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新しいビジネスモデルの急成長企業アスクル
「明日来る」からアスクル。中小企業を対象としたオフィス用品の通信販売を行うアスクルは、読んで字のごとく、その商品配送までのスピーディさと手頃な値段、豊富な品ぞろえが顧客に受け入れられ、急激に売り上げを伸ばし、拡大し続けている。1999年5月期の売上高は設立当初の12倍、226億円である。
顧客価値提供の戦略フレーム(図表1)でみると、アスクルは「仕組み」×「マーケットイン」の「(2)エイジェント型」企業であるが、このエイジェント型企業にカテゴライズされる企業は少ない。
今まで、日本企業の多くは大手メーカー企業に代表される自社商品・技術先行の「(4)ニーズ創造型」企業であり、これらの企業はマーケットニーズに即した「(1)コンサルタント型」へ徐々に移行してきている。また、チェーンオペレーション型企業の多くが「(2)利用価値提供型」企業に含まれる。
「(2)エイジェント型」企業においては、現在は一部の通信販売業界の企業が含まれるのみだが、今後についてはe-ビジネスを含む新しいビジネスモデルとなる可能性が高い。
| 図表1 アスクルの顧客価値提供の戦略フレーム |
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マーケットインの追求から生まれた事業特性
アスクルは93年にプラスのオフィス用品の通信販売事業としてスタートした。
当時のプラスを取り巻く外部環境としては、スーパーやコンビニエンスストアの台頭により、取引先の文具店が減少していったことに加え、ディスカウントストアによる値引き販売が行われていた状況がある。そのような外部環境を踏まえ、売上拡大に向けて、社内プロジェクト「ブルースカイ委員会」が発足した。
まず、売上拡大に向けて顧客ニーズの把握にあたったが、文具店を通じてオフィス用品の販売を行うという、いわば顧客(一般消費者)接点を直接持たないメーカーのプラスにとって、明確な顧客情報・商品ニーズの把握は困難であった。
「自社製品はお客様に手に取ってもらえているのか?」「お客様のニーズは何か?」。直接のニーズ把握を行い、商品開発やサービス開発につなげるというマーケットインへの欲求が高まっていった。
一方で、プロジェクトでは取引先の文具店を生かしつつ、顧客を獲得し、売り上げを伸ばす仕組みを考えていた。
当時、文具店が直接外商していたのは大手企業に限られており、中小企業に対しては手が回らない状態であった。だが、全体の企業数からするとそのほとんどが中小企業であり、その市場は大きい。そこで、顧客を30名以下の事業所(SOHOも含む)と設定した。
そして、それらの中小事業所を含む地域に密着した顧客開拓や代金の回収を文具店が行い、それらをネットワーク化するというビジネスモデルを作り出した。
92年には当時のプロジェクトメンバーであった開発副本部長の岩田彰一郎氏(現アスクル代表取締役社長)を含め、4名でテスト的にアスクル事業がスタートし、5年後の97年にはアスクル株式会社として設立された。
戦略フレーム(図表1)上で再度整理してみると、プラスは「(4)ニーズ創造型」企業であり、そのプラスからまったく対極の事業特性を持つ「(2)エイジェント型」企業のアスクルが生まれた。これは、事業としてマーケットインを追求し流通に徹する(他社商品も取り扱う、値引きを行うなど)方向を選択したことによる変革である。
顧客価値を実現する事業システム
アスクルの提供する顧客価値とは、「オフィス用品を1手軽に、2スピーディに、3リーズナブルな価格で提供する」ことである。実際には、顧客がカタログから欲しい商品を選び、FAXあるいはインターネットで注文を受け、当日あるいは翌日に配送するサービスを行っている。
この顧客価値の提供をどのような事業システムで実現させているのだろうか?
