ワークスフォーラム
キャリアカウンセリングにおける企業と個人の関係 入り口の広い「柔らかな仕組み」構築を 新日本製鐵 / KDD / ソニー
新日本製鐵 エレクトロニクス・情報通信事業部企画調整部 人事・関連グループ マネジャー岡田昌毅 氏
KDD 人事部 社員相談センター 中級産業カウンセラー西田治子 氏
ソニー 人事センター 社員部 労政企画グループ課長 袴田真 氏
コーディネーターリクルート キャリアサポートセンター センター長若月誠
若月 最近、キャリアカウンセリングという言葉がある種のブームというか、非常に注目を集めています。しかし反面、言葉だけが一人歩きを始めているような感じもいたします。人によって言葉の定義も非常にさまざまですし、そのこと自体が企業の人事が抱えている悩みというか、現状をよく表していると思います。 本日はこのキャリアカウンセリングという言葉の意味を若干広めにとって、治療的な意味でのメンタルなカウンセリングというよりは、個人の仕事や将来に関する開発・育成を目指したカウンセリングという方向を中心にお話を進めていきたいと考えております。 まず新日鉄の岡田さんから、自己紹介も兼ねてお仕事の現状などをお話しいただけますか。 岡田 はい。私はもともと電気工学科出身なのですが、入社5〜6年目頃からどうも自分はエンジニアに向かないのではないかと思い始め、ちょうどその頃から多角化経営ということが言われ始めたものですから、社内公募に手をあげて、新たに立ち上がった教育事業のグループ企業に出向しました。 その後、社内教育を担当する関連会社を経て、本体のエレクトロニクス・情報通信事業部に戻り、人事で教育・育成に関する仕事に携わっています。 若月 ありがとうございます。ソニーの袴田さんは、どんなご経歴ですか。 袴田 私は86年の入社で15年目になるのですが、入社時はまさか人事とは思いもしませんでした(笑)。以来ずっと人事関係なのですが、その中でも人材開発や育成、労務関係などを中心にやってきました。この春からは社員部という部署で主に賃金とか処遇まわりの企画、組合対応などを担当しています。 若月 KDDの西田さんは先のお二方とはちょっと違うご経歴ですよね。 西田 そうですね。大学卒業後、KDD国際電話局のオペレーターになりました。当時は花形の職種で、「蝶よ花よ」という感じで(笑)。それが10年ほど前からダイヤル直通電話の普及でオペレーターがつなぐ仕事が減りまして、しばらく営業部の仕事をした後、人事に参りました。 当社には診療所がありますが、そこの事務の仕事でした。ただそこにいますと社員がいろいろ相談に来るんですね。それで、私もカウンセリングを勉強しなくてはと思っているところに、3年後に今私が所属しています人事部「カウンセリング&ライフプランニング・グループ」、通称「社員相談センター」に移りました。 若月 どんなお仕事なんでしょうか。 西田 診療的な相談が多いのかなと最初は思っていたんですが、特にここ5〜6年前頃からでしょうか、キャリアに関する相談が増えました。終身雇用の時代が完全に終わり、自立を求められるように雇用環境が大きく変わってきたということで、今では全体の6割ぐらいがキャリアに関するカウンセリングです。今後の生き方に関する相談が多くなっています。 相談室の利用件数は年間延913件 若月 資料で拝見しますと社員が約4800人で、昨年1年間に延913件の相談がよせられていますね(図表1参照)。これは非常に多くてびっくりしたのですが。 西田 KDDの場合、通信業界の競争激化にともない、急に雇用環境が変わってきたものですから、面食らっているという部分はあるかもしれません。個々の社員と会っていても、以前の考え方を変革していくのは本当に大変なことだと痛感します。それだけ教育が重要というか、日本の経済状況とか会社をとりまく雇用環境なども含めて、的確な情報を伝えることが大切だと思います。情報を十分に提供したうえで、最後に決めるのは自分ですよということですね。 若月 袴田さん、ソニーではどうなんでしょう。キャリア研修的なものも一部で導入されていると聞いていますが。 袴田 ソニーには全員が必ず受けてくださいという研修は少ないのですが、その中でキャリアデザイン研修というのがありまして、これは29〜30歳の全社員が受講することになっています。目的は、これから社内外で自分がどのようなキャリアを積み重ねていくのかを自覚して、取り組みを始めてもらうということです。 内容的には、まず自分の過去の棚卸しをして、今の仕事と自分の現状を把握しをしたうえで、自分のどこに価値があるのか、どんな専門性があるかを見つめなおしてもらう。