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リクルートワークス研究所
 

第1回 GCDF JAPANキャリアディベロップメントカンファレンス レポート

キャリアカウンセラーに期待される機能と効用を考える

フリーライター
高橋光二


2001 年 4月 10 日

企業と個人の有意義な交点

 あらためていうまでもなく、「構造改革」というキーワードで語られる現在の社会・経済環境の行き詰まり打開への模索は、企業と従業員の雇用関係の冷徹な見直しを伴っている。
 また、テクノロジーや経営手法など、経営環境を巡る激しい変化に対応するため、企業が求める人材の質も激しく変化していく。割り切っていえば、ゆえに企業は必要な期間に必要な能力を発揮できる人材を必要な人数だけ確保できればよいし、個人は陳腐化することのない自分の専門能力を、必要とする企業に売り続けることができればよい。よくいわれる「Win-Win」の関係である。企業にとって個人は、どれだけ付加価値をアウトプットし続けてくれる存在(エンプロイアビリティ)であるか、個人にとって企業は、どれだけ個人を高める環境を用意することができるか――という交点においてのみ、両者が有意義に関係していける時代であると思う。個人の側からしてみれば、会社に自らのキャリアの行く末を依存し続けることはもはや困難であろう。
 依存から自立へ。個人は自らの責任で、付加価値を生む自己のコンピテンシーとは何かを見つめ直し、育て、キャリアを拓いていかなければならない。また、企業は、個人のキャリア開発を惜しみなく支援していかなければ、いずれ立ち行かなくなってしまうという時代に置かれていると考える。

満員の会場が示す期待値

 そのような時代背景を再認識させられるイベントが、去る2月26・27日、東京・高輪プリンスホテルにて開かれた。「企業・学校におけるキャリアカウンセリングと支援を考える」をテーマにした「第1回GCDF JAPAN キャリアディベロップメントカンファレンス」である。主催者は、※1CDF(Career Development Facilitator)という米国政府のキャリアカウンセリング資格の民間認定機関である、※2CCE(Center for Credentialing & Education)である。2日間にわたってのべ1000人を超える参加者を集め、会場はほぼ満員状態となった。キャリアカウンセリングに関する企業や教育機関の関心の高さを窺うことができよう。
2日間でのべ1000人を集め、会場は満員に。

 当カンファレンスは、
※3GCDF(Global Career Development Facilitator)の日本における第1号認定カリキュラムである「GCDF JAPANトレーニングプログラム」のデビューを期して開催されたもの。メイン会場では、日米の研究者や企業の人事担当者の講演およびパネルディスカッション、別室ではトレーニングプログラムなどのワークショップが行われた。
 プログラム内容(図表1)に対する参加者の声を聞くと、やはり具体的なケースの紹介や実践的なキャリアディベロップメントプログラムの方法論を取り上げたものが高い評価を集めていた。一方、キャリア開発支援への取り組み状況に関するアンケート結果(図表2)を見ると、少なからぬ企業で導入済み、もしくは導入に向けて検討を始めている。「具体的な施策の導入を検討中」という回答を含めれば、8割近くの企業がキャリアディベロップメントプログラムの必要性を認識しているといえよう。


図表1 第1回GCDF JAPAN キャリア・ディベロップメント カンファレンスプログラム
(メイン会場のみ、1日目・2日目順不同)
「米国におけるキャリア・ディベロップメント資格認定」
〜認定資格『GCDF JAPAN』の背景と今後〜

Thomas W.Clawson (CCEエグゼクティブ・ディレクター)
Howard Splete (CCE代表)

Webにおけるキャリアカウンセリング
James P.Sampson,Jr (フロリダ州立大学人材サービス研究部教授)

キャリア・ディベロップメント・カルチャーの構築
Ken Patch (HRコンサルタント 元モトローラ社キャリアマネジメントコーポレート会長)

パネルディスカッション「日本企業内のキャリア支援の近未来」
パネリスト:
内田勝久 (電機連合中央執行委員労務福祉政策部長)
深野 誠 (ソニー人材リソースセンター統括部長兼国際人事統括部長)
増田弥生 (リーバイ・ストラウス ジャパン人事統括本部長)
ファシリテーター :
高橋俊介 (慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科教授)

合衆国におけるキャリアカウンセリング〜昨日、今日、そして明日〜
Lee J.Richmond (ロヨラ・カレッジ教育学部教授)

日本におけるキャリアカウンセリング 今後の課題
渡辺三枝子 (筑波大学大学院心理学系教授)

キャリア支援の課題 学校から社会人への節目に何ができるか
金井壽宏 (神戸大学大学院経営学研究科教授)

