Column


再雇用社員は水曜日を休日に。
年収も130%にUPした理由

「労使プロジェクト」であるべき労働条件を議論

「ブレンディ®」「マキシム®」などのブランドで知られるコーヒー大手の味の素AGFは、2018年7月、60~65歳の再雇用社員の給与体系を見直し、年収を3割増やすと同時に、休日を週休2日→3日とした。シニア社員の待遇を改善し活性化につなげると同時に、若手へのノウハウ伝承などの効果も見込む。改定の背景などを人事部人事グループ長の萩野武史氏はこう説明する。

「シニアと女性の活躍がカギ」と萩野氏

「2017年度から始まる中期3カ年計画の立案に当たり、経営が目指す『社員もお客様も幸せになれる会社の実現』に向け、総合的労働条件のあるべき姿を検討する労使プロジェクトを立ち上げました。その中心的テーマの1つが『再雇用制度』の見直しでした。当社ではミドル層の人数が薄いこともあり、シニアと女性の活躍が大きなカギと考えています」。

今回の改定で目指したのは「再雇用社員がそれぞれの自己実現を成し遂げながら、会社の成果を生み出せる制度」。これに対して現状では「再雇用社員への期待役割が不明確」「定年前と同じ労働時間、労働日数でありながら賃金は4~7割」「業務、勤務地域を選びたい」「再雇用終了後への備え不足」といった声が挙がっていた。
「改定ではこれらの意見を踏まえて自己実現のための時間をきっちり提供すること、再雇用社員の役割、勤務、賃金を改めて設定して、きちんと意欲をもって働いてもらえる状態にしようということで制度の具体化に取り組みました」(萩野氏)。

年間休日を121→156日、年収は130%に

改定の柱は大きく2つで1つが正規社員の定年日の変更、もう1つが再雇用社員の働き方と給与の改定である。改定前は60歳に達した月の末日が定年日だったが、改定後は誕生日以降、最初の6月30日とした。6月生まれの人以外は定年が数カ月伸びる形となる。
「会社の定期異動が7月1日のため、それに合わせることで再雇用社員を再配置して役割を変えたり、勤務地の希望があればそれに応じやすいタイミングとしました」(萩野氏)。

働き方と給与で注目すべきは、年間の休日数でそれまでの121日を156日とし、年間所定労働時間を1870時間から1600時間と減らしたことだ。土日に加え水曜日も定休となる。次に勤務地は従来全国勤務が基本だったが、改定後は地域を選択でき、希望の場所で働ける制度設計とした。給与については正規社員の労働単価をもとに給与水準を再設定し、賞与を含めて年収レベルで従来の約130%とした。
「給与について一番意識したのは同一労働同一賃金といえるレベルまでやろうということです。時間当たりの労働の単価を正規社員と同水準にしたことで、『一般社員と同じ期待役割がある』というメッセージを込めたつもりです。結果的に休みは増えたけど年収は上がる形になっています」(萩野氏)。
現在対象となる社員は50人を超えるほどだが、人件費が拡大することは確かだ。経営の「本気」にシニア社員がどれだけこたえてくれるのか、検証はまだこれからだ。

 

期待するのは安定した仕事ぶりとマネジメント力

「シニアに期待するのは“安定感”」と栁沢氏

シニア社員は個々が自立した働き方ができるため、会社として期待するのは、仕事を安心してまかせられ成果を出してくれるという“安定感”だ。
「マネジメント側にとって仕事をまかせられる部下が増えるのは願ってもないことです。そういう人が増えれば生産性が上がる可能性が高まります。また、自立して生きがいをもって働いて、後輩を育てるシニアを見て、下の年代も『ああいうシニアになりたいな』と思ってもらえれば、組織に好循環が生まれます」と人事部長の栁沢隆氏は語る。

シニア社員は各部門で活躍するが、例えば人事部のある再雇用社員はコーヒーに関する知識などをテストする「コーヒー検定」の仕組みを立ち上げて、全社各部門を巻き込みながら運用する業務を担当する。このように各自が新しいテーマをもってその分野について牽引する役割をもてるような工夫も行っている。グループの生産会社に出向する年配の技術者の場合は、出向先のプロパーの社員に焙煎や作業改善などものづくりの知見を伝承し、生産性向上のしくみづくりの方法論などを伝授する役割を果たしている。
「これから若手のマネージャーが増えていったときに、豊かなマネジメント経験をもとに彼ら彼女らをサポートしてあげる存在としての期待は大ですね」(萩野氏)。

