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過去の慣性を如何に断ち切るか。
それが変革の最大のポイントだと思う。

ファーストリテイリング 執行役員人事総務部長 松岡保昌氏


既存店の売り上げ伸び率の低迷。そうした業績推移に過剰なまでに反応した株価の急落。サクセスストーリーを絵に描いたような急進撃をしてきたUNIQLOブランドに影が差したかに思われたのはつい最近のことだ。ピークは過ぎたのか。多くの急成長企業が経てきた道と同様に、ファーストリテイリングも、一時の栄光の座を後に、時代の徒花と消えてしまうのか。多くの企業人が抱いているであろう想いを持ち、人事責任者の松岡氏を訪れたのは、株価下落の真っ只中の9月中旬。同氏は、かつて株式会社リクルートに籍を置き、私と同じ事業部門、同じ職種に身をおいていた元同僚であり、Worksの副編集長でもあったという共通点を持つ。話は、最近の「低迷」に関して、どう認識しているのか、という単刀直入な質問から始まった。なお、過去の付き合い上、決して丁寧とはいえない言い回しが多く出て来るが、会話のリアリティを再現するため、あえてそのままにしてあることを事前にお断りしておきたい。

Works編集長
豊田義博


2001 年 11月 6 日



これが初めてではない。今は改革の途上。

松岡 まずね、ずっと急成長企業のように思われていますが、だいたい3年に1回何かあったりするわけです。たとえば98年にも既存店の売り上げってマイナスになっている。そのときABC(All Better Change)改革っていうのをやって、急激に上がって。それで1000億の売り上げを2000億にしてね、2000億の売り上げを4000億にして。それが永久に続くわけないじゃないですか。

――確かに。そもそも設立して40年近く経っている会社という認識が、社会にあまりないからね。

松岡 今年の8月に既存店の売上が実績を少し割りました。これはもうしかたないことです。だから今度はこの状況でどうブレイクスルーしていくか。どうやってまた成長できるようにしていくかっていうのを考えるべきでね。そのときに、やっぱり鍵になるのって、そういうことを考えられる人がどれだけいるか。うちの会社って、「独立自尊の商売人がほしい」っていう言い方をしてるんですけれども、その独立自尊の商売人って、ゼロから何かを生み出して、もしくは解決して、何らかの付加価値を作り出せる人なんですよ。そういう人の集団にしていきたい。それプラス専門性の高い人ですよね。このかけ算。トータルしてポイントの点数の高い人がほしいわけです。
 でも、「ゼロから何かを生み出せる人」って、日本にはそんなにいない。大学の教育のあり方もそういう人材を生み出すものでは全くないし、企業に入ってからも育つ仕組みを持っているところは滅多にない。だから、少しでもその萌芽を持った人、もしくはそういうセンスなり素養を持った人を採って、開花した人からどんどん力を出してもらう場所にしたいと思っていてですね。だから、その人たちがうまく機能すれば、またこの難局を乗り越えられるだろうし、だめだったらしばらく続くかもしれないけど。ま、きっと皆で何とかしてみせますけどね。

――いま言った感覚って、社内の認識としてもそんな感じです? 新聞を見ればずいぶんひどい書かれ方をしてるじゃないですか。社内はそんなに危機感は持ってないっていう言い方は失礼かもしれないけど、なんていうのかな、数字に関してビビッドに反応するのは当然としても、何かをひっくり返して何かをやり直さなくちゃいけないんじゃないかっていう議論がなされてるわけではないんですか?

松岡 この3年間ずっと言われ続けてきたのは、全部ゼロから変えようよということ。オール・ベター・チェンジで全部変えようと。その連続だから。だからこういう状況になったら全部変えようよということで、また来週から組織も変える。

――そういうノリが続いている状況?

松岡 そうそうそう。だから危機感は当然あるけども、いよいよ来たかっていう感じで。じゃ、これをどう乗り越えますかと。

――組織を変えるっていうのはやっぱり頻繁にある?

松岡 必要なら毎月でも変えますね、そんな状況です。

――ユニクロってあるパターンをとってずっと同じことを続けて伸びてるっていうふうに見えてると思う。組織を毎月変えるって、たとえば何に対してどう感じてどういう変え方をしているんですか?

