企業家たちに学ぶ/ゴール必達のマネジメント

vol01情報流通スピードの最適化

ソーシャルの力を使えば、
必要な情報が必要な人の眼前に立ち現れるようになる

セクション1

株式会社ウフルは、ITを活用したビジネス支援を行うベンチャー企業だ。米セールスフォース・ドットコム社の顧客管理アプリケーション「Salesforce CRM」の導入支援を中心に、クラウドを活用して顧客企業がビジネスを高度化するのをサポートしている。代表取締役社長の園田崇氏は「クラウドというものの認知が急速に広まり、新たなサービスが次々に生まれている私たちの業界では、今はなによりもスピードが大切」と言う。

 

「スピードを確保するためには、社員も、自分も、必要な情報を常に持っていないといけない。この時代、情報共有はトップダウンでもボトムアップでも、現実のスピードには追いつけません。1対1のコミュニケーションでは間に合わないのです。n対nのソーシャルなコミュニケーションが必要です。会社の意思決定もソーシャル化できるのが現代です」

 

具体的に、トップダウンでもボトムアップでもないやり方で情報を共有する、というのはどういうことだろうか。
「ソーシャルなコミュニケーションといっても、それは別にSNSだけを指しているわけではありません。会議体もソーシャルコミュニケーションの1つですから、どの会議に誰が出るのか、それぞれの会議のオーナーは誰にするのか、というように、会議体そのものをデザインする必要があります。しかし、より威力を発揮するのは社内SNSです」

 

「うちの会社では、Chatter(チャター)というツールを使っています。チャターのすごいところは、構成員だけが発言するのではなく、登録してあるプロジェクトフォルダやタスクフォルダも勝手に『発言』するところです」

 

チャターでは、ネットワーク上のフォルダになんらかのドキュメントがアップロードされたときにも、参加者にその情報が通知される。また、たとえば園田氏がどの案件や書類をフォローしたか、といった情報も自動的に通知されるのだ。社員は、社長がどの情報に興味を持っているのか、どの事実を知っているのかを、SNSによって知らされることになる。

セクション2

「よく必要な情報が不足しているとおっしゃる方がいますが、企業の内部は、実際には情報過多なんだと思うんです」と園田氏は言う。

 

ただし、それらの情報のほとんどが個人のデスクのひきだしやファイルの中にしまわれたままであったり、ネットワーク上に保存されていても誰もアクセスしていなかったりして、共有されることがない状態だ。「目の前に現れない情報なら、『無い』のと同じですよね」

 

だからこそ、企業のなかでは頻繁に、「え、オマエ、なんでアイツと話してないの?」とか、あるグループと別のグループが、別々にまったく同じことをやっているという現象が起こるのだ。これを園田氏は「同期がとれていない」と表現する。同期がとれていない、というのはつまり、情報の持つポテンシャルを活かしきれていないということである。

 

「ソーシャルなコミュニケーションの本質は、自分が興味を持っている事象に関する情報が、自然に目の前に立ち現れる、ということです。すべての情報と同期をとる必要はないけれど、必要な情報に関して常に同期がとれている(=最新の情報が頭に入っている)状態でありたい。そのためには、ソーシャルの力とテクノロジーの力を駆使するのが早道です。これを使わない手はありません」

セクション3

では、社長である園田氏自身の「最も興味のある事象」とはなんだろうか。

 

「社長の最大の役割はトラブルシューティングだと思います。問題がいかに早く私の耳に届くか。そのためには、普段から社長がどれだけ現実を知っているかが重要です。社長の認識が現実から乖離してしまっていれば、社員は『これは伝えないでおこう』という気持ちになってしまうでしょう。理想を言えば、社員の知っていることと社長の知っていることのギャップがゼロであるのが望ましい」

 

「およそすべての社内情報は、社内で共有されるべきだと私は考えています。もちろん個人の人事考課の中身など、共有されるべきでない情報もあるにはあるのですが、むしろそっちのほうが例外。多くの会社では、共有すべきでない情報を共有したことで問題が起こっているのではなく、共有すべきことを共有できていないから問題が起こっているのではないでしょうか」

 

確かに言われてみれば、社内で共有すべきではない情報など、ごくわずかしかないようにも思える。上層部だけが知っていて、社員は知らないほうがいい情報。あるグループの人間は知っていて、ほかのグループの人間は知らないほうがいい情報。そのように情報の共有を限定してしまうことによって、不必要な見えない壁が、組織内にどんどんできてしまうのかもしれない。

 

「情報流通の効率化とスピード化は、競争優位に直結する」と園田氏は言う。だからこそ、リアルの場でのミーティングから、ネット上での情報のやり取りにいたるまでの「情報設計」が重要だと考えている。

セクション4

この「情報設計」という考え方を園田氏は大切にしている。社内の情報設計ももちろんだが、SNSを上手に利用することは、自分自身の情報設計でもある、という。

 

「例えば私の場合、ツイッターではほとんど発言はせず、いろいろな知識や専門性を持った人たちをフォローして、その人たちがどんなことを考えているのか、何に関心を持っているのか、ということを勉強するために使っています。フェイスブックでは、もっと積極的に発言しています。お取引先の社長とか、そういう方々ともつながっています」

 

「フェイスブック上で私が何かを発言したり、『いいね!』を押したりしていると、実際にお会いしたときに、先方が『園田さん、これ好きそうだから……』と言って、関連する情報を教えてくれたり、イベントに招待してくれたりすることもあるんです。これこそが、『必要な情報が自分の目の前に湧き上がってくる』という状態ではないでしょうか」

