Column

世界が認めた加工技術をシニアが支える。
年代問わず働く喜びこそ人の原動力

70代の新入社員もあたり前。59歳は“若手”

「土曜・日曜はわしらのウィークデイ。意欲のある人求めます。男女問わず。ただし年齢制限あり。60歳以上の方。」2001年、加藤製作所が出した地方紙の折込広告が話題を呼んだ。同社は自動車や家電向けなどのプレス板金部品の製造・販売が主力事業。2008年のリーマンショックまでは増産体制が続いた。社員の負荷を増やさず生産量を拡大する策として、加藤景司社長はシニア世代に着目。土日祝日の門戸を開くことで、365日稼働体制を実現した。

「最初こそ土日勤務でしたが、現場の要請が強くすぐに平日も、という話になりました。当時は60歳から年金が支給されましたから、年金の減額対象とならないよう週3.5日勤務を上限にワークシェアリングしていました。しかし、いまは60歳を超えても働かないと生活が難しい。ほとんどがフルタイム希望で正社員と変わりません」と加藤社長。2018年の1~2月も69歳男性、71歳男性、70歳男性、59歳男性、62歳女性、73歳女性らが入社しており、59歳は「若手」の部類。従業員111人のうち60歳以上の「キャリア社員」が59名を占める。同社の定年は60歳で、働きたい人は無条件で再雇用される。キャリア社員は時給制だが能力によって待遇には差を付けている。再雇用の場合、ハイスキル人材が多いため時給も公募のキャリア社員の2倍超となることもある。

「ここ中津川市は65歳以上人口が31.4%、全国平均よりも高齢化が進んでいます。高卒で就職する人たちの多くは名古屋などに出ていきます。今後少子化で人手不足に拍車がかかるなか、中小企業の場合はAIや外国人活用よりも高齢者活用が有効だと思います。若手と高齢者がタッグを組んだ“ファミリーカンパニー”は、これからの地方の中小企業のあり方の一つだと考えています」(加藤社長)。

シニアが生き生きと働くための3つの労働条件

「シニア活用を開始した当初はシニアも現場の若手も馴れがなかったので、世代間のギャップや仕事の飲み込みのスピードの違いで摩擦もありました。しかし、現場長や若手の日々のちょっとした工夫により、シニアが働きやすい職場づくりを少しずつ進めてきました」(加藤社長)。

加藤社長によれば高齢者が働きやすい労働条件は3つ。1つは「見やすい、聞き取りやすい」。照明を明るくしたり、文字を大きくしたり、ランプやブザーを付けたりするなど五感の便を良くした。2つ目は「疲れにくい」。暑さ寒さの温度調節や適度な休憩、作業のローテーションなど。3つ目は「余分な力が要らない」。抱えたり、伸びたり、縮んだりなど体に余分な力がかからないよう作業動作に配慮し、部品を取りやすい位置、手が届く範囲に配置するなど、現場からの改善提案をその都度形にしてきた。努力の甲斐あって、現在キャリア社員が活躍するポジションは製造部門に限らず、営業、総務、開発、業務、品質管理などほぼすべての部門に及ぶ。基本的にはシニアと若手がペアを組むか、若手にシニアが数人付くグループ編成となっており、シニアのために改めて用意した組織はない。

「例えばNC工作機械のプログラミングなどは若手の得意分野ですが、加工後のバリを取って仕上げる作業などは手慣れたベテランがやるほうが効率が良い。だからリーダーは作業内容とその付加価値を考慮しながら、仕事の配分を考える必要があります」(加藤社長)。

 

世界が認めた「深絞り加工」とそれを支えるシニア

プレス板金部品の製造過程では「抜き加工」「絞り加工」「曲げ加工」などさまざまな加工技術を駆使する。なかでも加藤製作所の最大の強みは「深絞り加工」と呼ばれる特殊加工技術。1枚の鉄板を使って家電用部品から航空機の部品まで多様な製品を成形できる。これにより工程短縮や金型費削減を実現、航空機でも従来に比べて大幅な材料費と加工費が削減できることから米国のボーイング787から同社の部品が採用された。