松岡 責任者に近い人たちの担当入れ替えるとか、くくりを変えたりとか。組織の作り方って、その時々の大事なポイントのメッセージじゃないですか。何を最優先してやらなきゃいけないのか、どこに重点を置くのかとか。感覚重視だったところに、数値的な整合性を一気に入れなきゃいけないときには、そういうのが得意な人材をその部署に入れるとか。

――くくりの話はよくあるけど、人についても、かなり意図的にやっている、かなり激しくやっているんですか。

松岡 たとえば上位グレードの人たちを大胆に入れ替える。見てもらう範囲を変えたりとか、わざとね。専門性という観点ではあえて目をつぶってでも、その人が強みとしているものの考え方や仕事のスタイル、そこを見ていく。あと、部長、リーダーを入れ替えてみたり、担当するくくりを変えてみたり。組織をたたんだり、独立させてみたり、とか。

――そうした組織変更、担当変更をスピーディにやりましたと。その効果に関する検証って、かなり綿密にやっているんですか?

松岡 検証というよりも、改善されたかどうかですよね。それが最大の検証ですよ。たとえば商品のクォリティーが本当に変わるか、変わらないか。工場との関係が変わるか、変わらないか。生産調整、変わるか、変わらないか。売り上げ伸びるか、伸びないか。店舗のスタッフ、やる気になるか、ならないか。一つ一つがそうなれば成功だし、ならなければ失敗だし。失敗したら成功するまで変える。

「独立自尊の商売人であれ」。これを常に言いつづけていく。

――ということは、たとえばしかるべき人間をあるポストからあるポストにシフトさせたときには、きわめて具体的な行動目標というか、達成目標が明確に認識されてるっていう状態なんですか。

松岡 認識させるために組織も変える。同時に社内啓蒙もする。たとえばも店長コンベンション、これは全国の店長が集まる年二回のイベントなんですけど、こうした場で店長以上のグループの人たちが危機感を共有し、解決の方向を共有する。そういうことはやっぱり努力してます。すごく大事だと思っています。

――店長コンベンション以外に、経営の意思を伝達させるためにやってることって何かあるのかな。

松岡 毎週リーダー・部長以上が集まる会議があるんですよ。

――毎週。それは全国?

松岡 全国。

――何人ぐらいが集まるんですか。

松岡 俗にリーダー会議というのが、リーダー・部長と役員。これが月曜日にだいたい山口から朝一便で来て間に合う時間に開催。午後には営業会議というのがあって、全国のスーパーバイザーやスーパースター店長(SS店長)が集まって。140〜150人の会議を毎週やっている。

――セブン-イレブンの店長会議みたいな内容ですか。

松岡 それに近いかもしれない。まあ、直接集まって課題を共有し、そのニュアンスまで確認したりするという部分では大変価値がある。ただ、そのやり方はまだまだ工夫の余地がありますけどね。

――事業のスピードっていう部分がファーストリテイリングの生命線であり、最大の資産であるという言い方をしていますよね。だとすると、それをどうやって担保して、それをどうやって増強してるのか、スピードに対する対応を生みだす仕組みとか決め手というのは、今のコミュニケーション以外にあるのかな。

松岡 意志決定が早いということと権限委譲がなされているという当たり前のこと以外で言えば、「議論する文化がある」。

――もうちょっと補足して欲しい。

松岡 過去の仕事柄、いろんな会社に行って役員会とか営業会議とかそういう場に出てますけど、その殆どがまともな議論にならない。でも、この会社はやっぱり論を尽くす。ちゃんと議論になるし。

――それはどうしてだろう?

