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企業レポート

成果主義の好循環をめざす

沖電気工業 / 日興證券 / ニッコウトラベル

フリーライター
村井優子


2001 年 2月 10 日

成果主義を導入する企業が増える一方で、その成功と失敗の明暗が明らかになってきた。成果主義はあくまでもその企業の戦略に沿って、設計・運用されるべきものであり、正論はない。しかし基本となるものの考え方・視点はある。それは何か。導入事例から追った。

 国際企業経営者協会で3年間、成果主義プロジェクトを行ってきた、外資系コンサルタント会社ケプナー・トリゴー・グループ日本支社の会長兼米国本社パートナーである中島 一氏は、成果主義について、「経営という視点に立って成果主義を考えないと部分改修で終わる。経営業績と人事制度というもののリンケージを考えないといけない」と語る。また、国際企業経営者協会会長・浜脇洋二氏は、「成果主義は目的ではなく、あくまで業績をあげる手段です。最も効率よく、できるだけ少ないコストでいかに高い業績をあげるか。そのためには能力をいかにして引き出すか、という手段ですよね」と言う。
 では、そもそも人はどのようなときに自らすすんで仕事をするのだろうか。それは報酬だけではなく、仕事に対する誇り、自己実現、責任など、さまざまなモチベーションに基づく仕事の「成果」に喜びを感じ、自分の価値を見出している時である。成果主義とはこうした社員のさまざまな行動の「成果」を原動力として、企業もまた伸びていこうとする制度ではないか? 成果主義を導入するということは、集団管理を捨て、社員ひとりひとりに自分の役割を認識してもらい、それに応じた能力を発揮してもらうことである。
 個人の成長が企業を成長させ、それがまた個人を成長させるという継続的な好循環は、はたしてどのような制度、理念、視点をもてば可能になるのだろうか。

CASE1 沖電気工業
何のために制度を導入するのか


 沖電気工業では2001年2月21日から、これまでの職能資格制度を廃止し、職務グレード制を導入する。同社は98年に経営改革に着手し、カンパニー制導入とあわせて人事制度改革を敢行。成果主義を柱とした人事制度の構築に取り組み、2000年には会社業績連動型賞与、コンピテンシーの導入を実施した。今回のグレード制導入で制度上の改革は第1フェーズを終える。
 同社は成果主義で何を目指し、企業と社員の関係をどのように再構築してきたのだろうか。人事部人事チームリーダー・末岡克教氏は、「成果主義導入の意味」を次のように語る。
 「きれい事のように聞こえるかもしれませんが、成果主義とは数値や結果を追い求めることを社員に強いるものではなく、『会社が社員の成果を引き出すプロセスにキチンと関与し、社員は会社への貢献を通して自分自身がいかにハッピーとなるかを目指すもの』と考えています。その前提として『経営と社員の間に対等の関係』が必要です。会社は、社員の成果によって顧客や株主に対する責任を果たしていると考えるべきです。今はまだ制度を整備した段階ですから、そのような好循環が築けるかどうかは、制度の本格的な運用が始まるこれからが勝負です」
 98年度、同社は連結で477億円の大欠損を計上。生き残りをかけて、中期経営計画「フェニックス21計画」を策定、スタートする。そのときの9つの経営課題のひとつが、人事諸施策の革新だった。
「『フェニックス21計画』では、それまでの『受注型・ハード主体のビジネス』から『企画提案型・ソフト/サービス主体のビジネス』への転換がうたわれ、企業行動、社員行動のすべてを『収益』と『スピード』に振り向けることが示されました。このような方向へ社員の行動を変え、新たな組織風土・企業文化を構築するにはどうしたらいいか――これが人事制度改革を実現するうえでの大きな課題でした」
 同社は、企業の存亡の危機における変革とはいえ、短期的な業績向上だけではなく、「会社と社員のWIN―WINの関係」という視点を基本に変革に臨んだ。そのため、制度設計以外の動きも意識して同時に行われた。
 たとえば、変革の際に力を入れたことのひとつが、社内のコミュニケーションの促進である。
  「制度を導入したからといって、社員の行動や考え方が簡単に変わるわけではありませんし、処遇に納得するわけでもありません。制度がうまく機能するためには、現場での話し合いを通じて、社員に納得感と理解を深めてもらうことがまず大切だと思いました。具体的には、全社員に制度紹介パンフレットを配布し、イントラネットへも掲載したほか、コーポレート、カンパニー両人事で手分けをして開催した説明会は数十回を数えます。また、年1回行われるキャリアデザイン(キャリアプラン作成のため、意識調査・上司部下の面談・研修を実施)の時期に制度展開をあわせ、意見聴取や上司部下の間での話し合い、より詳しい解説を並行して行うなどの工夫をしました。
 そのほかには、職場ごとにキーマンを中心としたワーキンググループを設置。職場にあった展開方法を検討してもらいました。」
 コミュニケーションを重視する風土の醸成は、96年に導入したMBOに始まる。同社のMBOは、トップから一般社員まで目標をブレークダウンしながら、社員ひとりひとりの能力が最大限に発揮できる風土づくりをすることを最大の狙いとしていた。従って、MBOの展開は人事ではなく経営企画部門で主導し、導入時点では、MBOを人事考課に反映することは見送った。

