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人事プロフェッショナルの ネットワークは世界へと広がっている
〜日本人材マネジメント協会の視座から見えてきたもの〜

日本人材マネジメント協会 ゼネラルマネジャー
田口力


2000 年 10月 10 日

 一昨年の11月、社会経済生産性本部は、世界人材マネジメント協会連盟の要請を受け、同連盟に加盟する日本代表組織を作るべくプロジェクトを発足させた。1年半の準備期間を経て今年4月、日本人材マネジメント協会として正式に設立され、その活動を開始した。事務局として設立準備の段階から設立後現在に至るまで、本協会の会員の方々や世界各国の協会事務局およびその役員や会員である人事専門職(プロフェッショナル)の方々との交流を通じて、感じたことについて述べてみたい。

図表1 世界人材マネジメント協会連盟の加盟国


世界の一員としてのニッポン

 まずこの世界連盟について、その概略を説明したい。設立は1976年。現在、54カ国の協会が加盟し、延べ会員数は約45万人。アジア・太平洋、ヨーロッパ、中南米、北米の4つの地域連盟で世界連盟が構成されている。大きな活動としては2年に1度開催される世界大会があるほか現在、人事のコンピテンシー調査を行っている。また各地域連盟、各国協会主催の大会などへの相互参加も盛んで、国や地域を超えた知的・人的交流が活発に繰り広げられている。
 各国協会のトップから役員、会員のほとんどは人事に携わる実務家である。各国における、人事専門職の自己のキャリア形成や知識・スキル向上に対する取り組み、そしてそれらをサポートするために様々なプログラムやネットワーキングの機会を提供する協会の活動を知れば知るほど、彼我の差を痛感すると同時に本協会の果たすべき使命の重みというものを実感する。
 当然、ビジネス・パーソンとしてのキャリアを特定専門領域に絞って積み重ねていくということがホワイトカラー、特に人事において少なかったわが国に、本協会のような専門団体がなかったということは理解しやすい。しかしこれからは専門性、いわば知識と知恵の勝負の時代にグローバルな競争という要因が加わってくる。実務家を中心としながら研究者や人材ビジネスに携わる人々もともに、これからの人事について考え行動していく基盤となるネットワークとして、国際的な職能別専門団体の重要性は増してくるものと確信している。


迷走する日本が気づくべきこと

 日本の90年代を称してよく、「失われた10年」と言われるが、このまま手をこまねいていれば、10年後に振り返って「失われた20年」になりかねないのではないかと、いらぬ心配をしてしまう。人事についても、バブル期における不可思議な時期を加えれば、すでに20年が経過しているともいえる。このバブル崩壊後のわが国全体に漂う喪失感なり閉塞感の中で、どこかに活路を求めようと、欧米で成功している企業の人事システムの断片だけを取り入れてかえって全体の整合性を欠いてしまったり、あるいはそのシステムが生かされる組織文化に着目せずに導入して混乱している日本企業を数多く見受ける。
 大変皮肉な現象であるが、国際会議などで欧米アジアの人事専門職と話をすると、彼らは"過去の"日本型経営・人事システムに学び、その良いところを取り入れて現在うまくいっている、という話が必ず出る。
 「多くのことを学ばせてもらったよ、サンキュー」などとお礼まで言われてしまう。その次に来るフレーズがまた決まっていて、「今の日本企業は一体どうしたの?」
 こうした人々との話し合いや、海外の人事に関する専門誌や文献などを通じて浮き上がってくるキーワードは、いつの間にかわれわれが忘れてしまったのではないかと思われる言葉が多い。例えば「自己実現」「企業や社会への貢献」「モラール」「献身」「信頼性」「企業文化・風土」などなど。