松岡 強要してるんですよ、議論し尽くすことを。役職や立場に関係なく議論をする。何かを隠してでもその会議を通せば良いという発想は微塵もないんです。その議論で想定していなかった事が発覚すれば、決定後でも一から議論し直す。だから論を尽くさずに決定しても意味がない。論を尽くして、その上で決定すれば納得度も増すし、状況変化にもすぐに対応できるでしょう。それに、独立自存の商売人なんだから、サラリーマン根性を捨てろ、自分の言動に責任を持てと、毎月、毎月のようにメッセージを送ってるわけですよ。毎月定例の朝礼でもそれに類することを社長は必ず話すんですが、それをビデオに撮って、毎月店舗に送ってるんですよ。毎月ね。もう言い続けてるんです。まだ100パーセントできてるわけじゃないけど、言い続けられると、やっぱり人ってね、自分でやらなきゃ、となるでしょ。もともと採用でも完全実力主義を前面に出しているんで、それにあこがれて来る、要するにサラリーマンじゃない働き方にあこがれてくる人がいるので。

――なるほどな。言い続けるか。

強い店長を、如何に生み出していくか。

松岡 98年に既存店で売上が下がったときのABC改革。そのときの意識改革ってすごく大きいんですよ、この会社の現在の基本を決めている。それまではチェーンオペレーション理論に則って、強い本部が決めたことを全店で実施して、それで顧客を獲得していくんだっていう思想があったから、どっちかというと自分で工夫するというよりは、決められたことをしっかりやっていくという文化があったわけですよ。で、それでとことんやってきて、ある時既存店の売上が下がった。そのときに、サポートセンター(本部組織)以上に強い店舗を作ろうと決めたわけです。本当に優秀な店長を作る。ある人は商品の動きを見て、あ、次はこれが動くなとか、こう動くなという情報をサポートセンターに伝える。ある人は店舗の作り方で、こういうふうにした方がいいなってことに気づく。本当に経営的視点で物事を見られる店長をきちんと作ることができたら、うちはすごく強くなる。その発想があるわけですね。作ったものを売る会社から、売れるものを売れる量だけ、売れるタイミングで作れる会社になる・・・・・・根本はそれなんですよ。既存店で売上が下がったといっても、その原点さえきちんとできていれば、ベーシックカジュアルが不要になることは絶対にあり得ない。で、売れるものを作れる体制をどう作るかいうことが大事で、そのためには、やっぱり現場で、たとえば手にとって戻される商品、というような数値には出ない情報や、もしくは欠品していてどれくらい売り逃したか数値では判らないものも含めて、肌感覚でわかる人が、強力な人が店長となっていく。そして、その情報をどういうふうにフィードバックするか。そこがすごく大事になる。店長は、キーマンにならなきゃいけない、2つの意味で社内に影響を与えられる人に。1つは、いま言ったみたいに川上、つまり商品を作るところ。製造小売という業態だからこそ、そこに影響を与えてもらわないといけない。もう1つは、われわれは局地戦で勝っても意味がなくて、全体で勝たなきゃだめなんです。だから1店だけどんなに売り上げが伸びても、それを全店でできなきゃだめなんですよ。だから自分の店の工夫なり、やり方なり、いいところを横展開する。つまり縦に影響を与えて、横も変えさせる。この2つができる人。そういう人が店長としていたら、それに負けないぐらいのサポートセンターがあったら、そういう集団はむちゃくちゃ強い組織だ。それを理想にしてるんですよ。まだまだほど遠いかもしれないけど、その理想になるように人事制度も変革しているし。まだ数は少ないけれども、そのような行動を実際にした店長には、たとえば決算賞与だけで1000万。役員並の給料をトータル年収として払うぐらいの処遇にしたい。採用もスーパースターエントリーということで、スーパースター店長(SS店長)になりたい人は、別の入口を設けている。

――あ、もう今は別のエントリーがあるの?

松岡 日本中の小売の優秀な店長さんを集めたいから、エントリーも分けて募集している。商品に強くてもいいし、店舗設計に強くてもいいし、人材マネジメントに強くてもいいし、何に強くてもいいんだけど、そういう得意分野から経営に影響を与えてくれる人。で、サポートセンターはサポートセンターで官僚的じゃなくて、一人一人が全員独立自存の商売人として価値を生み出す人。たとえば人事だったら、他の部署が金払ってでもいいから人事のことは松岡にやらせたいと。私のメンバーにやらせたいと思えるような働き方を一人一人ができれば強い組織になりますよ。それを理想にして、人事の施策を設計しようとしている。

