企業家たちに学ぶ/ゴール必達のマネジメント

vol03弱みを放置する能力開発

強みをストレッチして、
主体性のスイッチを入れさえすれば、 人は走りながら育つ

セクション1

本社のある東京から西へ500キロ以上。徳島県の深い山中に、その古民家はある。三三株式会社が2011年8月より運用を開始したサテライトオフィス、通称「神山ラボ」だ。これまでに全社員約50名のうち、延べ25名を超える社員がここでの勤務経験を持つ。しかし、ここには必ずしもマネジャーが常駐するわけではない。従業員の自己申請でラボ勤務が許されるという。これだけ自由な環境で働くとなれば、よほど厳格な管理システムか、あるいは個人の強い自律性が要求されよう。さもなければ、サテライトの運営は立ちゆかなくなるはずだ。同社では、後者が実現されている。今回は、こうした試みに挑む同社のあり方から、社員が「自走する」ためにはどうすべきか、この点について掘り下げてみたい。

 

一般的に、サテライトオフィスの設置と聞くと「ワーク・ライフ・バランス」というキーワードを思い浮かべるが、同社のサテライトオフィスは真逆の文脈でとらえられている。社長の寺田氏に真意を聞いてみよう。

 

「実は、僕にとっては『バランスさせる』という考え方自体がダウトなんです。バランスさせるというのは、ワークとライフが分離しているということじゃないですか。僕はワークとライフって、もっと重なり合うイメージじゃないかなと思うんです。ですから、自然が与えてくれるベネフィットを得ながら、ひたすら仕事を一生懸命やりましょうという文脈なんですよ、あくまで。ですから、『東京にいる時より、はるかに仕事していました。朝起きて目一杯仕事をして、夜も土日もやっていました』という者もいますしね(笑)」

セクション2

実際にラボでの勤務を経験したある社員は、こう語っている。「本来の仕事以外のことにできるだけ労力を使わなくて済む働き方なので、仕事の効率があがる」。本来の仕事に集中できるので、日々のプライベートも楽しくなり、それがまた仕事への活力になる、という好循環が生まれるのだそうだ。神山ラボでは、ワークとライフが最大限重なる働き方が実現されている。ライフに適した環境は、ワークにとっても適した環境なのだともいえる。しかし、それと、誰の管理下にもおかれずに、社員が自律的に働くことは別の問題である。社員の自律性をどうやって高めているのだろうか。

 

「僕らのミッションステートメントに『会社と自己の成長を重ねられる環境を提供する』というものがあるんです。『会社のミッションはこうですね。自分の人生のミッションはこうですね。両者の重なる部分を、どうやって広げていきましょうか』と。このことを、常に意識していれば自律性も高まると思っていて、今、個々人のミッションステートメントをつくろうと考えています」

 

会社と自分の人生のミッションを重ねること。これは決して容易なことではない。しかし、それが実現すれば、個人にとって、理想的な心地よさを提供できる組織になることは間違いない。ただ、異なる個性を持つ各社員の想いをどのように会社のミッションと重ね合わせていくのだろうか。その根底にある寺田氏の哲学に接した。

セクション3

「うちの会社で意識していることは、その人の強みとか、内在的なドライバーを自他ともに確認することです。たとえば、僕であれば、『成果を上げたい』というドライバーがもともと強いんです。ここで言う成果とは、お金ではなくて、こんな世の中をつくりたいということへのコミットです。僕は、人それぞれが何を内在的ドライバーにして日常を進んでいくタイプなのかとか、その人が何を強みとして仕事に活かせるのかということを本人も周りも知ることによって、その人の主体性・自律性はディベロップできると思っているんです」

 

強みを自他ともに知ることで、主体性や自律性をディベロップする。具体的には何を実施しているのだろうか。

 

「わかりやすいのは、“強(つよ)マッチ”ですね。強みをマッチするというオリジナルな言葉です。たとえば、『ストレングス・ファインダー』という自己分析ツールがありますが、これを全社員がやってみました。自分の分析結果を解釈して『これを成果に結びつけるために、私はどう考えればいいか』を毎朝、5分でみんなに伝えるんです。すると、周囲からのコメントで自分をより知ることができたり、成果を上げるためのアドバイスがもらえたりする。逆に周囲の人も、その人がどんなタイプなのかを知ることができるわけです。とにかく、全員が“強み”の伸長に着目することですね。けっして“弱み”の矯正ではなく」

 