いつの間にか忘れてしまったキーワード
懐かしがってはいられない


 こうしたことについて、今年参加した世界大会、SHRM年次大会でのトピックスなどとともに述べてみたい。
 今年5月にパリで開催された第8回世界人材マネジメント大会には、世界77カ国から約2000人の人事専門職が参加した。全体セッションや分科会のテーマを概観すれば、ITをはじめとした新たな技術革新が職場に与える影響や、人事専門職に必要とされるであろう将来的な役割やスキルをどう考えるか、と要約できよう。
 大会初日に開かれた全体セッションではマンパワー社の会長兼CEOであるジェフリー・ジョレス氏が、日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、イタリアなど7カ国で、人事マネジャー約2800人に対して実施した調査結果を基に、問題提起を行った。
 「従業員は自分たちの考えを表明し、能動的な役割を演じたいとより強く思い、そしてその資格があると考えているか」という問いには、西ヨーロッパの国々およびアメリカで4分の3の人事マネジャーが「イエス」と答え、日本は2分の1が「イエス」としている。日本だけが低かったのはわが国ではもう十分その意見を取り入れているからだろうか?
 また同氏は調査結果から、「従業員自身はもっと戦略的に会社に貢献したいと願い、その方法を模索している。これを受けて人事担当マネジャーは従業員がより積極的に企業の意思決定プロセスに関与できるよう、意見交換の真の促進者になる必要がある」との見解を述べた。
 同セッションのもう1人のパネリストであるロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのディレクター、アンソニー・ギディンス氏は、「インターネットの普及により若い層の価値観や自己表現方法が多様化している。人々はアイデアを交換したがっている。企業の人事はコミュニティーを作り、これらの従業員の技術、経験や言葉による自己表現方法を戦略的に使うべきである」とし、これからは従業員が何をしたいかを考慮にいれたキャリアプランを考えることが重要であると強調した。
 もう1人のパネリスト、プリンス・オブ・ウェールズ・ビジネス・リーダーズ・フォーラムのディレクターであるジェーン・ネルソン氏は、「企業は価値を生み出すことを約束する"レスポンシブル・ビジネス"であるべきだ。profit making economy 対social responsible economy の両極があって、これからは人事がこのバランスをとる役割も担うだろう。経済的、社会的、環境的な価値を生み出す企業。このような社会への企業貢献は従業員レベルのコミットメント、つまり従業員がどのように自己表現をするかによるのだ。企業は社会的、経済的成功のためにはすべてにおいて、今後、人事部門が組識の中で重要な立場を占めることになる。人事はもっと戦略的になるべきであり優秀な人材確保のためにリーダーシップを発揮するべきである」と述べた。



ミシガン大学・ウルリッチ博士と
スピード、リザルツ、価値創造


 同じ世界大会で最後の全体セッションの舞台に立ったのは、アメリカの人事専門職たちの指導者として著名なディビッド・ウルリッチ博士(ミシガン大学ビジネススクール教授)。企業にとって他社がまねできないものは「チームスピリッツ」だと強調し、この「チームスピリッツ」を社内に確立するために人事部門が果たすべき役割として、
1) コーチ(ビジネスリーダーとしてのコーチの役割)
2) アーキテクツ(オフィス環境を整える建築家としての役割)
3) デザイナー(人事諸制度、システムインフラを整備するデザイナーとしての役割)
4) ファシリテーター(変革促進者として、あるいは、部門間の円滑な業務連携推進者としての役割)
の4つを挙げた。
 すでにウルリッチ博士の著書を読んでいる方々も多くいることとは思うが、彼は人事の役割を4つの相互依存的、すなわち複合的な役割として、表現している。その前提として、人事専門職は戦略を推進し、インフラストラクチャーを築き、従業員からの貢献を引き出し、企業変革を推進するという4つの段階を通じて企業に付加価値を生み出すと主張する。その役割とは、1)戦略パートナー、2)変革推進者、3)従業員のチャンピオン(旗手、代表者)、4)管理のエキスパートである。
 人事専門職に求められるコンピテンシーとして、セッションの中で同博士は、調査結果を基にしたデータを示した(図表2)。図表にある数字は、それぞれの領域のコンピテンシーが人事専門職の総合的な業績に貢献する比率を示す。
 大会での講演終了後、ウルリッチ博士とお話しする機会を得たので、この役割やコンピテンシーについて説明を受けた。これらの役割やコンピテンシーはかっちりと固まったものではなく、環境の変化によって当然変わってきているという。例えば、「変革推進者」という役割においては、「スピード」が新たな側面として求められていると感じているし、また「戦略パートナー」の役割においては、「価値の創造」がより重要な要素として考えられるようになるだろうと語った。
 さらにコンピテンシーについても、前述したもののほかに、「人事の影響を測定する能力」を加えようと思っているとのこと。人事の諸施策が、組織の能力を創造し、業績結果に与えたインパクトを測定するというものである。最近、アメリカの企業では人事部門のあるいは諸施策の効果性を測定しようという動きが盛んになりつつあるのはご承知の通りだ。