 

多様化するワークスタイル、問われるマネジメント力

7月の改定からまだ日が浅いが、少しずつ変化も現れているようだ。
「『地域が選べます』となったときに自宅のそばか、現在の住まいか、皆さんすごく悩まれます。最終的に本人に選んでもらいますが、『今の仕事が好きなんだ』ということで単身赴任のまま仕事を継続したりするケースも実は少なくないですね。大事なのはやらされ感ではなく自ら判断して納得して働いてもらえる形になったことです」(萩野氏)。
水曜日が休みという点については現場でもまだ戸惑いがあり、試行錯誤しながら運用している状況だ。

「『水曜日休んじゃっていいのかな』という発言もありますし、本人としてもなかなかペースがつかめない状態のようです。周りも『うっかり水曜日に会議入れちゃいました』とか。ただ、いいことは“この日はこの人は出社しない”とか、“この人は時短勤務”といった制約条件がある人が職場に存在することが当たり前になっていくので、それに自然に慣れていくことができる点ですね。それを前提に上司は組織をどうマネジメントし、成果を上げていくかを考えていかなければなりません。シニアのなかには『水曜日は休みになるけど、俺は今まで以上のことをやりたいんだ』と言ってくれる社員もいますから、まさにそうした人材の能力をいかに引き出すことができるかが問われていくと思います」(栁沢氏)。

 

65歳までに自分を振り返り、残りの35年の生き方を考える

社内のカフェスペースにて

人生100年時代の生きがいについての両氏の考えを聞いた。
「働いている間はそこできちんと役割があることが、生きがいや働き方に直結すると思います。それが年齢を重ねていったときに会社だけではなくて、家庭や地域や社会での役割、そこでどう貢献できるのかといった意識も生まれてくるのかなと思います。それだけに再雇用の期間にその準備ができて、再雇用が終わっても生きがいをもって生活を送れるようになるとすごくいいなと思います」と萩野氏。一方、栁沢氏は次のように語る。

「現状だと65歳で再雇用が終了します。仮に健康だとしてそこからさらに人生35年が残っています。つまり会社に入って辞めるまでに近い時間があります。自分はどちらかというと若いころは休み返上で働いても苦ではなかったし、極論すればほかのことはみんな犠牲にしても仕事に没頭してきました。しかし、定年後に会社という看板を下ろした後、『自分に何が残るの?』という部分では少し焦りもあります。働き方改革や今回の再雇用制度の改定では『短時間勤務で生産性を向上する』という方向にシフトしていますから、そこで得た時間をどう使うかを考え直すいい機会だととらえています。人間歳を取ると自分が培ってきた枠の中から飛び出すのがおっくうになりますが、改めて地域や趣味など新たなコミュニティに参加してみようかなと考えています」(栁沢氏)。
「いつでも、ふぅ。AGF」をコーポレートスローガンに掲げる味の素AGF。お客様に「ココロ」と「カラダ」の健康を届けるために、まず自分たちがココロのゆとりをもちつつ、新しい働き方を実践し、模索する日々が続く。

 


プロフィール
味の素AGF株式会社
執行役員 人事部長
栁沢 隆氏

略歴:
1961年 東京都生まれ
1984年 学習院大学卒業。味の素ゼネラルフーヅ株式会社(現:味の素AGF株式会社)入社、営業、事業部、人事部などの経験を経て
2017年 経営企画部長
2018年 より執行役員人事部長。現在に至る。

味の素AGF株式会社
人事部 人事グループ長
萩野武史氏

略歴:
1978年 三重県生まれ
2002年 名古屋大学大学院修了。味の素ゼネラルフーヅ株式会社(現:味の素AGF株式会社)入社、工場、研究所、生産統轄部などの経験を経て
2014年 生産統轄部生産企画グループ長
2015年 人事総務部(現:人事部)人事グループ長。現在に至る。

2018年10月01日