フレキシブル・ワーク最前線 ~新しい働き方が組織を変える~株式会社クラウドワークス 代表取締役社長 兼 CEO 吉田 浩一郎氏

クラウドソーシングで仕掛ける「働き方革命」

クライアント13万社。企業と個人がネット上で受発注

「働き方革命」が静かに始まっている。全国の個人と企業が、インターネット上で仕事を受発注できるインフラとしての仕組みが「クラウドソーシング」。クラウドワークスはそのトップランナーとして受注側の会員数100万人、発注側のクライアント14万社及び政府9府省、約50の自治体(2016年8月現在)との取引実績を誇る。企業から個人への依頼の方法は3通り。
1つ目は「プロジェクト方式」で、ネット上で複数の個人からオファーを受け、相見積りで発注先を決定する従来の外注業務に近い方式。
2つ目は「コンペ形式」で例えば商品のネーミングやデザインをネット上で募集して採用したもののみに企業が対価を支払う方式。
3つ目は「タスク形式」で数百万もの大量の作業をネット上で数多くの個人がシェアすることでスピーディに完了させる方式だ。

代表取締役社長兼CEOの吉田浩一郎氏は「企業ではない個人を信用して仕事を依頼することは、これまでの日本の商習慣上ほとんどなかったし、取引を開始するには与信、稟議、契約など社内の煩雑な工程で発注までに普通に1~2カ月かかっていました。しかし、通信インフラの発達でデータをカジュアルにやり取りできるようになった今、そのような工程で時間をかける必要もない。個人の実績もネット上で蓄積していくので、それを個人の与信として活かすことができるのです。こうした状況から考えてクラウドソーシングというビジネスは大きな意義があると考え、起業しました」と語る。

15分で発注先が見つかる。100万人の知恵を集められる可能性がある

例えば「急な仕事で明日までにコーディング作業を終えたい」という時に、クラウドソーシングで募集をかければ15分で依頼先が見つかることもある。企業側のメリットは「コストダウン」と「オープンイノベーション」だ。同じ仕事でも個人の方がコストを低減できたり、時間短縮できたりする可能性が高い。取引実績がない場合、クォリティ面の不安があるがクラウドソーシングではそれも解消した。「グルメサイトのお店の評価と同じように、クライアント評価を5段階にして信用度を可視化しました。結果、個人に頼む場合でも質が高い状態で、時間と費用が抑えられます」と吉田社長。

もう一つの「オープンイノベーション」は、社外に課題をオープンにしてアイデアや技術を集め、組み合わせることで革新的なサービス開発につなげる方法のこと。例えばある商品のリニューアルにあたってそのキャッチフレーズを予算10万円で募集したところ、2週間で4900点集まった。「話題はツイッターやフェイスブックでも拡散されて、この募集自体が販促キャンペーンのような形になりました。個人×インターネットで社会が再編されていく今、オープンイノベーションは21世紀的なビジネスや経済圏にますます有効となるはずです」(吉田社長)。

世界100カ国以上で個人が登録、福利厚生やボーナス制度もあり

クラウドワークスの個人会員は世界100カ国以上にいる。例えばもともと国内で働いていたが、夫の海外赴任を機に仕事を離れざるを得なくなった人たち。ク ラウドソーシングの仕組みにより、今では時間と場所にとらわれずにデータ入力や事務、デザインなどの職で働けるようになった。「稼げる」ことももう一つの メリットだ。中にはクラウドワークスのサービスだけで年収2400万円を稼ぐ翻訳家もいるという。年齢も問わない。最高齢で85歳の登録があり、実際に 70歳代で仕事をバリバリこなす人もいる。会員のプロフィールを見ると9割以上が個人事業主で平均年齢は37歳、人口分布はほぼ日本の都道府県別の人口の 比率とリンクしており、つまり地域格差がない。個人の場合、教育制度や社会保障制度の面で正社員と差があるが、クラウドワークスではこの部分でも対策を講 じる。「保険についてはライフネット生命と組んで就業不能保険を正社員と同条件で加入できるようにし、3カ月間一定要件を満たせば福利厚生制度も利用でき るようにしました。2016年5月には仕事実績に応じて3カ月で最大10万円のボーナスを支給する『クラウドワーカーボーナス』制度も開始しました」と吉 田社長は胸を張る。

3ヶ月の仕事実績によりボーナスが支給される

副業OK、リモートワークOKの「ハタカク!」をスタート

自社の組織では「働き方革命」を自ら実践・研究するための新人事制度「ハタカク!」を2016年7月からスタートした。その第一弾として全従業員を対象にリモートワーク・副業自由化を導入している。リモートワークについてはエンジニアがコードを書く時などに集中できた方がいいという意見もあり先行して4月から導入、一定の成果を得て全社に導入した。

副業については「1日5時間以上は許可制ですが、エンジニアが自社のクラウドソーシングを使ってアプリ開発で収入を得るといったことは全く問題ありません。サービスの検証・改善につなげられますし、社外のコミュニティに関わることで、よりスキルや経験の幅を広げることをむしろ奨励しています」と吉田社長。

リモートワークについては週3回までで、いざという時に会社に戻れるよう通勤6時間以内の場所にいることを条件としている。「育児中の社員にとっては、両立した働き方ができる仕組みです。不安な部分もありますが、この新制度も経営目標も自分たちで決めたことなのでやり遂げられると信じています」(吉田社長)

女性の働く機会の創出や地域格差の解消にも貢献

クラウドワークスでは、Facebookの「いいね!」のように、気軽に相手にお礼を言うことができる「ありがとうボタン」を導入している。契約がスムーズに進んだ時、納期どおりに成果物を納品してもらった時、検収が終わって無事に契約が完了した時などに押されることが多い。本社エントランスのモニターには「ありがとう」の数がタイムリーに表示される。

"「働く」を通して人々に笑顔を"がクラウドワークスのミッション。「四大卒の優秀な女性社員でも、子育てを機に一度ドロップアウトすると正社員で社会復帰するのは難しいのが現状です。しかし、グローバルで見れば2~3年のブランクで復職なんて珍しくない話です。要は出産、子育て、介護、病気など人生のライフイベントに合わせた多様な働き方を選べないのが日本。これは本当にナンセンスです」と吉田社長は語気を強める。クラウドソーシングはこうした「負」の解消に貢献するほか、地域格差の解消にも一役買う。例えば2016年4月にはクラウドソーシングで受注する仕事の品質管理とクラウドワーカー育成を担う「クラウドディレクター」体制の全国展開を開始、長野県塩尻市と広島市で運用を開始した。「地域の人々が仕事を得て、継続的に収入を得ることができる。我々が目指すのは"結果を出す地方創生"です」と吉田社長。「これからも誰もが自分が納得できる働き方、笑顔になる働き方を創出していきたい」と語る吉田社長の「働き方革命」はこれからが本番だ。

プロフィール

吉田 浩一郎氏
株式会社クラウドワークス
代表取締役社長 兼 CEO
略歴:
1999年3月  東京学芸大学 卒業
1999年4月  パイオニア(株) 入社
2001年1月  リード エグジビション ジャパン(株)に転職
2006年2月  ドリコム執行役員として東証マザーズ上場を経験
2007年10月 (株)ZOOEE(ゾーイ)」創業
海外事業を経験する中で時間や場所にとらわれない働き方に注目
2011年11月 (株)クラウドワークス 創業
2012年3月  日本最大級のクラウドソーシング「クラウドワークス」を開始
2014年12月  東証マザーズ上場
2015年1月  第1回「日本ベンチャー大賞」審査委員会特別賞受賞
2015年3月  新経済連盟 理事に就任