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大規模な人員削減が労働移動を加速する
業種や企業規模の大小を問わず、人員削減の勢いが加速している。削減計画は都銀上位行で1万5000人、大手電機メーカーでは3万人を超え、その他鉄鋼、建設、流通、運輸・通信などの業界でも、今後数年間にわたって数千人から数万人単位の減員が予定されている。東京商工リサーチの調査によると、東証上場企業1719社の98年度上半期の従業員数は、4年前の約1割にあたる49万人も減っている。さらに特徴的なのは、これまで受け皿となってきた中規模企業の従業員数も減少していることだ。労働力調査によれば、30〜499人規模の企業の年平均雇用者数は、97年に比べて30万人余り減少した。
雇用動向調査によると、常用労働者の移動状況は、同業種・同職種間でもっとも多いのだが、子細に見ていくと少し違った観点に気づく。
たとえば前職が1000人以上規模の製造業従事者(男性)の現職を見ると、総数ではやはり製造業が多いものの、年齢層別では、20〜24歳層と55〜59歳層で製造業よりもサービス業が多くなる。また、現職の製造業を規模で3つに分類して他産業と比較すると、25〜29歳層ではむしろ卸売・小売業、飲食店やサービス業への移動が前職と同規模の製造業よりも上位にくるし、45〜54歳層でも同様にサービス業への移動が多い。逆に30〜44歳層では1000人以上規模の製造業への移動、つまり平行移動がトップである。
この調査は日本標準産業分類による主要9大産業を集計単位としているために、これ以上細分化された業種間移動の実態は不明だが、規模や年齢層によって、移動のパターンはかなり異なっているように見える。
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未熟な労働市場機能
経営環境の悪化を背景とする企業側の態度の変容は、そこで働く個人にも変化を強いる。これまでは、雇用の安定と引き換えに、社内やグループ企業内の流動性を高いレベルで維持してきたため、ともすると個々人のキャリアパスよりも組織の都合が優先されがちだった。ところが今や、仕事も職場も突然消滅しかねない状況にあるといっていい。能力開発もキャリア設計も、もしもの場合には新たな勤務先の開拓までが、自己責任の名のもとにそれぞれに課されることになったのである。
しかし、労働移動を支える仕組みは必ずしも十分とはいえない。これは労働市場が未成熟であることに起因する。たとえば、ある企業での仕事経験や業務スキル、職務適性、価値観や行動特性が、よその企業の異なる仕事に対してどう適合するのかを測定・評価する技術が確立されていない。あるいは、このような指標に基づいて仕事情報を流通させる仕組みが整っていない。派遣や職業紹介などのサービスは厳しい規制に縛られて、その機能の高度化が遅れている。個人にとっても、自分が志向する仕事や環境を適切に判断する基準値・相場観がない。さらには、年齢や性による差別、パートタイマーなど非典型的労働者と典型的労働者との間に格差が存在する。市場といえるためには、それをつかさどる共通の指標やデータが存在し、誰もがそれらの情報を入手し利用できる状態が必要であろう。
労働移動を支える機能の整備を
これまでの社会システムは、少なくとも大企業を中心として、労働移動を前提とする制度設計をしてこなかったといっていい。企業の雇用慣行も、年金などの社会保障制度も、法制度や司法の判断も、長期雇用を当然なものとしてとらえ、労働移動が活発な状態を予定してこなかったのである。その方が効率的だったし、コストも安かったのは間違いない。
しかし、競争構造の変化による優勝劣敗と企業の態度の変容に起因する個人の意識の変化、長期的な高齢化・少子化の進展は、従来の仕組みでは適応できなくなる可能性を示唆している。ジョブサーチのコストやトレーニングのコスト、機会の利益の喪失や失業が増えることによる社会的なコストの増加は、確かに懸念される問題点である。そして、これらの課題に対して適切な処方箋を書けないとなれば、人的資本はその価値を目減りさせ、経済は疲弊し、さらに悪い環境が現出しかねない。
長期的で安定した就業機会がすべての人に提供される保証がないとなれば、問題は個人の選択行動を支援する仕組みをいかにして整備していくかにある。自らの意思で働き方を選択していくためには、たとえば派遣や職業紹介サービスが果たしている機能、つまりトレーニングの機会を提供したり、技能や適性を評価したり、適切な価格(賃金)で仕事を紹介したりといった側面に、もっとスポットが当たってもいいように思う。これらの機能がさらに高度化して、キャリアパスについての相談に応じてくれたり、適当な教育機関を紹介してくれたり、希望の条件を登録しておけば随時メールで仕事の空き情報を知らせてくれるなどという、いわば個人のエージェントのような機能があれば便利なことこの上ない。いざとなれば別の仕事が選べるという環境にあることは、個人にとって大きな安心材料であり、武器にもなるはずである。
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『Works No.33 日本的雇用システムの未来デザイン』
(1999年4月発行)掲載
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