我が国におけるキャリア教育に関する施策
鹿嶋研之助 (千葉商科大学助教授 元文部省初等中等教育局職業教育課教科調査官)

合衆国におけるキャリアサービス
Linda K.Gast (メリーランド大学キャリア・センターディレクター)

図表2 GCDFカンファレンス 「企業参加者・アンケート結果」にみる キャリア開発支援の状況%)

キャリア開発支援に対する
取り組み状況
キャリア開発支援の目的
キャリアカウンセリングの実施状況


資格がもたらす信頼関係という効用

 これらのことを考え合わせると、カンファレンス当日の企業参加者は、キャリアディベロップメントプログラムについての必要性や考え方、しくみについては学習済みで、それをどう生きた形で運用していけば最大限の効用を得られるのか、という実例を研究したいというレベルに至っていることが見て取れる。
 では、実際の企業現場では「キャリア自立」を巡って、どのような課題があり、どう対応しているのであろうか。また、具体策のひとつとして、キャリアカウンセリングをどう評価しているのであろうか。参加者にインタビューを試みた。
 伊藤忠商事生活資材・化学品カンパニー人事総務チーム長の浅川正健氏は、次のように語る。
「いろいろなキャリアディベロップメントプログラムのしくみはあっても、個々人に本質的な『気づき』がなければ何にもなりません。まずは現場現場で事に当たる管理職を教育し、日常的にキャリアディベロップメントプログラムを実践していくような風土を作っていきたいと考えています。カウンセラーの資格の効用は、理論的裏付けやスキルによる自信が相談者に存在感や納得感を与え、カウンセリングの前提となる良好なコミュニケーション、信頼関係を築くことができることにあると思っています」

移行期のソフトランディングに


 キャリアカウンセリングとは、本来、あらゆる個人のキャリアディベロップメントを支援するためにある。しかし、年功序列の崩壊に伴い、環境変化に対応しきれない中高年社員に向けられることが多くなるのも現実のようだ。
 横河ジョンソンコントロールズは、従業員数850名のビルの空調設備(BA)総合エンジニアリング会社。マーケットの激変に伴い、いまや「文化革命の最中」にあると執行役員の紅山博氏はいう。
 パイがほぼ決まっていてそこそこの利益が出るという市場特性の影響から、同社には甘い企業風土が根づいていたという。しかし、いまは発注金額が叩かれる一方という厳しい経営環境となり、施主への提案営業の必要性が高まっている。また、外資系の顧客も増えてきて、従来の方法論やスキルでは通用しないという。
GCDFキャリアカウンセリング・トレーニング・プログラムのワークショップ。実際のカウンセリングを実演。

「会社の新しい方向性のもと、社員に求めるスキルや柔軟性、チャレンジ精神などの要件を見直しています。必要なレベルに達していない人には、具体的にどれだけ劣っているかを提示し、引き続き会社にいたいのであれば処遇を見直して、さらにコーチングしていきます。一方、優れている人は、あえて社内に選抜感を打ち出してもっと伸ばしていくトレーニングを行います。若手社員の間には、実力主義への改革に対する期待感が高まっているのが実感できますね」
 と紅山氏は語る。しかし、中高年社員には、いまさら変われないからこのまま定年まで、という受け止め方をする人も多い。
「そこでキャリアカウンセリングが必要だと考えています。素人が対応すると、企業と個人の双方に傷を残すことになりかねません。いまは移行期なので、シニア社員に対するカウンセリングが主体ですが、本来は社員が若いときから受けさせる必要があると思っています。今年から外部のコンサルタントと契約し、実験的に新卒社員が研修を終えて本配属される前にキャリアカウンセリングを行いました。会社、本人双方にとって、キャリア開発の面で得るところが大きかったと聞いています」


知識だけでは太刀打ちできない現実

 紅山氏の「傷を残すことになりかねない」という指摘は、人事問題はすなわちメンタルヘルスの問題と表裏一体であることを示している。KDDIでは、人事部に社員相談センターを設け、"学校の保健室のスタンス"で雑談レベルからキャリアカウンセリングまでの幅広い相談に応じている。中級産業カウンセラーでもある担当課長の西田治子氏は、その役割と効用を次のように語る。
「終身雇用が崩壊し、激変しているいまの社会環境のなかで、急に自立とかいわれても困ってしまいますよね。皆さんどうしたらいいかわからなくてモヤモヤしています。そこで相談室に来てもらって、1時間でも話していると、何か少しわかってスッキリされますね。
パネルディスカッション。先進企業の具体的な事例が紹介され、来場者の評価も「大変参考になった」と高かった。

