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「差別化されない取引」と「戦略的な取引」
部品の調達をインターネットで行う大手企業が増えている。
日本電気は、グループ全体で部品や資材120万品目を全量ネットで全世界から調達し、年間1000億円程度のコスト削減を目指すという。ここでの部品や資材の購買は「差別化されない取引」である。これらを調達するためにわざわざ部品会社の営業担当に会うこと自体、顧客にとっては見えないコストを発生させることになる。また、営業担当を介して提供すると、その分は当然部品の価格に反映せざるを得ない。顧客からすれば、「営業なんて来なくていいから、その分安くしてくれ」ということになる。そこでは従来の「人間関係を築く営業」「接待営業」は、通用しない。価格、品質、タイムリーかつ安定的な供給ができるかどうかが勝負になる。単にモノを売るための営業担当は消滅していく運命にある。
それに対し、「戦略的な取引」といわれるものがある。顧客組織の経営的な戦略にかかわる商品、サービスで、「かけがえのない」ものを購入する取引だ。その部品を組み込むことで競合商品と差別化できる性能を実現し、製品全体の品質を左右するようなものは、多少高くても買わざるを得ない。また、それは部品メーカーと顧客との共同研究や共同開発から生まれることも珍しくない。顧客は取引会社を絞り込み、「どうすれば自社の生産性が向上するか」「どうすれば抱えている問題を解決できるのか」といった問いに真剣に対応できるパートナーを求めているのだ。ここでは両者が利益を分かち合うWin-Winの関係が成立する。
このように、顧客の購買スタイルは「差別化されない取引」と「戦略的な取引」に分化し、その傾向はますます強まる。企業は、コストを下げるための調達と、競争力を高めるための購買を同時に推し進めているのである(図表1参照)。
ソリューション営業への変換
このような環境のなか、顧客(法人組織)と営業組織の関係における、営業革新のキーワードとして、「ソリューション営業(問題解決営業)への変換」がクローズアップされ始めた。「ソリューション営業」とは、「顧客の経営やビジネス上での重要な課題を解決するために商品やサービスを提供する営業活動」である。
「ソリューション営業」とはどういうことか? 例えば、パソコン100台を単体で納入しても、利益は限られている。ところが、100台には少なくとも100人のユーザーがいる。顧客はパソコンを導入するに伴い、新たな問題を抱え込むことになる。「本当に使いこなせるだろうか?」「トラブルが起こったときに社内の人間が対応すると、他の業務が阻害されるのでは?」 「次々バージョンアップするソフトをたびたびインストールする作業はなんとかならないものか?」
では、売り手が顧客に対し、ユーザーサポートやパソコンのソフトの追加や管理という「問題解決(ソリューション)」を提案したとしたらどうだろうか? 取引額や粗利は当然増えるが、何よりも顧客と長期にわたって取引できることになる。これが売り手からみた「ソリューション営業」のメリットである。単なるパソコンの納入業者であれば、さらに安く確実に納入できる業者に簡単に切り替えられてしまう。しかし、ソリューションを提供している場合、売り手側に顧客の問題解決のためのノウハウ、経験が蓄積される。顧客の「現場や勝手」を知り尽くしたパートナーであるため、簡単に切り替えられなくなっていくのだ。当然、価格交渉でも「買い叩かれる」可能性は少なくなる。それどころか、顧客のさまざまな課題が次々とわかり、新たなシステム提案のチャンス、新たな取引を獲得する可能性が高くなる。
「提供」から「解決」へ
まったく異なる営業のありかた
従来の営業は、顧客があらかじめ導入を検討しているものがあり、それに対してニーズを整理しながら、どうしたらベストのものを購入できるか、アドバイスを行う。売り手が提供するものもあらかじめ決まっていることが多かった。しかし、ソリューション営業は、前述のように顧客の問題、それもビジネスにかかわる問題をまず把握しなければならない。そのためには、顧客のビジネスで起こっている経営環境の変化や顧客の戦略を理解することも必要だ。問題を引き起こしている原因は複雑であることも多い。仮説を持ちながら原因を探っていくことが必要になってくる。また顧客自身も問題を正確につかみきれていないことも多い。営業担当は顧客と協働(コラボレーション)しながら、仮説を顧客と共有し、さらに必要な情報を収集し、すぐれた解決策に発展させていくことがポイントになる。ソリューション営業は、営業担当が顧客とのコラボレーションのシナリオを描きながら、顧客の問題解決のために自社の問題解決能力やリソースを総動員するプロセスでもある。「営業プロセス自体も商品」であり、営業の質によって、もたらされる解決策やその成果が大きく違ってくる。だからこそ、ソリューション営業はいくらでも付加価値を提供できる営業形態だともいえる(図表2参照)。
