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新しいリーダーシップ

昔々、労働者は仕事があると幸福だった。週に6日か7日、長時間の労働に従事し、しかも、高校や大学を卒業後、長年忠実にただひとつの会社で勤め上げ、そこを退社するその日までずっとそうするのが社会の常識だと信じていた。この「揺りかごから墓場まで」の哲学は、日米双方の雇用者と労働者にとって長年拠り所となっていた。
しかし、哲学者のデカルトが正しく述べたように、「ただひとつ変わらないのは、あらゆるものが変化するということ」である。そして時代は変わった。
かつては十分すぎるほどの労働者がいたのに対し、いまは人材不足が問題となっている。雇用者にとっては、新卒で雇い入れた労働者が、一生どころか、ほんの数年の間、自分のもとにいるかどうかさえ、もはや定かではない。 フォード GE ゼネラル・エレクトリック アライド・シグナル PCコネクション イングラム・マイクロ メアリー・ケイ・コスメティックス エンプラス

(公認経営コンサルタント)
ジョイス・ジョイヤ=ハーマン/ロジャー・ハーマン


2001 年 2月 10 日

90年代以降、日本は苦境に立たされている

 封建時代以後、日本の社会では階級制度が確立された。将軍は信頼厚い側近からの助言を活用し、民衆に絶対的な権力を振るっていた。同時に主君は、忠義をつくす臣下の身に危害が及ばないようにする責任を負っていた。なかには武士を自己防衛のために利用したり、独裁的であるような主君もいたが、人々はリーダーが自分たちを守ってくれると信じることができた。名誉こそが人間にとってもっとも重要な財産だった。
  明治維新以後、封建制は衰退した。にもかかわらず、名誉や権威、権力への深い尊敬の念は、日本の文化のなかで重要な位置を失うことはなかった。今日でさえ、日本人の大半は地位や身分を重視している。今日の日本文化の成り立ちを考えれば、人々が身分重視の考えに傾いたところで別に不思議ではない。 日本の産業の発展に伴い、日本の会社における社風も従来の社会の伝統や習慣にならって形づくられていった。こうして、全体の合意による意思決定、絶対的な忠誠、終身雇用にもとづく日本型の会社組織が成立した。
  以前は、取締役会が会社の運営に対して絶対的な権限をもっていた。ほとんどの従業員はリーダーを崇め、尊敬しただけではない。彼らを畏怖し、迷いも疑いもなく絶対的に服従したのだ。封建の時代の先達がそうだったように、こうした権力者は会社を支配し、管理や命令を通じて自分たちの意向を徹底させた。会社の上層部は、頭脳を働かせるためではなく、肉体労働のために雇われた従業員に対し、敬意、賞賛、忠誠を要求し、実際にそれらを得てきた。
  これまで長年にわたり、経営陣はこのようにして会社を管理してきた。専制的で権威主義的な経営スタイルは、大いに成果を上げた。雇用者は労働者に何をすべきか指示し、従業員はその指示が何であれ従った。実際のところ、かつての経済状況においては、ほとんどの労働者は仕事につけるだけで幸福だった。
  人々は会社に忠誠を誓い、会社は生涯にわたり、彼らの面倒を見た。だが、1990年代初め、株価の急落と大手金融機関の経営不振に象徴されるように、日本の企業は景気の大きな低迷を経験した。景気の低迷は合意にもとづく日本的な意思決定モデルを試練にさらし、終身雇用制の伝統を打ち砕いた。多くの企業は人員の削減に乗りださざるを得なくなり、ひどい場合には会社自体倒産してしまった。
  それ以後、人々は会社が一生面倒を見てくれる、と頼っているわけにはいかなくなった。労働者は会社への絶対的な忠誠に疑問を抱きはじめ、自己の利益という考えに目覚め、自分自身の市場性の高さを維持する大切さに気づきはじめた。10年たったいま、その結果生まれた人々の態度と信念の成熟を、わたしたちは目にしている。
  現在、日本にこれまで広く浸透していた、全体の合意にもとづく意思決定モデルがうまく機能しなくなり、そのせいで事態はいっそう悪化してきている。企業がようやく気づき始めたように、全体の合意にもとづいて意思決定をはかれば、今日のように目まぐるしく変化する市場で勝利するために必要不可欠な戦略の俊敏性が犠牲にされる。また、共同で進められるプロセスは、イノベーション、企業家意識、クリエイティビティを生みだす個人主義的行動を奨励もせず、ふさわしい報酬で応じようともしていない。さらにいえば、いまだに個人主義的行動を妨げつづけているせいで、グローバルな人材獲得競争における日本企業の立場はますます悪化している。世界の競合が、個人が業績を上げられるよう多くの機会を提供しているというのに。