「直近ではある大手化粧品メーカーの容器のオファーをいただきました。仕上がりには繊細さが要求されますが、そこでキャリア社員の長年の経験が活きます。『深絞り加工』を軸に今後もさまざまな用途を開拓できると考えています。当社の今年のスローガンは『強みに特化する』。規模や資本など弱いところをリカバリーするよりも、強いところをさらに強くする。その強みが『深絞り加工』であり、それを支える『キャリア社員』です」(加藤社長)。
技術は人に付いている。キーテクノロジーの「深絞り加工」には専用設備ももちろん必要だが、その調整や仕上げには人の暗黙知の部分が不可欠だ。
「めざすのはグローバルニッチトップ。一寸法師の針のように得意分野を研ぎ澄まして戦う。それによって小が大を制すことも可能になります」(加藤社長)。

 

もと和菓子職人が国産ジェット旅客機の部品作り

2015年11月、国産では初めて飛行に成功したジェット旅客機「MRJ(三菱リージョナルジェット)」。名古屋空港での初飛行の日、加藤製作所のテレビの前ではMRJの部品も手掛ける「航空機チーム」のメンバーが固唾をのんで試験飛行を見守っていた。当時のメンバー7人のうち5人は60歳以上のキャリア社員。遠藤久さんはもともと栗きんとんなどをつくる和菓子職人で、その手先の器用さを部品作りに活かす。ほかにも自動車の設計をしていた人など多才なメンバーが揃っている。加藤社長もこのプロジェクトに参加できたことをありがたく感じた、と語る。
「自分たちのつくった部品を載せた国産旅客機が大空に飛び立った瞬間、感動で胸が震えましたね。まさに『下町ロケット』の世界です。MRJが世界の空を飛ぶことは、中小企業のわれわれにとっても誇りになる。ものづくりをしている人たちのやりがいにもつながります。働いて何かに貢献できることはお金以上の喜びがある。そういう喜びを提供できるような会社経営をめざしたい」(加藤社長)。

 

「働く」は「傍を楽にする」

キャリア社員として入社した人の多くが働き始めたとたんに若返る、と加藤社長は語る。
「とくに女性は着る服の色が明るい色に変わりますね。男性も人に見られていると思うと背筋も伸びますし、シャキッとします」。
人生100年時代と言われるなかで、加藤社長の考える60歳からの生きがいとは何か。
「ズバリ、働くことです。働いて自分の居場所を作る。自分の存在意義をそこに見つける。結果的に社会の役に立つ。働くこと=生きることと捉えるDNAを日本人のみなさんは持っています。だから、海外の人のように余生を遊んで暮らすということができない。『働く』は『傍を楽にする』という考え方が日本人にはあります。人の役に立つ、人の喜びを我が喜びとする。年代を問わず働くことによって人は生きる喜びを実感できる。だから、いくつになっても働くことをおすすめします」と声を弾ませた。

 

チームで品質を担保。休憩時間には孫自慢も
キャリア社員 三尾 實夫(みおじつお)さん 68歳

地元の建築会社の営業と現場監督を58歳で引退し、その後ゴルフ場勤務を経て加藤製作所に入社しました。家のローンがまだ少し残っていましたし、孫にも何かしてやりたかったので無理なく働ける道を選択しました。現在は月曜~金曜8時~17時のフルタイム勤務でたまに残業もします。業務内容としては洗面化粧台の貯蔵タンクの切断、洗浄、研磨の作業を同僚と交代で行っています。「不良品は絶対に出さない」というのがミッションですから、少しの傷も見逃さないようにします。研磨の際は湿度の微妙な変化や、洗浄液の濃度によって思った通りの仕上がりにならないこともあり、常に試行錯誤しています。
働く環境としては同年代が多く、孫自慢で盛り上がったり、有休も気兼ねなく取れますし、残業代もきちんと申請できるなど恵まれています。社員旅行で福井まで蟹を食べに行ったり、この9月には吉本新喜劇とお笑い芸人さんを呼んでのイベントもあります。何よりもありがたいのは規則正しい生活ができてボケないこと。会社から「もうダメだよ」と言われるまで頑張りますよ。

 


プロフィール
株式会社加藤製作所
代表取締役社長
加藤景司氏

略歴:
1961年 岐阜県中津川市生まれ
1983年 愛知工業大学卒業。岐阜車体工業株式会社入社
1986年 三菱電機株式会社に転職、シンガポールおよびアメリカ勤務を経験
1988年 株式会社加藤製作所入社
2002年 厚生労働省の全国高年齢者雇用開発コンテストで最優秀賞を受賞
2004年 同社4代目代表取締役社長に就任。現在に至る

2018年07月03日