ある顧客で、ノートパソコンを営業担当に1人1台持たせて受発注業務を出先からできるようにしたい、というニーズがあったとしよう。従来型の営業であれば、業務内容や使用場面を聞き出して、どのようなスペックのノートパソコンで、既存のシステムにどう接続すればよいか提案することになる。
しかし、ソリューション営業の場合、上流にある顧客のビジネス上のニーズまで遡る。この顧客では、営業担当の出張が多く、商談が成立しても受注連絡が遅くなったり、電話では連絡ミスがあったりして、納品先への遅配や誤配のミスが頻発していたとする。この顧客のビジネス上のニーズは、「遅配や誤配による顧客からのクレームを減らし」 「受注状況をリアルタイムに把握、在庫を減らし、収益性を向上させる」ことだとわかった。これらのニーズを把握したなら、この顧客への提案は、インターネットを使った取引先との間の発注システムの構築ということも考えられる。システムで顧客が配達日や受注品目の確認を行えるようにすればよい。もちろん、インターネットを活用できない取引先のことも考え、営業担当に1人1台ノートパソコンを持たせ解決策を併用することも検討する。
ソリューション営業では、顧客が欲しい商品・サービスではなく、顧客の問題が本当に解決するためのサービス・商品を提案する。
さらに、顧客の問題が本当に解決したかどうかで、営業組織に対する顧客からの評価が決まる。
例えば、顧客の原価を下げるために部品調達のシステムを構築したとしよう。しかし、システムが正常に機能しても、調達コストが下がらないということがある。システムを使う人の操作が不慣れで、誤発注や発注漏れが多く発生していたり、従来の発注方法を一部残したままであるため二重の管理コストが発生し、かえって割高になってしまっていたりするからである。これでは、システムは機能したものの、顧客の問題解決は失敗である。
このケースで注目すべきは、システム単体では問題が解決しない点だ。操作をする人の問題、発注方法の二重管理の問題も同時に解決しないと成果を出すことはできない。
ソリューション営業組織 6つの条件
ソリューション営業型の組織に転換していくためには、単に営業担当の行動を変えようとしても限界がある。 次に掲げる6つの領域に取り組まねばならない。
(1) トップのビジョン・戦略の明示、リーダーシップの発揮
何よりも営業部門のトップが自社のソリューション営業のビジョンを示さなければならない。自分たちはどのような顧客に対して、何を強みとして、どこまでの範囲を解決策として提供するのか。自社で足りないリソースはどこから調達するのか、そのための戦略はどうするのか?
営業組織のトップは明確にビジョンを示し、自ら変革を促す必要がある。成果が出るまでに時間がかかり、ともすれば逆戻りの誘惑に駆られる。トップが強い意志とリーダーシップを発揮してソリューション営業の必要性と意義を浸透させる必要がある。
(2) 自社の解決能力、手段の増強
自社の問題解決能力(ケイパビリティ)、リソースを絶えず増強する必要がある。ソリューション営業の「うま味」は、ソリューションを提供した顧客からの追加取引にある。当然、顧客の期待は高くなり、より難易度が高く、複雑な案件の解決を期待するようになる。せっかくのチャンスを逃さないためにも絶えず解決能力、手段の増強が必要になってくる。必ずしも自社ですべてをまかなう必要はない。他の企業との提携や連携(アライアンス)によって自社の弱点を補強することも考えたい。
(3) サポート体制の整備と リソースの配分基準の明確化
ソリューション営業を推進するには、営業担当や営業部隊を支援する部隊が必要だ。開発やサポート部隊が営業活動の初期の段階から営業と一体となって顧客の課題把握に参画する。その際重要になってくるのが、誰がどのタイミングで、どのような支援を行うのか、を明確にしておくことである。 また、限られたリソースである支援部隊のパワーをどう配分するかも重要である。放っておくと、「声の大きな」営業担当が支援リソースを独占する弊害が出てくる。リソース配分にあたっては、明確な基準をもとにリターンが最大になるようにマネジメントを行う。
(4) 営業プロセスにおける ナレッジの共有と創出
ソリューション営業は、プロセスが複雑で個別性が強く標準化が容易ではない。ナレッジの共有も、提案書の共有や記述方法にばらつきのあるような結果事例を蓄積するといった、「点」の情報をライブラリー化するだけでは不十分だ。