驚くべきは、この強マッチと呼ばれているワークショップでの発言が、本人の発言も周囲の発言も社内ツイッターを通してすべての従業員に公開されることである。ワークショップに加え、ネット上でも強マッチの議論は続けられ、各人の強みと、そのブラッシュアップの過程まで、役職・年齢にかかわらず全員が全員分を知ることになるのだ。また、互いの強みを知るために、オフタイムの活動においても、カジュアルな仕組みが提供されている。

 

「“Know Me!”というのもあります。“飲み”ですね(笑)。異なる部署で、一度も飲んだことのないメンバーで3人以内の飲み会をやると、ひとり三千円の補助を出しています。これも、お互いを知るための企画です」

 

このような働き掛けの結果、マネジャーは各人の強みを前提に仕事を割り振り、最大の成果を期待することができるようになる。そしてメンバー同士は強みを前提にコミュニケーションをはかり、効率的な協働を実現することができるようになるのだ。 しかし、ここまで強みのストレッチのみに着目するマネジメントの姿勢は、いったいどこから生まれてきたのだろうか。

セクション4

このような働き掛けの結果、マネジャーは各人の強みを前提に仕事を割り振り、最大の成果を期待することができるようになる。そしてメンバー同士は強みを前提にコミュニケーションをはかり、効率的な協働を実現することができるようになるのだ。 しかし、ここまで強みのストレッチのみに着目するマネジメントの姿勢は、いったいどこから生まれてきたのだろうか。

 

「僕の前職は大手商社ですが、今考えれば、やはりそこにはゆとりがありました。弱みの矯正が中心で。しかし、弱みとは強みの裏返しであることが多い。たとえば『お前は、ちょっと事を急ぎすぎるぞ』と言われたとする。それはスピード感という強みの裏返しだと思います。そこで『わかりました。じっくりやります』などと言えば、その人の強みはスポイルされてしまうことになる。一方で僕たちベンチャーは、スピードと強みという資源を最大限、活かさないとそれこそ命取りになりますから、試行錯誤しながらさまざまな制度や工夫をしているというわけです」

 

各人の強みを共有し活かすことが最大の成果につながるという原理原則が、三三では、すべての従業員に浸透している。そして、仕事とは、それぞれを得意な人が担えば、成果も大きくなることを、彼らは知っているのだ。三三で、ある社員がとある仕事を担うとき、社内でそれが最も得意な人としてその仕事を任されているのであり、ここにこそ、個人のミッションと会社のミッションの重なり合いが生まれている。こうして会社のミッションが“我が事”に変われば、おのずとそれぞれの社員の内部に強烈な主体性が生まれる。

 

社員一人ひとりの主体性はかけがえのない財産である。さまざまな工夫によって、引き出そうとしている主体性こそ、同社の推進力であり、サテライトでの驚くべき働きぶりも、同社にとっては当たり前の光景なのだ。

セクション5

強みを活かす。そのために組織として働きかけると同時に、寺田氏は社員に対しても、具体的行動を3つ求めるという。

 

「1つめは、『自分自身で考えて、動いて、形にする』ということです。小さくてもいいから自分で完結させるんだという意識を持ってほしいといつも言っています。「あなたは考える人。僕は動く人」とか「あなたは動く人。私は形にする人」とは絶対に思ってほしくない。仕事というのは、結局、考えて、動いて、形にするプロセスの総和だと思いますから」

 

「2つめは、『やるべきことを自分で考えてやる』ということです。僕も常に考えています。『社長として、俺がいまやるべきことは何だ?』と。『出社したらおはようと言いなさい』なんてレベルの組織じゃダメで、やるべきことのレベルの高い組織でありたい。それが強い組織だと考えているからです」

 

「3つめが、『フェアに正しい判断をする』ということ。これは当社のキーワードでもあるのですが、けっしてコンプライアンスのようなイメージでとらえてほしくはありません。たとえば、急な雨が降ってきて急いでいるときの赤信号。クルマは一台も通っていない。ここで渡ってしまうというのも僕は十分に正しい判断だと思う。しかし、同じ場面で隣に子供がいた場合、渡らない。それも正しい判断だと思うのです。つまり、フェアに正しい判断をするというのは、ルールを守るという単純な話ではなく、『この場面において判断すべきポイントは何か?』ということをつかみ出して判断すること。言い換えれば、『判断すべきポイントを自分自身でつくれ』ということです」

 