経営業績とのリンケージを考える
沖電気工業 人事部
人事チームリーダー
末岡克教氏
 また、経営との連動を徹底するために、2000年には全社員に対して業績連動型の賞与を実施している。
 幹部社員の給与は年俸制。賞与額は(1)会社業績、(2)カンパニー業績、(3)個人業績で決まる。労働市場での賞与水準額に自社の方針を加えた「標準額」を基準として、会社業績±20%、カンパニー業績±10%、個人業績±30%の変動幅をもたせている。会社業績とカンパニー業績はEVA、FCF(フリーキャッシュフロー)、経常利益などの指標を用いた「バランス・スコアカード」によって算出される。
 一方、組合員の賞与は、固定部分(平均賃金×4カ月)+加算部分(営業利益×7%)を原資として、個人業績とカンパニー業績を加味して決まる。この「個人業績」部分はMBOと連動し、それまで人事考課と切り離していたMBOを99年から反映させるようにしている。
 2000年12月の賞与を検証すると、「個人業績」と「カンパニー業績」による個人の支給額の最大格差は、組合員で50万円以上、幹部社員で150万円以上になっている。
 業績連動型賞与を導入したことで新たに出てきた課題は、「いかに目標設定と成果評価に対する公正性、納得感を高めるか」である。
 96年のMBO導入時、人事考課に連動させなかったのは、コミュニケーションツールとしての徹底という理由のほかに、コミットメントのスキルがないままにMBOを導入することの弊害を危惧してのことだった。具体的にいえば、「目標を達成させるために期初目標が低く設定される」「評価が公正でない」などである。これまで4年をかけて定着を図ってきたが、今後は、幹部社員のMBOスキルを向上させる訓練を充実させる予定であるという。
 2月21日のグレード制導入後は、それまで行ってこなかった人事考課のフィードバックも開始する。