クリエイティブな若者を管理するのは無理だ

 これらの結果、今日の若い従業員の会社への忠誠心は、かつてよりも薄れている。その一方で、彼らは、自分たちのクリエイティビティを発揮し、個人としての貢献度を認めてもらいたいと思っている。日本の企業リーダーたちは、どうしたらこのような若者を管理できるだろうかと悩んでいる。
  答えを言おう。「それは無理だ」
  太平洋の反対側の国と同じく、若者は管理されたがっていない。導かれたいと思っているのだ。
 現在のところ、日本の人口は減少を続けており、当然ながら訓練された人材の数も不足するようになった。アメリカや他のいくつかの先進諸国と同様に、失業率が上昇しているにもかかわらず、日本では訓練され、能力ある人材の不足が続いている。
  イギリスやドイツといった国々における労働人口の減少の一方で、世界経済は繁栄を続けている(日本経済は2001年に2%から2.5%の成長を見込まれている。よい知らせだ)。世界経済の繁栄は全世界の消費を拡大し、その結果、労働力の需要が高まる。したがって被雇用者の需要は増大しつづけるというのに、設けられたポジションを満たすべき人材は減少の一途をたどっているのだ。こうして世界的な人材争奪戦が開始される。
  日本においては、さらに悪いことに社会の高齢化のために生産性が低下しつつある。多国籍企業が日本とその他の国々の設備を比較する場合、他国の生産性のほうが高いという結論に達するケースがかなりある。こうした不十分な生産性の点からも、日本の企業は世界的な人材争奪戦で絶対に勝利しなければならないのである。

ある大手の国際的なハイテク企業の人事部長が、こんな話をしてくれた。彼の会社の日本工場は、より多くの人員を抱えているにもかかわらず、アメリカにある工場の生産性の半分にしか達していない。彼は従業員の能率を向上させる方法を見出そうとしている。

 これまでは企業が雇いたい従業員を選んでいたのだが、今後は労働者が主導権を握るだろう。労働者は自分の求めているものに応じて、どこで働くかを決定する。結局、会社は優秀な人材によって選ばれるようにならなければならない。さもなければ、効率は落ち、収益性は下降するだろう。「選ばれる雇い主」になることは、今後何年もかけて進むべき道ではない。企業の命運はそこにかかってくるだろう!
  「選ばれる雇い主」になるための重要な要素のひとつに、「リーダーシップの自覚」が挙げられる。被雇用者はリーダーとしての資質を備えた雇い主を選んでいる。彼らは管理者ではなく、指導者と働きたいと思っているのだ。未来学者として将来の企業の形を予測するなら、ものの管理と人間の指導に重点が置かれることだろう。
  日本のリーダーたちはもはや旧態依然たるスタイルで管理するわけにはいかない。最良の労働者はクリエイティビティが発揮できず、イノベーティブになれず、企業家として振る舞えないような会社では働こうとしないだろう。貴重な被雇用者は、個人として認められ、努力には報酬で応じてほしいと考えている。彼らは管理されるのではなく、導かれたいと思っているのだ。

