リクルーティングの未来 ~グローバル人事 最前線~ 毎月更新 全21回

Vol.12 人材サービスのプロの視点 - 英国編

英国人材開発協会 人事施策開発責任者 ヴァネッサ・ロビンソン氏(Vanessa Robinson)

英国人材開発協会 労使関係アドバイザー ベン・ウィルモット氏(Ben Willmott)

【団体プロフィール】
英国人材開発協会:The Chartered Institute of Personnel and Development (CIPD)。1913年設立。企業組織内における人材育成、開発、管理などに関わる人や組織を支援する団体。

〈英国の採用事情 ~ヴァネッサ・ロビンソン氏~〉

企業も人も、厳しい環境下だからこそ求められるフレキシビリティ

CIPDでは毎年、英国の雇用に関する調査を実施しています。前年はタレント・マネジメントの重要性について報告しました。英国の経済状況は非常に厳しいのですが、それでも優良企業は人材への投資を続けています。厳しい状況から抜け出したとき、迅速に成長モードにシフトしなければならず、そのために最適な人材が必要だからです。

求められる人材像は、企業によって大きく異なります。しかしそのほとんどがアティチュード(態度や心構え)が重要としています。柔軟で前向きな姿勢や敏捷性、好奇心は以前よりも重要視されています。

英国では、1つの会社で一生働き続ける人はほとんどいません。人々は会社ではなく「職」を選択します。そのため、企業内である仕事がなくなったときは、それに従事していた人々は解雇されるのが普通です。ところが最近一部の企業で、学ぶ意欲のある社員に関しては配置転換をして雇用を維持しようとする動きが出始めました。

またテクノロジーの進化によって、在宅勤務や会社に雇用されるのではなくネット上でつながるインディペンデントな働き方など、新しいワークモデルが出現しています。子育てや趣味を追求するために労働時間を減らす、違う職種にシフトするなど、現在の自分のライフスタイルに合った柔軟なキャリアやワークスタイルを選ぶというケースも増えています。

今後も、個人が仕事に何を求めるかは変化していくと思います。従業員は必ずしも長時間労働を求めていませんし、企業に対する評価も、CSR活動などでブランド価値を高める企業を高く評価する傾向にあります。また、そのような情報が、ソーシャルメディアを通じて共有され、大きな動きにつながることが少なくありません。今後さまざまな変化を引き起こすのは、企業のトップダウンではなく従業員主導のボトムアップによるのではないかと考えています。

テクノロジーの活用やアセスメントを駆使して、より効率的で効果的な採用を実施

人材の採用経路で効果的な方法は、1位が企業サイトで、2位はリクルーティング会社でした。また、従業員によるリファラル(紹介)も行われていて、リファラルによって採用した人が2年間企業に定着すると紹介者にボーナスが支払われることもあります。

英国では厳しい経済状況を反映して、採用活動も停滞ぎみです。そのため、応募要件を満たしていない者を含む大量の応募者が求人に殺到しがちなので、リクルーティング会社を活用する企業も少なくありません。特に、ニッチな領域のスペシャリスト職の確保や上級職の中途採用などでは、ヘッドハンターやエグゼクティブサーチ会社などが利用されています。

また、新卒を大量採用するような場合、第一段階のスクリーニングにPCやテクノロジーを活用するケースが増えています。自社で行うこともあるようですが、社外の人材サービス会社に頼る企業が増えています。とはいえ、それはあくまでも第一段階のみでのことですし、今も一般的なスクリーニング方法はコンピテンシーベースでの面接が最も多く、次に多いのが履歴書・応募フォームに基づく面接です。

大量の新卒採用においては、グループで問題を解決させてその人となりを理解したり、心理テストや社員とのディスカッションなども組み合わせて判断したりするアセスメントセンターを活用することが少なくありません。

ここでいうアセスメントセンターとは物理的な施設のことではなく、選考のプロセスを指しています。多くの企業はこのアセスメントセンターを経由して、最終面接の対象となる少人数の採用候補者を選び出すのです。アセスメントセンターは企業ごとに運営されており、場合によっては社外のコンサルティング会社がサポートしていることもあります。

企業の採用では、さまざまな形で人材サービス会社が関わってきていますが、その関わり方はより専門的で、総括的になっていくのではないかと考えています。たとえば、長い時間をかけて候補者を知り関係を築いていく必要のあるエグゼクティブサーチや、退職者面談などがあります。英国では退職する社員に対して面談を行いますが、それを人材サービス会社が代行することで、社員はより率直に話ができますし、その後の仕事紹介につながる可能性もあります。また、さらに高いレベルでのRPO(Recruitment Process Outsourcing)も必要とされています。

さらに今後の大きな変化としては、フェイスブックやツイッター、リンクトイン、YouTubeなどのソーシャルメディアの活用が挙げられます。既に多くの企業が採用候補者の囲い込みなどに活用していますが、今後もその方法はさらに洗練されながら続いていくと思います。

