リクルーティングの未来 ~グローバル人事 最前線~ 毎月更新 全21回

Vol.16 HRMの過去と未来 - 変わること、変わらないこと

SHRM(Society for Human Resource Management) チーフ・ナレッジ・オフィサー デボラ・コーエン氏 (Deborah Coen)

【団体プロフィール】
SHRM(Society for Human Resource Management):米国人材マネジメント協会。世界最大規模のHRに関する調査や提言、情報交換などを行う団体。1948年米国で設立され、現在は中国やインド、アラブ首長国連邦など世界140カ国575カ所に支部を持ち、25万人以上のメンバーが参加している。

HRの手法は、専門的、分析的に進化している

私たち知識開発部門には、主にリサーチ・グループ、大学でのHR領域でのカリキュラムのガイドラインを作成するアカデミック・イニシアティブ・グループ、世界的なHR基準を設定するスタンダード・グループ、加盟企業のHR担当者からの質問を受けるコールセンターとしてのナレッジセンターなどがあります。メンバーは情報交換しながら、HRに関するさまざまなコンテンツを作成し、広めていこうとしています。

最近では、大学におけるHR領域の新しいカリキュラムのコンテンツを開発しました。数年前、大学でどのようなカリキュラムを導入しているか大規模調査を行ったところ、各大学でのカリキュラムの内容にはあまり一貫性がないことがわかりました。そこで、学生や教員、人事担当者たちとともにさらにリサーチを重ね、HR担当者として活躍できるカリキュラムを作成しました。その結果、各大学の立地や規模などに応じてフレキシブルに導入してもらえるカリキュラムのテンプレートが作成でき、現在では米国外も含む約200校の大学にある約250のプログラムに取り入れられ、利用校はどんどん増えています。

この10年のHRを振り返ってみると、変わったことも変わらないこともたくさんあります。たとえば、私たちは依然として、スタッフィングや賃金、業績管理やその他HRの基本について話し合っています。ただし、その内容は複雑さを増し、特に、ここ10年ほどは、メトリクスや測定(measurement)が重要視されています。

企業は、人材を単に採用するだけでなく、従業員が何を考え、どのような行動をとり、どんな貢献を果たすことができるのかを測定し、把握する必要が出てきました。また、それぞれの企業規模や、世界での位置づけ、事業は拡大か縮小か、不況をどう乗り切ったかなど、企業の置かれた位置によっても、その意味が異なります。そのため、メトリクスや測定によって、人材育成のあり方やトレーニングの方法などを分析する必要性が増しています。

それだけ、HR業務は分析的、専門的になってきました。大企業なら分析を専門に行う役職を設けることもできますが、多くの中小企業では、1人がHRに関わるあらゆる業務をこなさなければなりません。ですから、福利厚生や医療保障、退職年金制度といった専門性のあるサードパーティーを活用するように、メトリクスや測定でも、外部の専門家の力を借りることが自然の流れだといえます。

SHRMでも、ベンチマーキングサービスを提供しています。中小企業には、大企業のようなリソースがないため、規模やタイプ、ロケーションが同じような企業のデータベースを作成することで、中小企業でも活用できるようにしたかったのです。まだまだ進化させる必要はありますが、このようなデータベースを活用して、組織のなかでの人材トレーニングなどに活用してもらいたいと考えています。

「統合」がポイントになるタレントマネジメント

SHRMの会員や人事、学界の人たちとの議論では、タレントマネジメントのコンセプトはどこでも話題にのぼります。つまり、多くの組織がタレントマネジメントをより戦略的に考え、別の方法で行う必要があると認識しているからだと私は考えます。

タレントマネジメントには、フレキシブルな雇用形態から給与の仕組み、人材開発の方法、採用方法、オリエンテーション、組織への適合の仕方など、非常に多くの要素が含まれます。組織にとって、タレントマネジメントは巨大な傘のようなもので、どこか1つだけに特化すればいいというのではなく、「統合」がポイントになると思っています。

仕事がどのように変化し給与制度をどう変えるかを考える場合でも、採用マネジャーの視点を取り入れ、新たな人材を採用したら何をするのか、既存の従業員の仕事をどう変えるのか、組織全体にどう取り入れるのか、などの見通しを統合しなければ意味がないと思います。それは時として大変複雑なことです。人事担当者だけでなく企業のCEOや各部門のエグゼクティブたちも、タレントマネジメントを非常に重視しており、「統合」の必要性は高まっています。

現在、アウトソーシングやスタッフィングなどのベンダーを活用している企業は少なくありません。中小企業であればなおさら、それらの専門組織を活用するのが現実的で、その流れは今後も変わらないと思います。しかし、新たな人材を自社の文化にどのようにオンボーディングするか、人物と組織との適合性はどうなのかなどを考えていないとしたら、それは問題かもしれません。アウトソーシングがなくなるとは思いませんが、アウトソーシングがあるからといって他人任せにせず、「統合」を意識することは大切だと思います。