エージェント制(文具店との役割分担)
| 図表2 アスクルのビジネスシステム |
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図表2がアスクルの特徴的なビジネスシステムである「エージェント制」を表したものである。
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エージェント文具店=顧客開拓、回収・与信管理 |
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アスクル=商品調達、在庫管理、受注、配送、事務処理 |
アスクルにとっては、効率的に・タイムリーに・ローコストで顧客開拓・管理が可能になり、情報システムや物流システムの開発、低価格設定、アイテムの充実などに注力および投資することが可能になる。
このビジネスフローの中でアスクルとエージェントとのお互いの特徴を生かした効率的な役割分担が行われており、それぞれが機能を補完しあい、価値を生み出しているといえる。
カタログとネットシステム
現在は、インターネット経由の受注が全体の20%。その他はFAXを利用して申し込みが行われている。数年後には、そのシェアを70%に引き上げるべくネットサービスを充実させている。「レコメンデーション」機能を導入し、顧客ごとに注文頻度の高い商品やお勧め商品を個別にHPに表示させ、手軽に注文できる「マイアスクル」を2000年にスタートした。
また、ネット上にはカタログと同様の情報もアップされているが、ネットだけですべてを完結することが目的ではなく、カタログとの併用により、新規拡大の相乗効果も期待している。
リレーションシップセンター
アスクルの顧客価値の重要な源泉のひとつは、顧客の生の声である。この顧客の生の声を収集する機能(および顧客フォロー機能)として、アスクル社内に顧客からの問い合わせ窓口「リレーションシップセンター」が設置されている。ここでは、顧客からの商品や配送に関する問い合わせ・要望・クレームを電話で受け付けており、収集された顧客情報は具体的な商品・サービス開発の起案に結びついている。
「お客様のために進化するアスクル」「オフィスに『快適』と『便利』をお届けする」「お客様にとって最も望ましい『クオリティ』『プライス』『サービス』を提供するために努力する」……アスクルの顧客志向は徹底されており、顧客ニーズはスピーディに商品化・サービス化されている。
以下にその例を挙げる。
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アイテム数の拡大/事業スタート時の500アイテムからオフィスで必要な商品を取りそろえ、現在は9600アイテム(年2回のカタログにタイムリーにニーズを反映) |
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商品依頼から配送までの時間短縮/東京23区と阪神地区に限り、午前11時までに受注した商品を当日配送 |
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簡易梱包の実施/ダンボール梱包から処理の簡単な再生紙袋梱包 など |
「お客様のために進化するアスクル」を形成するHRM施策
事業戦略を実現するための人材の配置・採用・育成はどのように行われているのだろうか。
人材ポートフォリオ上でみる人材の配置
まず、顧客価値を創造するためにどのような人材配置を行っているのか人材ポートフォリオに即してみてみよう(図表3)。
| 図表3 アスクルの人材ポートフォリオ |
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顧客価値創造の源泉になっている顧客情報収集の役割を担うのが、リレーションシップセンターの派遣スタッフ(「オペレーター」)である。現在約200名の派遣スタッフがおり、前述のとおり顧客情報を収集している。この派遣スタッフを派遣元会社のスーパーバイザー(「マネジャー」)がまとめ、社員のマネジャーが統括している。ここで収集された顧客の生の声は「CRM会議」において社内共有される。
この「CRM会議」への出席は経営ボードメンバー(「エグゼクティブ」)は必須であるが、会議開催の旨は社内ネットにより広報され、その他のメンバーにもオープンにされている。ここで、顧客の疑問・要望・苦情が共有され、次々に新しい商品アイテムやサービスが起案・実現化に向かう。
顧客の生の声を正社員以外の「マネジャー」「オペレーター」が収集し、「エグゼクティブ」が生の声から顧客ニーズを抽出し、「マネジャー」「スペシャリスト」「オペレーター」が具体的な商品・サービスを開発する。これが顧客価値を実現する人材ポートフォリオ上のフォーメーションである。
一方で、役割という側面からみると、アスクルにおける従業員の役割は、「創造」「運用」と明確に分けることが難しい。
