リクルーティングの未来 ~グローバル人事 最前線~ 毎月更新 全21回

Vol.11 人材サービスのプロの視点 - 欧州編

ランスタッド・ホールディング ベルギー広報部長 ヤン・デニス氏 (Jan Denys)

【企業プロフィール】
1960年にオランダで創業。現在は欧州各国、北米、オーストラリア、インド、中国、日本など世界39の国と地域に4500以上の拠点を持つ、世界最大級の総合人材サービス企業。従業員数は2万9000人を超える。

今後の課題は“労働市場の流動化”と“高齢化”

欧州の労働市場も、近年大きく変化しています。従来の、入社したらその会社で一生勤め上げるといった閉じたものから、自由化と可能性の拡大によって、流動的で開放的な市場へと変化し、雇用主と従業員との関係も変化してきました。

以前なら雇用主に有利だった両者の力関係が対等になり、また、新卒エンジニア1人に対して20~30社のオファーがあるなど求職者側に有利に働く場面も見られます。一方で、雇用主主体の研修などの教育機会に関しては、従業員側もその責任を共有して自己研鑽を欠かさず、自立した存在であることが求められるようになりました。

環境の変化に伴って、派遣労働の競争も激化しています。個人の働き方が自由になることで、契約労働や個人事業主、フリーランサーなどのフレキシブルな働き方をする人が増え、派遣労働やほかの臨時契約との競合関係が生まれるからです。どれだけの仕事を生み出していくことができるかが、スタッフィング業界のビジネスにとって重要な課題であると考えています。

また、契約労働も大きな課題の1つです。最近では、ポーランドの会社がポーランド人を、派遣労働者ではなく賃金の安い契約労働者としてベルギーに派遣したというケースがありました。派遣雇用にすると、「user pays制度」によってほかの正社員と同じ賃金を支払わなければならないからです。これらは外国人労働者の不法就労を斡旋するビジネスにもつながりかねず、非常に深刻な問題に発展する可能性があります。

スタッフィング業界に限ったことではありませんが、人口の高齢化も大きな課題です。従来の労働市場では、若者は頻繁に転職するため流動性が高く、30代、40代になると流動性が低くなるというのが一般的でした。ところが高齢化が進むことによって、30代や40代、さらには50代の人たちの転職を促進するような対策も必要になります。これまでは若い世代が中心だった派遣労働者も、40代や50代が増えてきます。年金問題ももちろん、大きな課題です。

かねてから私が主張してきたことなのですが、今後、65歳以上が労働市場における新しい「学生」になると考えています。現在のベルギーでは、1日2時間だけ働くような短時間労働の“ミニジョブ”の担い手は、主に学生です。しかし、そこに65歳以上の高齢者の参入が考えられるのです。以前であれば年金だけで十分に暮らしていけると考えていた65歳以上の人たちですが、旅行や消費などで豊かに暮らしたいと考える層が増え、年金以外の新しい収入の機会を求めるようになるからです。これは、スタッフィングビジネスにおいても大きな商機をもたらすことになるでしょう。

このように、さまざまな問題や新しい動きにつながる「高齢社会」では、世界の中でも高齢化が進んでいる日本の動向を、私はトレンドセッターとして注目しています。

労働者が自ら自由に労働市場を移動できるような仕組みづくりが重要

欧州の労働市場において、グローバル化という点では「移民」が大きな存在となっています。労働市場内に流動を促進させる欧州の政策によって、東ヨーロッパ特にポーランドから多くの労働者が西ヨーロッパに流入しています。しかし、全体的に見ると、欧州内の流動は、現在でも非常に限られています。

原因の1つは、言語の問題です。欧州内ではさまざまな言語が使用されていて、社会保障制度や文化も国によって大きく異なるため、現在でも外国に移動することが容易ではありません。そのため、数カ月ごとに自国と外国を行ったり来たりする循環移住(circular migration)や一時的移住(temporary migration)といった現象が見受けられます。また、観光ビザで入国してブラックマーケットなどで一時的に働くケースもあります。しかし、一般的に見て欧州内の移民は経済に利益をもたらし、国内の雇用に悪影響を与えることはないと考えられているため、欧州の労働市場は移民を支持してきました。

たとえば2004年にポーランドなど10カ国がEUに加盟して以降、多くの不安や憶測が欧州各国を襲い、多くの国がポーランド人労働者の入国を禁止したことがありますが、労働者の自由移動を促進するEUの法に違反しているということで、数年間の制限を経て、現在ではポーランド人は就労許可がなくても働けるようになりました。

欧州では、長年かけて積極的労働市場政策に関する専門知識を積み上げてきました。積極的労働市場政策とは、失業者に訓練やカウンセリングの機会を提供し、活性化させることです。国によって差はありますが、ほとんどの国が何らかの対策を講じています。

労働市場政策で重要なのは、従来のような保護や仕事への定着、雇用維持を重視するという観点ではなく、いかに労働者のキャリアを構築し転職やスキル開発などの促進を行うかという観点です。失業者の自己責任を問うばかりではなく、政府が投資を行って失業者の就業を促進すべきです。そして、労働者が労働市場を自由に移動できるような施策が必要です。

そのためには、人々を誘導し、相談に乗り、自分自身の持つコンピテンシーは何で、何をすべきなのか、どのようなアプローチをすればいいのかを認識できるような多くのサービスが必要になるでしょう。このモデルを構築することが、今後20~30年の大きな課題になると思います。

より包括的に、専門家としての人材会社のサービスへ

ソーシャルメディアによって企業がより簡単に自社で採用が行えるようになると、人材会社に影響があるという予測もありますが、私はこれについては疑問視しています。そもそもの人材会社の役割を考えることが大切ではないでしょうか。

需要と供給のマッチングだけであれば、新しいテクノロジーを活用することで企業は自社で採用を行えるでしょう。しかし、人材会社は単にマッチングを提供するだけではなく、顧客企業が抱える事務手続きなどを代行しています。たとえば人材のアセスメントの場面では、専門知識を必要とする非常に複雑なタスクがあり、それを人材サービス会社が担っているのです。1人の欠員枠に1000人が応募してきたとしたら、適性の評価を外部に任せるのは自然の流れです。何を自社で行い何をアウトソースするか、その選択が変化するだけのことです。私たちのコアビジネスは、質の高いマッチングを提供することですから。

実際、採用プロセス全体を引き受けるRPOサービスの重要性は高まっており、多くの大手企業と契約しています。研修や労使交渉の領域以外の正社員の採用も含めた採用プロセス全体を受託し、派遣社員や契約社員、フリーランサーなどさまざまな契約形態の従業員の管理も行い、企業と労働力との間の調整役を果たしているのです。

これは、ある種のインハウスのようなものです。従来のインハウスは派遣社員のみを対象としていましたが、企業に流入するすべてのフレキシブルワーカーを対象として業務を代行するハイブリッド型が大きな特徴といえます。企業によっては、20から30のプロバイダーを利用することもありますが、インディペンデントコントラクターも含む面倒な業務代行のサービスを提供するのです。そのため我々はエージェンシーではなく、企業のアドミン部門の一部となるようなものです。これを当社では「マネッジドサービス」と呼びますが、この領域の重要性は今後ますます高くなるでしょう。

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