役割と発揮すべき能力をどう言語化するか

 成果主義で生命線となるのは、評価の公正性であると同時に、その成果を実現する「役割」を明確にすることである。「役割」があって初めて社員は、「組織の中でのポジショニングと発揮すべき能力」を知ることができる。
 同社はその「ものさし」としてコンピテンシーの導入を決定した。コンピテンシーとは、「業務遂行にあたり高い成果・業績を継続して創出している人に特徴的に見られる行動特性」(同社人事部定義)である。98年からコンピテンシーの策定に取り組み、2000年4月、本格導入に踏み切った。
 「社内のハイパフォーマーを集め、ディスカッションやインタビューに協力してもらい、沖電気に求められる社員の行動特性を23項目にまとめました。設定された項目はそれぞれ5つの観点で構成され、6段階のレベルに分けられています。これは『コンピテンシーディクショナリ』としてイントラネットで公開されており、社員はこれを参考にしながら、高い成果をあげるためにはどのような行動をとるべきか、自分の行動レベルはどのレベルにあるのかを知ることができます」
 現在はまだコンピテンシーを人事考課に連動させるところまでには至っていないが、末岡氏はコンピテンシーを社員に有効に使ってもらうことが社員の能力開発を支援し、ひいては企業の成長につながると考えている。
 「当初は、コンピテンシーは評価ツールとして使えると思っていました。ところが取り組んでいるうちに、むしろ社員の行動を変えるツールとして優れており、能力開発にも、ジョブマッチングにも使えることがわかってきました。今後はコンピテンシーをさまざまな目的に合わせて使えるよう、環境の整備を進めていきます。既に『コンピテンシーディクショナリ』を使った社員の自己診断データの蓄積を終え、現在は現場の協力を得て各カンパニーの『仕事』に関するコンピテンシーを設定中です。これらのデータが蓄積されると、今の仕事に求められるコンピテンシー、やりたい仕事に求められるコンピテンシー、コンピテンシーを満たす人材の検索など、社員やマネジメントが自由に閲覧できるシステムが構築され、任用や異動、社内公募に生かすことができます」
 その一方で、コア人事、将来のビジネスリーダーについては、「変わろうと努力している人に対しては、コア人材になってもらえるよう最大限の支援をしたい」(末岡氏)という考えを制度改革当初からもっていた。そのため、主に役員直前の人材を対象とした「フェニックスフォーラム」を開講するほか、毎年合計40人程度を集めて、30代幹部社員の外部ビジネススクールへの派遣、20代技術者に経営センスを身につけてもらう「ビジネスマインドトレーニング」など、選抜型研修を用意して社員の自己啓発、能力開発を支援している。

運用ノウハウを蓄積し制度を進化させる

 制度を設計、導入するまでを「第1フェーズ」とすると、グレード制に移行する2月21日からは、同社にとっての「第2フェーズ」に入るといっていい。今後は事例を積み重ね、運用ノウハウを蓄積し、それを進化させる時期に入る。コーポレート人事は、現場のマネジメントをもっぱらカンパニー人事に任せ、提供したツールをより有効に使ってもらえる環境整備に力を注ぐと言う。
  「たとえば、社員にとって幸せの条件は何かといえば、人によって、お金だったり時間的なゆとりだったりと、さまざまです。働き方も新しいことにチャレンジしたい人と、好きなことをコツコツやりたい人がいる。私としてはコンピテンシーというツールを使って、社員に何が自分にとっての幸せなのかを考え、社内での自分の場所を見つけてほしいと思っています。また、働く場所、働き方の選択肢を増やすことを考え、積極的に情報公開し、ジョブマッチングの整備を進めていきたい」
 幹部社員のマネジメントスキルを引き上げる支援のあり方も探ろうとしている。ただし、それは研修のような定型的なものではなく、上司と部下の信頼関係を醸成するメカニズムなり、力学なりを組織風土として醸成していくことにある。
 成果主義の将来像について末岡氏は、 「今、幹部社員は組織の1プレーヤーとして行動するだけでなく、人事考課や面談などの職場マネジメントも確実にこなすことを求められ、負担は少なくありません。まずは、日頃のコミュニケーションを実践し、信頼感、納得感を醸成し、面談など一時的に集中する負担を分散してもらう工夫が必要です。しかし、それだけでは幹部社員の負担は減りません。マネージャーとプレーヤーを分けるという方法もありますが、究極的には社員ひとりひとりが会社の期待や目標を理解し、最適に動くという行動をとるような企業を目指します。上下という位置関係ですべてを語るのではなく、お互いがパートナーとして信頼しあい、ひとりひとりが成果を出していくような組織風土を醸成する方向ですべてを考えていきたい」と話す。