――さっきの店長の話で、1店だけじゃだめで横展開っていう話だけど。それって具体的に店長にどういう権限があって、何をすることを行動的には求めるのかな。

松岡 自分で思いついたことや実行してみて良かったことは、自分で全社に情報発信できるんですよ。だからフロー型のナレッジマネジメントはすごく進んでいて、その日誰かが思いついて発信したことは、その瞬間に全店で共有できる。今度はそれを誰かが読んで実行する。そして、僕はこういうふうにしてみたというようなことをどんどん書き込んでいく。メールでやりとりしながら進化していくんです。

――なるほど。LAN的な、コミュニケーションボードがあるっていうことなんだ。

松岡 別に難しい仕組みではない。社内のメーリングリストです。それで全社に情報発信もできるし。新入社員だろうが、誰だろうが、役職などに関係なく社長にでも役員にでも部長にでも、誰にでもメールを送れる。思ったことはどんどんやっていく。SS店長であれば、さっき言った営業会議やリーダー会議にも出られるのね。必要なときに。で、そこでガンガン意見を言ってもらうわけですね。もしくは、メールで商品の動きとかをMDに情報提供する。そういうことは自由だし、逆に求められている。

――そうかそうか。それが行動評価みたいなものになって、業績とは違う部分でもある種の評価はそこでされると。

求める人物像を、よりリアルに社内外に浸透させる。

松岡 早い人だったら入社して半年で店長になるんですよ。もちろん数は少ないですよ。店長代理資格試験に受からないと店長にはなれない。店舗の運営のしかたを全部一通り身につけなきゃいけない。結構難しいんですよ。でも早ければ半年ぐらいでなる人がいる。普通だったら1年とか、2年とかで、みんな店長になっていく。24とか25で店長という重責をはってますからね。

――やっぱり早いよね。

松岡 23、4、5、6ぐらいで、そこまで全社に影響を与えられることがすぐできるかっていうと、現実はなかなかそこまではいかないですよね。でも、そういう人だって全社に意見を言ったり、社長宛・役員宛に意見を言っていいし。そこを卒業した人は、つまりスーパーバイザーやSS店長になった人はそれが仕事ですし。逆にそれが少ないと、何をしてるんだと詰められる。チェーンオペレーション型の店長とはまったく逆を育てようとしてます。だから、社名は出せないけど、多くのチェーンオペレーション型で店長ずっとやってましたという人が面接にみえても、物足りなくて仕方ないですよね。自分で考えてないのね。

――想像に難くないな。

松岡 自分でやったこと何ですか。その質問にほとんど答えられないんです。

――前職が同業だとあまり良くないっていう話は前にも聞いたことがあるんだけど、どんな仕事してる人だったらいいとか、傾向ってあるんですか。

松岡 それは関係ないですね。いろいろやってみて思うのは、うちはどこにもない店長像を作りたいので、やっぱりある程度若いうちから鍛える方がいいのかなとは思います。ただ、どの業界や会社でも構わないので、自分で考えた実績とその習慣を持っている人。そして、本当の商売センスを身に付けるために店長をやりたいという意思をもっている人っていうのは力ありますよね。この会社で本当に力を出そうと思ったら、やっぱり店舗の細部までわかってないと、本当にいい仕事というのはむずかしいところがあります。いずれにしても、自分で何かをやりましたっていう人は非常に少ないですよ。さっき言ったように、自分の専門と関係ない命題を与えられても、解決への手順を描けるかどうか、つまり本当のソリューション力が求められる時代なんですよ、今は。スピードが速く答えのない時代にはこの力が特に求められる。人材ビジネスの会社がこのソリューション力の指標と、自分が知識なりスキルを育んできた専門性の指標の二軸できちんと人を評価する仕組みを作ってくれれば、我々も楽になるんですがね。それに、この時代どんな力が求められるのか何よりも働く人へのメッセージになる。期待していますよ(笑)。

