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人材マーケットの「論点」 Works Institute
リクルートワークス研究所
 

ターニングポイントに立った中途採用市場

ワークス研究所主任研究員
(前 リクルートエイブリック 事業企画部 募集チーム 課長)  
海老原嗣生


2001 年 4月 10 日

 花粉の季節も終わりに近づき、木々も新緑に色づくというのに、中途採用市場にはふたたび寒風が吹きはじめた。昨年の今ごろネットバブル崩壊のさなか、「この動揺は一過性、求人はまだまだ当分増えつづける」との楽観論を私は当コラムで書いていた。対照的なレポートを今回は書かなければならない。根っからのオプティミストな私にとってこの報告は、多少つらい作業となりそうだ。

採用系データが真っ先に景気後退期の市場動向を語る

 中途採用動向を示す指標は、大きく分けて3つある。ひとつは、求人総件数に代表される「募集時点」での総量の推移。
 2つ目は、求人スペックや選考スピード、選考通過率など「選考プロセス」の推移。そして最後が、どのくらい採用をしたか、という「採用時点」での総量の推移。この3つを仔細に観察すると、求人市場の変化が見えてくる。
  ちなみに、3つの指標は景気拡大期と後退期において、対称的な推移を見せる。
 景気拡大期は、まず「募集」総量が増え、次に「プロセス」データが好転し、最後に「採用」総量の増加がそれに続く。一方、後退期においてはその逆で、最初に「採用」総量が減少し、続いて「プロセス」データの悪化、最後に「募集」総量の減少となる。
 理由は、「日本企業の横並び意識」がキーワードとなるだろう。単純にいうと、「募集時点」での採用活動は、求人広告などにより、世間一般に広く知られてしまう。ということは、ライバル他社の状況が手に取るように分かる。そうなると、「あの会社が募集しているなら」という意識が働き、活動に伝播が起こる。景気拡大期なら、すぐ追随して自社も「広告を出す」となるだろう。逆に、後退期だと、「あの会社がまだ続けているなら」という意識で、広告の出稿はなかなかやめられない。対して、プロセスデータと採用データは、社外に漏れにくい。ということで、景気拡大期には「広告は出稿し始めたが、採用はしない」と採用系の指標が遅行し、後退期には「広告は出しているけれど、採用は絞る」と採用系が先行となる。


年初より悪化し出した採用系データ

 さて、後退期の先行指標である採用系データが、ここに来て急速な変化を見せ出した。私たちは、人材バンクとして、職種(20分類)×企業特性(4分類)×年齢(3階層)別の採用データを継続的に観察している。観察法としては、調整済みの採用データを3カ月前の時点と、以下の手法で比較し、マーケット状況を判断している。
(1)職種・企業特性・年齢で細分化された詳 細マーケットの採用数が、ここ13カ月の 中で、ピークアウトを起こしているか。
(2)細分化されたマーケットは、直近3カ月 に増加トレンドを示しているか。 こうして出したのが、図表1である。
  表のうち、ピークアウトも起こしておらず、直近も伸びつづけているマーケット(=〇〇)は好転、ピークアウトは起こしているが、直近は拡大基調のマーケット(=×〇、一時的にピークを越えたが、根強い需要がある)をまだら、ピークアウトを越し、さらに直近もマイナスとなっているマーケット(=××)を悪化、と判断。その結果、現在の全体を表したのが、図表2-1、2となる。
 図表2に示すとおり、2月末時点での採用マーケットは、完全に悪化が好転を上回っている。この手法を経年的に見てみると、99年11月時点では、すべてのマーケットが好調を示し、昨年6月までの7カ月間連続で、95%以上のセルが好転を維持しつづけた。その後も10月までは7割方のセルが好調を示したが11月ごろからまだらが目立ちはじめ、今年1月の時点で、好不調が逆転を起こしている。つまり、ここ1年半程度続いた採用活況は、そろそろ終末をむかえつつあると思える。
 採用系に続く指標である選考プロセスを見ても、1月末時点でだいぶ退潮が目立ちはじめ、2月末には好転・悪化がほぼイーブンとなっている(図表3)。
 ちなみに、募集総量(当社に寄せられる求人総量)を同様なマーケット分析を行うと、まだまだ堅調、という評価となる。ただ、述べたとおり、募集総量は景気後退期の遅行指標であり、この数字をもって安心することは非常に危険と思われる。

