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インタビュー

新人事制度に、山のようなクレームが来ています

富士ゼロックス

富士ゼロックス 人事部 人事企画グループ長
原井新介


2001 年 2月 10 日

半歩先で舵を切る

 人事制度の見直しにあたり、多くの日本企業が年齢軸を捨て、成果主義に変えたと言われます。でも、年齢軸や年功序列の中身は何かといえば、卒年管理だと私は思います。ある意味で「年功序列」というのは、社員全員が何年卒何人中何番という背番号を背負いながら社内での位置付けが決まっている世界です。ですから、「Aさんは80年卒」と見事に答えるのが"人事マン"だったわけです。そして今、その年功序列を捨てようとしている。では、代わりに何を軸にしようとしているのでしょうか。
 人事の方とよく話をしますが、数年前から皆さん、自信を失っていたように感じています。職能主義がうまくいかなくなったことはよくわかっていて、トップからも"早く変われ"とがんがん言われる。そのなかで、受け売りのような流行言葉を使いながら制度を語ったり、コンサルタントを入れてでも何かを作ろうとしたりするケースも、時として見受けられました。しかし、代わりになる軸の議論が十分でない場合、当初の熱が冷めてみると、"それで本当にいいのか"と上からも下からも問われ、その結果、自分自身も不安になる。
 おそらく、世の中の動きに、私たち人事の側がついていっていないんじゃないかと思うんです。8割以上の人がYESと答えたときに舵を切ったのでは遅い。2割くらいが声をあげたときに、思い切ってそちらのほうに舵をとらなければ多分企業は生きていけないでしょうし、トップの信任も得られないことになります。しかし、奥の院に閉じこもったままで、現場の風を感じない人事であった場合には、半歩先を行ける感度も勇気も生まれない。さまざまな痛みがあるなかで、どうそれを乗り切れるかという力量が、今、人事に問われているのだろうと思います。

客観的な指標が、なぜ必要か?


 一括りでは語れませんが、あえていえば、グローバルスタンダード、すなわちアメリカンスタンダードは「成果主義」だと思います。そして、アメリカにおける成果主義の軸は、「マネジメントがどう思うか」です。ですから、大統領がブッシュに変わったらホワイトハウスの人員がそっくり入れ替わるわけです。「誰を任用し、どう評価するか」がマネジメントに許されている。それが成立するのは、マネジメント自身が成果を出せなければそのポジションを失うという市場原理が働いているからです。それゆえマネジメントが恣意的にならず、成果を出すために、必要なリソースの適正配分を必死になってやる。もし、マネジメントが恣意的な運用をすれば、人々はそこを去り、違う職場で働くという選択をすることになります。
 では日本では、トップやマネジメント層がそのような強い市場原理にさらされ、成果が問われている状況でしょうか? 納得できなければ違う職場を選べるほどに、日本の労働市場は流動化しているでしょうか? もしそうでないとすれば、「誰を任用し、どう評価するかのツール」を提供すると同時に、「恣意的な運用や情実人事を防止するための仕掛け」が企業には必要ではないか、と考えました。
 当然のことですが、社員の信頼を失ってしまったらどんな制度も成立しません。そして人事制度は、社員を元気にするための手段です。マネジメントにすべてを委ねる文化のない日本では、カンパニーやラインマネジメントに権限を委譲する傾向を強めながらも、年功序列に代わる、何らかの客観的な軸、指標をもたないと、人々の満足も得られないし成果もでないだろう、と私たちは考えたのです。

「コンピテンシー」から始める

 では、どんな軸を考えるか。
 個人が犠牲になるような企業というのはありえません。会社も伸びていきたいし、個人も成長したい。双方がウイン・ウインの関係になるにはどうすればいいのか? この当社の精神にのっとり、個人と企業が対等になることを考えた場合、年齢の軸を捨てたら、能力の軸しかありえませんでした。
 加えて当社には、変動の激しい知識創造型のIT産業のなかで生きていくために、「人材のミスマッチをどう防ぐか」という人事上のテーマがありました。現在、「コピー」という文化のなかに、研究から開発、生産、営業にいたるまで、非常にスキルの高い人たちが多くひしめいています。一方で、成長の余地も大きい情報・通信分野が近傍に存在している。会社は新分野への挑戦を望み、社員はやりたいことを目指して自己開発を望んでいます。それを成立させるためには、「社員の能力が伸びたら、やりたいことができる」というルールと指標が必要です。
 これらのことから、96年に、中身もまだよく知らなかった「コンピテンシー」を能力の軸として使おうと先に決めてしまいました。私たちが作り上げているコンピテンシー・モデルが由緒正しく、70年代アメリカのコンピテンシーの源流にのっとっているかといえば、違うかもしれませんし、違っていいと思っています。順番が逆のようですが、コンピテンシーみたいなものを軸と決めて、そこに何かあるはずだというところから、改革に入ったのです。