そしてそれを前提に今後10年ぐらいのキャリアデザインとアクションプランを立ててもらっています。 図表1 KDD社員相談センター 相談内容別件数 (1999年) (単位:件、%) 区分調査計 調査計 今後の生き方等 545(59.6) 社会保険・社内制度等情報提供 56(6.1) 人事・仕事・人間関係等 90(9.9) 一般来談 163(17.9) カウンセリング(狭義) 59(6.5) 合計 913(100) 注: 1.今後の生き方等の中には、カウンセリング、社会保険等の情報提供と重複するものもある。 2.人事・仕事・人間関係等の中には、カウンセリングと重複するものもある。 図表2 KDD社員相談センター 年齢別相談件数 (1999年) (単位:件、%) 区分 20代 30代 40代 50代 60代 合計 男性 7 (1.3) 53 (9.9) 172 (32.3) 281 (52.7) 20 (3.8) 533 (100.0) 女性 13 (3.4) 100 (26.3) 155 (40.8) 102 (26.8) 10 (2.6) 380 (100.0) 調査計 20 (2.2) 153 (16.8) 327 (35.8) 383 (41.9) 30 (3.3) 913 (100.0) 個人の自立をサポートする仕組みを 若月 ありがとうございます。新日鉄の岡田さんは、事業部内の教育をご担当ということですが、今どんな動きになっていますでしょうか。 岡田 今KDDの西田さんのお話をうかがって、そんなにたくさんの社員が相談を受けるのかと正直、驚きました。ひるがえってウチの事業部のことを考えますと、そういうキチッとした制度は持っていません。実は来年の4月にこの事業部は分離独立する形で新会社を設立するのですが、その中でこういうキャリアカウンセリング的な機能を持った相談センターのようなものをぜひ実現したいと考えていまして、検討を始めたところです。 実は今年4月に新しい人事制度が導入されたのですが、そこでは成果主義や個の自立ということを非常に強調しています。それをサポートするため、なんらかのキャリア相談的な仕組みは必要だという点は会社も認識しています。 若月 そうしますと、現在のところ正式な相談窓口というのはないと。 岡田 そうなんです。じゃあ何か相談したいことがあるとどうするかというと、ラインの人事に上司経由で話が来るか、たまたま人事の中に知り合いがいてというような形で相談に乗っているのが現実です。私のところにも時折、「岡田さん、ちょっと彼に会ってみてあげてくれない?」という感じでオフィシャルでないレベルでキャリアカウンセリング的なものが始まっているケースが最近出てきたところです。 若月 相談の中身はどんな傾向があるのでしょうか。 岡田 部門全体が新規事業の部署なものですから、いろんな専門分野の出身者がいるわけです。例えば、機械やハードウェアが好きで会社に入ったのに職種転換をしなければならなかった人なども多くて、そうした再教育と意識付けを繰り返す時代が3〜4年続いたんですね。 私自身、そういう人たちの再教育を担当していた経験があるのですが、当然ながらみんな相当に苦しむんです。自分がやりたいことじゃないことをやれと。でもやらなければいけないので頑張って取り組む。そういう状況に接していると、これを放っておいてはいけない、組織としてなんらかのサポートをする仕組みを作らなければと思うようになりました。 組織のメリットになるキャリア支援とは 若月 こうしてお三方のお話をうかがっていますと、かなり早い時期からキャリアデザインという形で個人の側に自立の意識を根付かせようとするソニーのような考え方があり、経済構造の激変の中で職種転換などさまざまな変化が起き、多くの社員が相談センターを活用しているKDDの事例がある。そして会社のニーズに即した教育を行う過程で、もっと個人にフォーカスする必要があるのではないかと感じ、社員のキャリア開発をサポートする新たな仕組みを作ろうとしている新日鉄の岡田さんがいらっしゃる。それぞれ非常に興味深いお話だと思います。 そこでさらに突っ込んでうかがいたいのですが、袴田さん、ソニーがキャリアデザイン研修のようなものを全員に義務付けている背景とか問題意識はどのようなことなんでしょうか。 袴田 この研修は実はさほど歴史が古いわけではなくて、ここ5〜6年ほどなんですね。背景としては、やはりこれだけ動きが速いビジネス環境の中で会社がスピーディーに変わっていくためには、企業を支える人が変革していかなくてはいけない。