――中でもそうだし、リクルーティングにおいてもその軸で見てると。

松岡 その軸で見てる。で、後者の知識だったらあるけど、前者の方のソリューション力が高い人が日本という社会においては限りなく少ない。

――場が少ないっていうことなんだね。そういうことが身に付くとか、そういうことを要望される場。でもユニクロという会社の門戸を叩く人達って、必然的にこの何年間で急速に変わってますよね。数の問題は当然あるとして、クォリティーの問題とか、タイプの問題だとか。

松岡 感覚値で比較するなら、あまたの会社よりも独立自尊心とか、自分でやんなきゃという主体性が強い人は圧倒的に多いですよ。比率はね。

――多くなってきたのかな。もともとそういう精神の会社ではあるじゃないですか。

松岡 これは私も聞いた話ですが、昔社長が各部署に何かやってほしいことが有ったとすると、○○部にやってほしいことというレターじゃなくて、部長の名前をつけて、たとえば松岡商店にやってほしいことというようなレターを配っていたらしいのです。昔からずっとおられる人の方が、そういう考え方が染みついてる。自分でやんなきゃっていう意識がすごくある。逆に、中途できた人の方がサラリーマン的だったりする。
 人が働く上では、2つの共感て大事じゃないですか。その企業の事業理念への共感と、ワークスタイルへの共感。ワークスタイルとは、どんな働き方が求められて、何が評価されるのかということ。この2つへの共感がないと本気では働けないですよね。で、ビジネスモデルへの共感、事業理念への共感ていうのは、いろんなメディアで取り上げられて、かなり共感されている。しかしワークスタイルはまだまだ認知されていないので、当社の文化を伝えることをかなり意識した新聞広告うったり、手間はかかっても理解してもらうためのセミナーを開いたりとか。パンフレットにも力を入れているし。かなりわかった上で来てくれるようにはなった。ただ頭でわかるのと、やってみるのとではやっぱりちょっと違う。中途できた人には、いかに早く会社の価値観を共有し、過去の成功体験に縛られずに、純粋にゼロから発想して本質的な仕事をしてもらえるようにしてゆくか。結構大変ですよ。

――新卒はどうですか。人気の面でも着実に変化しているけど。

松岡 新卒もそういう人を採ろうとしている。むずかしいんだけど、理想は地頭が良くて、プラスサービス精神の旺盛な人。地頭とは自分で考え出す力のこと。サービス精神とは、相手の気持ちを察知して先回りしてその人が喜ぶ行動をとれる人のこと。ほんとうに少ないですね(笑)。

――サービス精神か。でも重要だよね。

松岡 頭が良くて、自分勝手な人は多いんですけど、頭が良くて顧客志向のサービス精神を併せ持った本当にいい人って少ないんですよね。自然と頭が下げられる。自然とニコニコできるとか、自然と相手の喜ぶのを一緒に喜べるとか。これのかけ算なんです。両方いるんですよ。

――それはかなりハードル高そうだよね。話変わるけど、ユニクロってもともと、それなりに早くからいろんなことを任せるっていうことをしてた。そうすると、長期に勤めるっていう感覚というよりも、ここにいれば早いうちから鍛えられる、という受け止め方をしてる人がいっぱいいるんじゃないですか。つまりは、優秀な人が辞めていく・・・・・・。

松岡 結論から言うと、まだそんなことは起こっていない。まだまだ有志を集めている段階ですからね。でもゆくゆくは人材輩出企業になりたい。入りも出も自由、1回出ていってまた戻ってくるのもいいし、そういう会社にしたい。人と企業の価値の交換ができる企業でありたいんです。企業はステージを与え、人はそのステージを使って成長し、自己実現する。その代わりきちんと会社には利益や付加価値を提供する。先程話した、ソリューション力があって、専門性も高い、そんな個人なら独立しても生きてゆける。しかし、もしもそんな人が何か大きなことをしたい、それを早く実現したいと思っても、一人でできることは限られている。ところが。企業というステージを使えば、人、モノ、金、情報、それに信用まで一気に手に入ります。より早く、より大きな仕事ができるし、自分の成長にもつながる。企業と個人は、その適度な緊張感で結ばれているというのが一番健全なんです。優秀な人を集め、そして居続けてもらうために企業も努力しないといけない。もちろん個人も、最適なステージに立つために常に自分の力を磨き続けないといけない。それが理想なんです。だから当社は、どこよりも活躍できる場を提供したいし、適切な報酬も払いたいんです。給与の仕組みなんかも全部そうなってるんですよ。即時払いの原則とか。若いうちに少なくして、年とってから多く払う、そういうことはしない。個人の評価によって変動する年2回の賞与や、みんなで頑張ってあげた利益をその貢献に応じて大胆に還元しようという決算賞与など、実力主義にふさわしい報酬体系にしたい。だからかなり差がでます。しかも極力成果を出した時に近いタイミングで精算する。もちろん、翌年、手を抜いたら下がりますよ(笑)。決算賞与は、コラボレーションバリューを高めましょうというメッセージでもある。他の人と協働して会社の価値を高められるような人でないと、評価はできません。