これを実行し続けることはかなり難しいと思える。しかし、寺田氏はこれを社員に求め続けるのだ。

セクション6

「僕がいつも思っているのは『骨太なベンチャーでありたい』ということです。たとえば、FacebookはFacebookだけをやるために創業しました。googleは検索のみでした。そうやって、アメリカのベンチャーは『これで勝負する』と宣言して会社を立ち上げる。その中で生き残った者が世界を取るということです。一方で日本のベンチャーは、なぜか複数の新サービスを立ち上げるケースも多い。僕にはそれが大いなる疑問なんです。『小さな商社をたくさんつくってどうするの?』と。僕はそういう意味で、『経営者より事業家でありたい』と思っています」

 

組織の勝負どころをフォーカスするという寺田氏のこの発言も、社員の強みに特化するというマネジメント姿勢も、同じことを言っているように思える。

 

「事業をするために経営をするのであって、会社を経営するために事業を興すのではない。『自分たちは何をめざして起業したのか』という原点がぶれなければぶれないほど、理念や一体感は醸成されていくと思うんです」

 

「会社とは、理念や世界観とビジネスモデル、それに人との組み合わせだと、僕はいつも考えています。その3つが一致していればしているほど、全社員のゴールイメージもぶれない。逆に理念でうたっていることとビジネスモデルが違っていれば、そこで社員は冷めてしまう。そういうケースが少なくないですよね。僕はその3つのシナジーが会社を形づくっているんだという意識が、すごく強いんです」

 

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□□強みに特化することで、社員の主体性を引き出す。この特化のマネジメントは、事業においても同様に実践され、クラウド名刺管理サービスに、経営資源は集中されている。組織の勝負どころをフォーカスする事業マネジメントの実践だ。

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最後になるが、三三が求める高い主体性を持ちうる人材をいかに採用し、いかに評価しているのかを聞いてみた。

 

「最初の頃の採用は、ほとんど人づてでしたね。知っている人から知っている人を紹介してもらっているので、ある意味、会社とのマッチングは保証されている感じでした。現在では約3分の1が人材エージェント経由ですが、面接はしつこいほどやります。ふつうの面接プロセスを超えて、飲む機会をつくったり。何を見ているかというと、仕事は自分の人生にとって大事なものだという価値観を持っているかどうか。仕事を仕事としてしか見ていないような人は採りたくないのです。最初の話につながりますが、ワークとライフは別物だという人は、うちにとってあまり必要がないと思うんです。その価値観の見極めは、かなり慎重にやりますね」

 

ここでもやはり寺田氏の思想にぶれはない。ともに走り続けられる相手か否か、つまり会社と個人のミッションを重ねられる相手かどうかを、慎重に判断しているのだ。

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「評価は、現状がベストだとは思っていませんし、変わっていかなければならないと思っています。今やっているのは、いわゆるMBO(目標管理)のフレームワークを使った半期ごとの評価です。ただ、そこでは達成されたかどうかという結果を重視するのではなく、会社と個人が大事にしている姿勢を実行できたのかどうかというプロセスを見て評価しています。『考えを形にする』とか、『フェアに正しい判断をする』とか、『強みを活かす』といった点ですね」

 

「目標が達成されたとしても『この強みは活かせたの?』『自分で考えて、自分で動いて、形にしてこの結果があるの?』『フェアに正しい判断をしたポイントは何?』などと考課者が確認します。『達成したけれど、結果としてできてしまっただけじゃない?』というのは、評価しません。そうやって目標達成に向けて発揮された姿勢を点数評価しているんです。もしかしたら、今の当社のフェーズだからこそ、なんとなくうまくいっているのかもしれませんから、今後はもっと考えて変わっていこうと思っています」

 

三三では、評価においても“強みを活かす”ことは重要な要素となっている。 また、これとは別に、全社員による投票で、最も強みを活かした人を年次で表彰する制度もある。徹底的な強みのストレッチへのこだわりようである。

 

弱みには目もくれないという、常識外れの能力開発は、今のところ主体性高く自走する社員の育成に奏功している。これは今後も続けられていくであろう。既存のマネジメントでは考えられない試みが、いつか常識に代わる日が来るのかもしれない。

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□□ 慶応義塾大学卒業後、三井物産に入社し、情報産業部門にて、コンピュータ機器の輸入、システム開発、ジョイントベンチャー立ち上げ等に従事した後、米国シリコンバレーに転勤となり、米国最先端ベンチャーの日本向けビジネス展開を担当。帰国後は、自らが持ち帰ったデータベースソフトウェアの輸入販売を、社内ベンチャーとして立ち上げる。2007年5月に三井物産を退職し、4人の仲間と共に三三株式会社を創業。2011年、The Entrepreneurs Awards Japan U.S. Ambassador's Award(駐日米国大使賞)受賞。

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取材日:2011年12月2日、22日 文:飯田克彦・白石久喜 写真:設楽政浩
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