沖電気工業
事業内容:通信・情報・伝送システム、測機・制御機器システム、半導体、電子部品等の研究・開発・製造・販売
※東証一部、大証一部
設立:1949年11月1日(創業1881年)
資本金:678億6236万円(2000年3月期)
売上高:4886億円(2000年3月期)
従業員数:8760人(2000年3月期)

CASE2 日興證券
ステークホルダーの満足を極大化する

 成果主義の制度設計・運用は、あくまでもその企業の戦略に沿って行われるものである。沖電気工業が新たな組織風土、企業文化の構築を目指して制度を設計したのに対して、プロ集団の育成、専門性の向上に主眼を置いて「成果主義」を取り入れた企業もある。日興證券だ。同社は2000年から総合系列組合員の月例給与を年齢・社歴に関係なく一律30万円に設定、個人業績に応じて賞与で格差をつけるという給与体系を導入した。
 制度改革の背景について、人事部第二人事課長・国井豊一氏は、
  「人事制度の改革に本格的に着手したのは98年です。当時、経営環境の悪化から収益構造は最悪の状態でした。ちょうどシティグループと資本提携したこともあり、社内には実力主義を希望する声が出始めていました」とふり返る。
 人事制度改革に際して同社が発表したのが、7つの理念だった(図表1参照)。 「要は株主、顧客、社員というそれぞれのステークホルダーの満足をいかに極大化させるかということ。社員満足でいえば、がんばった人に処遇で報いる。当時職能等級制度もすでに限界にきていたので、限られたパイをいかに配るかが最大の課題でした」(国井氏)
 その結果出てきたのが99年1月の非組合員を対象とした年俸制を中心とする人事制度改革であった。その延長線上に、「組合員一律月例給与」があった。それまで同社には8段階の等級があったが、新人事制度ではそれをクラス1〜4に集約し、クラス1〜3を非管理者クラス、クラス4を管理者クラスとした。その非管理者クラスの月例給与が一律30万円である(転勤のある総合Aの場合)。

図表1 日興證券 新人事制度の基本理念
基本理念
考え方
顧客満足度を高め、株主が求める
黒字経営の実現が、社員を豊かにする制度
「顧客満足度・株主満足度・社員満足度」の高次元での実現を目指す。お客様に満足していただける、良質で付加価値の高いサービスを提供し、その対価としてフィーをいただく。それらの積み重ねによって業績が向上し、株価が上昇すれば、株主および社員の満足度も高まる。この好循環を維持していく
間接的処遇を減らし、
直接的な賃金が実績にスライドする制度
あらゆる業務・資産・福利厚生・慣習等について聖域を設けず見直しを行い、証券業務と関連の薄いものや間接的な処遇については、縮小または廃止する。経営資源を本業に集中させ、効率経営による利益拡大を目指す。その過程で正しいプロセスで実績を残した社員には、今まで以上に実績にリンクした報酬で報いる
年齢・性別にかかわらず、やる気と能力のある、
最適の社員が登用される制度
若ければよいということではない。年齢・性別にこだわらない、さらなる適材適所を実施し、組織の活性化をねらう。これにより、部下より若い上司や、女性の総合職・管理職がさらに増えていくことが期待できる
日々の仕事を怠ることは、現状維持ではなく
後退を意味する制度
正しいプロセスで実績をあげれば、部下の賞与が上司の賞与を上回ることもあり得る。また、ポストや年俸は既得権ではなく、あくまでも日々の努力によって維持されるものである
ラインの役員、管理職が評価に関する
権限と責任を担う制度
役員ならびに管理職は、部下とのコミュニケーションを密にすることにより、長所短所を把握し、適切な指導によりその能力を最大限引き出すよう努めなければならない。また、評価や登用については、人事部主導ではなく、現場の役員および管理職の意見を最大限反映させていくが、同時にその結果に対する責任も負うこととなる
社員の多様な価値観にも対応できる制度 社員の価値観が多様化するにつれ、転勤せずにひとつの場所で仕事に打ち込みたい、リスクを取って歩合型の報酬体系の下で自分の能力を試したい、などの声が寄せられるようになった。そのような社員のために選択肢を用意する
運用が公正で過程、結果が
本人に伝達される制度
実績主義を定着させていく前提として、評価の透明性・納得性の担保が挙げられる。実績主義の度合いを強めていくにつれ、評価格差は拡大していく傾向にあるが、自分の評価およびその過程について本人が知ることにより、納得性が高まるのと同時に来期に向けての反省材料にもなる