ソリューション営業は複雑なプロセスであるがゆえに、営業を推進していくプロセスにおいて、「どのような判断を行い」「どのような情報処理を行ったか」が重要になってくる。個別事例の共有にあたっては、そのような「『判断』と『情報処理』のプロセス」を振り返ることができる形式知化(文書化)が望ましい。また、文書化が難しくても、事例を題材にプロセスを振り返る場を設けることが重要である。そのような場では、個別プロセスにおける「判断」と「情報処理」のナレッジ共有に加え、その事例を元に議論を行うことで、他の顧客への応用や展開を想定したナレッジ(アイディア)の創出が可能となる。
事例は、失敗事例や競合会社に負けた商談でもよい。うまくいかなかったプロセスに、成功のヒントが隠されていることも多い。
(5) 新たな能力開発とコーチング
ソリューション営業のためには、営業担当には従来のコミュニケーションスキル、商品知識に加え、「顧客のビジネスを理解する能力」「問題を構造的に把握する力」「解決策を導き出す能力」「顧客の組織に対する働きかけを戦略的に進める能力」「プロジェクトを推進する力」が必要となる。
これらすべてを備えた営業担当は稀である。不足する能力は高めていくしかない。これらの能力は、適性や、生来の資質で決まるものではなく、経験を通じて蓄積される行動習慣のようなものだ。学習によって補強していくことは可能である。その際、Off-JTでの教育とともに、日常の営業活動でのコーチングが不可欠だ。問題は、コーチング役のマネジャー自身がソリューション営業を経験したことがない場合である。そのような場合、マネジャーにできることは次の2つである。
ひとつは、メンバー同士が知恵やアイディアを出し合うことを促進する「触媒」となること。組織をあげての問題解決のために衆知を結集する際の「要(かなめ)」の役割として、リーダーシップを発揮する。もうひとつのあり方は、メンバーがソリューション営業を進めやすくするためのサーバント(奉仕者)となることである。ソリューション営業の推進には、関連部署を巻き込んだり、複雑な調整業務が発生したりする。メンバーが営業に集中できるよう関連部署との調整や業務の見直しを行い、営業担当を煩雑な業務から解放するのである。
(6) 評価基準の見直し
一般にソリューション営業は時間がかかる。納品したら終わりではない。むしろ顧客の問題が本当に解決されるかどうか、フォローしなければならない。したがって短期の売上指標のみの評価では、本来長期的な計画が必要とされるソリューション営業を妨げることになる。特に、ソリューション営業への移行期には短期的な業績評価を行ってはいけない。ソリューション営業が軌道にのって業績が安定するまで、性急な結果を求めてはいけない。
では、どうするべきか?
ソリューション営業において「本当に意味ある指標」を管理するのである。例えば、顧客の変化についての情報量や、キーパーソン(経営者、責任者等)へのアプローチ状況、顧客満足度等である。
ソリューション営業では、顧客の成功を究極のゴールにおいている。顧客の問題がどれほど解決したか、測る手立ては難しい。その代替手段として顧客満足度を指標のひとつとして採用すべきである。問題解決に成功し満足した顧客は、次のソリューション案件において同じ営業組織と取引しようとする意向が強くなる。納品後のフォローも重要な営業活動であり、そのパフォーマンスは顧客満足度に反映される。
次に忘れてはならないのは、ソリューション案件に貢献したチームメンバーの評価だ。ソリューション営業は組織をあげての営業活動であり、ひとつの案件の成功には、多くのスタッフや、場合によっては他の営業担当も絡んでくる。それらの支援スタッフに対し、貢献の度合いに応じて、「貢献ポイント」や「貢献売上」を設け、評価に反映させる等を行う。
このように、ソリューション営業に転換するためには多くの手を打たねばならない。しかし、これだけの「対価」を払ったとしても、ソリューション営業が本当に推進できる組織に変革できれば、これは十分に価値のあることだと思われる。なぜならライバル企業も容易に変革できないのだから、ソリューション営業を推進する組織に変革できた時点で、高い競争優位性を築くことができるからである。
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高橋勝浩(たかはし・かつひろ)
1985年リクルート入社。人材採用事業を経て、91年より現職。
リクルートが社外向けに提供している営業教育研修サービス
の企画・開発を手がける。現在、ソリューション営業をテーマ
にしたプログラムを開発中。 |
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『Works No.45「顧客接点」のマネジメント』(2001年4月発行)掲載
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