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グローバル人材のリソースとしてのMBA

リクルートICIエグゼクティブ・バイス・プレジデント
立花則子


2001 年 4月 10 日

 「MBAは日本をダメにする」「MBA信仰」などなど、昨今MBAがマスコミの話題に取り上げられることが多い。MBAとはどんな人材なのか? もう一度整理しよう。MBAとはMaster of BusinessAdministrationの略であり、日本でいうところの経営学修士にあたる。日本の経営学修士とMBAは、大学院のありよう、学生プロフィール、卒業後の環境など、大きな違いがある。ひと言でいえば、ビジネススクールとは、2年の間で、若手キャリアたちをマーケティング・ファイナンス・戦略・組織などの実践的な教育を行い、経営のプロフェッショナルを短期間で育成し、実社会に還元する役割をになっているといえるだろう。
 ビジネススクールに在籍する学生は、その大半が3年から5年のビジネス経験をもち、キャリアアップを目指して、会社を退職もしくは休職して2年間の授業を受ける。スクールによるが年間授業料5万ドルと、教科書代に始まり、学生寮費を加えると日本円では700万円〜1000万円近い費用がかかる。この費用と2年間の時間、さらにオポチュニティコスト(現職にとどまった際に、将来得たであろう昇進・昇給などの機会を失うこと)を無駄と見るか、どうかは、入学前の平均年収6万7222ドルに対して、卒業後の平均年収10万6278ドルがひとつの回答になるだろう。
 日本からビジネススクールに入学する学生は、ふたつのグループに分けられる。企業から派遣されていく企業派遣組。もうひとつが企業を退職して受験する私費留学生組だ。かつては日本からの留学生の90%は企業派遣といわれていたが、ここ数年は私費留学生が増えている。また、企業派遣であっても、すべての費用+給与を支払うというフルサポート式から、学費のみ支給、費用負担はしないが休職扱いとして社籍を残す方式など、企業側の柔軟な姿勢が目立ち始めている。
 一方私費留学生はどうだろうか? ここ数年私費留学を目指す人が増えているという。「キャリアアップのため」「大企業では自分自身が伸びない」など、ビジネススクールを目指す理由はさまざまだ。貯蓄を取り崩し、親から借金をして学費を作る人も多い。彼らにとってビジネススクール進学は大きな自己投資であり、安定した生活を犠牲にするリスクを考慮した上での決断だといえるだろう。卒業後の転職を決める際に、彼らが給与とポジションを重視したとしても、投資コストの回収と考えれば、当然の流れともいえる。
 この数年で顕著なのは、日本人留学生の受け入れが減っていることにある。トップ10といわれるスクールから日本人留学生が減り、代わりにインド・中国を中心とするアジアからの受け入れが増えている。学生によれば、「日本人MBAを送り返しても一向に日本のビジネスは変わらないから、日本人を受け入れても無駄だと学校が判断している」「アメリカにとっての日本の位置付けが軽んじられている証拠だ」というのが理由だと推測されている。事実はどうであれ、以前であればアメリカのトップ10スクールに入っていたであろう学生が、それ以下のスクール、もしくはイギリスをはじめとするヨーロッパのスクールに入ることになり、日本人MBAは分散化し始めている。
 これに対して従来MBAを積極的に採用してきた企業は、対象校を広げ始めている。またヨーロッパは無論だが日本のビジネススクールも視野に入れた採用計画を立て始めている。外資系金融機関やコンサルティングファームという従来からの企業に加え、バイリンガル採用を骨格とする外資系企業の採用増、企業変革を図る日本企業など、MBAを採用しようとする企業数は増加傾向にあり、MBAをめぐる採用競争は激しくなると考えられる。
 MBA学生と出会い、彼らの卒業後のキャリアカウンセリングをしていて気づかされることがある。多くの記事やデータにもあるように、彼らは転職先を選ぶひとつの基準として高給を求めるが、決してそれだけを重視しているのではないということだ。企業派遣・私費を問わず、1対1で1時間近くも話すうちに彼らが決まって口にするのは、卒業後の仕事の中身であり、仕事を通じて日本経済や日本企業をかえていくことができるかにある。人事制度の改定、柔軟な組織体系、決済権限の委譲、プロジェクト制度などなど、彼らが変えたい"日本の仕組み"はさまざまだが、これらは取りもなおさず、彼らが前職をやめてでもビジネススクールに行こうと決断するにいたった理由でもあるだろう。
 投資費用の回収を第一に考え高給を追い求めるMBA、日本企業を変革しようとするMBA。いずれも彼らの一側面で。
 MBAというのはひとつのラベルにすぎない。グローバル人材の採用リソースとしてビジネススクールを見ると、英語でのビジネス折衝ができ、高い専門性を有し、目標設定と遂行能力にたけた中途採用マーケットが見えてくる。
 もてはやされるのも、たたかれるのも、いずれもMBAの一面だけの評価だ。まずはMBAというラベルを除いて個人を見るところからMBA採用は始まるのではないかと私は考えている。


図表1 企業派遣MBAの卒業後キャリア (2000年卒者)

復職を明言しているのは62%
企業派遣のスタイルも、「学費フルサポート+卒業後数年の勤務の義務付け」という従来型から、「休職扱い」+「費用負担なし」、「休職扱い」+「一部費用負担」や「転職黙認」など多様化してきている。このことも、MBA取得後の転職を後押しをしているもと考えられる。

図表2 MBA取得前給与と取得後給与比較 (2000年卒者)

図表リクルートICI調べ
"2000MBA Employment Survey"(トップ10スクール在籍の日本人留学生を対象。2000年4月実施)

立花 則子(たちばな・のりこ)
留学生を対象にとした求人誌『国際派のための就職情報』編集長を経て、現在は日米間の人材紹介事業に従事。96年より同社米国オフィス兼務、日本のビジネス・人材活用の差を自ら実感する立場でもある。ケロッグ校エグゼクティブエデュケーションのNewProductDevelopmentプログラム受講。

『Works No.45「顧客接点」のマネジメント』(2001年4月発行)掲載

 
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