最近、日本を旅した際、わたしたちは、国内のさる大手自動車メーカーのある部署に勤める若いエンジニアに出会った。彼は求職の面接を受けるためフォード自動車に行くところだった。面接後、彼に問い合わせてみたところ、結果はわたしたちの予想どおりだった。彼は新しい会社に移ることを真剣に考えていた。フォードのほうが、個人として能力を発揮できそうだったし、また、その成果をきちんと認めてくれそうだったからだ。未来の雇い主との話で出てきた、再教育費用を会社が負担するという点、またアメリカへの海外勤務の可能性も、彼には魅力的だった。

 このように企業の経営者が、自社を繁栄に導きたいと思うなら、権威的で専制的な管理者という古いスタイルから、まとめ役的なリーダーという新しいスタイルに転換を遂げる必要がある。この転換は容易ではない。なぜなら管理者はこれまで何年もの間、絶対的な権威を備えた独裁者として慣らされてきたからだ。しかしながら、これは今後どうしても避けられない転換であり、その実行は早ければ早いほどよい結果をもたらす。
  ここで指摘しておかなければならないのだが、わたしたちが問題にしているのは、組織のトップだけではない。社長や最高執行責任者(COO)から現場の監督者にいたるまで、すべてのリーダーが関わってくるのだ。実際のところ、従業員が会社に定着するかどうかを決定するもっとも重要な要素とは、従業員とその直接の監督者との関係なのである。若くて才能ある被雇用者は特別な何かを自分たちのリーダーに求めている。

ジョイヤ=ハーマンが、先頃東京で開かれたマーカスエバンス・ヒューマン・キャピタル・コンファレンス
(MarcusEvans Human Capital Conference)で基調演説をしたとき、聴衆のひとりがこんな質問をした。「自己主張に慣れていない労働者がこういった環境の転換に戸惑っているときにはどうしたらいいのでしょう? どのようにすれば彼らにも発言してもらえるでしょう?」

 合意により意思決定がなされていたにもかかわらず、多くの日本の会社では、敬意を払っていないと見なされるのを恐れ、労働者はなかなか自分から発言しようとしない。彼らが口を開き、革新的になるのを認めなくてはならない。むしろそうなることに対し、報酬で応じる必要さえあるだろう。このように働きかければ、彼らはよりクリエイティブな方向に向かい、単に肉体だけでなく、その頭脳をも必要とされる働き手に変えていくことができる。

今日、従業員リーダーに求めるものは何か

  ビジョン

 すぐれた人々は、将来や目的、目標に対するわかりやすいビジョンをリーダーに求める。人となりや目指しているものを理解し援助してくれる人々に、リーダーたるトップは、取り囲まれている。必要なのは将来を見とおす目だけではない。洞察力あるリーダーは、組織についてのビジョンももっており、何年という時間をかけてじっくりと、組織を目指す姿に導く。

ゼネラル・エレクトリックの先見の明あるリーダー、ジャック・ウェルチは、将来を常に視野に入れた人物としてつとに名高い。会社組織の再編は毎年の恒例行事のようだが、部下はウエルチを無条件にサポートし、彼らを成功と繁栄に導いてくれるものと、彼に全幅の信頼を置いている。

 目覚めたリーダーは全従業員に対し自分のビジョンを明確に伝え、自分たちもそのビジョンの実現に参加しているのだという気持ちを従業員に起こさせることができる。組織がビジョンを達成するには、全員がそれを理解し、かかわりをもち、自分がすべきことを把握しておく必要がある。美しい未来像を描くだけでは十分ではない。チームの全メンバーが、期待される個人的な達成レベルを心得ていて、そのレベルの実現を心がけなければならない。

アライド・シグナルのCEO、ラリー・ボシディから届けられるスペシャルメッセージは、さまざまな工場にいる従業員を、彼の思い描く自社の将来像に結びつける。これらのEメール、あるいは紙にインクで記されたメッセージは「ラリーの手紙」と呼ばれ、ボシディのプランのみならず、彼が労働者ひとりひとりをどれほど大切にしているかを明確に伝えている。

