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キャリアカウンセリングの必要性と、定義
結論から申し上げますと、我々を取り囲む環境の現状と変化の方向を考え、キャリアカウンセリングはますます必要となると思います。現代社会の変化の激しさと特異性を社会学者A・トフラー(1982)は、このように表現しています。
「われわれは、技術体系や情報体系、社会体系の崩壊だけでなく、心理体系の瓦解をも経験している。今日の高度な社会的、技術的混沌のなかでは、自己の生活を構造づけることは、本当に日毎に困難になりつつある。第二の波の正常な構造が崩壊し、生活様式、生活設計、教育の機会などの選択の幅が広がりすぎ、それらがあいまって困難さを増大させている。(このような状況下で)何より手っとり早い解決策として、人生相談の専門家か準専門家による指導者集団を作るべきではなかろうか。イドやエゴなどの専門用語を人間の心理の地底からモグラのようにほじくりだす精神治療医は、もう十分である。もっと必要なのは、ほんのちょっとの手助けでいいから、われわれの生活を立て直してくれる人である」
人間の準備体制よりもはるかに社会の変化のほうが速いという状況が、現代です。
日本においては、働く個人は仕事場を選ぶ際に、“そこで何ができるか”ということよりも、“自分が安心して一生を託せる場所”であることが基準であり、企業も一生面倒をみましょうというような家族主義的メンタリティの中に生きてきたと思います。だから個人は、自分が選ぶというより企業に選んでもらうという姿勢になりがちです。それが、ここにきて、個人の責任を問う方向へと環境も企業も急変しました。
米国のように、個の自己選択が幼い頃からいわれ、その能力がまがりなりにも教育され、自己責任を問われる社会構造であってすら、社会の変化が激しすぎ個が対応できなかったために、100年前にカウンセリングが生まれました。米国ですら、です。日本においては、ですから、それをカウンセリングと呼ぼうが、個人へのサポートと呼ぼうが、なんと呼ぼうとも、そういった個へのサポートは非常に重要なわけです。自分の足で立つというのは実はとても難しい時代なのです。
もちろん「キャリアカウンセリング(以下、CCと略します)」をどう定義するかによって、その内容・必要性は変わってくるでしょう。文字通り捉えれば「キャリア問題を中心とするカウンセリング」です。
まず、「キャリア」という点ですが、職業カウンセリングではなくキャリアカウンセリングというときは、単に職業や能力開発の分野の選択を援助することにとどまりません。CCでは、「個人の生活全体の中における職業生活・職業行動」「全人的発達の一部としてのキャリア行動」を捉えます。キャリアには、人が生きていくうえで大切にしている「work」をすべて含み、それは単に“昇進するキャリア”といった意味ではありません。「働くこと」は個人の経済的基盤づくりにも重要ですが、同時に精神的健康とも大いに関係することを否む人はいないでしょう。働くことで精神的健康は増進され、また精神的健康によって仕事は影響されます。さらに、働くことは個人と社会をつなぐ役割もします。CCでは、「職業問題に焦点を当てる」のではなく、「職業問題を持つ個人に焦点を当てる」のです。
さらに、「カウンセリング」の捉え方ですが、私の捉え方は下記のようなものです。実はこれは、アメリカカウンセリング協会が、最近、社会に向けてカウンセラーのアイデンティティを明確化するために提示したものです。
「専門的カウンセリング(一般の相談と区別して)とは、メンタルヘルスと心理的・全人的発達の原則に立って、認知的、情動的、行動的、システマティックな介入方策を通して、心理的健康、人間的成長、キャリア発達、そして病理的状態と取り組む過程」です。つまり、カウンセリングとは、問題を自ら解決しなければならない個人がカウンセラーの専門的援助を通して、解決していくことによって、問題解決能力を発達させる過程と捉えています。さらにカウンセリングの特徴は、個人と環境との相互作用に焦点を当てていることです。ですから、社会の変化の、個人の行動への影響には敏感です。
日本の場合は、一般にカウンセリングというと、「心の問題」「個人の内面の問題」のみに焦点を当てたものと捉えがちです。キャリアカウンセラーと話していて、「カウンセリングの途中でガイダンスに切り替えた」とか「コンサルテーションに切り替えた」という言葉をよく耳にしてとまどいます。具体的に聞くと、“情報提供や助言、教示を与えること”をガイダンスとかコンサルテーションと呼んでいることがわかりました。では、カウンセリングでは、これらはしてはいけないと思われているのでしょうか。専門カウンセラーからすれば、情報提供や助言、教示も重要な援助方策です。