図表2 人事専門職に求められるコンピテンシー
ミシガン大学ビジネススクール教授
ディビッド・ウルリッチ博士の調査結果による


米国に浸透しはじめた新しい人事の潮流

 SHRMの第52回年次大会&エキスポが6月、ラスベガスで約1万7000人の参加者を得て開催された。セッションの総数は約200で、1)人事と関連法規、2)優秀な人材の特定、採用、雇用維持、3)従業員への報酬と認知、4)戦略的思考ツール、5)人生にとって仕事よりも重要な事柄、といった5つの領域に分かれている。参加したセッションについては、世界大会とともに本協会のホームページ(www.jshrm.org)でその概要を公開しているのでご参照いただきたいが、今回の米国での滞在で強く印象に残ったことを2つ述べておきたい。
 ひとつは、大会全体を通じて感じたことのダイジェストだが、1)コンピテンシーは業績評価・処遇につなげるようになってきていること、2)従業員は「エンプロイー」から「アソシエイツ」と呼ばれるようになり、企業はリーダーとアソシエイツで構成されていると考える傾向が見られること、3)特に若くて異能人材を集めている企業では、「ファミリーフレンドリー」をキーワードに、ユニークな方法で従業員の引き留め策を講じていること、4)人事のミッションは付加価値の創出、企業業績向上への貢献であり、「いかになすべきか、どのようなことをなすか」から「何が達成されるのか」、すなわち「パフォーマンス」から「リザルツ」へシフトしていること、5)リーダーシップは企業の最終成果に向けて、チーム内にコラボレーションを起こさせながら、戦略とリンクしていなければならないこと。



人事は人々の人生にかかわる仕事
SHRM理事長からのメッセージ


 もうひとつは、わが国の人事専門職の皆さんへのメッセージという意味を込めて。
 SHRMのルーシー理事長は今年末で同協会を引退するため、彼にとっては6月の年次大会が最後の舞台となった。そのため大会初日の前夜、彼の友人たち約300人が集まって「びっくりパーティー」を催し、彼の功績を称えた。お礼のスピーチのためにステージに立った彼が強調していたのは「人事は人々の人生にかかわる」(HR touches people's lives)ということだ。「われわれ人事専門職は、その行動を通じて人々の人生にかかわり、彼らの人生、将来そしてキャリアの成功に影響を及ぼす。さらには彼らの家族にまでその影響は及ぶだろう。ポイントはわれわれはそのことを正確に、そして高度なスキルをもって行わねばならないということだ。なぜなら人々の人生についていえば、第2のチャンスはないからである。技術者は誤りがあったなら製品を直すことができるし、経理のスタッフは帳簿を直すことができる。われわれ人事専門職は過去に遡って彼らの人生を修復することはできない。だからはじめから正確に行わなければならないのだ」
 大会期間中にルーシー氏と雑談をしている時、彼はこのメッセージについて触れて、「アメリカにおけるアフリカ系アメリカ人やマイノリティーの人々に対して行ってきた雇用差別の歴史を考えてみればよく分かることだろう。はじめから正しく行わなければならなかったのだ。日本について心配なのは、企業における女性の役割の問題だ。おそらく数年後には、なぜあのようなこと(現在に至るまで行ってきた差別的処遇や仕事の役割分担)をしたのだろうかと思うだろうし、いかに女性の人生にネガティブな影響を与えたかを悟ることになるだろう」と警鐘を鳴らしていた。重く受け止めたい。



田口 力
(たぐち ちから)
1960年生まれ。早稲田大学教育学部卒業。83年日本生産性本部(現・社会経済生産性本部)入職。人事関連セミナー・研究会の企画担当、若手・中堅社員教育のインストラクターを経て、生産性新聞の記者に。98年、日本人材マネジメント協会設立準備室プロジェクトマネジャー。今年4月の協会設立に伴いゼネラルマネジャーに就任。世界人材マネジメント協会連盟日本代表組織事務局を務める。


日本人材マネジメント協会に関するお問い合わせは同協会事務局まで。
電話 : 03-3409-1162
ホームページ : www.jshrm.org

『Works No.42 特別編集 知的資本とナレッジワーカー』 (2000年10月発行)掲載

 
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