  人目につくこと

 自覚あるリーダーは非常に目立つ――組織の内だろうと外だろうと。雇い主を代表し、地域社会や業界で積極的に活動し、被雇用者は地元新聞や業界雑誌でしばしばその記事を目に留める。リーダーが行う奉仕活動は被雇用者の間に一種のプライドを芽生えさせ、リーダーが率先して取り組んでいる活動のおかげで会社は好感をもたれ、高い評価を与えられる。
  何よりも重要なのは、労働者が頻繁にリーダーの姿を目にするという点だ。そのような機会は、経営者が高価なスーツに身を包んで現れる、たまの社内会議だけに限られるわけではない。リーダーはオフィスを出て、部下のいる場所にまで出向く。彼らは質問し、部下の話に耳を傾ける。被雇用者は、リーダーが自分たちの世界を理解し、感情移入しているのを感じとり、それを喜ばしく思う。

パトリシア・ギャラップは、ニューハンプシャー州にあるコンピュータの通販会社、PCコネクションのCEOであり、大人気を博している。彼女は自分のオフィスの中から管理をするのではなく、しばしばフロアに出て、マーケティングやエンジニアリング、セールスの各部署に出向く。ギャラップは、姿を見せるだけでなく、部下が気軽に近づける存在でもある。部下はどんな悩みや問題でも彼女には話すことができることを知っている。

  近づきやすさ

 これらの強力なリーダーは、頻繁に姿を見せるだけでなく、部下が気軽に近づける存在でもある。彼らはMBWA(Management by walking around:歩き回って管理する)の信奉者である。あるいは、オフィス直通のホットライン・テレホンを設置しているかもしれない。事情が許すかぎり、彼らはその電話を自分でとる。彼らが直接出ることができない場合には、彼らの声でメッセージが入った留守録のテープが代わりを務める。その後、彼らは適当な時期に自ら折り返し電話をするだろう。
  街の反対側であれ地球の裏側であれ、リーダーが部下と離れているときには、Eメールやイントラネット技術がその距離を埋める。実行にはかなりの努力とやる気が必要だが、ほとんどの経営者は努力の価値ありと考えている。
  あるいは、従業員用のカフェテリアで朝食やランチをとるという方法もある。何人か他の従業員と一緒に食事ができるよう、大きなテーブルにつくのだ。適当に選んだ従業員をランチに連れていくということを定期的にしている経営者もいる。

イングラム・マイクロのCEO、ジェリ・ステッドは、自分専用の直通フリーダイヤルを従業員のために設けている。サンタアナの本社にいる従業員は、彼のオフィスを訪ねてもいいことになっている。オフィスのガラスのドアはつねに開かれている。世界有数のコンピュータ製品卸売業者の経営者としては、これだけやれば立派だろう。

  率直で正直なフィードバック

 人々は自分たちの活動がどう受け止められているのか知りたがっている。自分には何も知らされず、十分なフィードバックが得られないと感じるとき、彼らは仕事場所をよそに求めるだろう。自覚あるリーダーは、部下に対して率直で正直である。継続して本人に直接与えられる率直で正直なフィードバックは、心から感謝される。自覚あるリーダーは、査定のための面談が予定されている日を待たず、適切な機会に部下にフィードバックを与える。
  リーダー自らが範を垂れれば、部下も彼にならうだろう。彼の部下は全員の向上を目指し、あらゆるレベルで自由にフィードバックを与え合う。このような個人やチームの向上は、組織全体の向上につながる。「全員はひとりのために、ひとりは全員のために」という哲学が貫かれた職場なら、誰もがそこに加わり、いつまでもとどまりたいと思うだろう。
  自覚あるリーダーはまた、自分自身の活動がどう受け止められているか、あるいはリーダーとしての仕事を部下がどう評価しているか知るため、フィードバックを歓迎する。人格的な改善に主眼が置かれているとの理由から、この種の全方位的なフィードバックは日本でも浸透しつつある。