それには自分がどのようなキャリアを積み重ねていくのかを考えることが非常に重要だと思うんです。 ソニーという会社は人の個性とかユニークさの追求といったことを基盤に人事制度が成り立っているようなところがあって、会社としてはいろんなツールとか「場」を提供しましょう、それを使ってキャリアを築いていくのは皆さんですよというメッセージが人事制度の根底に流れているといっていいと思います。 ですからもっと枠を広げていうと、何もソニーの中だけでなくていいと思うんですね。もし自分が実現したい環境なり、「場」なりが社内になければ、それは外に求めるケースも当然出てくるでしょう。この研修も別に30歳という時期でなくても、例えばアメリカのようにもっと早いタイミングから自分のキャリアを意識して、それなりに勉強もして、仕事も会社も選定していくという行動パターンがあってもいい。そういうことがあるから若い年代で企業のトップになっている人の比率が高いんだと思いますね。 若月 岡田さんの事業部でも人に対する考え方はだいぶ以前とは変わってきているのでしょうか。 岡田 そうですね。最近は事業がITの方向に急速にシフトし、黒字が定着する状況になってきた中で、今度は別のニーズが出てきました。つまり人が辞めていく。他社の引き抜きにあったり、ベンチャーに移る社員がいたりといったケースが増えてきました。 急激な構造変革が一段落して事業が安定してくると、今度は個人が楽しいと思って生き甲斐を感じながら仕事ができる環境を充実させていかないと人材が去ってしまうのではないか、という問題意識が出てきたわけです。 だとすれば課題になるのは、個々の社員のキャリアや生活と会社の事業との両立です。組織としてそういう支援をすることが最終的には経営のメリットになるという説明がキチッとできて、実績をあげていけるか。そのための仕組みはどんなものなのかが今後のテーマだと思います。 若月 企業にとって人材の流出というのは非常にインパクトがありますよね。 岡田 そうですね。特にこの事業部は人以外に何も資源がないんですよ。パソコンやワークステーション以外にたいした設備もいらないので、人しかないという意識は非常に強いですね。 マーケットに任せるだけでいいのか 若月 今とても対照的なお話が出てきたと思うのですが、一方でやや極端に言えば出ていくなら出ていくのもいいじゃないかという事例があって、その一方で人材の流出がキャリア・ディベロプメントとかキャリアカウンセリングを考えるきっかけになっているという話ですね。 これはその企業の風土ということもあるでしょうが、それ以上に組織の開放性みたいなことに関わってくると思うんですね。開放的な組織というと非常に響きはいいんですが、それは個人にとってはある面で非常にハードな、負荷の高い組織になるわけで、そのへんの捉え方はいかがなんでしょうか。 岡田 私個人の考え方ですけれども、IT業界は非常に華やかで成長が期待されている業界ですが、そういう表のイメージがある一方で、中で仕事をしている人は結構ハードな状況に置かれているのではないか。確かに優秀な人間にはすごく高い評価がされるけれども、そうでないと非常に過酷な状況に追い込まれる。そういうIT業界の感覚というのが最近ちょっと気になっています。 マーケットの流れに任せるのは基本的にいいことだとは思うのですが、それだけで本当にいいのだろうか。優秀な人が出ていって、また優秀な人を採用して、それが活性化された市場であるふうに言い切ってしまっていいのか疑問に感じているところはあります。 できることなら優秀で立派な人材は長く確保しておきたいし、もちろん社外から優秀な人は採用しますが、あまりギスギスしない環境の中で、精神的にある程度余裕を持った状態で仕事ができる環境を作らないといけないのではないか。それではじめていい仕事ができるのではないかというのが私の感覚です。 若月 確かにいくらマーケットに任せるといっても、会社から外に出ていく人の中には必ずしも幸せにつながらないケースもあるのでしょうね。 岡田 そうですね。ただ最近、ちょっと事情が変わってきています。一時期は外資系を中心にコンサルティング会社に非常に高い年俸で移っていく人が多かったのですが、最近は必ずしもそうではなくなってきています。それよりもベンチャー企業にいくとか、自らビジネスを始めるといった例が増えていますね。 若月 なるほど。コンサルティングファームなどが典型的な例でしょうが、収入は非常に高い反面、ハイレベルのパフォーマンスを常に求められ、激しく競争し続ける業界が幸せとは限らないぞという流れが出始めているのでしょうね。 