図表1 職種×企業特性別マーケット動向(3ヵ月前との比較、○=好転、×=悪化)
IT
電気・
電子
半導体
関連
機械・
プラント
建築・
土木
化学・
材料
食品・
生物
医薬・
医療
その他
技術系
合計
全体
 ピークアウト
×
×
×
×
×
×
×
 直近伸率
×
×
×
×
外資
 ピークアウト
×
×
×
×
×
×
×
×
 直近伸率
×
×
×
×
×
×
ベンチャー
 ピークアウト
×
×
×
×
×
×
×
×
×
 直近伸率
×
×
×
×
×
×
×
国内上場
 ピークアウト
×
×
×
×
×
×
×
×
×
 直近伸率
×
×
一般
 騰落率
×
×
×
×
×
×
×
×
 直近伸率
×
×
×
×
×

経企・
事業企
マーケ・
広宣伝
総務・
法務
人事・
労務
経理・
財務
金融
スペ
購買・
物流
アシス
タント
営業
製品
営業
サービス
海外
業務
事務系
合計
全体
 ピークアウト
×
×
×
×
×
×
×
×
×
 直近伸率
×
×
×
×
×
外資
 ピークアウト
×
×
×
×
×
×
 直近伸率
×
×
×
ベンチャー
 ピークアウト
×
×
×
×
×
×
×
×
×
×
×
×
 直近伸率
×
×
×
×
×
×
×
×
×
国内上場
 ピークアウト
×
×
×
×
×
×
×
×
×
×
×
 直近伸率
×
×
×
×
×
×
×
×
一般
 騰落率
×
×
×
×
×
×
×
×
×
×
×
 直近伸率
×
×
×
×
×
×
×

図表2-1 職種×企業特性別決定動向(3ヵ月前との比較)
技術系
事務系
好転
まだら
悪化
好転
まだら
悪化
全体
3
2
4
3
4
4
外資
2
1
6
5
3
3
ベンチャー
1
1
7
0
3
8
国内上場
1
6
2
1
2
8
一般
1
3
5
1
4
6

●各カテゴリーの全体評価
技術系
事務系
全体
まだら
悪化
外資
まだら
好転
ベンチャー
悪化
悪化
国内上場
まだら
まだら
一般
好転
悪化

図表2-2 職種×年齢別決定動向(3ヵ月前との比較)
技術系
事務系
好転
まだら
悪化
好転
まだら
悪化
〜28歳
2
3
4
4
2
5
29歳〜34歳
1
3
5
0
6
5
35歳〜
2
1
6
0
4
7

●各カテゴリーの全体評価
技術系
事務系
〜28歳
悪化
まだら
29歳〜34歳
好転
悪化
35歳〜
好転
悪化

図表3 職種×年齢別決定動向(3ヵ月前との比較、○=好転、×=悪化)
求人倍率
(求人/登録)
転職成功率
(%)
未経験可
(%)
書類通過率
(%)
年齢レンジ
(歳)
要経験年数
(年)
要資格率
(%)
要英語率
(%)
選考スピード
(日)
全体
×
×
技術系
×
×
×
事務系
×
×
×
×
×

景気回復2年目に起こる4〜6月期の落ちこみ

 さらに心を暗くさせるデータがある。この4〜6月にかけ、輪をかけて状況を悪化させる要因があるのだ。これは、景気回復翌年効果というものだ。
 昨年、景気はかなりな好調を維持していた。景気動向指数で悪化を示したのは先行系で2カ月、一致系だとたった1カ月のみ、しかも年初から10カ月連続で好転を示し、さらに7割以上の指標が好転する超好況月は7カ月を数えた。「後半にGDPや日経平均が悪化した」ことが体感的に不況イメージをもたせたが、これとて、公共事業の前倒し費消や、日経銘柄入れ替えによるギャップと派生インサイダー、持ち合い解消売りなどによるもので、実体経済は、絶好調だったのだ。そのため、一昨年まで新卒採用を抑えていた企業は、昨年大量の新卒採用に打って出た。同時に、増益予測をにらんで、2001年度の新卒採用も引き続き高水準に設定してしまった。3月半ばの日経新聞に、「大手企業の来期新卒採用順調」と出ていたのを思い出す。
 この結果、本年の4月には大量の新卒者が各企業に入社する。そのうえ、すでに決めた2001年度の新卒採用活動が、佳境に入る。ということは、とても中途採用に手を回していられる状態ではなくなるのだ。これが、「景気回復翌年効果」である。ちょうど同様な状況だった、97年4〜6月期の採用動向を次頁に示したい(図表5)。
  4月からは多分、求人広告出稿量などの「募集時点」データも不調を示し出すだろう。