  情報の共有

 自覚あるリーダーは、重要な情報をすべての被雇用者と共有する重要性を認識している。なるほど情報の共有を行うには、各財務一覧表の性格や意味について労働者に教育を施す必要がしばしば生じるかもしれない。しかし、こうした「隠し立てしない経営」スタイルを用いる経営者のほとんどが報告しているように、労働者は会社の状況をよりよくし、数字を改善し、収益を高めるのを手助けする立場にあると感じるようになる。
  労働者は、経営者が大型車に乗り、高価な服を着ているとの理由から、会社が多額の利益を上げていると信じていることが多い。多くの場合、被雇用者は業務の遂行のためにどれほど多額の出費が必要とされるかを知らない。財務関係の書類を目にし、自分たちへの付加給付が会社にとっては出費なのだと知るとき、しばしば被雇用者の態度は好意的になる。

  地位による障壁の除去

 日本の歴史はこれまでずっと地位の重要性を重視していたという理由から、これはもっとも困難で、かつまた重要度が高い課題のひとつである。今日の労働者、とりわけ若い人々は、地位による障壁のことなどで頭を悩ますのはごめんだと考えている。だからといって尊敬の念がないわけではない。ただ従順でないだけのことだ。彼らはリーダーに敬意を払っているが、追従はしない。そしてまた、自分の考えにも敬意を払ってほしいと考えている。自覚あるリーダーも、若い才能ある人々は尊敬に値すると考え、彼らの貢献に対して敬意を払う。

  変化を歓迎する未来志向

 有名なホッケープレイヤー、ウェイン・グレツキーはかつてこんな質問を受けた。「どうやってこれほどまでの成功を収めることができたのですか?」
  ウェインはこう答えた。「他の選手はパックがある場所を目指す。俺はパックがこれから向かう場所を目指す」
  人々は、未来を志向するリーダー、変化を歓迎し、将来的な成功に向けて組織の体制を整えることができるリーダーのもとで働きたいと考える。
  変化は増大の一途をたどっている。変化を認識し、それを利用する先取り思考のリーダーは才能ある働き手に大いに評価され、実際、そうした人々を引き寄せる。

  人材の重要性の認識

 ほとんどの日本の会社は、収益を上げるのには人材がいかに重要かを認識しつつある。必要な人材をリクルートする能力の欠如こそが、最終的に現在の認識を導いたのだった。結果的に多くの会社は当然のことながら、やっと人材を戦略的に重要な要素として位置づけるようになった。
  すぐれた人間がいなければ、会社は製品を製造することも、顧客の要求を満たすこともできない。少なくとも、必要な人間がいなければ、会社の収益は下降するだろう。リーダーが重視する課題として、戦略的なスタッフの配置、キャパシティ・プランニング、被雇用者の保持などがある。

「労働人口の移動に要するハイコストの計算」と題された白書をもとに、日米双方に拠点を置くある自動車メーカーは、被雇用者の移動が毎年ディーラーにどれだけの出費を強いるか詳しく計算した。彼らの結論はこうだ。アメリカのディーラーは、貴重な被雇用者を失って補充する費用をまかなうために、毎年、64億ドル相当の自動車を余分に売らなければならない。

