人生100年時代の働き方Cook Japan株式会社 代表取締役 矢込和彦氏

2013年に68歳定年制を導入。将来の定年制廃止も視野に自由な働き方を志向

古き良き日本の文化を残す非上場の「グローバル企業」

Cook Japanは米国Cook Medical社の日本法人として2004年に設立、2008年から国内での本格的な営業を開始し、今年で11年目を迎える。Cook Medical社は体にメスを入れずに患者の負担を減らす、いわゆる"低侵襲"の治療に使われるカテーテルや内視鏡関連の医療機器などを主に取り扱う。全世界135カ国に約1万6,000種類の製品を供給しており、売上高は約2,200億円に達する。創業時から「利益追求より患者様第一」を経営理念としており、M&Aはほとんど行わず、ロングスパンで地域社会や人への貢献を目指す。このため従業員が1万名を超えた今も非上場を貫いている。

item_100years_09-2_09_01.jpg米国インディアナ州に本拠を置くCook Medical社

Cook Japanは国内の医療機関への販売が主たる事業で229名(2017年末現在)の従業員の約半数が営業、残りは政府の販売承認を得るための治験や申請業務を管理する業務、倉庫業務、お客様からのオーダーに対応する業務、経理、人事などの本部業務などに分かれる。
ここまで即戦力となる経験者中心の採用を行ってきており、全社の平均年齢は41歳。30代~50代の社員が中心で60代も3~4名在籍する。
「外資系企業というとドラマの『ハゲタカ』ではないですが、どうしてもドライなイメージをもたれやすい。しかし、Cook社はむしろその逆で古き良き日本の文化を残しています。社員は会社を1つの心の拠り所とし、会社もそのぶんしっかりと社員をケアする。『人がすべて』というアメリカでも珍しい会社です」と代表取締役の矢込和彦氏は笑顔で語る。

2013年に定年を延長。一般社員と同一の賃金体系を維持

item_100years_09-2_09_02.jpg矢込社長

Cook Japanは2013年、それまでの63歳から68歳に定年を延長した。同社の場合、多くの企業が採用する役職定年制度や再雇用制度はなく、68歳の定年まで同一の賃金体系が適用される。延長の理由について矢込氏はこう説明する。
「すでに年金の支給開始年齢が65歳に引き上げられて移行段階に入っていますが、おそらくこれは65歳で止まることはないでしょう。年金がどんどん遠ざかって空白期間が現実になりつつあります。会社としてはそこの不安を取り除くことが使命ですし、従業員には安心して最後まで精いっぱい頑張ってもらいたい。改定に踏み切ったのはその思いひとつからです」

定年年齢の引き上げにより人件費増が予測されるが、賃金のシミュレーションなどは一切行わずに導入を決定した。
「これも非上場企業だからこそできることだと思います。私たちは目先の損得勘定だけでは物事を判断しません。あくまで『人がすべて』なのです」と矢込氏。
もちろん一般社員と評価体系が同じということは、パフォーマンスが厳しければ当然評価も下がることを意味する。年齢、性別に拠らず純粋にパフォーマンスで評価するという点でCook Japanの姿勢は一貫している。