ここで、専門カウンセラーたる職務を遂行するのに必要な能力「コンピテンシィ」を紹介してみたいと思います。図表1を参照してください。CCだけでなく、全ての分野のカウンセラー全般に必要なコンピテンシィの一覧です。
図表1 THE PROFESSIONAL COUNSELOR:
Competencies, Performance Guidelines, and Assessment
Joseph D.Dameron, Editor (1980) |
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●CONTENTS
ASSESSMENT OF THE COMPETENCIES OF PROFESSIONAL COUNSELORS
PERSONALITY CHARACTERISTICS OF PROFESSIONAL COUNSELORS
COUNSELING COMPETENCIES
Individual Counseling / School Counseling /
Play Therapy and Family Counseling / Group Counseling
CONSULTATION COMPETENCIES
COORDINATION COMPETENCIES
CAREER DEVELOPMENT COMPETENCIES
PLANNING AND DEVELOPMENT COMPETENCIES
MEASUREMENT AND EVALUATION COMPETENCIES
PLACEMENT AND FOLLOW-UP COMPETENCIES
REFERRAL COMPETENCIES |
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キャリアカウンセリングが実現するもの
今、CCという言葉がもてはやされていますが、現代人にとって職業生活は不可欠の要素であり、全生活、全生涯に深く関わっていることが真に何を意味するかを考える必要があると思います。そうすれば、CCが決して易しい仕事ではないことに気づかれるでしょう。
カウンセリングの過程では、まず、自分が生きていくうえで、自分はどうしたいのか、今どのような問題にぶつかっているのかということへの自己認知の把握段階があります。さらに、単に自分ひとりが望ましいだけではなくて、社会で生活していくうえでの社会適応や社会貢献として、周りにとっても望ましい方向、社会の一員として生きやすい方向の模索へ進みます。しかしこれは、個人にとってかなり葛藤を伴うことでしょう。人は環境を抜きにしては生きられませんし、自分自身を知るだけでなく、自分の置かれている家族・組織・環境や社会の変化の認識も深めなければなりませんから。そういったことを通して、自分も満足でき、問題解決にもなり、さらに組織なり、家庭なり、社会なりにおいて生き生きと自分が生きていける、生きやすい満たされた状況への道に近づきます。そうして、究極的にカウンセリングは、ロジャースが主張した「人間として、最高に機能できる人間」となる状態を探すのを手助けするプロセスとなるのです。
CCをめぐる現状は、かなり混乱しているといってもいいでしょう。あらためて、個人が今どのような状況に置かれ、それゆえどのようなサポートが必要で、それを行うために必要な能力、その能力の育成システム、能力評価といったことについての本質の議論が重要なのではないでしょうか。
| 渡辺三枝子 |
わたなべ・みえこ
上智大学大学院博士課程(臨床心理学専攻)単位満了。米国ペンシルバニア州立大学大学院博士課程(カウンセリング心理学、カウンセラー教育専攻)修了。哲学博士号(Ph.D)取得。主な著書に『最新カウンセリング入門』(共編・ナカニシヤ出版)、『さがそう相性のいい仕事』(共著・晶文社出版)、『カウンセリング心理学』(ナカニシヤ出版)など。 |
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『Works No.41 キャリアカウンセリングの未来像』 (2000年8月発行)掲載
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