岡田 そんな感じがします。それともうひとつ、以前のように会社を出ていったらもう二度と会わないわけではなくて、辞めた人と一緒に仕事をしている例がかなりありますね。要するに好き嫌いとかの感情的なことで辞めていっているわけではないということでしょう。 個人にばかり要求はできない 若月 ソニーではいかがでしょう、自分のキャリア開発とか、キャリアを変えようということで外に出ることはかなり多いのでしょうか。 袴田 実際には世間でイメージされているほど多くはないと思います。流動性という意味でいうと、会社の外とはさほど多くないのですが、社内での流動性は非常に高いですね。社内公募制をかなり古くからやっておりまして、そういうカルチュアが根付いています。年によって差はありますが、毎年200〜300人が社内公募で動いています。 若月 やはり企業風土として、会社と個人の関係を、個人の側からもきちんと捉えておきなさいよということがあるのでしょうね。それでは西田さん、やはりKDDでも企業構造が大きく変わったことで、組織と個人の目指すものをバランスさせようという動きが出てきたのでしょうか。 西田 そうですね。社員相談センター自体は40年以上前からあるのですが、その機能が本格的に変わり出したのはここ数年です。ずっと終身雇用が常識みたいな感じできたところに、急激な通信業界の変革、会社のスリム化、人の削減となれば、幹部から社員まで誰でも混乱しますよね。社員も自立し、自分の能力を磨く必要がありますし、会社側も優秀な人は欲しいということであれば、その人たちからみて魅力的な会社であり続ける必要があるわけです。 ですから社員個人にばかり要求するだけでなく、会社もそれなりのものを出さないといけない。その意味で本当に個人と組織が対等というか、半々に考えなければいけないという意識改革を少しずつ着手しつつあるというところです。 若月 これまでのお話を総合しますと、まず大前提として企業自体が変わっていく。組織のありようが変わっていく。当然そこでは個人と組織の関わり方も変わらざるを得ない。そういうプロセスの中では、一方で当然、事業に直結した部分で教育プログラムとか研修の場を提供するとかいうことはあるけれども、個人の側からみると、終身雇用が崩れて選択肢が無数に広がる中で、情報が足りないとか自分だけでは判断できないとか、そういう流れが出てくるわけですよね。 そうした状況下で、企業の側も個人の変化を促進していくためには画一的なプログラムではなくて、多様な選択肢を用意して、個人のチョイスに任せる。そこにおけるサポート役というか、相談機能としてキャリアカウンセリング――名前をどう呼ぶかは別として――が注目されてきているということでしょうか。 学校の保健室のスタンスで 若月 このへんで少し具体的なお話をうかがっていきたいのですが、西田さんのところでは、どんな方がお見えになって、どんな相談が多いのでしょうか。差し支えない範囲で結構なのですが。 西田 先程お話ししましたように、センターの機能を大きく変えたいと考えていたものですから、5〜6年前頃から、いろいろな工夫をいたしました。その頃、相談センターに対して社員が持っていたイメージは、やはり治療的なことをする部署という感じが強かったものですから、それを変えなくてはとPRを始めました。 当時はOBの方がいらっしゃることが多かったんですね。定年退職された方が「ちょっと新宿まで来たから」と寄ってくださる。それはありがたいのですが、社員相談センターなのに肝心の社員が少ないんです(笑)。 そこで考えたのですが、ここは学校でいう保健室のスタンスでいいのではないか。ちょっと疲れたらセンターに来て世間話でもなんでもして、スッキリして帰ってもらえばいいのではと。私は国際電話局出身ですので、当時の仲間などに会う度ごとに「社員相談センターに配属になったからお茶を飲みに来てね」と呼びかけたり、社内報でもPRをしてもらい、相談内容はなんでもいいから、とにかく来てくれと呼びかけました。センターのメンバーが動く広告塔になって、機会あるごとにPRをして歩いていました。 若月 その結果が年間913件という数字になっているわけですね。 西田 PRの効果はあったと思います。もう相談なんてものじゃなくていいから、わからないことはなんでも電話をください、どんなことでもお聞きくださいと。ですから新しい人事制度で不明な点があったりすると、すぐセンターの電話が鳴りますし、新聞にKDDの記事が出ると「これはどういう意味か」などの質問もきます。最近ではいわゆる治療的なカウンセリングは全体の1割に過ぎません。まさに「よろず相談」という感じですね。 