人生100年時代の働き方ライフネット生命保険株式会社 コーポレート本部 人事総務部長 岩田佑介氏

開業時より定年も役職定年もなし。“年齢フリー”で、学び、挑戦する風土

個人が能力を最大限発揮するための「年齢フリー」という考え方

60歳だった出口治明氏は「正直に経営し、わかりやすく、安くて便利な商品・サービスの提供を追求する」という理念を掲げて、当時30代の岩瀬大輔とともにライフネット生命を設立した。インターネットを主な販売チャネルとするベンチャーとして2008年に営業を開始、2018年には開業10周年を迎えた。WebマーケティングやWebサイトを通じた保険販売がメインで、いわゆる営業職はいない。約150人の社員の仕事は、商品開発、マーケティング、コールセンター、システム、バックオフィスの事務などが中心だ。

ライフネット生命では開業当時から定年制は存在しない。人事総務部長の岩田佑介氏がその理由を説明する。
「本来、仕事の実力と年齢は関係ないはずなのに、定年制のように年齢が高いことだけを理由に働けなくなる制度が、なぜ我が国の雇用慣例になっているのか、という点に創業者の出口は強い問題意識を持っていました。『定年制や年功序列のような日本の雇用慣例にとらわれるのではなく、1人ひとりが最大限能力を発揮できる環境づくりを志向しよう』という発想が人事制度の起点となっています。ですから、一般的な事例として挙げられるような『シニア社員活用のために定年制を廃止しよう、定年延長をしよう』という、特定の年齢層の方を積極的に活用・支援しようとする考えではありません。1人ひとりの価値観やキャリア志向、能力に徹底的に向き合いながら、やる気があって優秀な人材は、年齢にかかわらず採用、登用、抜擢していくという『年齢フリー』という考え方が制度の核にあります。これは、決して『シニアに優しい会社』という意味ではなく、『究極の実力主義』の表れです」。

従来のシニア観を覆す圧倒的な意欲・体力・パフォーマンス

年齢にかかわりなく、フラットで自由闊達なコミュニケーション

実際に社員就業規則にも「一律的な定年を定めない」と明記されており、「役職定年(一定年齢に達した段階で、役職をポストオフする制度)」という考え方も存在しない。「年齢」は人事評価・処遇を決めるファクターにならず、基本的にはいくつになっても同じ基準が適用される。中途採用が中心で、社員の平均年齢は約39歳、現在約10人の60代社員が活躍中だ。
「私も中途入社ですがこの会社に入ってびっくりしたのはシニアの方のパフォーマンスの高さです。『シニアの人ってこんな感じだろう』というそれまでのシニア観が完全に覆され、創業者の出口の見立ては間違っていなかったなと感嘆しています」(岩田氏)。
シニア社員は、仕事への意欲や体力面でも衰えを感じさせない。会社の部活動にも積極的に参加し、運動系の部の部長を務める60代のシニア社員は、20代・30代の社員と一緒に地域のスポーツ大会に出場し、60代のみが部門優勝という結果となった。
「究極の実力主義を志向していますから、新社長の森も34歳ですし、若い役職者が年上の部下を持つことは珍しくありません。ただし、当社では役職は単なる『機能』に過ぎないという考えであり、役職者の方が『偉い』という文化ではありません。ですので、シニア社員が役職を離れた場合でも、モチベーションを下げることなく、"自らが持つ専門性・技能を後輩に伝承する" ことや"豊富な人脈とコミュニケーション能力を活かして対外的な営業・折衝を推進する"といった形で各自が新たなミッションを掲げ、高いパフォーマンスを発揮しています」(岩田氏)。