たとえばロンドンのロイヤルオペラハウスは、ソーシャルメディアをうまく活用した事例といえます。ロイヤルオペラハウスでは、バックステージの人材確保に苦労していました。オペラハウスはオペラ歌手の仕事場というイメージを持たれるため、誌面広告を打っても、人々はロイヤルオペラハウスの名前を見るなり自分とは関係ないと思いがちだったのです。そこでロイヤルオペラハウスではYouTubeに動画をアップし、さまざまな人材を求めていることを効果的に伝えるのに成功しました。

〈人と組織のための公共政策 ~ベン・ウィルモット氏〉

職場におけるパフォーマンス向上に欠かせないマネジメントのあり方

職場におけるパフォーマンスの向上のために、「リーダーシップと人材管理能力」「フレキシビリティ」「従業員の福祉」「年金と報酬」という4つの分野における公共政策に、我々は注目しています。

1)リーダーシップと人材管理能力
英国では、従業員1人当たりの人材管理能力開発への投資額が欧州諸国のなかでは低いのですが、生産性の差を埋めるためには、この分野は非常に重要です。

政府が従業員のエンゲージメント(企業と従業員が相互に貢献し成果を出す幸せな関係)の実態を調査した“Engaging for Success: Enhancing Performance through Employee Engagement”という報告書が作成されました。そこでは、数多くのケーススタディから従業員エンゲージメントに必要な4つの要素を取り上げています。

1つ目は、「パーパス(存在意義)」。組織のコアパーパス(中核的存在意義)を理解し、従業員がそれに賛同していることが必要です。2つ目は、「倫理規範」。誰にも見られていないときに、従業員自身どう振る舞うかということ。3つ目は、「従業員の声(風通しのよさ)」。従業員の意見が上層部にしっかり届いていると感じるかどうか。4つ目は、「エンゲージメントマネジャー」の存在。マネジャーがコアな人材マネジメント能力を持ち、感情知性を発揮して従業員の話に耳を傾け、共感できるかどうかが求められます。

このような従業員エンゲージメントの4つの要素を実現するには、人材マネジメント能力の有無が大きな影響を及ぼします。ところが、英国の多くの経営幹部は、人材マネジメント戦略が事業戦略に非常に重要であるという認識がありませんでした。その点において、前述の報告書をもとに2011年3月に発足した「従業員エンゲージメントタスクフォース」の存在は大きなものでした。

2)フレキシビリティ
職場におけるパフォーマンスの向上のためには「フレキシビリティ」が重要です。たとえば子どもを持つ親の働き方が挙げられます。英国政府は「現代の職場(Modern Workplaces)」という協議会を2011年4月に発足しましたが、そのなかで出産・育児休暇の抜本的な改革を提言しています。

特には、生後1年目の父親による両親休暇の取得を促進するためのもので、たとえば母親が休暇を使い切る前に職場復帰した場合、夫またはパートナーが残りの休暇を取得する「追加父親休暇」というようなものがあります。

さらに、育児をする親だけでなく高齢化する労働力をサポートするための柔軟な施策や、病気から職場復帰する従業員のための柔軟な制度など、「フレキシビリティ」にはさまざまな側面があります。

3)従業員の福祉
「従業員の福祉」は、いわゆるストレスマネジメントに関すること。私たちは、イギリス安全衛生庁とともにストレスマネジメントに関する調査を行いました。そこで明らかになったのは、管理職の言動や態度がストレスの原因の軽減に役立つということでした。

直接的なマネジメント方法が従業員のストレスに影響を及ぼすケースもありますが、それとは関係なく精神疾患があるケースもあります。その場合、組織や上司が早期に兆候に気づき、適切な支援体制をとることが重要です。

4)年金と報酬
2012年10月に始まった年金自動加入制度や、男女の賃金格差の問題など、年金や報酬に関する対応が、職場でのパフォーマンス向上には不可欠の要素となります。

若年者の「エンプロイアビリティ」向上のために

若年者の失業問題は、英国において非常に深刻な問題となっています。その背景には、若年者のエンプロイアビリティスキル(雇用されうる能力)があまりにも欠如しているという問題があります。信頼性、勤怠、プレゼンテーション、コミュニケーション、基礎的な感情知能、労働観といったスキルはもちろん、算数や読み書きなどの基本的な能力の不足もあります。

当協会はこのようなスキル不足に非常に高い関心を抱いており、就労体験の機会を作ったり、ジョブセンタープラス(公共職業安定所)と共同でガイダンスを行ったり、英国雇用・技能委員会と共同で質の高い徒弟訓練制度の構築に関するガイド制作なども行っています。

また、企業が学校を訪問してエンプロイアビリティスキルがいかに重要であるか学生に教える機会を促進する活動を行ったり、求職者に対して個別にメンタリングを行うなどの活動も行っています。

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