けることが大切です。『じげんは普通の会社じゃないぞ』と。経営理念に『Over the Dimension』をかかげています。これは、次元を超えたベンチャーになっていく、という意味です。そのためにはすべての従業員の力が必要ですから、『3年以内に平尾丈を超えろ』とも言っています」

 

「私は大企業で働いたので、自分だけが成長しても意味がない、というのは痛感しています。自分以外の方々の成長があって初めて飛躍的な事業の成長がある、というのは偽りのない実感です。そして、社員みんなが成長する時にこそ、社長である自分自身もぐっと成長するのだと思っています」

 

「正直に言えば、社内で行っている事業プランコンテストでも、今はまだ自分が出せば優勝できると思っているのですが、この状態のままではいけません。早く平尾丈を超える事業プランを出せる社員を増やしたい。そのために全員に『当事者意識を持て』というのを徹底しています」

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□□2012年5月、6周年を迎えたじげんでは、全社員参加のカート大会が開催された。こうした遊び心は、新しいオフィスづくりにも反映されている(本記事トップの真赤な部屋は「火星」をイメージした会議室)

セクション7

平尾氏は、組織づくりにおいても社員の当事者意識を強く求めている。

 

「じげんには『ZigeIN(ジゲイン)』という委員会制度があります。これは、組織をよくすることに社員みずからコミットしてほしい、ということで組織内の様々な活動を運営する役割を立候補制で社員に受け持ってもらうものです」

 

社内通貨GATの運営管理をするGAT委員、コーポレートキャラクターでもある本物のリクガメの世話をする生き物委員、社員が自由に食べることのできるおやつや軽食を準備する給食委員、月に1度の「”Z” 飲(ぜぇいん)」と呼ばれる全員参加の納会を企画する勇者委員など、今は全部で10の委員会があるという。

 

「この委員会制度そのものも、社内の有志によるワーキンググループ『次の元(もと)会』の提案でリニューアルされました。じげんは、2012年版Great Place To Work 日本における『働きがいのある会社』ランキングの従業員250人未満の企業の部で5位にランクインしたのですが、ここで表彰されることは、もちろん目的ではないですよね。もっと働きがいのある会社を、自分たちの手でつくるにはどうしたらいいのかというのを、次の元会では徹底的に考えて、社長提案してくれました。じげんの社員は、こういう活動を通じても、経営者の視点、当事者の視点に近づいてくれていると思います」

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こうして社員が当事者意識をもって、事業にも組織づくりにも邁進してくれるようになりつつある今、平尾氏は自分の役割をどう定義しているのだろうか。

 

「私自身は、これから『社長にしかできないこと』に集中していきたいと考えています。今、この会社で私にしかできないこととは、トップ営業マンであることでも、マーケティングでもない。じげんのブランドを高めていくことだと思っています」

 

「個々のサービスの認知はずいぶん高まってきましたが、そのサービスとじげんという会社を紐づけて見てくれているユーザーはほとんどいません。でも、『生活機会の最大化』というミッションに立ち返ってみれば、もっとじげんが社会に対してできることがあると思っているのです。ここを追求して、本当に唯一無二の『次元を超えた企業』になっていきたいですね」

 

この先の成長は、これまで以上に急カーブになるという平尾氏。平尾氏を超える社員が育っていけば、それはまったくの夢物語ではなくなる。次にじげんが切り拓くディメンションがどんな形になるのか、期待を込めて見守りたい。

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□□ 1982年生まれ。慶應大学環境情報学部卒業。在学中にITベンチャーを2社立ち上げ、数々の学生起業家コンテストで優勝。それらの会社の代表取締役を兼任したまま、2005年に(株)リクルートに入社。2006年、提携先との合弁会社である(株)じげんの前身、(株)ドリコムジェネレーテッドメディアの立ち上げに参画後、リクルートグループ内での最年少取締役として23歳で同社に出向。2008年、25歳で代表取締役となり、2010年、MBOにより同社を独立させた。

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取材日:2012年4月18日、5月16日  文:石原直子 写真:刑部友康
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