評価者の評価能力を上げどう公正な評価を行うか

 では、この格差の根拠となる「業績」の中身とはどのようなものなのだろうか。
 「賞与評価において、社員は期初に上司とのアセスメントでその期の目標を設定します。それをもとに期末に目標に対する達成度を決定し、定量、定性的要素を加えた上で各部店長が相対評価に引き直して各自の賞与額が決定されます。現在、能力評価については職種ごとに30項目のコンピテンシーを設定しているところで、来年度からはそれを年間評価に導入する予定です。コンピテンシーについては、コンサルタントの育成というテーマも意識しています」(人事部第一人事課長・小原公一氏) 
 新制度では、昇格年数を11年から5年にしたことも大きな変化だ。以前は等級が上がるごとに昇格していたが、新制度では「昇格」はクラス4に上がるときだけ。クラス4になると「証券業務のプロ」とみなされる。
 「新制度ではクラス2から4に上がることもでき、昇格をすすめています。これは業績をあげている若手にそれに見合った報酬・ポストを提供し、プロを早く育てることが狙いです」(小原氏)
 管理職になると、給与は年俸制に変わる。年俸の額は「ベース年俸」+「職務年俸」+「評価年俸」で決定される。
日興證券 人事部 
第二人事課長
国井豊一
日興證券 人事部 
第一人事課長
小原公一

「職務年俸」は業務の困難度や責任の重さによって0〜700万円の範囲で決まる。「評価年俸」は個人業績によって年間最大で、ベース年俸+職務年俸の0〜400%の格差がつき、理論上は約11倍もの年収格差がつく設計である。業績をあげている非管理職の給与が管理職の給与を追い抜くこともある。小原氏によれば、「管理職の場合はクラスが一つなので、その人の実力を判断する指標は年俸の額。より職責の重い職務に就く場合の判断も、基本的には年俸額が判断材料になります」と言う。
 現在、クラス1〜3は1200人。クラス4は1400人。年齢・社歴の指標がなくなり、業績重視の給与体系になった分、評価における上司の責任は以前に比べて大きくなった。賞与原資の配分の全権を握り、昇格の判断も行う部店長のマネジメント能力も「公正な評価」には大きな意味をもつ。同社のような人事考課を採用した場合、評価が恣意的になったり、評価が平均値に集中するようなことはないのだろうか。
 「確かに新制度の導入によって、以前よりマネジメント能力が必要とされるようになりました。今後は考課者訓練をより充実させることが課題であり、すでに中間管理職を含めたマネジメント研修を強化しています。役員クラスからも自身の研修を行ってほしいとの声が上がっています。将来的には360度評価などの方法も考えられます」(小原氏)