図表5 景気回復2年目4〜6月の落ち込み ABLIC(首都圏)を通しての中途採用


景気動向を増幅した動きを示す中途採用市場動向

 さて、中途採用市場というのは、一般産業にくらべ非常に好不調の波が大きく、景気動向を増幅した動きとなる。私たち人材バンクでいえば、年度比でマイナス20〜プラス40%程度の業績変化が普通に起こる。人材バンクという事業自体が成熟度の低い産業のために、こうしたバラツキが起こるとも指摘されるだろうが、より歴史の古い求人情報誌(広告)産業でも、マイナス15〜プラス20%程度のレンジで業績変化が起こる。中途採用市場の不安定さがお分かりいただけるだろう。理由のひとつは、企業が好不況の緩衝材として、新卒も含めた採用活動を調整弁にしていること。そして、日本の多くの企業がいまだに横並び意識、右肩上がり幻想のパラダイムから抜けきれていないことをもうひとつの理由としてあげておきたい。
 まだまだ日本企業は、年齢別の人員構成比や給与テーブルの整合性を非常に大切と考えている。ということは、不況により採用活動を停止した年があると、その年代の社員構成の凹みを、いつか埋めようという心理が起きる。横並び意識の強い企業群は、採用抑制も、採用再開も、ほぼ同時。こうなると、景気回復期に、ある年代の穴埋め中途需要が集中豪雨的に喚起される。これが、中途採用市場の上ぶれ要因となるのだ。たとえば95〜97年前半の第二新卒ブームは、92年後半〜94年初の採用抑制が原因。昨年のそれは、98〜99年初の採用抑制が原因となる。ひとたび「集中豪雨」が起こると、需給の逼迫から、採用スペックはどんどん緩和され、転職バブルともいえる状況に行きつく。昨年後半がまさにその状態だった。たとえばスペックを表す以下の指標の変化を見てほしい(図表4)。どうだろう。資格はいらない、未経験もOK、英語なんかもちろん不要、そのうえ応募すれば書類通過はラクラク。もちろん返事もすぐ来る、そして、内定までいける確率も高い。
 まさに「転職楽園」的な状況を創出した。この集中豪雨は、当然のことながら、97・98年の新卒採用抑制に対する穴埋め策だから、20代中盤の若手求職者に向けられた。結果、中途採用に占めるこの年代のシェアは驚くほどの急増となる(図表6)。
 ここまでをまとめると、
中途採用市場は好不調が激しい。
その原因は、人材採用を景気変動の緩衝 剤と考える企業施策にある。
また、多くの企業が横並び意識と右肩上 がり時代の名残で人事施策を行うこと により、ある時期急に特定の年代の集中 豪雨的な採用攻勢が起きる。
昨年は、そうした集中豪雨がもたらした、 中途採用バブルに他ならない。
 と結論づけておきたい。

図表4 99年〜2000年にかけての求人スペックの変化
正相関項目(プラスが好転)
逆相関項目(マイナスが好転)
転職成功率
(%)
未経験可
(%)
書類通過率
(%)
要経験年数
(年)
要資格率
(%)
要英語率
(%)
選考スピード
(日)
1999年10月
20.5
12.7
40
3.67
12.6
5.4
14.7
2000年9月
26.3
13.9
48.4
3.43
10.6
4.2
11.7
改善率
28.30%
9.40%
21.00%
6.50%
15.90%
22.20%
20.40%

図表6 技術系年代別転職シェア
1999年10〜12月期
2000年7〜9月期
出所 : 図表1〜6 リクルートエイブリック/LMIデータ

山が低い分、今回の谷も浅い。その後のパラダイム転換に期待

 ということで、そろそろ本論の結びに入りたい。
 今年の中途採用市場は最初に述べたとおり、厳しい環境が予測される。ただしそれはCI的な考えで、昨年と比較するから退潮が大きく見えるのだ。もともと昨年がバブルだと考え一昨年と比べるならば、中途採用市場は決して冷えてはいない。
 これから転職を考える人も、人材ビジネス全般に関わる人もそのあたりを頭において、状況を見るべきだろう。景気後退期には、必要以上に悲観的になるケースが、ままあるので、「昨年がバブル、今年が普通」という基本をぜったい忘れずにいてほしい。

 昨年の景気拡大は、バブル景気や94〜97年の小康景気とは比べものにならないほどの短く小さな一瞬の凪だった。その分今年の谷も、浅く短いものになるだろう。そして、次の山が訪れるころまでに、企業からも人からも右肩上がり幻想が薄らいで、集中豪雨と干ばつを繰り返すのではない、本当の意味での人材流動化が進むことをのぞみたい。

『Works No.45「顧客接点」のマネジメント』(2001年4月発行)掲載

 
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