ポートフォリオ上では運用の役割を担う「マネジャー」や「オペレーター」にも正社員が配置されているが、「創造」の役割も求められることが多く、「マネジャー」は「エグゼクティブ」、「オペレーター」は「スペシャリスト」の役割を必要に応じて担う。
例えば、物流の「オペレーター」。物流の日常的な定型業務を行っていくなかで、「物流システムにこんな機能を付加したらもっと早くお客様にお届けできるのではないか」というような改善点を見つけ、実際にどのようにしたらうまくいくかを考え、提案する。つまり、「オペレーター」としての定型業務をこなすだけにとどまらず、「お客様のために進化するアスクル」の一員として、何をすればよいかを常に考え実現していく「創造」という「スペシャリスト」の役割をも担っているのである。
つまりは、「お客様のために進化するアスクル」という理念がすべての社員においての行動指針の基本になっており、緩やかに各人の役割はあるものの、必要に応じて各人が役割を超えてPlan-Do-Seeを行っているということである。
これは事業においてスピーディな変革が求められる企業によくみられる特徴である。新たなサービスや事業システムを作り出し、それを効率的に運営するための定型的業務に落とし込む際には「一人二役」は不可欠だからである。
人材の採用
次に人材(正社員)の調達(採用)についてみてみる。
92年の事業テストスタート時は、岩田氏と3名のスタッフからスタートした。そして、97年にはそれまでアスクル事業部として在籍していた社員と新たな社員をプラスからの出向という形でアスクルを設立。99年には中途採用を開始し、2000年現在、正社員は約130名である。
人材の育成〜理念の共有〜
アスクルは、「お客様のために進化する」という理念で動いている会社である。そのため「アスクル」の理念の共有を重視し、時間・パワーを割いた。
新しくアスクルに加わった社員に対して、約1カ月の研修を設定。「お客様のために進化するアスクル」を実現する事業システムの理解や、今後のアスクルへの提案などのプログラムを通じ、理念を体得することが目的である。具体的には、トラックでの配送や顧客の問い合わせ窓口の「リレーションシップセンター」での電話受付などを実際に体験するなど、顧客接点となる場に触れることを大切にした。
このような理念共有が「お客様の要望に応えるためにはどうしたらよいか」を従業員全員に考えさせ、凝集力を高め、結果的に速いサイクルで高質の顧客価値創造につながる。事業戦略の実現に向けての最大の社員育成施策といえるだろう。
「マーケットイン」と「仕組み」をさらに高度化
これまでアスクルは、顧客のニーズに応えて取り扱い商品を「文房具」から缶飲料、トイレットペーパー、オフィス家具などの「オフィス必要品」にまで拡充してきた。
今後については、「オフィス内の課題解決」へと、ソリューションビジネスの領域まで拡大していく方針であり、現在「アスクルB2・Bマート」というかたちでスタートしている。「コンピュータの接続の方法がわからない」など、オフィスで困ったことがあったら、まずアスクルへ問い合わせ、電話で相談できるサービスである。
戦略フレーム上(図表1)でみてみると、今後も「(2)エイジェント型」企業の中で高度化していくであろう。既存の事業システムについては、さらに情報システムや物流システムなどの「仕組み」をさらに高めていくと思われる。
また、ソリューションビジネスについては、現在、構築中であるため、方向性としては明確ではないが、既存の事業と二分化し「創造」に振れていく可能性もあると思われる。
いずれにおいても、「お客様のために進化するアスクル」という「マーケットイン」はさらに高度化していくであろう。
人材ポートフォリオでみてみると、「マーケットイン」と「仕組み」を高度化させる既存事業については、「スペシャリスト」と「オペレーター」が分化していくと思われる。また、新規のソリューションビジネスについては、「イノベーション」に振れていくのであれば、リレーションシップの派遣スタッフに対して、高度なコミュニケーション能力・専門知識が求められ、「スペシャリスト」としての派遣スタッフが必要になるだろう。
以上のように、「(2)エイジェント型」企業における事業の成功は、「マーケットイン」と「仕組み」をいかに効率的な実際の事業システム(アスクルでいえば、エージェント制やインターネットシステム、リレーションシップセンターなど)に落としこむかが重要なかぎになっていると思われる。同時に、その事業システムを運用し改善していく従業員の方向づけ(アスクルでは、「お客様のために進化するアスクル」の共有など)を行うことも忘れてはならないであろう。 |
『Works No.40 戦略的HRMを生み出す「人材ポートフォリオ」』 (2000年6月発行)掲載
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