年齢や属性に拠らず「マニフェスト」が常に判断基準

マニフェストについて説明する岩田部長

前職では人事コンサルタントをしていたという岩田氏。当時のクライアント企業では、シニアが過去の成功体験を捨てきれずに、『俺たちの時代はこうだった』と若手に一方的に意見する場面も散見したと語る。
「当社はむしろシニア社員が若手に『ブロックチェーンの動向はこうだ』とか『AIで業界はこう変わる』といった最新動向の内容を若手にレクチャーするシーンなどがよく見られます。当社のシニア社員は過去の成功体験について、unlearn(自発的に忘れること)&relearn(学び直すこと)に抵抗がない。議論するときも『最近の若い人は未熟だから、年長者の自分の方が正しい』と言った先入観を持つことは無く、年齢にかかわらずに、お互いを尊重しあいながら、本当に良い会社にするためにとか、良いサービスを創るためにという議論ができるのが当社の強みです」(岩田氏)。

フラットな風土が定着している背景には、社員の同社マニフェストへの共感がある。「正直に わかりやすく、安くて、便利に。」を原点に、業界の慣習にとらわれず、常に「お客さまに対してどうあるべきなのか」を年齢や属性に関係なく追い求める。このマニフェストが常に判断基準になるため、社内では年齢差を気にせず建設的な議論が日々展開されている。

シニアの豊富な知見と若手のアイデアが一体化した風土

千代田区麹町にある本社オフィス

シニア社員特有の業務等はなく、事業部門長、数理・保険商品のスペシャリスト、各部署の業務担当者など、シニア社員の活躍分野はさまざまだ。
「生命保険は顧客保護の観点からさまざまな法的規制があります。その点で、過去の事案・歴史を熟知していないと、新たなイノベーションは起こせません。突飛なアイデアを思い付いたとしても、それが過去に、業界の中でどのようにトライ&エラーが繰り返されてきて、どの程度実現性があるのか、どうしたらできるのかという知見を若手社員はシニア社員から学ぶ必要があります」と岩田氏。2017年の4月には新卒の社員が2名入社したが、入社早々そうしたナレッジに触れたいと、業界の生き字引的存在のシニア社員に「勉強会を開いてください」と自主的に依頼。シニア社員側も「持てるものはすべて後進に伝えたい」と熱い思いで熱弁をふるった。このようにライフネット生命ではマニフェストに共感したあらゆる世代の人材が溶け合い、生命保険業界をあるべき姿へと変えていく方向に全員の意識が向かっている。「一言でいうとインクルージョン(Inclusion=含有、包含、一体性)がライフネット生命のキーワードとしてふさわしいのではないかと思います」と岩田氏は説明する。

"ライフ・オーナーシップ"を持って主体的に生きる

人生100年時代と言われる中で岩田氏はシニアの生きがいについて次のように語る。「厚生労働省は昨今、キャリアは会社が用意するものではなく、個々が自律的に築くものという"キャリア・オーナーシップ"の考え方を提唱しています。これに対して、僕たちは生きること自体に主体的に取り組んでほしいという意味で"ライフ・オーナーシップ"という考え方を持っていて、年齢にかかわらず社員が人生においてやりたいこと、実現したいこと(will)を最大限尊重し、応援したいと考えています」。

岩田氏は個人的な意見として、自分の人生を主体的に生きるためには「常に挑戦し、学び続ける姿勢」を持ち続けることが大事だと語る。実際にそうした人材がライフネット生命には多く、その中でもシニア社員が若手社員の良きロールモデルとして輝きを放っている。
「今後もインターネットやテクノロジーの力を使って生命保険の価値をお客さまに届けていくという経営方針は変わりません。その原動力として本当に力のある方々にジョインしていただき、年齢にかかわりなく挑戦し、学び続ける姿勢で長く活躍いただける環境を引き続き作っていくのが人事の使命です」と岩田氏は結んだ。

プロフィール

ライフネット生命保険株式会社
コーポレート本部 人事総務部長
岩田佑介氏

略歴:
1987年 兵庫県西宮市生まれ
2010年 神戸大学経済学部卒業。株式会社パソナ入社。
2016年 ライフネット生命保険株式会社入社。
2018年 コーポレート本部 人事総務部長就任。現在に至る。