――さっきの1000万の賞与っていうのは、理論値、それとも実績としてもう既に?

松岡 実績ですよ。年収で見ると、2000はるかに超えてます。

――額はともかくとして、個人の名前は社内にとどろいてる。

松岡 明確には言ってませんが、何となくはわかるでしょう。ヒーロー作りをやっていますから。何が評価されるべきことなのか、何が悪いのか。その時々のヒーローの実像を通して具体的にみんなに伝わるようにしていますから。

――先日の店長コンベンションのような場でも、ある種表彰的なものがあったりとか。

松岡 そうそうそうそう。たとえば、新人を店長のところに入れるわけですね。育てるのが上手な店長に4人ずつぐらい受け入れてもらったんですよ。育成店長として任命されるだけでも名誉なんだけど、4人とも半年で店長代理資格試験に合格させた店長が3人いて。表彰しました。すごいと。人を育てることの大切さを全員で共有したわけです。

再び原点に戻る、という難しい変革を推進するために。

――なるほどね。仕組みとしては、かなり精緻というか、一貫性がある形ですね。ただ、松岡が何度も言ったように、まだまだです、と。要するにまだ発展途上の組織であるという認識ですよね。それに反して業績の方が先につきすぎたみたいな感覚は、社内にあるのかな。乱暴に言うと、ある種のバブル的な状況っていえばいいのか。まあ、業績をバブルって言っちゃいけないんだけど、でも業績が伸びすぎた、ある種のリスク感覚っていうのはあるんでしょうか。

松岡 伸びすぎた感はあります。だから、みんな逆の危機感持ってましたけどね。こんな状態が続いたら、人が工夫することを忘れるじゃないですか。そういう危機感を持ってて。逆にいいんですよ、人の成長の面から言えばこうした状況が訪れた方が。

――そうかもしれない。

松岡 それが5年も6年も続いたら、もう会社としてだめになっていく。3年に1回ずつ転機がくるっていうね、そういう変化はすごく大事な気がしますね。

――今回の組織変更においては、どういうメッセージが込められているんですか。

松岡 もう1回、売れる商品を売れる量だけ売れるタイミングで生産できる仕組み作りを真剣にやるんだというメッセージ。

――生産システムについて何かガラッと変えるとか、人の問題をまたやるとか、かなり大胆にやるんですか。

松岡 大胆であるというより、原点に戻るんですよ。商売の原点に。というのはね、2000億が4000億になるとは2年前には誰も思っていなかたでしょう。生産って難しいんですよ。だから本来うちの商売のしかたに反してしまった。欠品をこの2年間起こしてしまったんですよ。欠品がないっていうのが我々の商売の基本なんです。いつ行ってもベーシックなものが、ほしいサイズがきちんとあるっていうのがわれわれの商売だと思ってる。でも、売れ過ぎちゃって欠品起こしちゃったんですよ。今度は作る側も欠品起こすのが怖いから、たくさん作っちゃうわけですよ。我々の生産量は半端ではないですから、少しの読み違いも大きな数字になってしまんです。だから、ここらで本当に売れるものを売れるだけ売れるタイミングで作れる会社にしていこうと。だから原点に戻る。