社員の行動を変える社外からの声

 制度導入からまもなく2年を迎えようとしている。現状では、特に、これまで業績をあげていながら給与やポストに反映されていなかった30代後半までの若手を中心に、新制度を歓迎する声は多い。彼らにとって業績重視の給与体系はモラールアップにつながっている。それは彼らの積極的な研修参加、資格取得にも表れているという。その点について広報IR室副室長・廣田祥二郎氏は次のように説明する。
 「土日に自主的に参加する『営業実践セミナー』は受け入れが間に合わないほどの盛況。AFP(ファイナンシャルプランナーの国内資格)、CFP(同、国際資格)の取得率も業界内では高い数値で推移しています。
 また研修を通じて、『決められた目標に突き進む能力は高いが、自分で考え、それを展開させる能力が弱い』という当社社員の弱点もわかりました。『営業実践セミナー』やAFP、CFPの取得促進は実務に直結したもの。今後は企画力・展開能力を強化するトレーニングも必要です」
 一方、異動希望は以前より減る傾向にある。「異動することで年収に及ぼす影響が大きいので希望が減っているのだと思います。しかし、評価がマネジメントに委ねられる部分が大きくなったことで、処遇に対する不満や、上司に対する不満も出てくる。そのような人のために社長を委員長とする『人事報酬委員会』を設け、社員が上司を介さずに処遇への異議申し立てができるようにしました。また、イントラネットを使った情報公開を進めているので、社員が人事に直接意見を言える環境も整備されました」(国井 氏)
 社員の行動や考え方を変えるのは、「報酬」や「処遇」だけに限らない。顧客からの声もまた社員を動かす。同社は昨年10月から「リテールのいちばん先へ、動く」というコマーシャルを展開しているが、このキャンペーンも社員のモラールアップに貢献しているという。
 「あのコマーシャルを見て来店したお客様から、『コマーシャルと違うではないか』とお叱りを受けることが増えました。しかし、お客様から直接声が入ることで社員もよりよいサービスへの関心が高まります。現在支店を介さないCS調査も実施しており、昨年6月の賞与からはこの調査結果を管理職の業績評価に反映させています」
 古い制度を新しくするとき、向かい風が吹くのは世の常だ。問題は、これから向かうべき方向、ビジョンを生き生きと描き出せるかどうか。まずは人事部自らが古い発想を捨て、「われわれの使命・役割は何か」を明確にすることが求められている。


日興証券
事業内容:証券業
※東証一部、大証一部、名証一部
設立:1944年4月1日(創業1918年)
資本金:2088億3100万円(2000年3月期)
総資産:4兆3967億8500万円(2000年3月期)
従業員数:6592人(2000年3月期)

成果主義ではないと語る企業の「成果をあげるマネジメント」のあり方

「当社は、"成果主義”でも、"能力主義”でもない。完全なチーム制です」と言い切る企業がある。ニッコウトラベルである。旅行業で着々と業績を伸ばし、昨年9月、東証2部に上場。同社の創業者である久野木和宏社長は、「どんなビジネスをやるにも、どこかで苦労をしなければだめです。我々は、理不尽であろうが何であろうが、真正面からとことんお客様の気持ちを受け止めます。大変なことばかりですが、商売としては『楽』になります。人と競争しない商売になるからです」と語る。
 成果主義を否定する企業が、いかに、経営において顧客に喜ばれ、業績を伸ばしているか。成果主義を考える新たな視点として、レポートする。