  個人レベルでの接触

 ある人々はリーダーに、個人的な関心を向けてもらいたいと強く感じている。別の人々はそれを必要とせず、あるいはそうされるのを欲しない。成功したリーダーは部下を知っていて、彼らを名前で呼び、また実際にどういう人間なのかを心得ている。この種の人間関係の構築は、一種の、しかも大いに価値ある技術である。この技術に磨きをかければ、リーダーはカリスマ的になる。リーダーが部下にこの種の個人的な関心を向けるとき、それは忠誠心を誘発する。ただしそれは、会社に対する忠誠心ではない。個人に対する忠誠心だ。会社への忠誠心はなくなるかもしれないが、一緒に働いている人間への忠誠心はますます高まるだろう。
  リーダーのなかには、率直さと弱みを武器に強力な信奉者を生み出す者もいる。彼らは自分の家族、個人的な挑戦、抱えている問題について語り、こうしたコミュニケーションを通じて自らの人間性をさらす。彼らもまた、ほかのあらゆる人と同じ普通の人間にすぎない。チーム内での役割は別だが、それでも同じチームの一員なのだ。リーダーがこのような態度をとるとき、仕事はお互いのためにするのではなく、お互いがともにするものだという考えがよりいっそう強調される。

  特別な日を知る

 誰にでも、毎年1度ずつ誕生日がある。わたしたちは結婚記念日や入社した日、子どもの誕生日を祝う。これらの日はわたしたちにとって重要である。ともにこれらの日を祝ってくれるカードや電話、手紙、花、さらにはプレゼントが誰かから届いたら、特別にそれはとてもうれしいことだ。

テキサス州ダラスのメアリー・ケイ・コスメティックスのカリスマ的な創設者、メアリー・ケイ・アッシュが心得ているように、特別な日に関心を向けると部下は非常に喜ぶ。彼らはそう口にする。彼女は被雇用者に送るバースデーカードやアニバーサリーカードのすべてに自らの手でサインする。それ以外の特別な日も忘れられるわけではない。新しく生まれた赤ん坊は銀のアヒルの貯金箱をもらう。結婚した人には銀のボウルが送られる。誕生日には無料のランチ(2人分)か、無料の映画の券が与えられる。さらに、勤続5年ごとに100ドルの貯蓄債権が与えられる。

  リスクを奨励し、失敗する許可を与える

 「リスクなくして成功なし」。潜在能力回復運動の国際的な有名人、ワーナー・エアハードはそう述べている。管理という古いパラダイムの場合、労働者はこれまで築き上げたキャリアを失い、名誉を汚すのを恐れ、チャンスに飛びつこうとはしない。自覚あるリーダーはエアハードの言葉の正しさを知っている。先鋭的な思考をするリーダーのなかには、早めの失敗こそ成功の秘密だと語る者さえいる。いずれにせよ、自覚あるリーダーは、被雇用者にあらかじめ失敗してもかまわないと言い、つねにトライしつづけるよう促すことでリスクを支えていく。
  ヨギ・アムリット・デサイは、「過ちなどない、あるのは学びだけだ」と語っている。これらの先取り思考の経営者たちはこれを頭で知っているだけではなく、実際に会社生活のなかで実践している。株価の変動につねに目を光らせなければならず、前四半期の収益を上回るよう絶えずプレッシャーがかかるこの厳しい時代に、それは容易なことではないのだが。

  指導し、仕事の質を高める

 自覚あるリーダーが知っているように、人々、より明確にいえば個々の被雇用者こそが組織の力となる。今日の労働者はかつての労働者よりも自主性が強く、管理者からの指示を待つよりも自分から行動を起こし、それを追求したいと考える傾向がある。人々は、仕事に自分の意思で取り組めて、自分から着手でき、ある程度の権限を与えられ、個人的な達成感を得られるような職場を選ぶだろう。
  自覚あるリーダーは、個人をその仕事ぶりで判断し、自主的に仕事をしたいと切望する人々に、勉強する機会やその他の援助を提供する方法を探っている。このような精力的な個人に対しては、自社の使命から外れないよう指導し、彼らがつねに適正に行動するよう仕事の成り行きを把握しておかなければならない。

