研究プロジェクト

調査データ

書籍・提言

機関誌 Works

研究所について

  Home
日本的雇用システムの未来デザイン Works Institute
リクルートワークス研究所
 

セッション2●キャリア形成

個人の自律は前提だが、
人材育成は国家レベルの問題であり
コミットメントは当然


ワークス研究所主任研究員
古野庸一


1999 年 4月 10 日

 雇用システムが変化すれば、個人のキャリア形成のあり方も変化せざるをえない。個人が自由に転職をする状況では、企業側が個人に対するスキル教育・教育研修を行うインセンティブは小さくなる。そのような状況において、「誰がキャリア形成の責任を担うのか」「そのコストは誰が支払うのか」という問題が出てくる。
 受益者負担という観点に立てば、個人がコスト負担していくことが理にかなっている。一方、人材育成は国家レベルの問題であり、国のコミットメントも当然視野に入ってくる。国、企業、個人がどの程度コストを分担していけばいいのかという問題も出てくる。しかしながら、根本的な問題として、個人側に、「キャリアの責任は個人にある」という意識があるのかどうか、その心構えがあるのかどうかということが問われる。現在、多くの企業で、「企業に依存するのでなく、自律しなさい」というメッセージを従業員に送っている。自律するための研修プログラムを実施している企業も多数ある。しかし、多くの個人は、「今まで滅私奉公して働いてきたのに、いきなり自分のキャリアを考えなさいと言われても」という思いもあり、戦々恐々としているのが現実である。
 このような状況において、過渡期である現在の問題と将来の問題を切り離して考えていく必要がある。現在の問題とは、主に中高年の問題である。国際競争の中、終身雇用が保証できない人たちに対しての保障の問題である。暗黙とはいえ、企業側は終身雇用をちらつかせ、その企業特有の技能を身につけるようなシステムで育った個人に対しては、何らかの形で、企業あるいは国のレベルでの保障が必要と思われる。
 一方、それ以下の世代に対しては、将来の問題として、個人の意識改革とキャリア形成を行う機会の提供を社会レベルで考えていく必要がある。ここでいうキャリア形成は、大きく分けて2つの要素がある。1つ目は、具体的なスキル・知識教育であり、2つ目は、キャリア観・職業観の醸成などのキャリア教育である。双方の教育の対象も大きく分けて2つ考えられる。すでに社会人になっている個人に対するものと、就業していない個人に対するものである。


キャリア形成に関する問題整理


今後のキャリア形成に関する課題
.  スキル・知識教育  キャリア教育
就学者
企業が望む人材を輩出させるための高等教育のあり方
新しい時代に対応した職業観・キャリア観の醸成
多様な働き方、多様な職種の理解
(豊富なキャリアモデルの提示)
自己分析、キャリアデザインの充実
子を持つ親のためのキャリア教育
インターシップ(実経験)によるキャリア観の醸成
キャリアカウンセラー/アセスメントの充実
社会人
社会人教育機関の充実
(ビジネススクール/コミュニティカレッジ)
転職に伴う再教育の充実
初期キャリア期のトライアル期間化
キャリア教育の充実

キャリアカウンセラー/アセスメントの充実


 表は、キャリア形成に関する課題をマトリックスにしてリスト化している。
 就学者に対する教育として、「自分のキャリアは、自分で責任を持つ」というキャリア観・職業観の醸成は、小学校の頃から必要になってくる。また、スキル・知識教育という観点で、今後、ますます大学教育のあり方が問われると考えられる。社会人に対しては、流動化が日常的になれば、再教育のためのスキル・知識教育の充実とともに、キャリアに関するアドバイス、支援を行うキャリアカウンセラーの役割がクローズアップされてくる。
 社会人教育に関連して、「初期キャリアのトライアル期間化」という概念は一考に値するものである。つまり、実際に働くことによって、向いている職種、仕事、職場、ワークスタイルというものがわかってくることが多い。そのため、20代の初期キャリア期間を適性を見極める期間と位置づけ、企業組織への出入りを緩やかにした方が、個人が自主的にキャリア形成ができると考えられる。また、その組織に合う人材を見極めるという観点で、企業側のエコノミクスにも合致すると考えられる。
 表にあるような課題は、人材流動化に伴い、顕著になると思われるが、前提となる「仕事」「キャリア」そのものの定義づけが大きく変わる可能性がある。
 企業によるフルタイム正社員採用が減少し、派遣、フリーランス、ダブルワーカー、SOHO、ローンレンジャーのような新しい働き方が増大してくれば、新しい時代に即したキャリアモデル・キャリアパスの提示が必要となる。
 また、企業外での社会的仕事の増加という問題も21世紀という時代を考えれば視野に入ってくる。つまり、企業による就業者が減る一方、環境問題に代表されるような人類存亡のために必要な仕事は山積み状態になってきている。そのような仕事に対するキャリアモデルの提示とともに、そのような仕事に個人を誘導させるためのインセンティブシステムが社会的に必要になってくる。

『Works No.33 日本的雇用システムの未来デザイン』 (1999年4月発行)掲載

 
>> HOME RECRUIT