海外に目を向けても、同じことが言えると思います。国や地域ごとに、HRは異なる発展をしていると思いますが、HRの領域の概念やタレントマネジメントなどについては、類似点もあります。

たとえばインドや中国では、採用方法や給与設定など異なることもありますが、HRの概念は同じです。やろうとしていることは、人材と組織の中の仕事や文化のマッチングをすること。そのためには、組織や地域、その国のHRの特徴は何なのかを考えなければなりません。国による違いがあるのは当然ですが、全体的なアプローチやコンセプトは比較的似ていて、ここでも「統合」は重要だと思います。

手段の1つではあるが、重要な存在になるソーシャルメディア

HR業務に従事している者であれば、フェイスブックやリンクトインなどのソーシャルメディアをどのように活用するかを考えなければなりません。実際、リンクトインは、タレントマネジメントの領域への参入意欲を示しています。

ただし、ソーシャルメディアはこれまでと同様に、手段の1つにすぎません。数年前なら、「新聞の求人広告にレジュメを送るだけじゃなくて、実際に一社一社回ってレジュメを配りなさい」と言われていたのと同じように、失業中の人は「リンクトインでプロフィールを作りなさい」と言われるようになるでしょう。今の時代は、会社回りをする代わりに、キーボードを叩いてプロフィールを作成するのです。

私の経験からも、人を採用しようとする場合、最近はレジュメだけでなく、リンクトインでその人の人脈も確認し参考にします。将来的には、ソーシャルメディアはさらにインタラクティブに発展すると思います。その中で、いかにHR業務に適合させるか。特に、自分がそれほどソーシャルメディアを活用していなかったとしても、テクノロジーが進化している国や地域で、どのように適用するか考えなければなりません。

多様な働き方だからこそ重要になる、企業文化のマネジメント

ワークライフバランスやフレキシブルワークということを考えると、今後、オフィスに常駐しない人材は増える可能性があります。実際、ここ数年でフレキシブルな労働契約など多くのことが見直され、有給休暇口座のある企業や、週に数日在宅勤務する企業などもあります。テクノロジーの進化に伴って、このような働き方はますます可能になるでしょう。また、労働力の40%が非正規雇用の労働者やアウトソーサーになるという予測もあるようで、そのような状況を考えると、企業文化をいかにマネジメントするかがHRに携わる者として考えるべき重要なテーマになると思います。

たとえば、主にテレコミュートするリモートワーカーや、上司が別の場所にいる仕事の人材には、通常とは異なるトレーニングを提供する必要があります。別の施策や訓練(practice)を用意して、こういった人材が確実に組織とつながるようにする必要があるのです。組織へのつながりが薄い人材は、離職率も上がりがちです。そうならないためにも、忠誠心や組織への帰属意識は意義深いものがあります。

さらに、トレーニングだけでなく、人材をつなげるためのテクノロジー活用や、社内で従業員が絆を深めるためのアイスクリーム・パーティ(ice cream social)のような機会を使って、社内に常駐していない従業員の絆を高めることが大切になります。「人事がまた何かやってるよ、アイスクリーム・パーティだってさ」と言われるかもしれませんが、生産性を高めることが究極の目標であることを考えると、いかに企業文化を浸透させ帰属意識を高めるかが重要だと思います。

幅広いスキルセットとコンピテンシーを備え、懸命に努力する必要がある

リクルーターだけでなくほかの人たちにもいえることですが、今後は、1つのことに固執せず、多くの情報を解釈する能力を備えるよう努力すべきです。

たとえば採用において、実際に対面する面接を重視する企業はなくならないでしょう。しかし一方で、テストを重視した適性評価法の利用も増えています。業界団体による心理学系のテストや、ブルーカラー用・技術系用・ホワイトカラーのエグゼクティブ用などあらゆるアセスメントがあります。大企業だけでなく、中小企業が導入できるサービスもたくさんあります。しかも、それらの有効性に関する情報入手やライセンス許可、購入もインターネット上で手軽にできるようになりました。選考においては、それらのツールを活用して多面的に行うことも必要だと思います。

さらに、採用候補者が良い人材だとわかっても、その人物をどこで働かせるのか、どういう働き方でいつ働くのかなどの要素を掛け合わせることが重要になります。そこから、単に必要な人数を揃えるというだけではないHRのダイナミクスが生まれます。そのため、スタッフィングの領域で働く人々は、幅広いスキルセットやコンピテンシーを備える必要があります。

これからの企業の課題は多く、より複雑化すると思います。米国やほかの国々でも、失業率が高い一方で、特定の人材に対する獲得競争は相変わらず激しいでしょう。特に、優秀な人材が流出しているとか、人口動態が変化しているような特定の地域ではなおさらです。つまり、我々スタッフィングプロフェッショナルは、今後より一層、良い人材を選抜するために懸命に努力しなければならないのです。

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