  説明をする義務を減らす

 ほとんどの組織にとって問題となるもののひとつに、説明する義務があまりに多いという点がある。仕事の質を高める秘訣は、説明するという義務を可能なかぎり減らすことだ。とりわけ時間決めで賃金をもらう現場の被雇用者に対しては、これを適用する必要があるだろう。優秀な人々は、自分から説明したいと考えるだろう。そんなわけでこの戦略は被雇用者の希望と一致する。
  現場にもっとも近い被雇用者が状況や製品に関して説明をする義務を担っている場合、リーダーは自分のやるべきことにより集中できる。いずれにせよ、「説明をしなければならない義務」が減れば全員のストレスは低下する。会社はより働きやすい場所となり、人々は自然に集まる。

  使用人としてのリーダー

 使用人としてのリーダーとは、リーダーが自らを他の被雇用者に対する使用人、サポートを行う人間と見なすことだ。この考えでは、他の被雇用者を手助けし、彼らが仕事をこなし責任を果たせるような状況を用意してやることがリーダーの役割となる。
  多くの人々はこの考えを口にするものの、実行に移すのは難しい。出世街道を走りながら、多くの指導者は、自らの欲求を「満たせ、満たせ」と叫びつづけるエゴを内に抱えることになる。使用人としてのリーダーは自らのエゴをおさえ、監督よりも奉仕する道を探し求める。個人やグループの達成度や自主性に力点が置かれ、リーダーはそこにトーン、方向性、ビジョンを与えるにすぎない。やがて使用人としてリーダーは、このような質問を口にできるようになる。「きみの目標を実現するためにわたしは何をしたらいい?」と。
  最良の被雇用者はこうした性質をもつリーダーのもとで働きたいと思っている。雑誌や新聞で会社のリーダーが出てくる記事を読んで納得しているなら別だが、彼らは自ら人事部に電話を入れて質問し、いかなるリーダーシップのもとに組織が運営されているか知ろうとするだろう。とはいえ、自覚あるリーダーがいれば、すべてうまくいくというわけではない。人々が仕事をやめて別の会社に行くとき、その主な理由は「ここは雰囲気が悪い!」である。問題は環境、社風なのである。

社風はどこから、いかにして変えるか

 社風の変革はトップから始まる。リーダーが被雇用者中心の社風を生み出す気がないなら、変化は永遠に訪れない。そしてリーダー自身が変化を望んだとしても、それは彼もしくは彼女のキャリアでも、最大の難問かもしれない。何しろここで直面しているのは、長年培われてきた条件付けの変革なのだから。全体的にみれば、被雇用者は長年の間、会社に仕えてきた。また、もう何年にもわたって監督され、旧式のやり方でお互いやリーダーとの関係を築いてきたのだ。
  古いやり方を変更するのは容易ではないが、それでも新しいやり方に変えなければならない。会社が最高の人材を集め、その能力を最大限に活用したいのならば。

  自覚あるリーダーは自分自身から着手する

 変革はもちろん、自分自身から、だ! リーダーは新しい意識を導き手とし、部下に見習ってほしい振る舞いに率先して取り組む。本当にそれが意識変革に発した振る舞いとなるよう、細心の注意を向けなければならない。変革を口にするだけで実行に移さなければ、惨憺たる結果に終わるかもしれない。賢明なリーダーは、幹部集団の助けを借り、変化の後押しをしてもらうだろう。

  協力関係をサポートする

 社風の変革を目的としたリーダーたるトップの間の協力関係は、管理職クラスや主任クラスの行動の模範ともなるべきだ。
  この協力関係は、全体の合意にもとづく意思決定とは異なる。こうした合意による意思決定スタイルはクリエイティビティや異質性、突破口を見出すためのブレーンストーミングをしばしば排除するが、協力関係は積極的にこれらを取り入れる。
  こうした協力関係を後押しする方法の一例を挙げよう。自社の使命やビジョン、基本方針の策定に全員を関与させるのだ。ステートメントが現場の率直な声を反映してつくりだされる。起草するのは幹部職だが、それらは管理職クラスや主任クラス、最後に現場の人間へと回覧される。こうしてすべての人に感想やコメントを言う機会が与えられる。それらが完成し、労働者に示されたときには、誰もがそこに自分の意見の反映を感じることができる。