営業のプロ、保険適用申請のプロ、雰囲気作りのプロなど意気盛んなシニア

item_100years_09-2_09_03.jpg東京都中野のオフィスにはカフェテリア形式のコミュニケーションスペースも

「シニアに期待したいのはその経験からくる引き出しの多さ。同じ状況にいても一歩ひいて物事をとらえ、『こういう考え方もあるよ』といったアドバイス、諭しの部分で組織を助けてもらいたいと考えています」(矢込氏)
制度改定前ならば定年にさしかかる社員が3名在籍する。それぞれの分野で毎年確かな業績を残しており、そろって意気盛んだ。
「1人は経営層に近い存在で医療業界各分野の重鎮ドクターと30年来の付き合いがあって『COOKの●●さんには若い頃よく世話になってね、あの人がそういうならしょうがないね』と言ってもらえるような関係性を築いている人です。もう1人は中間管理職で医療機器の保険適用申請に関して、厚生労働省との交渉を重ねてきた人。スムーズに保険償還を取得するノウハウのかたまりのようなハイスキル人材です。3人目は物流部門のスタッフで出荷業務に携わる一般社員ですが、長く勤務するうちにみんなのお母さん役、ムードメーカーとして慕われる存在となっている60代の女性です。現場で冗談を言ったり、みんなを励ましてくれたりしながら非常にいい雰囲気を作ってくれる、かけがえのない存在ですね」(矢込氏)
それぞれが60代ならではの価値を各持ち場で発揮し、輝く存在だ。

近い将来、定年制廃止を検討、より働き方の自由度を高める

Cook Japanでは近い将来、正社員の定年を廃止することも視野に入れている。これには年金支給対応の意味とより働き方の自由度を高めたいという意図がある。
「一般的には"定年をなくす=高い給与の人が辞めずに居残っている"というようなイメージがあるかと思います。実は個人的には逆の見方をしていまして、定年があるからそこまで会社にいないと中途半端でやり切った感がなくなるのではないかと。そうではなくて自分はもう十分にやり切ったし、経済的にもなんとかなるし、残りの時間は自分の趣味の時間に充てたいと思ったら、その時点で定年にしてあげてもいいんじゃないかと思います。定年制を廃止することでその自由度が高められると考えています」(矢込氏)

65歳定年の場合、63歳で第二の人生に移行したいと思っても、そこでリタイヤすると満期の退職金がもらえないなどの縛りがあって65歳まで働かざるを得ない。本当に働く自由度を高めるのであれば、人それぞれが自分のライフプランに沿って辞めるタイミングを決めればいいというのが矢込社長の主張だ。
「もちろん、まだまだ仕事で貢献できるし、生き生き仕事人生を続けたい人は70歳まで頑張ればいい。退職金制度についても当社は確定拠出年金制度で運用していますので特に何歳までいないと不利ということもありません。実際、アメリカではもともと定年はないですし、65歳で辞める人、70歳で辞める人とさまざまです」(矢込氏)

棺桶に入るときに「人生楽しかったな」と思える人生を

item_100years_09-2_09_04.jpg矢込社長

人生100年時代を迎えて何を軸として生きていくべきかについて矢込氏に聞いた。
「何が生きがいかというのはその人の価値観と生き方次第です。やはり仕事が人生という方もいるでしょうし、趣味を生かして第二の人生を送りたいとかお金は貯まったから家族と旅行したり、楽しい時間を共有したりすることを生きがいにという人もいるでしょう。個人的には最後に自分が棺桶に入るとき、『ああ、ここまでやってきてよかったな、人生楽しかったな』と思えるような過ごし方が生きがいに繋がるのではないかと思います」
会社としては少なくとも生活の基礎になる経済的な不安については解消しておきたいという点で定年延長は必然だったと矢込氏は説明する。
「蓄えたものがどんどん減るのではやりがいどころではないですから。そこは企業として適正な範囲でサポートしていきたい。そのうえで何をもって生きがいとするかは、一人ひとりの価値観と生き方の問題だと思います」
米国本社では親子3代に渡って働いているケースもあるというCook Medical社。人を軸に据えた新しいグローバル企業が、今後あるべき人材活用の一つの方向性を示唆している。

プロフィール

Cook Japan株式会社
代表取締役
矢込和彦氏

略歴:
1965年 静岡県生まれ
1998年 慶應義塾大学卒業
2001年 会計事務所、外資系企業日本法人を経て、シールドエアージャパン株式会社に入社
2005年 同社代表取締役に
2009年 Cook Japan株式会社経営管理本部長として着任
2010年 代表取締役に就任。現在に至る