モラールサーベイからの発見

 改革にあたってはじめに、社員に行ったモラールサーベイを分析しました。「個人を大切にするということは、根源的にどのような意味か」「社員が望んでいることと経営が望んでいることの接点は何か」を知ろうとしたのです。
 その結果、ずれはあるものの、「経営が求めることと社員が求めることの多くが重なる」ということがわかりました(図表1参照)。そこで、その重なる部分の「最大化」と「ベストプラクティス化」を目指すことに、人事施策の狙いを絞りました。同時に、「社員は求めるが会社は求めないもの」については「最小のコストで最大の従業員満足を得る施策」を、「会社は求めるが社員は求めないもの」については「事象そのものを減らしていく施策」に取り組みました。
 サーベイでは、多くの社員が「成長したい」「能力を上げたい」「そのために何を学べばいいのかを支援してほしい」と答えました。会社の方はといえば、「プロになってほしい」「自立してほしい」と言っている。そこで、社員を成長させてプロにする、同時に経営戦略も具現化させるということを人事制度のまんなかに据えたらどういう制度になるんだろう、となったわけです。
 当時の社長も「これからは、知恵が勝負になる。嫌々やらされていたら知恵なんて出ない。やりたいことをやっているときに知恵が出る。だから、この人は大丈夫と見極めたら、好きなようにやらせたほうがかえってパフォーマンスを高める」と言っていました。
 そのような過程を経て考えだされたのが、従業員満足(ES)を上げることで顧客満足(CS)を上げ、おもしろく、つよく、やさしい会社を目指そうという、「おもしろい会社実現のためのモデル」であり、「従業員満足を通じた顧客満足のためのキーワード」群だったのです(図表2参照)。

図表1 人事施策の狙いの絞込み


        
※上図にかかわらず、制度設計に際しては当該項目のベンチマークは実施する


図表2 おもしろい会社実現のためのモデル

成果主義」成立の3条件

 改革に着手してみて思ったのは、「成果」を問えば問うほど、「その人の役割は何か」を問わなければならないということでした。
 成果主義が売上や利益の議論になればなるほど、「成果主義」ではなく「結果主義」に陥ります。「結果主義」に突き進むと、当たり前のことを当たり前にきちっとやっていくことが奨励されず、人々の関係が殺伐とし、会社の文化が崩れ、現場が崩壊していきます。それは会社が意図せざることです。
 そうではなく、繰り返し成果を生むことを私たちが求めるとすれば、プロセスを含めた全体像を問わなければいけないと考えます。そのために必要となるのが、「役割主義」です。「成果主義」には、必ずこの「役割主義」がついてこないといけない。営業でも研究開発でも、組織のなかで仕事をしている以上、そこには期待される役割が必ずあるからです。期待されなければ、人は何に向かって働くかわかりません。
  「成果主義」と「役割主義」、それからそのような期待や役割を言語化するのに非常に役立つ「コンピテンシー基準」の3つがあって初めて制度が成立しうるのです。
 以上のようなコンセプトをもとに、人事施策を2年間かけて具現化し、99年1月から、役割とコンピテンシーマネジメントによる新人事制度を導入しました。

権限と道具と結果

 新人事制度では、職能等級制度をなくし、任用はコンピテンシーを軸に、処遇は役割グレードを軸に成果に基づいて行うようにしましました(図表3参照)。
 当社の制度はあくまでもツールです。それを使ってどのような絵を描くかは社員の責任であり、組織においては組織長の責任です。
 たとえば組織長は、全員にAをつけてもいいことになっています。もちろんその分一人当たりの成果給は下がります。報酬や仕事のあり方をデザインするのは組織長の責任であり、それで業績が落ちたり社員が逃げていったりしたときには、それも組織長の責任です、とはっきり言っています。
 また、いわゆる「社員満足度調査」ですが、当社ではこれを、どう社員のモラールを上げていくのかに焦点をあてた「モラールサーベイ」という名前にして非常に大事にしています。組織長の業績評価の10%は、このサーベイ結果が占めています。組織に対する満足度が低いということは業績も低くなることと判断しているからです。
 権限を委ね、道具も提供し、しかし結果は厳しくみる。これが、成果主義においてエンパワーメントを進める仕組みだと思います。

図表3 社内おける労働市場の実現を目指して

「クレームをつけ続けてほしい」

 新人事制度を入れて2年たちますが、多くのクレームが入ってきています。
 私は社員に対して「納得しない限り、クレームをつけ続けてください」とお願いしています。
 かつて、能力評価は社員には公開しませんでした。それゆえ、クレームもありませんでした。しかし成果主義では、「組織と個人が契約関係を1対1で結ぶ」という関係を保つことが原則です。そのためには「情報の公開」と「社内の自由な労働市場」が必要になります。当社では役割のグレードも、任用の要件も、業績評価の結果も公開しています。社員の希望に対して会社がノーと言うことがある場合には、どうしてそうなっているのかをきちんと説明し、従業員の納得をもらう責任が会社にはあります。クレームをつけ続けてくれれば、必ずそれを直そうという努力を続けます。
 私は、やはり、その人の人生というものを大切にしてあげたいと思っています。人は、納得して生きるべきですよね。

第二フェーズへ


 運用に際しては、「賃金は役割成果主義で払う」、「誰にその仕事をさせるのかというときの基準がコンピテンシーである」という2つの原則を決め、多くの人事権を現場に委ねています。その一方で、コーポレートとして、本当にきちっとした運用が行われているかを“監査”する責任があります。しかしそれは、利益責任を負っている現場に横から口を出すことになります。ここでも現場に納得してもらう知恵が問われ、今私自身がこのことで苦しんでもいます。
 私は富士ゼロックスを緩やかな企業集団にして、そのなかで人々が自由に自分の働き方を求めて動く企業にし、いつの日か、正社員という言葉を死語にしたいと思います。どうやって企業や組織の垣根を取り払うか、それを考え、実行していきたいと思っています。

原井新介(はらい・しんすけ)
横浜国立大学工学部卒。96年から検討を開始した新人事制度
プロジェクトにおいて、全体の企画・立案・推進を担当している。


『Works No.44 機能する「成果主義」』
(2001年2月発行)掲載

 
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