日本の会社、エンプラスは、新技術「オプトプラニクス」の分野でゆるぎないリーダー的な地位を占めている。エンプラスの年次報告書には、被雇用者中心の社風が反映されている。そこには社のビジネス哲学、その使命、経営の公約、基本方針が記されている。基本方針の項目にはこうある。「業界でのリーダー的な地位を維持するため革新的な思考とイノベーティブなアイデアを奨励する」。この方針をみても、エンプラスのリーダーたちが取り組む、非常に優秀な人材を集めるであろう、被雇用者中心の社風がわかる。

 現場の従業員は、往々にして改良に役立つ卓抜なアイデアをもっているが、それを表明する機会はなかなか与えられない。会社のイノベーションを促すには、彼らのアイデアを歓迎し、褒賞を与えるのも一案だろう。

  企業内事業家精神の奨励

 自覚したリーダーが心得ているように、今日の若者は落ち着きがない。彼らはつねに別なことに手を出したがる。さまざまなトレーニング、経験を欲し、同時に自分の仕事に対するオーナーシップをも欲しがる。
  被雇用者は、すぐれた成果を上げたときには、成果を認めてもらい、褒賞を得たいと考える。アメリカその他の国の先進的な企業は、事業の一部について被雇用者に権限、責任、説明義務を認めている。このように被雇用者にオーナーシップを与えることで、これらの企業は非常に優秀な人材を保持しているのである。
  また、人材を保持しておくために、ときには働き手が仕事を変え、社にとどまるのを認める必要があろう。このようにすれば、目先の変化を求める被雇用者に満足を与え、同時に会社は長い年月と多額の費用を費やして育てた人材を失わずにすむ。

  変革の認知と褒賞

 仕事を認めることはときに褒賞と同じくらいの重要性をもつ。だが、どちらも重要であるのに変わりはない。世界の会社のいくつかは、被雇用者のクリエイティビティやイノベーションからもたらされた収益や売上の一部を彼らに還元する。アメリカン・エアラインは毎年、コスト削減や時間節約、プロセスの改善に役立つアイデアを提供した従業員に対し、何百万ドルもの「褒賞」を与える。

  査定を利用する

 変革に真剣に取り組む企業にとっては、つねに何かしら改善の余地がある。問題点の所在を明確にするには査定が活用される。また、個人と組織の双方とも調整を要する可能性もあるので、個人と組織それぞれの査定が行われる。委員会が組織され、変革や改善が必要な問題点解消の方法を見出すよう個々に命じられる。

おわりに

 権威的で専制的な経営スタイルから、指導的で自主性を促すリーダーシップへの転換は、企業の経営者に大きな苦労を強いるだろう。しかし、それは払っただけの努力に対する見返りを得られるだけでなく、今後何年にもわたって力を発揮する結果につながるだろう。この必要性を認識しない会社はやがて、利益を上げるために必要不可欠な人材を集め、活用し、保持しておくことができなくなるのは明らかである。

ジョイス・ジョイヤ=ハーマン 
ロジャー・ハーマン

公認経営コンサルタントRoger E. Herman氏は、戦略的ビジネス予測家であり、被雇用者安定研究所のシニア研究員としても活動。公共政策の修士号をもつ。Roger氏の人生とビジネスにおけるパートナーJoyce L. Gioia氏も公認経営コンサルタントである。28歳にして全米で最年少の出版経営者となり、20年のマーケティング経験ももつ。MBAを含む3つの修士号を取得。両氏は、経営コンサルタント会社The Herman Groupを共同経営し、顧客の未来の成功をコンサルティングや講演を通してサポートすると同時に、人材獲得競争における国際的なプログラムを日本を含め各国で開いている。両氏の著書は、"Keeping Good People" "How to Become an Employer of Choice"等。

『Works No.44 機能する「成果主義」』(2001年2月発行)掲載

 
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