――そうか、あくまでベーシックなんだ。

松岡 それを真剣にやるよと。これまでは、もう作れないっていうのを、なんとかして追加で作り、間に合わせ、それでも商品によっては欠品が起きる。Mがないとか、グレーがないとか。また逆に商品によっては過剰になってしまう。それ、われわれが志向する商売じゃないんですよ。それは普通のアパレルなんですよ。ガッと仕入れて、売れないものはメーカーに戻す。それでもどうしようもないものは、期末にバーゲンにしちゃう。

――でもそれって、言うは易くてすごく難しいことでしょう? いままでの延長上じゃないことを一気に起こす。そういうことですよね。だからもうちょっとがんばるとか、そういう話とはちょっと違う。

松岡 その瞬間、その瞬間で過去慣性をどう断ち切るかですよね。不要な過去慣性というのが一番怖いんですよ。で、その過去慣性を断ち切る1つのメッセージであり、手段が組織変更なんですよ。過去慣性を断ち切って、違うことをやるんだと。全員今までの発想を変えなきゃいけないっていう。

――過去慣性を断ち切る、とはとてもいい言葉だな。

松岡 なかなかその過去慣性って断ち切れないんですけどね。

沈み行く日本と心中しないために、世界に出て行く。

――当面はどれぐらいの拡大基調で行くんでしょう。徒に拡大をするんじゃなくて、必要以上の拡大をちょっとセーブするみたいな考え方にもなるのかなと思ったんだけど。

松岡 当面は、安定成長にどう持っていけるか。既存店の売上が下がるというのは、ある程度それも覚悟したうえでドミナントエリア戦略として出店した部分もあるわけですよ。都心なんか結構建ててますからね。そこは見越して、面で商売をとっていこうというわけです。もう1つは海外。よくね、日本が飽和状態だから海外に行くんでしょみたいな書き方をされるけど、それはまったく逆。日本というのは危機感のない国だと思うんですよ、いろんな意味で。最後は誰かが何とかしてくれるとみんな思っている。自立も自律もしてないんですよ。大学生にもまったく危機感はない。個人の生き方というのもね。中国で大卒の採用をしたんですが、彼らはすごいですよ、やっぱりみんな個人の能力を高める努力をしてる。日本だけかもしれない、上げる努力をしてない国って。あと10年先、15年先、もつわけないですよね、このままの日本を続けていたら。沈みゆく日本と心中する気はない、だから、世界に出ていくんですよ。世界で勝てなければ、どういう状態であっても、日本でも勝てないから出ていく。それがもうなんか違う書き方されてますよね。

――ふーん、そうか。いま言ったような文脈で語られてるのか。海外マーケットにちょっと手を出すというのではなく、グローバルな企業に真剣になるんだという。

松岡 なれなかったら、日本でもなれないっていうことですよ。細々とまた田舎の企業として生きていく選択をするしかないと思うんですよ。日本だけで閉じるということはもうあり得ないわけですからね。国体で一番になっても、オリンピックに出て、そこでで戦えるようにならないと生き残れない、もうそういう時代でしょう。

――そういうときの発想って、特定のコンペティターがいるというんじゃないんだよね。そういう考え方はしてないんだよね。どっかの会社よりもどうこうというより・・・・・・

松岡 そうそう。いまこのベーシックなカジュアルでいいものを安く提供すると世界中で受け入れらるはずだと。だってみんな服着てるわけだから。だから、品質に力を注いでる。他のSPAで卓越した匠の技術者が工場を回って生産管理、品質管理しているところなんかないんじゃないですか。

――中国の話を今度は聞きたいな。

松岡 中国はこれからですよ。来年、出店も予定してますけど。マーケットすごいしね、活力全然違うしね。すごいですよ、ハングリー精神。自分への投資という。混沌期だからっていうのはもちろんあるんでしょうけど。で、日本の学生と面接してたら怖くなる。受身で生きてきた22年間って、そんなに急には変えられないですよ。

――そうしたことは、肌で感じて判ることなんだろうけど、日本を出なくては、というのはいつどのように決断したんだろう?

松岡 日本で一番になったときに、でもこの一番て薄氷の上だよねって、一気に気づいたのかも(笑)。

2001年9月12日 東京・渋谷 ファーストリテイリング本社にて

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