Column

生涯現役プレイヤーとしてシニアに期待する
「65歳定年制」と「アクティブ・エイジング制度」

続く労働人材不足。シニアには“戦力”として期待

大和ハウス工業は2013年、「65歳定年制」の導入に踏み切った。背景には高齢者雇用安定法への対応があるが、商業施設事業や事業施設事業が好調で中長期的に労働人材不足が続くことから、シニア人材を戦力として確保する狙いが大きい。同社は2003年に60歳定年後の「嘱託再雇用制度」を導入しているが、60歳になると年収が4~5割減少する処遇だった。明確な評価制度もなく、「頑張っても報酬が変わらない」「自分に何が期待されているのかピンとこない」といった声が多かった。人事部長の菊岡大輔氏は「定年延長と同時に処遇を改善し、評価制度も現役社員同様に適用する仕組みとすることで、“生涯現役で頑張ってもらいたい”というメッセージを伝えました」と語る。同制度導入以前は4割強が60歳で会社を去る選択をしていたが、ここ数年は9割以上が65歳まで働く道を選択している。さらに2015年には65歳定年以降の再雇用制度「アクティブ・エイジング制度」を導入、上限年齢を設けないことが新聞などでも注目された。

「2017年3月には66人が65歳定年を迎えましたが、そのうち48人が嘱託として引き続き働いています。私自身は半分も残ってくれたらいいと思っていましたが、ふたを開けてみると7割以上が残ってくれており、会社としては戦力の確保に繋がって非常に助かっています」(菊岡氏)。

コース別キャリアで期待される役割を明確化

「65歳定年制」導入後、特に役職を降りた社員から「会社の新たな期待がわかりにくい」という声が挙がっていた。そこで2014年にはシニア社員の役割を「理事コース」「メンターコース」「生涯現役コース」の3コースに分け、各人に期待される役割を明確にした。役職者は基本全員60歳で役職定年となるが、余人をもって代えがたい人材は例外的に60歳到達後もライン長(支店長、部長、室長など)の役割を担う「理事」として留まる。理事も次長課長級の「副理事」、部長職相当の「理事」、特に貢献度の高い人を「常務理事」とし、60歳以降も昇格可能な形にした。特に地方の支店長などの場合、土地勘や人脈があり、取って代わる人材が容易に見つからないケースに「理事」として引き続き手腕を発揮してもらう。メンターコースの場合は自身が培ってきた人脈、経験、知識を伝承する「シニアメンター」として主に後進の育成に取り組む。「シニアメンター」は上限をシニア社員の10%としているが、現状は推薦が多く、枠を超えている状況だ。「生涯現役コース」の社員は営業、設計、工事、アフターサービス、管理などのベテランプレイヤーとして現場の第一線で引き続き活躍する。

「現状理事が10%、メンターが15%、75%がプレイヤーという分布ですが、基本はプレイヤーとしてパフォーマンスを上げることを期待しています」と菊岡氏は語る。

 

「再配置」には細心の注意。生まれる人材の好循環

60歳からの5年間、シニア社員にモチベーション高く働いてもらう鍵は、再配置をいかに慎重かつ本人のスキルが活かせる形で行うことができるかだと菊岡氏は言う。役職定年準備段階の59歳の5月には対象者向けに「ライフ・デザイン・セミナー」を実施し、まずシニアに期待される役割や心構えを学んでもらう。シニア社員は7月には職種や勤務地の希望を記した「希望調書」を基に上長と面談、その後は人事部、事業部、事業所の間で調整の上、配属先が決定され、年内に本人へ通知される。勤務地については持ち家や家族の介護といった事情に応じて、できる限り人事も希望を優先するようにしている。ライン長を離れる社員については、元の組織への配属は原則避け、経験やシニアの持ち味が活きる部門へ再配置する。