 

SNSを使うことは、リアルでのコミュニケーションをないがしろにする、ということではないのだ。

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□□ 園田氏は、社内の情報流通についても、自分自身の情報収集についても「情報設計」という考え方で臨んでいる。個人が人力で集められる情報だけでは、変化のスピードについていけないと考えているからだ。

セクション5

園田氏も、「ソーシャルに社員とつながっていることで見えてくるものは、プロジェクトや社内の出来事の情報ばかりではない」と言う。

 

SNSへの書き込みや、どんな記事に反応しているのかという、社員それぞれの行動や振る舞いを見ていると、そのうちにそれらの人々のバックグラウンドや興味関心の方向性がわかってくる。そうした蓄積があれば、仕事のアサインにおいても、意思決定においても、誰に任せられるかの判断ができるようになってくる、というのだ。

 

「規模が拡大してくれば、すべての事象に対して私自身が判断を下すのでは、事業のスピードに追いつかない、ということが起こってきます。それに、私自身が詳しくないという案件も、当然のことながら出てきます。そうしたときに、すべてを自分が判断すべきだと考えるのは間違いだと、私は思うのです」

 

そして、いちばん確かな判断ができる人にその判断を任せるべきだ、と言う。
「この案件を確かに判断できる人間は誰なのか、それを見極めるのが私の仕事、ということになります」

セクション6

「クラウド・コンサルティングサービスというのは、まだ始まったばかりの業態です。言ってみれば、とても柔らかくて、まだ定義されていない状態。だから、逆に言えば、うちの社員一人一人が能力を高めて、いろいろな領域のことを知り、複数の専門性を持てば、うちが業界標準を作っていくことができると考えています」

 

そして、そのために、多くの社員がさまざまな案件に携わり、領域を広げ専門性を高めることに注力しているという。

 

「うちの会社は、『いろいろな企業の集合体』のような状態です。私や、各事業を引っ張る事業部長は、常に、この仕事は誰に発注するのかとか、どういうコンソーシアムを組めばいいのかということを考えているわけです」

セクション7

ウフルでは人事考課がクォーター(3カ月)に1回、実施されている。社員の考課とそのフィードバックを行うのは、事業部長である担当役員だ。面談しなければならない社員の数は1人の事業部長につき、10~15名だ。

 

「3カ月に1度、これだけの人数の査定をし、面談をするというのは、事業部長にとっては確かにたいへんな負荷です。ですが、今の業界の成長スピードを考えれば、これ以上長いサイクルにすることは考えられません」と園田氏は言う。

 

「クラウド・コンピューティング自体が、今すごい勢いで伸びていて、私たちの事業そのものが3カ月も経過すれば、どんどん違う形に変化しています。そうしたなかで、四半期ペースで自分も成長しなければいけない、というプレッシャーを社員にも感じてほしいのです」

 

この面談は形式的なものではない。この場で役職も変わるし、給与も変化する。ハイパフォーマーであれば、4回の査定を経て1年で5割以上給与が上がるケースもあるという。

 

これを機能させるためにも、事業部長が直接見られる部下の数をこれ以上増やさないように、組織の形も柔軟に変えているという。「事業の中身もどんどん変化し、社員ひとりひとりのスキルも成長している。組織の形だけが1年も変わらない、ということはありえません」

 

「事業部長には、メンバー各人のスキルを把握し、一人ひとりをどうやって成長させるか、成長させられるような仕事のアサインはどうすればいいのかを考えてもらっています。それこそが、彼らの業務です。いかにして部長がプレイヤーにならずに、全体を見る人に徹していられるかが肝だと考えています」と園田氏は言う。

 

人数が多すぎると、メンバーの仕事の「レビュー」はできたとしても、「トレーニング」はできなくなる可能性が高い。今できないことができるようになるようなアサインを、個人個人について考える暇がなくなるからだ。こうなると、いつまで経っても、若い人が育たないということになる。

セクション6

最後に、園田氏に、自分自身は今後、社内でどのような役割を担っていくのかを訊いてみた。

 

「ベンチャー経営者には、2つの側面がありますよね。経営者としての側面と、起業家としての側面と。経営者としての側面は、会社の中身をきちんと『数字』で把握して、日々改善を続けていくという、地道なことを着実に積み重ねていけば、どんどん整っていくと思うのです。そういう土台を作ったら、私よりも、もっと能力の高い人に引き継いでもいいと思っています」

 

「一方で、起業家としての側面、アントレプレナーシップというのも、この会社のなかに残していきたいと思っています。リスクを恐れずに、新しいことにチャレンジし続ける会社であってほしい。今の状態に満足して、それを維持していればいいというのでは、この会社には成長の余地がない。そういう企業風土を作ることと、経営体としての土台を強固にしていくこと、その両輪を回し続けていかなくてはいけません。これは私自身にも言えることです。自分のなかのアントレプレナーシップを錆びつかせないようにすることと、経営者としてのスキルを上げること。自分自身も同じことにチャレンジしています」

 

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□□ 鹿児島県出身。電通、モルガン・スタンレー、日興シティグループ、ライブドア(執行役員副社長兼メディア事業戦略室長)等を経て、2006年に株式会社ウフルを設立。代表取締役社長兼最高経営責任者となる。2004年、南カリフォルニア大学大学院にてMBA取得。

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取材日:2011年12月16日 文:石原直子 写真:平山諭
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