人生100年時代の働き方ダイキン工業株式会社 人事本部 人事・労政・労務グループ 担当課長 藏本秀志氏/人事本部 ダイバーシティ推進グループ 担当課長 今西亜裕美氏

2025年、60歳以上の社員が1,000名 「人の無限の可能性」を活かす経営

60~64歳のアクティブシニアは457名

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空調機で世界シェアNo.1、フッ素化学分野でもトップを争い、連結売上高が2兆円を超えるダイキン工業。「競争力の源泉は『人を基軸におく経営』です」と人事・労政・労務グループの藏本秀志氏は強調する。人の無限の可能性を信じ「性善説」に立つ同社は、「何歳になっても人は成長していくもの」と捉える。現場力や実行力を重視し、「もしも一流の戦略と二流の実行力、二流の戦略と一流の実行力のどちらを目指すかと問われれば、うちは迷わず後者を取ります」と藏本氏。こうした風土にあってシニアもその持てる力を発揮できるよう、人事では環境整備に取り組んできた。1991年には60歳定年以降再雇用制度を導入し、さらに2001年に65歳まで再雇用期間を延長。シニアの職場開発のため、グループ内向けに旅行や保険などのサービスを提供するダイキン福祉サービス(株)を設立し、守衛など保安業務の社内化に取り組んだ。また、高齢者が工場のメインラインで長く働けるよう、職務の再設計や支援機器の開発、人間工学を活用した作業姿勢の見直しを大学との共同研究で行った。

2017年3月末時点の定年退職者は88.5%が再雇用となり、60~64歳で活躍するシニアの総数は457名に上る。同時点での従業員数は6,891名であり、シニア層は約7%を占める集団だけにその活性化が人事部門の大きなテーマとなっている。

「対話シート」でベテラン層の役割を明確化

現行の再雇用制度では60歳の定年退職日の6カ月前までに、現場の所属長が本人の意向を確認し、職務内容・勤務形態を提示、本人の希望があれば65歳まで再雇用する。2005年にスタートした「ベテラン層活躍推進プロジェクト」では、シニアの役割をより明確化するために「対話シート」を導入。55歳・59歳時点で上司と部下で本人の専門性や業務の希望と職場が担ってほしい役割を擦り合わせ、結果を人事が吸い上げられる仕組みとした。再雇用時の実際の勤務地は原則として定年時の職場となる。

「本人の経験・専門性をなるべく活かした仕事についてもらうため、職場を大きく変わる人もいますが、元職場で働く人が中心になります」と藏本氏。勤務形態は①フル勤務②短時間勤務(6.5時間/日)③隔日勤務④登録型(必要の都度勤務)から選択可能。現在は9割がフル勤務を選ぶ。待遇面では60歳までの年収にかかわらず勤務形態ごとに全員同額で、フル勤務の場合、公的年金を含む年収ベースで組合員の51~55歳時の70%を確保する。
「当初、賞与も一律としていましたが、より高い成果を挙げた人に報いるため『部門長からの特別賞与』の対象を60歳未満からシニアに拡大したり、通常の賞与も年間で最大40万円を加算できる制度に変更しました。ただ、人によっては年収が増えると年金が減額されてしまうため、そのあたりは制度面での課題があります」(藏本氏)

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定年後、海外拠点の重要ポジションを継続し、現地駐在する人も

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「対話シート」の導入以前は、再雇用後の運用が現場に任されていたため、本人から「何をしたらいいかわからない」「特に指示がないから自分でミッションを考えないといけない」という声もあった。シニア活用の制度設計などに取り組むダイバーシティ推進グループの今西亜裕美氏は、「例えばこれまでの経験を活かしてコンプライアンスの基盤強化など、再雇用を機に部門長から命を受けて取り組み始めた方もいます。『自分はこれで貢献しよう』というものが見出せれば、本人のモチベーションも一気に高まります」と説明する。
若いライン長にとっては元上司をマネジメントするなど難しい面もあるが、そうした明確なミッションを与えることで、周囲もシニアの存在価値を認識できる。
「会社は拡大路線を進んでおり、取り組むテーマには事欠きません。営業部門であれば現役時代に培った人脈や交渉力を活かして、引き続きお客様を担当したり、アドバイザーとして後輩にスキルを引き継いだりするミッションがあります。海外では60歳定年を迎えた後も重要ポジションを継続し、そのまま再雇用として頑張っている例もあります」(今西氏)

社史編纂のシニアスキルスペシャリストは80歳

2002年には65歳を超えても「余人に代えがたい」人材に活躍の機会を提供する「シニアスキルスペシャリスト契約社員制度」を導入。現在、65~69歳のフル勤務で働く社員が118名、70歳以上も16名在籍する。最高齢は80歳で社史の編纂作業を一般社員とともに行っている。
「シニアスキルスペシャリストは特定分野で専門性の高い知見を持っている方で、例えば新商品の開発を行う際に設計案に対して『安全性の観点からみて問題ないか』『耐久性は維持できているか』など豊富な経験に基づいたレビューを行うベテランもいます」と藏本氏。板金加工や海外での監査、生産ラインのエンジニアリング技術など熟練技術を活かし後進の指導に当たったり、米国や中国などの子会社に出張して生産ラインの溶接技術指導や品質指導を行ったりするケースがある。
「培ってきた経験を活かしてグループ会社や協力会社に貢献できることは、本人のやりがいにつながります。任されたり、頼られたりすることは人間にとって一番のモチベーションアップのもと。ですから、我々もそういうミッションをどうやって提供していけるかが重要なテーマだと考えています」(藏本氏)

4人に1人がベテランの時代。求められる次の一手

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再雇用率90%で今後も推移した場合、2025年には60歳以上の人員が1,000名を突破する。56歳以上のベテラン社員は現在13%だが、10年後の2028年には25%となり、いわば会社の中核的存在となる。経営計画の目標達成や企業競争力の向上という点で、ベテラン層の活躍推進は待ったなしの必須条件となっている。
「4人に1人が『もう歳だからのんびりいこう』という意識では会社の活力を失いかねません。本人がどれだけ高くモチベーションをもって仕事に取り組むことができるか、また周囲も実際の戦力として期待し、評価していくように考え方を転換していく必要があります」(藏本氏)。

一方で現状の再雇用制度は「全員一律年収」が基本の「勤労者福祉」「生活保障」的な色合いが強いため、今後検討を加えていく必要があると両氏は語る。
「事業環境は日々刻刻変化しています。ベテランもその経験が必ずしも生きるとは限りません。これから60代を迎えるみなさんには人として無限の可能性を追い、学び続けて、必要とされ続ける人であってほしいと考えています」(今西氏)
「一日の1/3もの時間を会社で過ごすのだから、職場でいかに生き生きとやりがいをもって活躍できるかが重要ですし、人生100年時代のこれからもベテランが輝ける場であり続けるため、会社としての環境整備を検討していきます」(藏本氏)

プロフィール

ダイキン工業株式会社
人事本部 人事・労政・労務グループ 担当課長
藏本秀志氏

略歴:
1987年 ダイキン工業株式会社入社 人事部 人事課
1992年 東京支社 総務部 労務課
2000年 ダイキンヒューマンサポート(株)出向
2009年 人事本部 人事・労政・労務グループ 担当課長
(現在に至る)

ダイキン工業株式会社
人事本部 ダイバーシティ推進グループ 担当課長
今西亜裕美氏

略歴:
1997年 ダイキン工業株式会社入社 人事部
2007年 人事本部 採用・育成グループ
2009年 人事本部 人事企画グループ
2015年 人事本部 ダイバーシティ推進グループ 担当課長
(現在に至る)