「例えば、支社の工事部長を炎天下の現場監督に復帰させるのは現実的ではありません。そういうケースは例えば経験を活かして安全指導を行うメンターや、図面通りに現場が仕上がっているかをチェックする品質保証部などに再配置します。こういう仕事は若い社員よりも何十棟、何百棟と建物を建ててきたベテランのほうが能力を発揮できるからです」と菊岡氏。

同様に営業についても一営業マンとして家を売り歩くのではなく、例えば金融機関や税理士と長期のリレーションを構築して情報を得るような営業推進部への再配置を行う。いずれもシニアのために新設した部署や業務ではなく、よりシニアの持ち味が活かせるという判断で配置を行っている。結果的にそこにいた「現役世代」を現場の最前線に投入し、最前線の人員不足が解消されることで、人材の「好循環」が生まれつつある。

 

現役世代からの期待、意気に感じて立ちあがるシニア

実際に現場で働くシニアの反応について菊岡氏は次のように説明する。
「みなさん張り切っていますね。一番の変化は自分が“会社から必要とされている”“若い連中から頼りにされている”とシニアのみなさんが実感していることです。モチベーションは確実にアップしていると思います」。
一方、若手はシニアの定年延長などについてどう受け止めているのか。菊岡氏によればシニアが若手の仕事を奪うといった不満は全然なく、むしろ深刻な人材不足から「シニアの方が残ってくれているから何とか回っている」というのが現場の正直な感覚だと語る。
大和ハウス工業の場合、65歳定年後は公的年金に企業年金が加算されるが、企業年金があれば、生活面では困らない人が多いという。それでも働く理由は何なのか。

「まだ仕事で自己実現したいという部分に加えて、下の世代から頼りにされていることに対して意気に感じていることが大きいと思います。『もういい加減ゆっくりさせてくれよ』と冗談交じりに言う人もいますが、心中は『そこまで言ってくれるのなら何とか助けてやろう』と前向きに受け止めてくれているのだと思います」(菊岡氏)

 

永年勤続を称える文化と成果に報いる文化のハイブリッド

シニアをマネジメントする部分で難しさについても特に現場の不満は聞かないという。もともと実力主義の大和ハウス工業では、成果を残した人が早く昇格し、自分より先輩の部下がいたり、自分より年下の上司がいる状態は珍しくないという。このためシニアを戦力として活かすとことに戸惑いを感じている管理職はまずいない、と菊岡氏。一方で大和ハウス工業の文化の特徴の一つが「凡事徹底」だと強調する。人として当たり前のことは当たり前に行う。だから年長者はポジションに関係なく敬い、立てる。それを象徴するのが同社の社員バッジだ。新人はまず黒色の地に金色のロゴの刻印のバッジをもらうが、20年勤続者には「銀」、30年勤続者には「金」のバッジが表彰として贈られる。さらに65歳定年制導入時には40年表彰として本社式典で会長・社長から記念社章(プラチナバッジ)を贈ることとなった。

「長く会社で働いてくれていることを称える文化と、成果を昇格や報酬で報いる実力主義の部分とを共存させ、うまく舵取りを行うところが大和ハウス工業のマネジメントの特長です」と菊岡氏。今後の課題については、シニア社員の報酬水準が本当に現状でいいかどうかの検証が必要と語る。

「制度変更で以前よりも水準は上がりましたが、それでも年収は3~4割ダウンとなります。『生涯現役』を謳い、現役プレイヤーと同レベルの仕事、成果を求めていくにあたり、社員がどの程度満足しているかについて調査し、検証していく必要があると考えています」。
菊岡氏の言葉に、大和ハウス工業のシニア活用の本気度が表現されている。

 


プロフィール
大和ハウス工業株式会社
東京本社 人事部長
菊岡大輔氏

略歴:
1996年 大阪大学人間科学部卒業
1996年 大和ハウス工業株式会社入社
2013年 本社人事部人事グループ長

2016年 東京本社人事部次長
2018年4月1日 東京本社人事部長 (現在に至る)

2018年04月05日