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「役割成果主義」という概念
成果主義とは、「どのような仕事をどの程度やったか」に着目し、自らの役割を通じてがんばった人に、より高い報酬や仕事の機会を約束する概念といえます。
"どれだけやったか?"というと、業績主義的な概念としてとらえられやすいのですが、「個人の成果」に着目する「成果主義」においては、「『どのような仕事』が、『どれだけできた』」という「個人の担う役割」の概念を踏まえて考えることが重要になります。
「評価に差をつける」のであれば「業績主義」で十分ですが、本来的な意味での処遇配分や、個人の自立的な職務への取り組み、能力発揮機会の提供といったときには、「役割」の概念が不可欠です。「役割」は、職責、ミッションなどいろいろな概念の広がりをもちます。また、「その役割をこなす能力をもつ」という意味で、能力の概念も内包します。したがってわれわれは、「成果主義」を「役割成果主義」という概念で理解しています。
2、3年ほど前から、処遇・評価制度の改定において成果主義を導入する企業が急速に増えてきました。導入時点では、個人でやったことで差がつく「業績主義」を志向し、次に、より高い合理性と従業員意識の改革を志向した「役割成果主義」(役割・職務給制度やMBOの本格導入など)に設計がおよぶ、というステップが進んでいるように思います。
個人側に出やすいデメリット
役割成果主義導入の取り組みは最近のことですから、今はまだ、導入への評価は、多くの企業では出ていません。運用上のさまざまな課題に悩みつつ、本来的な人事の意図するコンセプトに近づける努力を重ねているのが実情です。
導入後は、職能から職務・役割への「人事基幹システムの転換」だけでなく、「管理者のマネジメント行動」や「組織方針の打ち出し方」、「ローテーションの仕方」などさまざまなサブシステムやマネジメントプロセスが影響を受けます。暗黙的な慣例も含め、旧来の職能制度運用が組織に色濃く染みついていますから、大変です。
しかも、最近は、制度改定を非常に短期間に行う傾向が強まってきました。これまで3年かけていたことを1年半で行う。市場の変化と企業の収益構造の転換が、時間の余裕を許さないからです。しかし、そうすると、従業員がついていききれていない。「制度設計はできるが、運用に入った瞬間に、人事サブシステムやマネジメントプロセスとの不整合が露呈する」ケースが多く起こっています。
「役割成果主義」は経済合理性の高い処遇管理システムですから、経営にとってのメリットは見えやすいと言えます。しかし、運用で支えていかないと、個人側にとってはデメリットが非常に出やすい。
「役割」「職務」をベースとする制度は、元来、「ポストが空かないと処遇が上がらない」「セクショナリズム」「能力開発意欲を損なう可能性」といったデメリットを内包しています。当然ながら、処遇・評価制度設計時にテクニカルな意味でデメリットを補う施策を織り込みますが、それだけではなく、処遇・評価制度をトータルな経営人事システムの一部としてとらえ、他のサブシステムと併せて改定努力をしていくことが、運用を軌道に乗せる鍵を握ります。
具体的には、図表1にあるような従業員側からの不満が出ます。
たとえば、「能力を高めて自ら職務を獲得しなさい」と言う一方で、企業においては、同時に教育費が削減されていたりするわけです。職能をベースとする研修体系は、基本的に資格を上がるために必要な「最低限の能力」を開発するためのプログラムです。人事制度改定とともに、教育制度の改定を行う企業ももちろん多いのですが、従来あるプログラムの再編成、焼き直しにすぎないケースが少なくありません。専門領域を高め、自分のミッションにおいてより高い成果を出していくためには、従来よりもレベルの高い教育機会の提供が必要となるのが「役割成果主義」です。ですから、教育費が削られてしまうと、「役割成果主義」の印象が非常にネガティブに、従業員に受け取られかねません。
こうした問題をクリアするには、企業の体質改善、特にマネジメントの根本からの意識転換が重要です。役割成果主義が導入されるということは、「仕事は与えられるもの」というこれまでの意識から「仕事は作るもの」という意識に変わり、マネジメントも、「仕事・役割を通じたマネジメント」に変わることを意味します。
上司の役割は、部下の業務遂行をサポートすると同時に、「部下の職務を広げたり、充実させたりして、より職務価値の高い仕事をさせること」であり、より高い仕事へのチャレンジの機会、能力開発機会を提供することとなります。それができないマネージャーは存在価値がなくなります。「成果主義におけるマネジメントとは何か」をマネージャーが自分のテーマとして考える場が必要です。
成果主義 成功のキーワード
成果主義がうまくいっている企業のキーワードは何でしょうか?
ひとつは、「ビジョン」「ミッション」です。MBOを導入すると、必ず上位方針の不在が話題になります。トップマネジメントの多くは、経営数字をもとに業績を管理したり、今日的なテーマを打ち出すことには慣れていても、関係するステークホルダーを意識したミッションやビジョンを示すことには慣れていません。役割成果主義は経営・事業戦略を言語化し、組織の方向性を示しつつ各人に役割をおろしていくことですから、ビジョン・ミッションは必須です。
加えて、成果主義によって働き方の変化を事前に検討し、制度の作りこみの過程に「従業員の参画」を積極的に促すことも重要です。
また、組織における成果ユニットのあり方を、再定義していくことが必要です。ある企業で製造部を別会社化した途端、昨日まで製造部長だった方が社長になり、製造部長であったときには考えもしなかった"ビジョン"を考え、打ち出し、自然と、成果を志向した自立的な活動が立ち上がっていった事例があります。これは、成果ユニットの定義付けと、成果に対する個人の自覚が重要であることを示す一例です。
今、多くの企業が制度改定に取り組んでいますが、本来的に目指すのは、従業員が自らの役割や存在価値を自覚し、創造的に業務に取り組み、能力を開発していくことです。完全な制度などありません。自社に導入したらどのようになるかを様々な視点から検証しつつ進めることが大切だと思います。
| 図表1 役割成果主義移行に伴う経営人事サブシステムの変革 |

出所:奥本英宏 作成
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奥本英宏(おくもと・ひでひろ)
1992年立教大学卒業後、人事測定研究所入社。人事制度構築・運用場面におけるコンサルティングサービス、人事アセスメントツールの効果的な活用提案を通じて、企業の経営人事課題の解決をサポートしている。入社以来、主に通信・IT業界、都市銀行・信託業界などの大手企業を担当している。 |
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『Works No.44 機能する「成果主義」』(2001年2月発行)掲載 |
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