お客様に喜ばれる喜びが
仕事を面白くする

 サービス業では常にお客様と向かい合って仕事する。そこでは「お客様に喜ばれる喜び」がプロ意識を高め、仕事に対する喜び・誇りを高める。ニッコウトラベルではその喜びを社員の処遇に結びつけ、モラールアップとサービス向上につなげている。
   同社のツアーでは、旅行先で雨が降ると、添乗員が、「お天気が悪くて申し訳ございません」と深々と頭を下げる。
   「天気だけでなく、旅には『添乗員のせいではないけれど気分を害する』できごとがつきもの。そうした『やり場のない怒り』を受け止め、お客様に快適な旅を楽しんでいただくのが私たちの仕事です」
  久野木社長はそう話す。同社は顧客の8割が60歳以上、リピーターが7割を占める。添乗員はそうでなくても大変な仕事。それが高齢者相手となれば、サービスにも特別にきめ細かな配慮が必要とされる。だが、それだけにお客様に喜ばれる喜びは格別という。
 「『添乗員に言っても仕方がないけれど言いたくなる』というのがお客様の心理。誠意を込めて謝るとお客様はそれだけで喜んでくださいます。つまり謝ることは自分のプライドが傷つけられることではなく、お客様に喜ばれること。それがわかるとこの仕事はがぜん面白くなってきます」(久野木氏)
 同社では、旅の最後にお客様にアンケートを実施している。アンケートにはホテルや食事、日程についての項目のほかに、添乗員のサービス、知識についてたずねる項目がある。評価は「非常に満足」「やや満足」「普通」「やや不満」「非常に不満」の5段階。用紙は直接社長あてに送られ、その点数が平均4.5以上の場合は添乗員に報奨金が出る。評価対象となる項目には2000年1月から新たに「旅行代金からみた旅の満足度」も加わった。その理由を管理統括担当取締役・安良岡正光氏は次のように語る。
 「たとえばホテルや食事にクレームが出ると、それは企画部の責任です、とつい言い逃れしたくなる。それでは、添乗員の知識・サービスはいいけれども旅の満足度は今ひとつ、ということにもなりかねません。添乗員は、その旅のサービスの代表者。それを徹底させるために、この項目も評価対象に加えました」
 報奨金は一律だが、アンケート結果は同社で設定している「添乗員ランク」に影響する。「添乗員ランク」にはTOEIC、添乗回数、アンケート結果などの指標によってABCの3ランクがあり、ランクによって日当に500円から数千円の格差がつく。点数が下がれば降格もある。同社では給与は年次によってほぼ一律のため、この点数の違いが年間にすると大きな所得の差を生み出す。しかし、お客様アンケートは決して社員を管理し、処遇に差をつけることが目的ではない。
「添乗員は会社の代表であり、責任の重い 仕事。プロとしての自覚とスキルがなければできません。それを実感してもらうのがアンケートの目的です。全体の傾向としては、旅の途中でクレームをつけたお客様ほど、満足をすれば評価は高くなります。評価が低い社員に対しては、なぜ評価が低いのか、どうすれば上がるのかをアンケートを見ながら一緒に考えます」(安良岡氏)
 それにしても平均4.5を保つというのは相当ハードルが高いのではないだろうか。この点について営業企画主任・小林麻美氏(添乗員歴5年、Aランク添乗員)はこう語る。
 「アンケートを見ると、自分が気づかなかったところに気づくことができてとても勉強になります。たとえば、『小林さんはテキパキしていていい』とよくほめられるのですが、それがあるお客様にとっては『冷たい』と感じることもわかりました。入社4年目からは、ほぼ全員が企画も手がけますが、お客様の声を聞くことは企画にも役立ちますし、何より喜んでいただけると、とにかく嬉しい。この仕事は続けるほどお客様から喜ばれることが増え、楽に、面白くなるというのが私の実感です」
 同社では2001年4月入社の新卒採用から、お客様に最終面接の面接官をつとめていただくという試みも実施している。今回は総勢26名の『お客様面接官』が面接をつとめた。当日はユニークな質問が飛び出し「多面的な人物評価ができた」(安良岡氏)という。社内のすべての制度、施策に「お客様の声」が反映されるニッコウトラベル。久野木氏は自らのサービス観についてこう語る。
 「報奨金は『自分たちの給与はお客様からいただいている』ということを認識してもらおうと思って創業時からずっと続けています。添乗員の仕事の大変さはほとんどがお客様との接し方に関すること。しかしそれをクリアすれば、他社と競合することもなく、独自のサービスを展開することが可能になります」
代表取締役
久野木和宏氏
管理統括担当
取締役
安良岡正光氏
営業企画主任
小林麻美氏

ニッコウトラベル
事業内容:旅行業
※東証二部上場
設立:1976年 資本金:9億3255万円 (2000年9月)
売上高:57億400万円 (2000年3月期)
社員数:88名 (2000年12月現在)


『Works No.44 機能する「成果主義」』
(2001年2月発行)掲載

 
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