若月 ある意味では社内広報を補う機能まで持っているわけですね。やはり社員にとって「行きやすい」ということが重要なんでしょうね。 西田 そうだと思います。やはり一般的には主管部門には行きにくいのかもしれませんね。私たちは人事部の一部ではありますが、相談の傾向とか趣旨については報告しますが、相談者の名前や具体的な中身については一切伝えません。それがないと誰も来てくれなくなってしまいます。 若月 ソニーの場合、個人に対して会社がさまざまなツールとか「場」を提供しながら、「自分で考えてね」という球を投げ、個人もそれをちゃんと打ち返してきているという認識なのでしょうか。 袴田 全てが個人レベルで完結されるケースばかりではないので、悩みをかかえている人、サポートが必要なケースをバックアップする機能は設定されています。 例えば、自己申告の制度があるのですが、これまでの業務経験とか今後の希望などを毎年期初に上司に申告し、面談を通じて次のキャリアに結びつけていくやり方を取っています。その一方で、上司には話しにくい内容もあるかと思いますので、別ルートで直接人事のほうに情報を伝え、希望があれば会って相談を受けられる仕組みを設けてあります。 入り口の広い「柔らかな仕組み」 若月 皆さんのお話をうかがっていますと、キャリアカウンセリングとは会社と従業員の間に入って、組織と個人のバランスを取る装置なのかなという気がします。岡田さん、来年春からの新会社に組み込みたいと考えていらっしゃるキャリアカウンセリング的なものの仕組みについて、個人的なもので結構ですから、イメージのようなものがあればお聞かせいただけないでしょうか。 岡田 先程の西田さんのお話を大変興味深くお聞きしました。確かに今の社内の感覚でいくと、カウンセリングという名称がついた途端にメンタルな面のイメージが突出して、ちょっと二の足を踏んでしまうと思います。やはり例えば、袴田さんのお話にあったキャリアデザイン研修的なものとか、個人がコンピテンシーのアセスメントができる最新のツールを提供するとか、西田さんのところのように個別課題の問い合わせにも応じますよというようなものにしていく必要があると思うんですね。 新人事制度の問い合わせにも答え、マネジャーの部下育成相談にも乗り、キャリア開発のための教育メニューも紹介する。また、「最近ちょっと疲れ気味で……」という話にも応じる。 そういう幅広い機能を持ったところを作って、「どうぞ、どんな入り口からでも入ってきてください」と呼びかけて、その中から軽いもの、深刻なもの、サポートすべき必要があるものなどを敏感に吸い上げて、的確な対応を取る。なんとなくオブラートに包みながらも本質的な機能は外さない「柔らかな仕組み」が必要なのではないかと考えています。 若月 とても根本的なご指摘があったように思います。カウンセリングという言葉が日本では幸か不幸かメンタルな面から始まってしまったという経緯があって、もしかしたら最も受け入れにくいのは制度ではなくて、カウンセリングという言葉そのものなのではないか。そんな思いさえしてきました。 西田 カウンセリングのお話しをする機会が時々あるんですが、必ず自分のサポーターをお作りなさいと申し上げているんです。自立して何かを考えようというときに、友達でも同僚でも上司でも誰でもいいんですが、自分を理解し支援してくれる人がいると、頭の中が非常に整理しやすくなる、問題が解決する様な気がします。 センターにいると、1人でいろいろしゃべっていく人がいるんですね。私に向かって話しながら頭を整理して、私の反応などからも感じ取って、「これで自分の進む方向性が漠然だけれども見えてきた」という感じで帰られる方も多いんです。それはそれですごくいいことなのではないかと思うんですね。 若月 今の西田さんのお話は非常に示唆に富んでいると思います。個人の中に自分を変える力があることを信じることからカウンセリングは始まるわけですが、誰かが話しに来て、カウンセラーの反応を見ながら頭を整理していく。漠然と「こうではないかな」と思っていたことを再確認したい気持ちがある。 個人と組織のバランスを取るうえで、実はそんなに大仰な制度が必要なわけではなくて、自分自身を整理・再確認する機会を、多様な形で提供することがこれからの企業にとって非常に重要なポイントになってくるのかなと感じました。 本日は皆さん、長時間ありがとうございました。 『Works No.41 キャリアカウンセリングの未来像』 (2000年8月発行)掲載
『Works No.41 キャリアカウンセリングの未来像』 (2000年8月発行)掲載