そして職場に戻ってもらう。まずはそんな接点のもち方でいいし、大切だと思っています」
 どちらかというと、社員の精神的なコンディションを調節するバックオフィス、という機能がベースにある。ここ数年は、会社の施策や自分への評価に関する疑問や、今後の生き方をどうすればいいかといった相談が増加しているとのこと。そこで、自立や自己実現の必要性にウエイトを置いたカウンセリングにシフトしているそうだ。
「社員の成長は会社の成長につながるわけですから、カウンセリングの究極の目的は社員の自立、自己実現です。そのためにも、管理者へのカウンセリングマインドの教育や啓発に力を入れていきたい。そういう意味でも、カウンセラーの資格制度の充実には期待するものはありますが、資格を取得しさえすればカウンセリングできる、というものではないと思います。知識があるだけでは太刀打ちできないでしょうね。何よりも、どれだけ相手の立場に立って考えることができるか、という『心』が求められると思います。現実は多種多様ですから、それに対応していくにはカウンセラー自身の研鑽が必要です」

激しい変化への対応に限度


 西田氏の、資格を取得してもカウンセリングできるとは限らない、という指摘は、同様にアクセンチュア人事部スペシャリスト・清水順一氏も口にした。
「資格制度ではキャリアというものをどのように捉え、個人を援助していくのかということには興味がありますが、資格をもったカウンセラーが必ずしも個人を援助できるとは思っていません。当社にも個人のキャリアをサポートするための制度、ツールは存在していますが、それをいろいろなカルチャーや意識をもつ個々人にとって、いかに有効なものとしていくか、活きたしくみにしていくかが非常に難しい問題ですね」
 同社人事部マネジャー・小川富士氏は補足する。
「カウンセラーの資格は、メンタルヘルスなどの普遍的な側面では大いに役立つでしょうが、やはりキャリアカウンセリングとなると業務についての深い専門知識がないと難しい局面は多々あると思います。そういった知識があり、経験も積んでいるはずの上長でも、いまの第一線で仕事しているコンサルタント職の悩みに対し、的確にアドバイスしていくことは至難の業です。それほど顧客のニーズ、ビジネスやITトレンドは激しく変化しており、個々のコンサルタントはその中で自らのキャリア構築を模索していかなければならないということです」

『気づき』と勇気づけ

 自分のキャリアを考えるのは自分である。一見、当たり前のように思われることが、なぜかくも難しいことなのであろうか。
 三菱商事人事部で32年間一貫して人材育成に携わり、いまは独立してモルゲン人材開発研究所を設立、企業の研修業務を手がける澤田富雄氏は、次のように喝破する。
CCEについてプレゼンテーションするThomas W.Clawson CCEエグゼクティブ・ディレクター。

「日本のキャリア教育は根本的に間違っているんです。アメリカでは幼少のころから職業意識を植え付けますが、日本では『偏差値』。キャリアで一番重要なのは、本人が何をやりたいのか、ということです。いまの日本の問題は、それがわからない人が多い、というところにあると思います。夢やロマンがないから自立できないのではないでしょうか」

 カウンセリングが重要なのは、日常に埋没しているところから一歩離れて『気づき』を与えること。そして勇気をもたせ、ライフワークを見つける手助けをすること。そのためには、キャリアカウンセラーは企業の中のことから世の中全般まで、そして何より「人間」について知っていなければならない、と付け加えた。
 多様で深い問題を抱えた個人に対峙し、再生を支援するキャリアカウンセラーは、混迷の時代、強く求められている職業であることは間違いないようだ。本格的な資格制度の導入とその充実は、日本にも「キャリア自立」の 社会を根付かせ、ひいては「構造改革」の進展にも大いに貢献するといえよう。

※1 キャリアディベロップメントを推進する人々のための米国認定資格。不景気に端を発した失業者の増加に伴い、再就職支援のためにクリントン政権の指揮の下、策定された。
※2 CDFの民間認定機関。カリキュラム内容および資格者の認定作業を行っている。
※3 CDFのグローバルバージョンであり、日本以外ではカナダ、ニュージーランドが採用している。さらにシンガポール、トルコ、中国およびヨーロッパ各国で採用される予定。

高橋光二(たかはし・こうじ)
リクルートにて人材採用広報物の企画制作、ダイレクトマーケティングメディアの編集制作に携わった後、フリーライターとして独立。主に教育機関広報、独立開業、人材採用の各領域で編集・執筆を手がける。

『Works No.45「顧客接点」のマネジメント』(2001年4月発行)掲載

 
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