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機能する「成果主義」 Works Institute
リクルートワークス研究所
 

特集1

機能する「成果主義」

『Works』編集長
豊田義博


2001 年 2月 10 日


 成果主義について、敢えて論じたいと思う。既に多くの企業が検討し、あるいは導入していながら、極めて表面的に語られ、理解がなされていると思われてならないこの概念について。

「成果主義」は、新たな活力を生み出したか?

 「成果主義人事の導入を計画しながら、倒産してしまった会社が、私のクライアントだけでも2社あるんです」
 ある人事コンサルタントの言である。倒産の理由を仔細に見ることは難しいだろうが、その企業に「成果主義」が浸透していなかったことと無関係ではないだろう。そして、現在も多くの経営者が感じているはずだ。「成果主義人事の導入は、企業の生き残りのために必ずや成し遂げなくてはならない」と。その背景・理由は概ね次の二つに集約される。ひとつは、現行の報酬制度では、人件費比率が上昇し続け、やがては経営が破綻しまうから。そして、もうひとつは、「頑張っている社員と、何もやっていない社員で、給与が同じなのはおかしい」という、当たり前でありながらこれまで見すごしてきた状況に対する疑問から。そこで、「個人が挙げた成果に連動した報酬体系」としての「成果主義人事制度」がクローズアップされる。一見すれば、至極当然の結論であり、異論の余地はないようにも見える。しかし、制度の導入が人件費削減を生んだという話は聞いても、企業に新たな活力を生んだという話はなかなか聞けない。

成果を生み出さなかった"成果主義"

 "成果主義"を取り止めた企業がある。競争環境の激化から、他に倣うような形で「年俸制」を導入したその企業は、「成果」をどのように評価するかという基準が曖昧であったことに加え、予想を上回る業績の低迷によって、成果を挙げた人材にも十分な報酬を与えることができなくなってしまったという。
 かと思うと、"成果主義"を取り止めて、業績が回復した企業もある。その企業は、大胆な改革を余儀なくされる中で、営業担当者のコミッション的な報酬体系を全廃してしまった。不服を覚える優秀なセールスパーソンが次々と退職したが、新たに採用した、新たな営業スタンスに共鳴した人材の活躍もあって、業績は急速に回復したという。
 こんな話もある。とあるIT関連企業。業績好調で、成果主義人事が浸透していると思しきその企業の人事責任者は、「当社は、成果主義の成功事例とはいえない」と言い切る。「現在の状況を支えているのは、業界のフォローウィンド。この状況がやがて変化するそのときに、現在の方法、制度が有効なのかどうかは、まだ検証されてはいないのです」
 こうした事例は何を暗示しているのだろうか。

成果主義とは報酬制度のことではない

 株式を公開している企業の経営者が、成果主義へと傾注するとき、彼の視界の中央には「株主」という大きなステークホルダーが位置しているに違いない。彼らに対する責任を全うするため、すぐにでも業績を回復させるため、経営者は最も大きなコストである人件費に目をつける。そして、社員に対して自身の思いを伝えんと、これまでの報酬制度とは一線を画した、ラディカルな処遇体系を導入する。さて、何のために?
 改めて、企業が株主に対して、社会に対して取るべき責任とはなんだろうか。それは、社会に対する何がしかの貢献と、それによってもたらされる持続的な成長、といえるだろう。少なくとも、急速に落ち込んだ業績を何とか立て直すとか、利益額を少しでも増やすなどというような矮小なレベルのものではない。しかるに、成果主義人事制度を導入する企業の多くは、「給与の年功部分を廃止」「同職級でも最大○○%の年収格差」など、近視眼的な部分ばかりを強調する。それで、企業は本当に強くなるのか。持続的な成長を遂げられるのか。そもそも企業の「成果」とは、果たして何なのか。
 前述の事例を、改めて引き合いに出すまでもなく、ひとつ断言できる。成果主義とは、報酬制度のことではない。給与格差など取るに足らないものだ。重要なのは、新たな成果を生み出し続ける仕組み、風土を作り出すことである。

個人のハッピーと企業のハッピー

 日本企業がこれまで最も大切にしてきたステークホルダーである従業員に対して、ショック療法宜しく新たな人事制度を投入することで、望むべき組織風土が手に入れば何と幸せなことだろう。しかし、相手は複雑な感情をもち、かつ会社組織に所属する以外に多様なバックグラウンドをもった人間である。これまでの「組織に所属することで得られる安心」に替わる、納得感のある「企業と個人の新しい幸せな関係」が醸成されずに、個人は新たなモラール、モチベーションを喚起することはない。そしてそれは、「高い成果を上げた人材を厚く遇する」という謳い文句を掲げながら、奇麗事の陰に組織の都合が見え隠れしてしまうような報酬制度だけでは到底生み出しえない。その前に何かを変えなければ。
 それは、例えば経営ビジョンを策定するようなことかもしれない。つまりは、変わるもの・変わらないもの、失うもの・新たに得られるものを明示することだ。そしてそのために組織自身、経営者自身も当然変わらなければならない。

 個人のハッピーと企業のハッピー。成果主義という言葉を間に置いた上で、一見対立するかに見えるこの両者を同時に成立させる解を追求する。易しいことではないが、日本企業が日本企業として日本企業らしく再生するためには避けて通れない課題だ。そして、それに成功したとき、我々は新しい「日本的経営」を世界に向けて提示することになるだろう。

『Works No.44 機能する「成果主義」』
(2001年2月発行)掲載

 
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